荒野・再1
眼前には広大な荒野が広がっていた。吹きすさぶ風は熱を帯びて、砂を巻き上げている。ここが何処か、何て知らない。
「でも君はここを知っているはずだよ。懐かしいかい?」
「冗談でも許さないぞ」
今まで散々イライラさせられていたのも相まって、柄にもなく刺々しい言葉が出る。
「まぁ、そう言っていられるのも今の内さ」
そう言うと彼は何処からともなく爆竹を取り出し、何やら準備を始めた。
この男は、先程の金属世界でもう一度扉を取り出したあと、僕をここに連れてきた。見覚えのある荒野の、岩場の上、丁度僕たちが歩いていた道程を見下ろせる位置だ。何を思ってこんな場所を選び、何をさせたいのか。
「世界を救ってほしい、なんてありきたりな言葉を望んでいる訳じゃないのかな?」
「それはさっきも聴いたよ。具体的に何をするのさ」
それを聴いて、彼は作業の手を止めて考え込む。今まで僕の考えを全て先取りして、矢継ぎ早に言葉を並べていたこの男が、初めて僕の質問に考える時間を要した。全て解るわけではないのか。
「いやね、ここで君がこの質問をすることも、私がなんと答えるかも知ってはいるのだが……。どうにも君と同じで頭の出来が良くないもので、上手く説明できるかどうか」
自分が何を言うか知らない奴なんて居るのだろうか。
「まず、信君の言った方法を君が採ったとしよう。それで本当に何の矛盾もなく世界が救われると思うかい?」
「辻褄は合ってると思うけど。絶望の未来を観測した僕らが居なくなれば未来が確定しない、って事でし
ょ?そんな未来が来るという証拠が失われるわけだから」
信が言っていたことを思い出しながら、僕なりの理解を述べる。難しい話なので余りよく解ってはいないけれど。
「あぁ、彼の言い分は大体そんな感じだね。でもさ、死んだ後の同級生達や君はどうなる?」
「……?」
何が言いたいのだろうか。死んだ後の事なんて、知る由もない。そのままそこで朽ち果てていくだけだろう。
「そこが問題なんだよ。どうしたって各地に君たちの遺体が残る。過去改変を行うために辿ってきたルート上に、そして何より、あの絶望の未来に」
「君達が絶望の未来を見てきた証人だとするなら、色んな時空で死んだその身体は紛れもない物的証拠になってしまう訳だ」
「そんな馬鹿な⁉じゃあもう僕たちが時間移動した時点で色んな痕跡残しちゃってるじゃないか‼」
そうだよ、と優しく囁く男は、その声色と同じくらい穏やかな顔をしている。未来で世界が滅びる、と言う事実が確定してしまっているというのに。
「だけど、その痕跡を減らすことは出来る。多少の痕跡ならオーパーツ扱いで実しやかな噂程度で済むさ。恐竜の胃袋から人骨が出た、とか数千年前の遺跡から現代人のものと思われる遺伝子が検出された、なんてならない限りはね」
未来に関しても同様らしい。完全に痕跡は消せなくても、遺体を残すよりは未来への影響も少なくて済むのだと言う。すぐには信じられないことだけれど、信の言う方法では矛盾が生じてしまうという事には納得できた。
「幸いにも、作った人達が信君に消されているから、タイムマシンが拡散することもない。あとは君らが死ねば証人は居なくなって未来が不確定になる。とは言っても、本来君たちが居る時空で普通に死んでもらわなきゃ困っちゃうのさ」
思い出したようにまた爆竹を弄りながら爽やかな笑顔を見せる。それはまるで何も考えていない能天気な笑顔だった。
「じゃあこれから僕らがやる事ってもしかして…」
「あぁ、君の同級生を救う。と言っても君は私たちには出会っていないはずだから、君が居なくなった後でどうにかしなければいけないんだけどね」




