第八十一魔 あげまちゅからねー
「それでね菓乃子氏、私普段はあまりオヤジ受けのB漫画は読まないんだけど、ナイスミドルが年下だと思って可愛がっていた男の子に下剋上されちゃう系の話は、たまにだったら読んでもいいかなって思うのよね。たまにだったら!」
「わかる。たまにだったらいいよね。たまにだったら!」
何だよその不倫してる団地妻みたいな言い訳の仕方は。
「まったく、ジブンらも年がら年中そんな話ばっかしとって、よう飽きんな」
ピッセはやれやれといった顔で呆れている。
「うるさいわよカマセ!私と菓乃子氏の、愛の腐リートークに茶々を入れるんじゃないわよ!」
「ピッセや!へーへー、そんならもう好きにしとったらええわ」
今日は俺と沙魔美とピッセの三人で、菓乃子の家に遊びに来ている。
着いて早々、沙魔美と菓乃子が恒例の腐リートークを始めてしまったので、俺とピッセは、奥さん同士の会話についていけない旦那方みたいになっている。
「しかしウチらは暇やのー。そや先輩、ウチらは二人で脱衣麻雀でもやろうや」
「やんねーよ。それ俺にデメリットしかねーじゃねーか」
「何やと!?先輩はウチの美しい裸体を拝みたくないんか!?」
「自分で美しいとか言うなよ……」
確かにピッセは紛うことなきナイスバディだが、生憎ナイスバディは沙魔美ので見慣れてるんでな(ノロケ)。
それにピッセがスパシーバで着てるメイド服は、半分裸みたいなもんだし。
ところで若い人の中には、脱衣麻雀と言われてもピンとこない方も多いだろうが、昔は各ゲームセンターに必ずと言っていい程、脱衣麻雀のゲームが一台は置いてあったものなのだ。
脱衣麻雀とはその名の通り、脱衣する麻雀であり、麻雀版の野球拳の様なものである。
ルールは至ってシンプルで、麻雀をして上がられた側が一枚ずつ服を脱いでいき、全裸になった方が敗けという、今だったら一発で当局から査察が入ること待ったなしの、男子にとっては夢のような遊戯である。
昔はそういったものが巷にゴロゴロしていたので、良くも悪くも緩い時代だったのだろう。
ちなみに上がる際の点数は関係ないので、必然的に点数は無視した早上がりが横行することになる。
が、ゲームセンターの脱衣麻雀ゲームは、コンピューター側のチート行為がある種の文化になっており、あと一回上がればドリームタイムという大事な場面で、コンピューター側が当然のように天和をしれっと上がるのが通例だった。
そしてその後で平然と、この続きがプレイしたかったら、コインを一枚入れてねと要求してくる。
以下、天和で返り討ちに遭ってを繰り返し。
そうやっていたいけな青少年達から、容赦なくお小遣いを搾取していたのである(遠い目)。
「アラ!脱衣麻雀なんて面白そうじゃない!私と菓乃子氏も混ぜなさいよ」
「オウ、ええで」
「は!?」
「え!?沙魔美氏、私は脱衣麻雀はちょっと……」
「そうだよ沙魔美!菓乃子も嫌がってるんだから、無理強いはするなよ」
「でも菓乃子氏、菓乃子氏も久しぶりに、堕理雄のボディを検分してみたくはない?きっと高校生の頃とは、いろいろなところが違ってると思うわよ」
「そ!…………そうかな」
「菓乃子!?」
何でちょっとアリかもみたいな顔をしてるんだよ!?
いやいやいや!この四人で脱衣麻雀はマズいって!
何で今カノと元カノとバイト先の後輩と俺で、脱衣麻雀をやらなきゃいけねーんだよ!?
どんなシチュエーションなのそれ!?
そんなの俺、履歴書に何て書けばいいんだよ!(書く必要はない)
「ではやるかやらないかは、多数決で決めようと思いまーす。やる派の人ー」
「ホーイ」
沙魔美とピッセは、秒で手を挙げた。
もちろん俺は手は挙げない。
そして菓乃子は……。
「…………はーい」
……。
顔を真っ赤にしながら、ものっそい小声で賛成の意を表しながら、ちょこっとだけ手を挙げたのだった。
……ジーザス。
「じゃあ決まりね」
「……はいはいわかったよ」
もうどうなっても知らないからな。
「俺の家から麻雀牌を持ってくるよ」
「いえ、その必要はないわよ堕理雄」
「え?何で?」
「だって麻雀牌ならこの部屋にあるからよ。ねー、菓乃子氏」
「え!?な、何で知ってるの沙魔美氏!?」
「フフフ、菓乃子氏のことなら何でもわかるわよ。大方この辺りかしら」
そう言うと沙魔美は、ベッドの下をゴソゴソと探り出した。
「ちょ!沙魔美氏!!」
「オイ魔女!ウチでさえ我慢しとんのに、ジブンが勝手に菓乃子のベッド下を物色すんなや!」
我慢してたの!?
「テッテレー!」
沙魔美はそんな二人を無視して、自前の効果音と共に、本当にベッドの下から麻雀牌を取り出した。
何故菓乃子は、中学生がセクシーな書物を隠すような場所に、麻雀牌を隠し持っていたんだ……?
「あ、ああ……」
「フフフ、別に隠すことはないじゃない菓乃子氏。やましいものじゃないんだし」
「それは……そうなんだけど」
「そうだよ菓乃子。女の子が麻雀牌を持ってたっていいじゃないか。でも意外だな、菓乃子って、そんなに麻雀好きだったっけ?」
「え、うん……まあ、ね」
「?」
菓乃子は頬を赤く染めて、俯きながら俺をチラチラ見ている。
はて?
菓乃子は何が言いたいのだろう?
「もう!堕理雄のバカ!にぶちん!ラノベ主人公!」
「何、急に!?」
「そうやで先輩。ま、ウチは先輩はそのままの方が助かるけどな」
「どゆこと!?」
「二人共!余計なことは言わないで!」
「ハイハイ」
「ヘイヘイ」
「??」
何だってんだ……。
やっぱ女心はよくわからんな。
「よっしゃ、早速始めるわよ!特別ルールで、役満を上がったら、上がられた側は三枚服を脱ぐことにしましょう!」
沙魔美はテーブルの上に麻雀牌を広げながら言った。
三枚か……。
今日俺は、服はTシャツとジーパンとボクサーパンツしか着ていないので(靴下は履いていない)、役満を一回振り込んだだけで敗けてしまう。
まあ、脱衣麻雀で役満が出ることはほぼないだろうから、あまり気にする必要はないだろうが。
「それはいいけど、魔法で牌をすり替えたりはするなよ沙魔美」
「もちろんよ。堕理雄も、燕返しは禁止だからね」
「やらないよ、イカサマなんて」
「フフフ、よろしい、ならば戦争よ」
「お前が言うと洒落に聞こえないな……」
ちなみに俺以外のメンツの服装はというと、沙魔美は黒のワンピース、菓乃子は白のブラウスに黄色のミニスカート、ピッセはピンクのキャミソールにデニムのホットパンツといった出で立ちだ。
今日はとても暑いので、三人共素足である。
大体みんな下着も合わせれば、残機は三、四枚といったところか。
これは案外早く決着がついてしまうかもしれないな。
席決めの結果、俺の上家にピッセ、対面に菓乃子、下家に沙魔美という席順になった。
「そうだ沙魔美、自摸上がりの場合はどうするんだ?」
「それはもちろん、自摸った人以外の三人が、一枚ずつ脱ぐのよ」
「そうか」
それだとロン上がりよりも、自摸上がりの方が、単純に3倍得だな。
でも、あまり自摸上がりに固執し過ぎると自滅しそうだし、その辺は臨機応変にいくか。
なにぶん俺も脱衣麻雀は初めてなので、探り探りやっていくしかない。
「オッシ!最初の親はウチやな。いきなり役満上がって、勝負決めたるで」
ピッセは意気揚々と、南を捨てた。
チャンスだ!
「ポン!」
「何やと!?」
俺はすかさず南をポンした。
南は俺の自風牌(※3つ集めるだけで役になる牌)なので、後は聴牌さえすれば上がれる。
これで俺が一歩リードだ。
俺は手牌から、不要な西を捨てた。
――が。
「その西ポン!」
「ヌッ!?」
俺の捨てた西を、沙魔美がすかさずポンした。
沙魔美も自風牌の西を持っていたのか……。
だが、運良く配牌に恵まれていた俺は、既に一向聴(※聴牌まであと一枚の状態)だ。
これは俺の方が早いだろう。
と、思ったのも束の間。
次に菓乃子が九筒を捨てたところ、間髪入れずに沙魔美が、
「ポン!」
「えっ!?」
そして次にピッセが捨てた二萬も、
「ポン!」
「何やて!?」
おまけに菓乃子が捨てた發も、
「ポン!」
「さ、沙魔美氏!?」
で、あっという間に裸単騎で聴牌してしまった。
ニャッポリート!?
裸単騎というのは、4回鳴いて手牌が一枚だけになっている状態を言い、この場合、手牌と同じ牌なら上がれるのだが、何が厄介って、待ち牌がまったく読めないところだ。
実際、安全牌以外は、全て危険牌と言っても差し支えない。
これは困ったぞ……。
「フフフ、さーて、最初に生贄になるのは誰かしら」
「くっ」
相変わらず悪役の台詞が似合う女だ。
だが俺だって一向聴なんだ。
聴牌りさえすれば、俺にも勝機はある!
そして次に俺が引いた牌は…………聴牌となる、三萬だった。
よし!追い付いた!
しかし問題は、俺が捨てようとしている白だ。
白はまだ場に一枚も出ていないので、沙魔美が待ちにしている可能性はかなり高い。
かといって、他に安全牌も無いしな……。
ここは勝負か。
「ままよ!」
覚悟を決めて、俺は白を場に打ち出した。
すると沙魔美は――。
「……」
無言で山(※積んである牌)に手を伸ばしたのだった。
ふー、セーフだったか。
よしよし、これで条件は五分だ。
むしろ沙魔美は手牌が一枚しかないので、降りることができない分、俺の方が有利なくらいだ。
早速沙魔美が俺の当たり牌を掴まねーかなと期待していると、沙魔美が自摸切った牌は、俺の当たり牌とは別の牌だった。
ま、そんなすぐには出ないか。
が、次に菓乃子が安全牌のつもりで白を捨てた際に、それは起こった。
「……ロン」
「「「えっ!?」」」
あろうことか、沙魔美が『ロン』と発声したのだ。
そんなバカな!?
だが、沙魔美が手牌を倒すと、確かにそこには白がドヤ顔で鎮座していた。
……どういうことだ?
何故沙魔美は、俺の白で上がれたはずなのに、敢えてスルーしたんだ?
「フッフッフ、まさか最初の生贄が菓乃子氏とはね。さあ、お召し物を一枚ゴートゥーヘルしてもらいましょうか」
「さ、沙魔美氏……もしかして」
「フフフフフ」
沙魔美は、とてもイヤラシイ顔でニンマリとした。
こ、こいつ!?
まさか、山越ししやがったのか!?
山越しというのは麻雀のテクニックの一つで、上家が切った牌はワザとスルーし、下家が同じ牌を切った際に上がるというものだ。
下家の人だけをピンポイントに狙い撃ちしたい時などに使われる手法だ。
でも、現状で沙魔美が菓乃子だけを狙う意味があるとは、俺には思えないのだが……。
「オイ魔女!ジブン何、狡い手使て、菓乃子のことイジメとんねん!ウチが許さんぞ!」
「ピッセ……」
いつものピッセのスパダリっぷりに、またしても菓乃子は女の顔になっている。
「アラ、そんなこと言っていいのかしら?菓乃子氏を全裸にできれば、生まれたままの姿の菓乃子氏と、赤ちゃんプレイができるっていうのに」
「あ、赤ちゃんプレイやとッ!?」
「ちょっと沙魔美氏!どういうことそれ!?そんな話、私聞いてないよ!」
「あーごめん言い忘れてたわ。敗けた人は罰ゲームとして、赤ちゃんプレイの赤ちゃん役になってもらいまーす」
沙魔美は、今日一の良い笑顔で、そう宣言した。
えーーー!?!?
何その安物のセクシーDVDみたいな企画は!?
「そ、そんな……」
菓乃子は絶望に打ちひしがれた顔で、唇をワナワナさせている。
……そういうことだったのか。
沙魔美は、始めから菓乃子を赤ちゃん役にするために、この勝負を持ち掛けたんだ。
大方、俺のことは普段から監禁したりなんだりで好き放題しているが、菓乃子のことはピッセがいつもガードしているせいもあって、好きにできていなかったから、ここぞとばかりにこんな悪魔のような手を使いやがったんだな。
我が彼女ながら、清々しい程のクズっぷりだ。
ホント、沙魔美程、容姿と性格が反比例してる女は、この世にいないんじゃなかろうか?
「酷い……酷いよ沙魔美氏!ピッセからも何か言ってよ!」
「赤ちゃんプレイ……。菓乃子と赤ちゃんプレイ……。菓乃子を全裸にしたら、菓乃子と赤ちゃんプレイ……」
「え……、ピッ、セ?」
ピッセは焦点の合わない眼で宙を見つめながら、ブツブツと独り言を繰り返している。
「ピッセ……ピッセッ!!」
「んあっ!?……おお、菓乃子。あー、まあ、あれやな。振り込んだもんはしゃーない訳やから、次からは頑張ろうや」
「ピッセ!?」
ピッセは菓乃子とは目を合わせずに、まったく心の籠っていない声で、菓乃子を励ました。
嗚呼……。
ピッセまで、魔女に魂を売ってしまったか……。
「そういうことだから、観念して早く菓乃子氏のおパンティを拝ませてちょうだい」
「何で下から脱ぐのよ!?脱ぐにしても上から脱ぎます!」
「フウ、ま、いいわ。楽しみは後に取っておくのも悪くないものね」
「くっ……」
菓乃子は若干涙目で、恥辱にまみれた顔をしながら、震える手でブラウスを脱ぎ始めた。
ブラウスを脱ぐと、とても大人っぽいデザインの、ピンクのブラが露わになった。
……おお。
何てエロい絵面なんだ……。
娘野君がもしこの光景を見たら、鼻血を流しながら、一日一万回の感謝の正拳突きを敢行することだろう。
しかし、高校時代の菓乃子は、もっと地味なブラをしていたはずだが、すっかり菓乃子も大人の女になったんだなあ(再度遠い目)。
「ウホッ!いいブラジャー……。菓乃子氏、ブラ紐と肌の間に、ちょっとだけ指を突っ込ませてもらってもいいかしら?」
「いい訳ないでしょ!?これ以上調子に乗ったら、いくら沙魔美氏でも怒るよ!」
「シュン」
「ハアハアハアハア……」
「ピッセ!?」
ピッセは涎を垂らしながら、菓乃子のブラをガン見している。
駄目だこいつら……早く何とかしないと……。
「もう!早く次の局いくよ!覚えてなさいよ二人共!」
菓乃子は、頭から湯気を立ち上らせながら、牌を混ぜ始めた。
こりゃ相当怒ってるな。
こうなった時の菓乃子は怖いぞ……。
案の定、次の局は一転して菓乃子が鳴きまくり、僅か5巡目にして、
「自摸!タンヤオのみ。さあ三人共、一枚ずつ脱いでもらおうかな」
華麗に自摸上がったのだった。
ホラ、俺の言った通りだったろ?
菓乃子みたいな子が怒った時が、一番怖いんだから。
「フフフ、流石菓乃子氏。麻雀界の呂布と呼ばれているだけのことはあるわ」
「何かにつけて私を三国志のキャラに例えるのはやめてくれない?」
「まあ、一方的な試合になっても面白くないものね。盛り上がってきたじゃない!熱盛!!」
沙魔美は豪快にワンピースを脱ぎ捨てた。
そして赤いレースのブラとおパンティがお披露目された。
沙魔美の下着は見慣れているが、麻雀をしてる最中の沙魔美が下着姿なのは、大分シュールだな。
「しゃーないな。ウチも脱ぐか」
そう言うとピッセは、何故かホットパンツを脱ぎ始めた。
ファッ!?
「オ、オイピッセ!何で下から脱いでんだよ!?」
「ん?何でって、上はブラトップやからな。下から脱ぐしかないやろ」
「ブ、ブラトップ!?」
って何だっけ?
「ブラとトップスが一体化してる、最近流行ってる服よ堕理雄。ブラ紐が見える心配とかを気にしなくていいから、凄く楽なのよね」
沙魔美が解説してくれた。
「へえ……そういうのがあるんだ」
そういえば、CMで見たことがあるような気もする。
「ホラ、ウチはもう脱いだで。先輩も早う脱げや」
「あ、ああ」
ホットパンツを脱いだことによって御開帳されたピッセのおパンティは、あろうことかヒョウ柄のTバックだった。
ピッセのプリンとした褐色のヒップが、圧倒的な存在感を放っている。
お前普段からそんなん穿いてんのか!?
……いや、もしかして菓乃子の家に来るから、勝負下着を穿いてきたのかな?
勝負下着がTバックなのも、どうかと思うが……。
「何ボーッとしてるのよ堕理雄。もしかしてカマセのかまぼこ尻に見蕩れてるんじゃないでしょうね?」
「え!?い、いや、そんなことないよ」
「ピッセや!それに何やねん、かまぼこ尻て!?」
「まあいいわ。早く堕理雄のtkbをみんなにも見せつけてあげて」
「別に俺のtkbは見せつける程のもんでもねーよ!?」
ハア、今更だけど、何でこんなことになってんだろう?
俺は躊躇いつつも、意を決してTシャツを脱いだ。
上半身裸になると、南京錠のネックレスが直接胸に当たって、ちょっと変な感じがする。
「ホホウ、久々に見たけど、確かに先輩はええtkbをしとんな」
「あ、あんまtkbを見ないでくれよ……」
恥ずかしいじゃないか……。
「ええやんけ別に、減るもんじゃなしに。なあ菓乃子、ジブンもそう思うやろ?」
「え!?う、うん……。堕理雄君のtkbは、とっても素敵だよ……」
菓乃子は、ウットリとしたまなざしを俺のtkbに向けながら言った。
いや、そう改まって言われると、いたたまれないんだけど……。
「さあ!そろそろ次の局いくわよ!次は誰がtkbをパブリックビューイングしてくれるのかしら!」
言い方!
でも確かに、ここまでくればいつ誰がパブリックビューアー(?)になってもおかしくない。
クソッ、俺はどうすれバインダー!
だが次の局が始まって、僅か3巡目――。
「リーチ!!」
「「「!?」」」
菓乃子が力強い声で、乾坤一擲のリーチを仕掛けてきた。
くっ!俺の雀士としての勘が言っている。
このリーチは、ただのリーチではない!
余程待ちが良いのだろうか?
実際、この局で菓乃子が自摸上がった場合、菓乃子以外の三人は、俺を含めて全員パンイチになってしまう。
そうなったらもう、これ以上は放送できないぜ!
ノクターンに移籍するしかなくなってしまう!
途中から移籍ってできるんだっけ?
などと、本筋とは関係ないことを俺が心配していると、
「……フフフ、これはもう、しょうがないわね」
不穏な笑みを浮かべながら、沙魔美は自分のツモ番に、テーブルの下でコッソリ指をフイッと振った。
なっ!?こ、こいつまさか!?
「アラアラアラ、今日の私は何て運が良いのかしら。凄い手を聴牌ったわ。それではいくわよ、オープンリーチ!」
「「「!?」」」
オープンリーチだと!?
オープンリーチとは、その名の通り、手牌をオープンにしてからリーチをかける役である。
待ち牌が相手にバレてしまうので、普段はあまりお目にかかることはない役だ。
だが、今この時においては、絶大な効果を発揮する。
と言うのも、自らの待ち牌をみんなに晒すことによって、必然的にリーチをかけていない俺とピッセは、絶対に沙魔美に振り込まなくなる。
逆に、リーチをかけている菓乃子は、当たり牌以外は自摸切りするしかないので、沙魔美に振り込む可能性があるのだ。
つまり、菓乃子の赤ちゃんプレイを虎視眈々と狙っている沙魔美にとっては、このオープンリーチは、ある意味ベストな選択とも言えるのである。
しかも、何と沙魔美の手牌は、萬子の純正九蓮宝燈だった!
純正九蓮宝燈とは、上がったら死ぬとまで言われている幻の役満だ。
同色で『1・1・1・2・3・4・5・6・7・8・9・9・9』という形に牌を揃える役で、麻雀のルールを少しでもご存知の方は、何待ちか割り出してみてもらいたいのだが、結論から言ってしまうと、これは萬子の1から9まで、どの数字でも上がれる。
ハッキリ言って、聴牌った時点でほぼ勝ち確の、とんでもない役満である。
もちろん、この大事な局面でたまたま沙魔美にこれ程の手が入るとは到底思えないので、魔法でイカサマをしたのだろう。
「沙魔美ッ!魔法は使わないって約束だったじゃないか!!」
「アラ?私がいつ魔法を使ったっていうの?証拠でもあるのかしら?」
「しょ、証拠って……俺は見てたぞ!お前がテーブルの下で指を振るのを!」
「指くらい誰だって振ることはあるでしょ?それじゃ私が魔法を使った証拠にはならないわね。それに堕理雄はいつも言ってるじゃない、イカサマはバレなきゃイカサマじゃないんでしょ?」
「くっ!コノヤロー……」
やっぱこいつは最低だ!!
ワ〇ピースだったら、絶対最後ル〇ィにギガントピス〇ルでブッ飛ばされるキャラだ!
「……堕理雄君、もういいよ」
「!……菓乃子」
もういいって、まさか、もう投げ遣りになっちまったのか菓乃子!?
……いや、違う。
菓乃子の眼はまだ死んじゃいない!
それどころか、闘志の炎がメラメラと燃え上がっている!!
「私は絶対に、この勝負に勝つから」
「菓乃子」
……そこまで言うなら、俺はもう何も言わないよ。
あと俺にできるのは、菓乃子が沙魔美にギガントピス〇ルをブチ込んでくれるのを祈ることだけだ。
だが無情にも、次に菓乃子が自摸った牌は、一萬、つまりは沙魔美の当たり牌であった。
菓乃子はグッと瞳を閉じながら、ゆっくりと一萬をテーブルの上に置いた。
「シャハハハハ!!残念だったわね菓乃子氏!これで赤ちゃんプレイ確定よ!ローン!!」
笑い方までワ〇ピースの悪役になってやがる!
嗚呼……菓乃子……。
「……いいえ、私の勝ちよ沙魔美氏。……自摸、国士無双」
「「「!?!?!?」」」
えーーーー!!!!!
こここここ国士無双ーーーー!?!?!?
何てこった。
まさかこの土壇場で、自力で役満を上がるとは……。
国士無双は九蓮宝燈よりは出やすい役満ではあるが、それでも相当レアなことには変わりない。
まして菓乃子が自摸った一萬は、四枚目の最後の牌だ。
一萬より、他の萬子を引く確率の方が、圧倒的に高かっただろうに。
カッケェよ菓乃子。
今日は完全に、菓乃子が主人公だぜ!
「そんな……嘘よ……。私の方が、どう考えても有利だったはずなのに……」
あまりのショックに、沙魔美は放心状態になっている。
ここまで来ると、一周回って、逆に哀れにすら思えてくるな。
「い、いやあ、やるやないか菓乃子。ウチは、菓乃子は最後にはやる女やと思っとったで」
ピッセがね〇み男並みに、熱い手のひら返しをしている。
「フン!しばらく私に話し掛けないで!」
「そ、そんなあ……」
菓乃子はぷくー顔で、そっぽを向いてしまった。
ま、そりゃそうなるよね。
「でも凄いな菓乃子。国士を聴牌するだけならまだしも、あの状況でラストの一萬を引いてくるなんて。やっぱ菓乃子は持ってるな」
「ふふ、そんなことないよ。この一萬は、自力で引いた牌じゃないもの」
「「「は!?」」」
どゆこと!?
「沙魔美氏が魔法を使うなら、目には目をと思ってね。みんなが沙魔美氏の九蓮宝燈に呆気にとられてる間に、次の私の自摸牌を、ピッセの捨て牌の一萬とすり替えたの」
「何やて!?あっ!ウチが捨てた一萬が、いつの間にか九索になっとる!」
……なるほど、そういうことだったのか。
てか菓乃子って、イカサマ使えたのか!?
少なくとも昔の菓乃子はイカサマなんて使えなかったはずだから、ここ数ヶ月でコツコツ練習して、ワザを磨いたってことか。
何でまた?
ひょっとして麻雀を通じて、誰か振り向かせたい男でもいるのかな?
そりゃ随分と、憎い男だな。
「ズ、ズルい……ズルいわよ菓乃子氏!イカサマを使うなんて!!」
うるさい黙れ木っ端魔女が。
特大ブーメラン刺さってんぞ。
「あれ?イカサマはバレなきゃイカサマじゃないんでしょ?これはイカサマを見抜けなかった、沙魔美氏の落ち度だよ」
「くっ…………び、びえええええ!!!」
ついには沙魔美は泣き出してしまった。
スゲェな。
こんな短時間に、これだけカッコ悪いところをフルコースで見せることができるとは、ある意味才能だ。
「さてと、じゃあ三人共、覚悟はいいかな?」
「え?覚悟って?」
……あ。
忘れてた。
菓乃子が役満を自摸ったんだから、俺達三人共、三枚ずつ脱がなきゃけないのか。
え。
もしかしてこれって、三人共ゲームオーバー?
「全裸になった人は赤ちゃん役なんだよね?一気に三人も子供ができちゃって大変だけど、ママがシッカリと、悪い子にはオシオキしてあげまちゅからねー」
「「「!!!」」」
主人公から一転して、悪役の顔になった菓乃子であった。
俺は完全にとばっちりなんですがそれは……。
この続きが読みたかったら、コインを一枚入れてね!(噓)




