第七十魔 今日も一日
ボッガーン
「ちょっといいかしら堕理雄!」
「うお!?ビックリした!?」
俺が家で一人ジャ〇プを読んでいたら、そのジャ〇プを破壊して中から沙魔美が飛び出してきた。
まだアク〇ージュ読んでる途中だったのに!
今にも阿〇也節が炸裂しそうだったのに!
「沙魔美!何度言わせればわかるんだ!?せめて物を破壊しないで出てきてくれ!」
「でも普通に出てきたんじゃ、インパクトに欠けるじゃない?そんなんじゃ視聴率取れないわよ」
「また始まったよ、三流バラエティ番組のディレクター気取り。今時そんな昭和の登場の仕方したら、逆にチャンネル変えられちゃうぞ」
「堕理雄のテレビ観なんて聞いてないのよ!」
「お前が先に言ってきたんだろーが!」
もうやってらんねーよ!
「いいから今日はこれを読んでちょうだい」
沙魔美が胸の谷間から、漫画の原稿の様なものを取り出してきた。
「お前どっから出してんだよ!?今までそんなとこにものを仕舞ってる設定なんてなかっただろ!?」
「私もそろそろ、キャラにテコ入れが必要かなと思って。私若干、キャラ薄いし」
「味噌煮込みうどんより濃いから心配すんな!趣味が監禁とB漫画の女のキャラが薄い訳ないだろ!?」
「堕理雄……!そんなにも私のことを愛して……!」
「どこをどう取ったらそう解釈できるんだ!?」
最近割とシリアス目な展開が続いてたからって、トバし過ぎだろ!
「まあ、それはいいから、早くこれを読んでよ」
「……そもそもこれは何なんだ?ミスマイペース」
「見ればわかるでしょ?漫画のネームよ、ミスタープニプニヒップ」
「次俺のことをそう呼んだらただじゃおかないぞ。……漫画って、またB漫画か?」
「当たり前じゃない。私が描く漫画と言えば、それしかないでしょ?」
「……何でまた俺に読ませようとするんだよ。感想が聞きたいなら、いつもみたいに菓乃子に読んでもらえばいいだろ?」
「もちろんチーフアシからは既に太鼓判を押してもらってるわ。でも今回は、堕理雄の意見も聞きたいのよ」
「……何でだよ」
「これが私の念願だった、商業誌のデビュー作だからよ」
「!」
遂に俺の彼女は、商業作家になろうとしているのか……。
「そういえば前に、そんな話してたな(※四十六話参照)」
「ええ、諸星先生が漫画を掲載してる、バラローズって雑誌からオファーがあって、ここ数ヶ月は、ずっとそのネームを考えてたの。それがやっと形になったから、是非堕理雄の感想も、取り入れたいと思って」
「……それはまあ、話はわかったけど、でも俺は、B漫画の良し悪しなんて、正直わからないぞ」
あまりわかりたくもないしな……。
「それが逆にいいのよ。どうも私とか、チーフアシみたいなガチ腐りの人は、視野が狭くなりがちだから、堕理雄みたいな一般人の、フラットな目線の意見が欲しいの」
「……」
まあ、言いたいことはわからんでもないが。
でも、B漫画なんだよな?
それはちょっとなあ……。
とはいえ、俺がネームを読むまで、沙魔美は帰らないだろうし、このネームには、沙魔美の夢がかかってるんだもんな。
あくまで普通の漫画として読んで、正直な意見を言えばいいか。
「……わかったよ、読むよ。貸してみろ」
「よろしくお願いいたします」
沙魔美はかしこまった口調で、ネームを渡してきた。
「どれどれ……『県立雀聖高校麻雀部』?……麻雀漫画なのか?」
大丈夫かそれ?
腐った方々って、麻雀に興味ある人は少なそうだけど……。
「確かに麻雀漫画なんだけど、ただの麻雀漫画じゃないわよ」
「?どういう漫画なんだよ?」
「最近は、何でも擬人化するのが流行ってるじゃない?」
「……まあ、流行ってるっちゃ、流行ってるな」
戦艦とか、刀剣とかな。
「だから私は、麻雀牌を擬人化してみたの!」
「麻雀牌を?」
どういうことだ?
よくわからんな?
「麻雀牌は、全部で34種類あるじゃない?」
「……ああ、そうだな」
麻雀牌には大きく分けて、萬子・筒子・索子・字牌の4種がある。
トランプの、スペード・ハート・クラブ・ダイヤみたいなものだと思ってもらえればいい。
萬子・筒子・索子はそれぞれ一から九までの9種、字牌は東・南・西・北・白・發・中の7種類に分けられるので、全部で合計34種類という訳だ。
ちなみに、萬子の一なら一萬、筒子の二なら二筒などと言って区別する。
トランプで言うなら、ダイヤのエースとか、ハートの2みたいな感じだ。
「だから私は、34種類の麻雀牌を、それぞれイケメンに擬人化して、そのイケメン達が、学園内でくんずほぐれつの恋模様を描く様を漫画にしようと思ったの!」
「ちょっと待て、その漫画って連載物なのか?普通新人って、最初は読み切りとかからスタートするもんなんじゃないのか?」
「もちろんそうよ。だからこれは、読み切り用の漫画よ」
「読み切りなのに34人もキャラ出すつもりなのか!?そんなのキャラ紹介だけで、ページ埋まっちゃうだろ!?」
「大丈夫よ、その辺は上手くやってるから。四の五の言わずに、とりあえず読んでみてよ」
「……わかったよ」
まあ、確かに読む前からアレコレ言うのはよくないな。
しょうがない、読んでみるか。
どれどれ――。
「イッケネ―遅刻遅刻ー(麻雀牌を齧りながら)」
オッス、俺の名前は二索!
どこにでもいる高校二年生。
俺の夢は、俺が所属してる県立雀聖高校麻雀部で、全国制覇すること!
「あ、一索!おはよっ!」
「……オウ、おはよ」
「何だよ、今日もテンション低いなー」
「……二索がテンション高過ぎなんだよ」
こいつの名前は一索。
俺の幼稚園からの幼馴染で、俺と同じ麻雀部員。
いつも眠そうにしてるけど、それは毎日遅くまで麻雀の研究をしてるからで、二年生にして麻雀部のエースの凄いやつだ。
俺の夢はさっきも言った通り全国制覇だけど、もう一つの夢は、いつか一索と肩を並べるくらい、麻雀が強くなることなんだ。
「二索、一索、お前達また遅刻ギリギリだぞ」
「すいません白先生!フー、ギリギリセーフ!(校門にスライディングしながら)」
この人は麻雀部の顧問の白先生。
雀聖高校麻雀部のOBで、学生時代は3年連続全国制覇を成し遂げた凄い人だ。
……いつも煙草臭いのが玉に瑕だけど。
「おはよう、二索」
「おはよっ!三索」
「たるんでるぞ、二索」
「すいません!一萬部長!」
「おはようございます!二索先輩!」
「おはよっ!九筒」
「おはようでごわす、二索」
「おはよっ!六索」
「おはよう二索ちゃん。今日もカワイイね」
「やめてくださいよ!四萬先輩!」
「何だ二索、お前また遅刻しそうになったのか」
「……すいません、東先生」
「二索先輩、俺、この間の勝負、まだ敗けたつもりはねーから」
「七筒……。ああ、またいつでもかかってこい」
「グッモーニン!ミスターリャンゾー!」
「おはようございます、九萬先輩」
「二索せんぱーい、今度ボクにも捨て牌読み教えてくださいよー」
「わかったからあんまくっつくなよ、八筒」
「おはようでごわす、二索」
「おはようございます、二萬先輩」
「二索君、今日日直だったよね?後で科学室に教材取りにきてくれるかな」
「了解です、北先生」
「……あの、り、二索先輩……お、おは……」
「おはよう四筒。お前もそろそろ俺の眼を見て話してくれよ」
「おっ!二索、お前いつも一索と一緒にいるよな。お熱いねー」
「やめろよ五索!ハズいだろ!」
「感じる。我は感じるぞ二索。闇より出でし狂乱の宴の風を」
「七萬先輩は……今日も平常運行ですね」
「おはようでごわす、二索先輩」
「おはよっ!三筒」
「二索クン、今日の放課後、また保健室で待ってるから」
「え……中先生、また変なことしようとするつもりじゃ……」
「……」
「八索、お前は相変わらず無口だな」
「おはようでごわす、二索」
「おはようございます、五萬先輩」
「おはようでごわす、二索」
「おはようございます、西先生」
「ふええん」
「どうした六筒?また七筒にイジメられたのか?」
「マッスル・イズ・パワー!!!」
「オオ……九索、お前は今日も暑苦しいな」
「おはようでごわす、二索先輩」
「おはよっ!一筒」
「おはようでごわす、二索」
「おはようございます、三萬先輩」
「おはようでごわす、二索」
「おはよっ!七索」
「フ……フフ……二索……先輩……」
「うおっ!?五筒!お前いつの間に!?」
「クオラァア!!二索!!お前また遅刻しかけたのかぁああ!!」
「ヒッ!すいません發先生!」
「二索、祈りなさい。さすれば神はお許しになるでしょう」
「六萬先輩……」
「おはようでごわす、二索」
「おはよっ!四索」
「おはようでごわす、二索」
「おはようございます、八萬先輩」
「おはようでごわす、二索先輩」
「おはよっ!二筒」
「おはようでごわす、二索」
「おはよっ!六索」
「おはようでごわす、二索」
「おはようございます、南先生」
「へー、ここが学校かあ」
「ダイヤのエース!?お前学校には付いて来ちゃダメだって言っただろ!」
こんな感じで俺の学園生活は、慌ただしい毎日だけど、一人前の力士を目指して、今日も一日がんばるぞい!
「ちょっと一回深呼吸させて!!何だかめまいがしてきた!」
最初の数ページ読んだだけで、とんでもない作品だということは確信した。
「アラ、そんなによかった?」
「お前頭大丈夫か!?本当にこれ、菓乃子はオッケー出したのか!?」
「だからそう言ってるじゃない。でも、さっきも言ったけど、どうも私達、視野が狭くなってる気がするから、どこが悪いのかよくわからなくなってきちゃったのよね」
「敢えて言うなら全部悪いよ!この際だから、頭からおかしいところ全部言っていくぞ!」
「よろしくお願いいたします」
「……まず冒頭の部分だけど、主人公が『イッケネ―遅刻遅刻ー』って言って登校してくるのは、ベッタベタだが、百歩譲ってまあよしとしよう。でも食パンの代わりに麻雀牌を齧ってるのは違和感がエグ過ぎる!麻雀牌は食べ物じゃないぞ!?」
「それにはちゃんと理由があるのよ」
「ホウ、どんな?」
「麻雀牌を擬人化したんだから、麻雀牌が食べ物でも、おかしくはないじゃない?」
「だとしたら共喰いになっちゃうよ!?完全にカニバリズムで、ただのサイコホラーだよ!」
「堕理雄は文句ばっかりね」
「お前のために言ってるんだぞ!……次、幼馴染との云々の部分は、B漫画だから、まあいいとして、やっぱりキャラが多過ぎるよ。しかも校門過ぎた辺りで全キャラが待ってるとか、校門付近が満員電車みたいになってんじゃねーか。あと力士が多過ぎ!終盤ほとんど力士だし!」
それによく見たら六索が二人いるけど、これは最早、些末なミスだから指摘は後回しだ。
「それにも明確な理由があるのよ」
「……一応聞こうか」
「麻雀部は相撲部も兼任してるから、力士が多いのはおかしいことじゃないのよ」
「相撲部も兼任してるのはおかしいことだよ!?食い合わせ悪過ぎだろ!」
だからラストのモノローグで、夢が一人前の力士に変わってたのか!
「……あとマスコットキャラ的なやつで、ダイヤのエースが出てきたけど、麻雀牌の擬人化じゃなかったのか?何で急にトランプになっちゃったんだよ」
「……それは、もう麻雀牌の種類を使い切っちゃったから」
「こんなにいっぱいいるんだから、どれか一つくらいマスコットキャラに回せ!むしろ力士の一人をマスコットキャラにしろ!」
「もう!じゃあ私はいったいどうすればいいのよ!」
「……とにかくキャラを減らせ。やっぱり34人は、読み切りで出すには多過ぎる。せめて10人以内にしとけ」
「……わかったわ。描き直すわよ」
沙魔美は胸の谷間から、新しい原稿用紙とGペンを取り出して、その場で新しいネームを描き始めた。
それから20分後。
「描き直したわよ!」
「もう終わったのか!?」
「まだ冒頭の部分だけだけどね。とりあえず読んでちょうだい」
「……今度は大丈夫なんだろうな?」
どれどれ――。
「イッケネ―遅刻遅刻でごわすー(力士を齧りながら)」
ごっつぁんです、おいどん俺の名前は二索!
どこにでもいる高校二年生。
おいどんの夢は、おいどんが所属してる県立雀聖高校麻雀部で、全国制覇すること!
「お、一索!おはようでごわすっ!」
「……おはようでごわす」
「何でごわすか、今日もテンション低いでごわすなー」
「……二索がテンション高過ぎなんでごわす」
こやつの名前は一索。
おいどんの幼稚園からの幼馴染で、おいどんと同じ麻雀部でごわす。
いつも眠そうにしてるが、それは毎日遅くまで麻雀の研究をしてるからで、二年生にして麻雀部のエースの凄いやつでごわす。
おいどんの夢はさっきも言った通り全国制覇でごわすが、もう一つの夢は、いつか一索と肩を並べるくらい、麻雀が強くなることなんでごわす。
「二索、一索、お前達また遅刻ギリギリでごわすぞ」
「面目ない白先生!フー、ギリギリセーフでごわす!(校門で四股を踏みながら)」
この人は麻雀部の顧問の白先生。
雀聖高校麻雀部のOBで、学生時代は3年連続全国制覇を成し遂げた凄い人でごわす。
……いつも力士臭いのが玉に瑕でごわすが。
「おはようでごわす、二索」
「おはようでごわすっ!六索」
「おはようでごわす、二索」
「おはようでごわす、五萬先輩」
「おはようでごわす、二索先輩」
「おはようでごわすっ!一筒」
「おはようでごわす、二索」
「おはようでごわすっ!六索」
「おはようでごわす、二索」
「おはようでごわす、南先生」
「へー、ここが学校でごわすかあ」
「大関!?お前学校には付いて来ちゃダメだって言ったでごわす!」
こんな感じでおいどんの学園生活は、慌ただしい毎日でごわすが、横綱を目指して、今日も一日がんばるぞい!
「これじゃ県立雀聖高校相撲部だよ!!!」
また六索二人いるし!(指摘し忘れた……)




