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遺跡  作者: たいいつ
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銀色の世界1

「はぁっ、はぁっ……」


 荒野を一気に駆け抜けたため、汗はびっしょりだし、息は上がるし、喉は乾くしでこの場にへたり込んでしまいたくなる。しかし、頭の中にくっきりと浮かび上がる、元希の笑顔がそれを許さない。壁にもたれそうになったところで、僕はすぐに姿勢を正し、目の前の扉を開く。扉の外側に広がっていたのは、夜闇だった。月や星の明かりで多少周囲は見える。


「ここは……」


 僕たちがキャンプしていた山だ。そう、すぐに確信できた。何故ならここは、信が僕たちに教えてくれた『二つの星空が見える場所』だったからだ。しかし、今では二つ目の星空は見えない。そればかりか、何だか様子が変だ。夜の森とは言え静かすぎるし、木々や地面が月明かりに照らされて輝いている。


「金属になってる、のかな?」


 地面や周りの草など触れてみると、どれも固く冷たかった。鉄の様にも見える。何故こんな事になっているのかは解らないが、似たような状況に見覚えがあった。


「確か、最初に扉を使った時も……」


「あぁ、そうだな」


 突然背後から低い男の声が聞こえる。何事かと振り返ると、三十代と思われる男が立っていた。全体的に黒っぽい服を着ており、表情も服の色に負けないほど暗い。


「お前らが始めて異変を感じた世界も、こんな風に何も居ない世界だっただろう」


 男の表情は相変わらず暗いままだが、そこに嘲笑を混ぜるように続ける。しかし、彼の表情にはそれだけではない様にも感じた。


「えぇと、貴方は?」


「解らないか?本当に?」


 まるで僕になら解るはずだと言わんばかりの物言いだ。しかし、僕の記憶には彼の様な知り合いはいない。


「……まぁ仕方ないか。同級生の二十年後なんて想像したこともないだろうしな」


「同級生?」


 何を言っているのだろう。僕と同級生ならば、高校生のはずだ。だが、彼は三十歳を下回るようには見えない。


「あぁ、久しぶりだな、悠平」


 僕の名前も知っているのか。余程近しい間柄だったのか、彼は僕の事を親しげに呼ぶ。その呼び方に何故か温かい気持ちになる。


「そんな……そんなはずは」


「会いたかったぜ、キャンプ以来だな」


 信じられなかった。でも、もうそうとしか思えない。スポーツマンらしいがっちりとした肩幅や、厳つい顔など、見れば見る程彼そのものだった。


「信、なの?でもなんでそんな……」


「そりゃあ、お前らと違う時間を生きたからだ」


 少し悲しげな顔で言う。木々の反射光が彼の暗い雰囲気をより強調している。


「どういう事?一体僕らに何があったのさ?信はどこまで知ってるの?」


「どこまで?おかしなことを言うな」


 悲しそうな雰囲気から一転、心底おかしそうに笑いだす。何がおかしいのか、さっぱり解らない。ひとしきり笑うと、彼は急に表情を消し、懐に手を入れると拳銃を取り出した。


「全部知っているさ。全部俺が仕組んだんだからな」


 拳銃を両手で弄びながら、彼は何かしら考え事をしている様だった。「どこから説明するか……」などと小声で呟いている。僕はと言えば、先程から信に恐怖していた。別に、拳銃を取り出したからではない。拳銃ももちろん怖いけれど、実際に撃たれたことがないのでそこまで恐怖の対象とはなり得なかった。それよりも、信の感情の起伏の方が怖かった。


「どういう事だよ?全部仕組んだって何さ?」


「そうだなぁ、まず最初にお前らの勘違いから正そうか。あの扉は、ワープだとかそんなちゃちなもんじゃない。タイムマシンだ」


 その衝撃的な発言と共に彼は座り込み、僕にも座るよう手で促す。


「こっからの説明は長くなるが、最初に結論から言う。俺の計画は失敗したんだ」


 そうして彼が語り出したのは、僕たちの不思議な旅の全貌だった。まず、キャンプの時点では信も何も知らなかった。だが、遺跡探索に出て僕たちが穴に落ちた後、事態は動き始めたのだと言う。最初に僕たちがあの扉の奥の、遺跡内でテレビを付けた瞬間に、僕たちはタイムマシンに選ばれたのだ。


「まぁ、正確には選ばれたのは俺とお前だけだがな」


 他の三人は居ても居なくても良かったらしい。ただ、僕と一緒に居た所為で巻き込まれただけだったのだ。


「それで?なんで信だけ歳取ってんのさ?」


「焦るなよ、追々説明するっての」


 信に依れば、タイムマシンの発動には僕と信両方の存在が不可欠らしい。信は行先を、僕は扉を出現させるという風に役割を分担されているのだ。ただ、僕と信は同じ時間に居なくてもいいらしい。その辺りは難しい話になってくるが、僕が扉を発生させて、十年後に信が行先を決定しても、僕たちはノータイムでタイムマシンを使えるらしい。


「つまり、信の決定が十年遡って僕たちの扉に影響するって事?」


「あぁ、そうだ。時間を超えているんだ、それくらいできるさ」


「信はどうやってこの今の時間軸に来たのさ?」


「お前が扉を出すとき、俺の前にも扉が出てたからな。それでお前らと同じ世界に行くことは出来た」


 イマイチぴんとこない。信が行先を設定した時点と僕が扉を発生させた時点が異なっていても、タイムマシンがあるならそこの時間差は考えなくていいという事だろうか。


「要するに、悠平たちはすぐに扉を使う事を選んだが、俺は出現してから二十年ほど計画の準備をしていたんだ。その後に扉を使った。それだけの事さ」


 信が行先を設定しない限りは、タイムマシンとしては機能しないため、放っておいても大丈夫だったそうだ。それに、僕たちが移動したことはその時点で決定しており、いつかは信が扉を使うという事も同時に決定していたらしい。

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