転職をする決断
「では、須藤亜希さん、志望動機を教えてください」
「はい、私が御社を志望した理由は、高校1年の頃から御社のお店でアルバイトとして働かせていただいていて……」
(御社のお店ってなんか変だな…大丈夫か?まあいいか)
あまり緊張もせず、スムーズに面接が進んでいく。
「以上で面接は終わりです。では、次に待っている方に声をかけておいて頂いてよろしいですか?」
「はい、わかりました。」
なるべく音を立てないようにしてドアを少し開け、面接官の方へ身体を向ける。
「失礼します。」
そう言って部屋から出ると、右側には椅子に座り面接の順番が来るのを待っている女性がいる。
「あの…面接、呼ばれたら入ってくれみたいなこと言ってました。」
「あっ、ありがとうございます。」
軽く頭を下げ、荷物の置いてある待機室まで戻ると、見た目のごつい中年の男性に声をかけられた。
「面接、終わったかい?今日はこれで終わりだから帰って大丈夫だよ。気をつけてね。」
「はい、ありがとうございます。では、失礼します。」
そそくさと荷物をまとめて外に出ると、来た時と同じように雨が降っていた。
「はぁ…気分落ちるなぁ。ついでに就職試験も落ちたりしてな。」
とかいう一人事を言いつつ母親に迎えの電話をかける。
『もしもし?』
「あぁ、終わった。迎え来て。」
『わかった。』
電話を切って、近くのコンビニで軽く買い物をして雨宿りしていると、母親の車が来た。
「どうだった?」
「何が。」
「何がって、面接でしょ。」
「あぁ、分からんけど、まあ大丈夫でしょ。」
「どっからそんな自信が…」
そんなやりとりをしていたが、実際にその会社に受かってしまった。受かってしまった。とかいうと受かりたくなかったみたいに思われそうだな。いや、ちがうから、ただ仕事がしたくないだけだから。
俺が就職した会社は小売業、まあスーパーマーケットってやつだった。就職してからは以外にも時間が経つのが早いもので気付けば一年半が経っていた。
「須藤チーフ、これいくらでやる?」
「あぁ、原価見て4割くらい入れてください。」
「了解。なーんか最近魚も売れにくくなってる気するな。」
「ですね。テレビとかでやたらと寄生虫だとかのことやったりしてるせいだと思いますよ。」
「だよねー。」
「すごい今更な感じですよ、ほんと。」
そう、俺は一年半で就職したスーパーの鮮魚のチーフ(主任)になっていた。今ままでと大して給料が変わらないのに責任が重くなるなんて…!
そうこうしているうちに、今日も仕事が終わる。
「はぁ…」
就職してからというもの、嫌だ嫌だと言いつつ何故か続けてしまっている。こりゃ社畜だな、完全に社畜。いかん、このままだと一生ここで働くことになりそうだ。だが、チーフになったとはいえ、本当にいつまでもこんな所で仕事をしているつもりは無い。なにしろ別に楽しくないからな。
「なんかいい仕事ないかな…」
そんなことを呟きながらスマホで軽く検索してみる。
「千葉県、求人情報っと。」
我ながらかなり適当な検索ワードだ。こんな適当なのにたくさん情報が出てくるなんて素敵。
「まぁだいたい同じようなんばっかだよな。」
そう思いながら画面をスクロールしながら流し見していると、ある求人情報が目に付いた。
「ん?なんだこれ。」
〝お客様のお悩み相談、人間関係のもつれの修復のサポート、恋愛相談!人の手助けをしたい方募集!〟
(う、胡散臭い!いやほんと、怪しすぎるだろ。でも楽そうな仕事かもしれないな、しかも募集1人。行くなら早めの方が良さそうだな、うん。楽そうだし。)
「ま、行って試験受けるのに金がかかるでもないし、行くだけ行くか。」
次の日に電話で連絡し、俺が休みの日に、とりあえず面接を受けることになった。
「履歴書は書いたし、面接は気楽に行くか…」
久しぶりにスーツを着て、面接へ行く…。