急転3
「……?そう言えば、あの扉、と言うかタイムマシンは何で出てきたんだ?」
「うーん、まぁそこは後回しにしよう。取り敢えず、君が怪しいと思ったのはこの目の前にいる男だろう?」
それはそうだろう。自己紹介すらまともにしない男を信用できるはずがない。
「ならどうやってこの状況を造り出したと思う?」
「そりゃあ……。僕が飛び降りた後、死体を処理して、改めて僕を助けた、とか?」
普通ならあり得ないが、こいつはタイムマシンを使って見せた。あの扉の能力については嫌と言う程経験してきた。
「確かに、あれがタイムマシンなら可能だね。ただ、あれがタイムマシンだという説明も、彼の言葉しか根拠はない。確実な証拠はないよね」
また、面倒な言い回しをする。この男は何を考えてこんな事をつらつらと述べるのだろうか。
「タイムマシンでないなら、信との年齢差はどう説明するのさ?」
「さっきも言ったけど、そもそも彼が信君であるという根拠もないだろう?」
「聴いたよ。だから僕も反論しただろ」
「本当に見間違えないと言い切れるのかな?」
相変わらずニヤニヤとこちらを見ている。僕はもう、憤る気さえ起らなかった。
「言えるよ、間違いない。僕の事も知ってたし」
それを聴いてこの男は眉を吊り上げた。したり顔もしている。
「堂々巡りになるのはあんまり好きじゃないんだけど……。同じことを聴くよ?なら私の存在はどう説明する?」
間違いなく、この男は、この質問を引き出したかったんだと、彼の表情を見て思った。今までのニヤニヤは相変わらず顔に張り付いてはいるが、目には鋭さも込められている。
「タイムマシンで未来に行って全部見てきた、とか?」
「近い、が根本的に違うね」
コイツは僕に何をさせたいのだろう。まさかなぞなぞをしたい訳ではないだろう。
「ま、私の正体については保留って事で。取り敢えず話を進める上では『未来を見てきた』って認識で事足りる」
良い加減本題に入ってほしい。さっきからこの男のインパクトに押されて忘れていたけれど、ここは何も居ない、色彩もない世界だ。余り長居したい場所でもない。
「はっはっ、そんな嫌そうな顔しないでよ。関係のない話してる訳じゃないんだから」
そんな僕の気持ちもお見通し。今回は顔に露骨に出ていたのもあるが。
「じゃあ話を戻そう。あの男が本当に信君だという根拠がない、という可能性について語ろうじゃないか」
「完全に正体不明で自己紹介もしない男よりはよっぽど信用できるけど」
ありったけの嫌味をこめて言ってみたが、本当に僕の考えが読めているなら滑稽でしかない。
「タイムマシンだなんて突拍子もない物を信じた人間の発言とは思えないね」
まるで僕を挑発しているかのように肩をすくめて見せる。
「そりゃああんな摩訶不思議、目の前で見せられたら信じるしかないって」
「じゃあ私の突拍子もなさを頑なに否定しないでほしいね」
僕に対して言ったのか、独り言なのか、背を向けて呟いた。彼は周辺をまたごそごそと探っている。
「良い加減、状況の説明をしてくれないかな?さっきから遠回しなことばっかで、何が言いたいのかさっぱりだ」
「うん、そうだね。イライラしている君を見るのは個人的にも余り気分が良くないし」
自分でイラつかせておいてそんな事を言うのか、と最早呆れてしまった。
「まぁ、証明できない問題はこの際全部置いておこう。私が提示したいのは、『信君を騙った男が死んではいない』という可能性についてだ」
ま、騙ったかどうかは未だ不明って扱いになるけどね、と顔だけをこちらに向けながら唇だけで笑って見せる。
「……それで?僕が飛び降りた後何処かへ立ち去ったと?」
余りに飛躍した事を言うものだから、僕はもう反論するのも馬鹿らしくなっていたけれど、ここで無視した所で話が進まないだけだ。
「あぁ、正確には別の時間にだけどね」
「さっきはタイムマシンかどうか証拠がないって言ったじゃないか」
「いや、確かに言ったが、私があれを疑っているとは言っていない。実際タイムマシンを使ってこの場に居る訳だしね」
どうやらこの男に問答は無意味らしい。と言うか仮定の話に仮定を重ねているだけなので論理的な問答ができるはずもない。そもそも僕の頭では論理的思考ができるかも怪しいが。
「はぁ、もういいよ。仮にそれが本当だったとして、それを僕に話して何になる?アンタは僕に何をさせたい?」
そう、結局はそこなのだ。つらつらと訳の解らない話ばかり聴かされて、色々混乱はしたけれど、態々未来からやってきてまで僕を助けて、一体何をさせたいのか。それが解らないから怪しく感じるのだ。
「漸く核心に迫ったね。君には世界を救ってもらいたいんだよ。この破滅の未来を回避してほしい」
ずっと張り付いたままだった笑みを剥がして神妙に僕の目を見つめてくる。今更そんな真面目な顔されても、それがポーズなのか疑ってしまうが。
「それこそ信に頼まれていた事なんだけど」
「うん、でも彼はこうして死んでいない可能性が出てきただろう?つまり彼の言う通りに動いたとして、
本当に世界が救われるのかどうかにも、疑問を挟む余地が出てきたわけだ」
彼の言う通り、信が死んでいなかったとするならば、信の発言をどこまで信じていいか不透明だ。でも、同じくらいコイツの言う事にも疑う余地はある。
「あぁ、確かに私も充分に怪しい。だが、初めに言った通り、疑う事は大切だ。だからこそ、信君の言う通りにするのは後でもいい、と思ったんだろう?」
死んでしまったらその後の事はどうしようもないしね、と何かを引っ張り出しながら呟く。少し前に見たばかりの光景だ。
「君の考えている通りさ、今からまた場所を変える。と言っても今度はz軸も動かすけどね」




