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遺跡  作者: たいいつ
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始まり

 うだるような暑さの中、僕たち五人は教室の一角に集まっていた。終業式は午前中に終わり、クラスメイト達はそれぞれ仲の良い友達と昼飯を食いに行ったり、遊びに行ったりするために教室から出て行っていた。結果、教室はほとんど貸し切り状態だった。


「なぁなぁ、夏休みどーすん?」


 僕は、扇子で自身の顔を扇ぎながら気だるげに呟く。団扇の方が扇ぎやすいが、かさ張るので扇子を携帯する高校生は意外に多い。最近では百均でも売っているくらいだ。


「悠平、アンタ夏休み遊ぶ余裕あんの?」


 目を細めつつ、ともすれば睨んで見えるような顔で答えた彼女は、真央。身長は然程高くないが、すらっとしている。僕が座っている後ろの席で椅子に思いっきりもたれながら腕を組んでいる。傍から見ると少し怖いかもしれない。髪型はボブカットで、体格に似合わぬ丸顔を隠しているらしい。幼馴染の僕からしたら見慣れた顔だけれど、周囲の男子から言わせればレベルが高いらしい。キツ目の性格も一部の男子からは好評なようだ。


「いや、言ってもまだ二年じゃん?逆に言えば今年が最後の遊べる夏休みって言うか」


 と、自分でも能天気な事言っているなぁと思いつつ、反論する。しかし、来年三年生になってしまう僕たちにとって、大学受験前最後の夏休みとなる来年の夏は勉強をする以外に選択肢はない。となれば高校二年の夏、これが高校生として遊べる最後の夏なのだ。


「そうは言うけどな、進学考えてる奴は今年から予備校通ったり、夏期講習行ったりしてるぞ?」


 得意げに人差し指を立てて諭してきた奴は、男子高校生にしては身長は低く、声も高めだが、比較的顔は整っているため一部の女子から人気が高い。良く部活中など「元希く~ん」と黄色い声援を浴びている。コイツも昔からずっと一緒にいるので僕には微塵も良さが理解できないが。サッカー部だから余計に人気がでているというのもあるだろう。


「えー?でも私も今年は目一杯遊ぶつもりだよ?」


 愛ちゃんがのほほんとした雰囲気で意見する。彼女はこのゆったりとした雰囲気とは裏腹に腹黒いと言われている。極一部でだが……。見た目は「女の子」を具象化させたような感じだ。長くさらさらした黒髪にクリッとした両目。身長も女子の中でさえ低い方なので大抵の男子は愛ちゃんと話すとき見上げられる形になる。その上目遣いもまた彼女の人気の理由でもある。それと、愛ちゃんだけはこの幼馴染五人の中で唯一呼び捨てではない。名前の語感もあるだろうが、何より彼女のキャラがそうさせている。


「愛ちゃんは良いだろうさ、それで。でもコイツは勉強しなきゃダメだろ」


 若干呆れたように僕と愛ちゃんを見比べているのは信という。信の後には何も付かない。良く愛称と勘違いされるが、信長でも信行でもなく信なのだ。彼はがっちりとした体つきをしており、如何にもスポーツができそうな見た目である。実際、体育では大活躍だし、小学校から続けている柔道も県大会に出場するくらいには強い。だが彼は肉体派の見た目からは想像もつかない程頭が切れる。勉学だってこの中では愛ちゃんの次くらいだ。最も、愛ちゃんの学力は県内で一桁の順位を取る程なので、比べるのは少々酷かもしれない。信自身は大体県内で五十~百の辺りを行ったり来たりしている。これも充分すぎる程優れている。外見に関しても整っている方だ。ただ、体格も相まって厳ついため、クラスの女子からは怖がられている。


「えぇー。そりゃあ信とか愛ちゃんに比べたら全然ダメだけどさぁ。僕だってそこまで頭悪い訳じゃないし……」


 まるで大馬鹿野郎のような扱いを受けたので多少反論してみる。


「まぁ、確かに留年しそうな程危ない成績は取ってないな」


 元希が座っていた机からガタッと降りながら言う。そしてそのまま僕の方に歩いてくると、僕の肩に手を回し自分の方へ引き寄せる。


「ただ、このままじゃ受かる大学ないだろ、お前」


 目の前で意地悪くニヤリとされたのが妙に腹だしくて、手を振り払う。勢い良く立ち上がり何か言い返してやろうと息を一杯に吸うが、何も思い浮かばず、吸った分の空気はそのまま溜息になるだけだった。


「はぁ……。何も言い返せないなら立ち上がったりしないで大人しくしててよ」


 真央は呆れたように片手を額に添える。そんな仕草が様になってしまう所を見ると、やはり彼女の顔は整っているのだろう。


「だってさぁー。真面目な話、受験厳しいのは確かだし」


 僕の成績では国公立はまず無理だと思う。だが、私大なら結構レベル低いところも多いし、行けないこともない。だがそれではダメなのだ。


「悠平のお母さん、厳しいもんねー」


 髪先の枝毛を調べながら言われたら「興味ないですよー」と言われているようで若干傷つく。まぁ、愛ちゃんがこんな姿を見せるのは僕ら五人だけの時だから、逆に言えば心開いているという証なのかもしれないけれど。


「『お金無いから私立には行かせないからね!』だっけか?」


 ゲラゲラ笑いながら元希が母の口癖を真似する。


「意外に似てるのがまた腹立つっ!」


 元希の頭を叩きながら叫んだ。周りも皆笑い出したが、案外本気でムカついている。ひとしきり笑ったあと、真面目な顔で信が皆を見渡す。


「どしたん?」


 僕はそれがどうしても気になってつい声をかけた。信は一瞬考えるような素振りを見せて、おもむろに話し出す。


「でも確かにこの面子で遊べる夏休みってのは最後かもしれないな」


 思ってもいなかったことを言われ、一瞬場が静まる。皆、言われたことを理解しようと考えているようだった。


「えー?来年は勉強するとしても、大学生になってから集まれば良くない?」


 だが真央だけは、気楽な感じで返答をする。僕も同感だった。元希もそうだったのか、うんうんと頷いている。しかし、愛ちゃんは、はっとした顔になって信を見る。その後僕たちの方へ振り返り、少し焦ったように語りだす。


「違う、違うよ真央!私達皆県内に進学するとは限らないし、特に悠平なんて私立ダメなら地方の国公立

狙うしかないじゃん!それに、もしそこもダメだったら就職でしょ?夏休みなんてないよ!」


 全員が僕の方を見る。止めてよね、そんな見られたら恥ずかしいじゃん……。などと現実逃避してみるが、彼らの冷ややかな目が僕をすぐに現実に引き戻す。


「えぇー、何その僕の所為みたいな感じ」


 はぁ……、と四人が一斉に溜息をつく。


「まぁ、信の言う事も尤もだなぁ」


 相変わらずチラチラと僕の方を見ながら元希は思案する。と、そこで真央が何か思いついたように満面の笑みを浮かべる。


「じゃあさ、二泊三日でキャンプなんてどうよ?」


「あぁー、まぁ、それくらいならあんまり影響ないか」


「良いんじゃない?俺も部活あるから夏休みはそんなに遊べないし」


 信と元希はすぐに了承する。だが、愛ちゃんは反対のようだった。


「えぇー。もう皆で遊べる夏休み最後かもしれないんだよ?それなのに三日間だけ?」


 僕も同意見だった。大体、夏休みに家に居たからと言って素直に勉強する気も起きない。宿題を終わらせたらあとは遊ぶだけだろう。


「遊ぶのは、な?悠平は放っておいたら絶対勉強しないから、俺達で監視の意味も込めて勉強会はしよう」


 信には僕の考えはお見通しだったようで、すぐさま対策を練られてしまった。だが、ここで了承してしまったら、それこそ僕の夏休みは勉強漬けになってしまう。そんな事は耐えられないので、高らかに宣言した。


「流石、僕の事よく解っていらっしゃる!でも、もっと言うなら多分勉強会しても勉強しないよ?」


 けれどもそれさえも幼馴染達にはお見通しだったようで、真央がチロリとこちらを見ながら、「そんな事はさせない」と目線だけで語ってくれた。


「はい、ごめんなさい。勉強します。だから偶には息抜きさせて」


 余りにも怖かったので即謝り、勉強することを承諾してしまった。


「じゃあキャンプで決定ね!さっさと宿題終わらしてから夏休みの真ん中頃でいいよね?」


 真央は満足そうに決定を下すと日程までも勝手に決めようとする。けれど、またしても信が考え込むような仕草を見せる。


「今度はどうした?」


 元希が信の様子に気付いたようで、不思議そうに尋ねる。


「いや……。さっき程重い話でもないんだけどさ、夏休み中盤って盆休みと被るから家族旅行とかで何処も混むんじゃないかと」


 うーん、と唸りながらまだ考え込んでいる。一方の真央は、自分の決定に意見されたのが余程気に食わないのか、信の方を睨んでいる。真央は昔から自分の思い通りにしたがる女王様気質なので、余り他人と打ち解けられない。かと言って、僕たちと上手くやれているのは、真央に好き放題させているからではなく、昔から一緒にいるため彼女の扱いに慣れているからである。


「まぁ、別に真央の言う通り宿題終わらせてからってのがベストだとは思う。一般的にはな。ただ、今回の場合、コイツがいることを忘れちゃいけない」


 そうして信が指差したのはあろうことか僕だった。


「ん?どういう事かな、信君?」


 今にも襲い掛かってやろうかとも思ったが、グッとこらえて笑顔で尋ねる。すると信は僕の肩に手を置き、とても爽やかな笑顔を返してきた。


「お前、中盤に遊ぶって決めたら楽しみで勉強手に付かないだろ」


「あー、確かに。コイツが机の前でボーっとしてんのが容易に想像できるな」


 僕は黙った。信と元希が心底僕を馬鹿にしているし、愛ちゃんと真央は苦笑いを浮かべながら同情している。今すぐ反論してやりたかったが、自分でも解っている。二人の言う通りなのだと。だから、黙った。せめてもの抵抗として。


「そっかぁー。じゃあ夏休みの始めでさっさとキャンプ行っちゃって、帰ってきたらすぐ悠平のために勉強会開く、って方が無難?」


「愛ちゃん、態々僕のためにって所強調しないで」


 僕が半泣きになりながら訴えると、呆れ半分怒り半分の目線がこちらに向けられた。


「こんな風に言われたくなかったら普段から勉強しときなさいよ」


 当然、その目線と暴言の主は真央である。普段から真央の意見を却下する際にはこうして怒りの矛先を変えることで丸く収めているのだ。


「ま、取り敢えず日程は決まったな。悠平のお陰で」


 ニヤリと笑いながらまた肩を組もうとしてくる元希。暑苦しいのとムカつくのとで組まれる前に振り払ってやった。


「じゃあ明後日から行くか。善は急げ、だ」


 信が仕切ると、全員「へーい」だとか「オッケー」などと返事をして帰り支度を始める。

そんなこんなでキャンプの日程は決まったが、真央の暴走を止める度に僕をダシにするの、いい加減やめて欲しいかな……。

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