急転2
「あれ?そう言えばこれって、タイムマシンって話じゃ……?」
扉を潜って外に出ると、僕が自殺を図る前にいた場所に出た。
「タイムマシンってのが時空を超える装置なんだから、時間は移動せずに空間だけ移動ってのもできるさ」
z軸は動かないけどxy軸の数値だけは動く、みたいなものらしい。生憎、数学が苦手な僕にはピンと来ない例えだったが。
「ま、どうせ小難しい話したって解んないんだから、起きた事をそのまま受け入れなよ」
確かに彼の言う通りかもしれない。ただ、起きた事をそのまま受け入れると言うならば、彼の空間だけ移動したという話には賛同しかねる。僕が飛び降りる前と決定的に違う箇所があるからだ。
「そうだね。君が疑問に思うのも仕方ないだろう。あるはずのものが無いんだもん」
「……今更何で解るとは言わない。けど、そっちは明らかにおかしいだろ。アンタの言う通りなら、何で――」
「信が居ないのか、だよねぇ?でも、これだけは約束しよう。僕らは時間を遡ったり、逆に未来に行ったりはしていない。時間は扉を潜る前と後じゃ地続きだ」
本当だろうか?現状、彼の言葉以外に判断材料がないため、判別しかねる。寧ろ、信の死体が勝手に何処かに行くなんて考えられない。確か信の話ではここには僕ら以外生物が居なかったはずだから、人間はおろか野生生物でさえいないはずだ。
「でもそれもまた彼の言葉しか根拠のない事。いやぁ難しい証明問題だ。何もかもが確固たる根拠がないんだから」
僕の考えに接続するように話してくるのは、いつまで経っても慣れない。何処となく楽しそうなのも癇に障る。
「じゃあ、ここが同じ時間だって言う根拠をお見せしましょうか。いや、正確には君の自殺よりは後って事しか証明できないけど、まぁこれから説明するには充分でしょ」
僕に言っているのか、独り言なのか、よく解らない。ただ、彼にとってはどっちでも良い様で、戸惑う僕を放っておいて、そこらの木の表面を一つ一つ確かめ始めた。
「……やぁやぁ、あったあった」
まるでカブトムシを見つけた少年の様に無邪気な笑みを浮かべている。こちらに振り向くと、手招きをした。どうやらこっちに来いという意味らしい。
「何があったのさ?」
僕は歩み寄りながら尋ねるが、答える気はないみたいだ。
「その前に、君、右の拳を出してみて」
唐突な要求に、意図が全く読めなかったが、どうせここで反抗しても話が進むのが遅くなるだけだと思ったので、黙って突き出した。
「あーあー、よっぽどな勢いで殴ったんだねぇ?結構皮剥けちゃってるよ。元は木だって言っても、今はただの鉄の塊だって言うのに」
言われて初めて、手に怪我をしていたことに気付いた。痛みも怪我に気付かなければ案外解らないものらしい。怪我をしたと気付いて初めて痛み出した。痛み出したというのに、この男は傷口を突っつき始めた。
「っ……。んで、この怪我がなんなの?……って言うかそれ以上突くな!結構痛いから!」
僕が尋ねている最中もツンツンし続けるので腕を引っ込めた。すると、彼は突っついていた指をそのまま鉄製の木の表面にスライドさせた。
「ここ、見て見て。ちょっとだけど、血ついてるでしょ?何か思い当たる節あるんじゃない?」
一瞬、何が言いたいのか解らなかった。でも、いくら僕でもこれだけ順を追って示されれば気付く。この金属製の木に付いているのは僕の血だ。
「そう、信が自殺した事に激昂した君が殴りつけた木だよ」
正確にどの木だったかは覚えてはいないが、流石に信が倒れていた位置との関係で大体の推測はできる。何より、真新しい血液が如実に語っている。
「彼の……信君の言う通りなら、生物は僕らしか居ないはずだからねぇ」
「ここが少なくとも、信が死んでから、僕の血が乾く程の時間が経つ前だって事は解った。でも、それなら――」
「それなら彼の遺体は何処へ行ったか、って?まぁこれに関しては決定的な証拠をお見せできないから、信じるかどうかは君次第、みたいな話になるけど」
彼は腕を組みながら悩んでいる様な仕草を見せる。しかし表情は楽しそうだ。
「良いから話してよ。それこそ信じるかどうかは僕が判断する」
「そうカリカリしなさんな。まず、可能性の話をしよう。この状況を見て、真っ先に君が疑うのは何だ?」
言われて考えてみる。どうせ筒抜けなんだから、口にしたりとかかっこつけたりとかする必要はないし。まず、信が死んで、僕も死のうとして、飛び降りた。そしたら下でこの男が待ち構えていて、上に連れ戻され、信の死体が消えていた。
まず最初に疑ったのは、僕と信が再開する前に戻ったという事だったが、それは先程の血液で否定された。ならば次に怪しいのは、どう考えてもこの男だろう。当然の様にあの扉をを引っ張り出してきたのも怪しい。




