表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/141

第五十九魔 100%

2018/6/24 誤字を修正いたしました。内容に変更はございません。

「で、あるからして、みなさんが本日卒業式を迎えることができたのは、保護者の方々や先生方の支えがあったからこそなのです。で、あるからして、みなさんは本校を卒業してからも、そのことを忘れずにそれぞれの進路を歩んでいただきたく、で、あるからして――」


 『で、あるからして』って言い過ぎじゃない?

 校長先生の話が長いのは、最早日本の様式美なので目をつぶるとしても、こうも『で、あるからして』を連呼されると、『で、あるからして』がゲシュタルト崩壊してきて、全然内容が入ってこない。


「で、あるからして、で、あるのであるから、で、あるからして、で、あるからあるから、あるからして、あるあるあるあるあるからして、あーるあるある、ねるねるねるね、ねるねるねーる、ねるねるねるね。以上です」

「校長先生、ありがとうござました。続きまして――」


 何今の!?!?!?

 最後の頃、駄菓子の名前言ってたし。

 前から思ってたけど、この学校ちょっとオカシイよね?

 誰も疑問に思わないのかな……。


「答辞。卒業生代表、夜田真衣」

「ハイ!」


 真衣ちゃんが元気よく声を上げ、前に歩いていった。


 今日は真衣ちゃんの卒業式だ。




「頑張ってマイシスター。お姉さん応援してるわよ。今だけ巨乳になる魔法掛けてあげようかしら」


 俺の右隣に座っている、黒い礼服姿の沙魔美が言った。

 ちなみに俺はまた、慣れないスーツ姿で窮屈している。


「絶対やめろ。それで第二ボタンがパーンして、みんなの前でポロリなんかしたら、真衣ちゃんにとって、今日という日が一生の黒歴史になるぞ」

「そんなそそること言われたら、俄然私の指が疼いてきたわ」

「オイ、本当にやめろよ?これはフリじゃないからな?真衣ちゃんの晴れ舞台を傷物にしたら、本気で怒るぞ」

「静まれ!私の右指!」

「中二病っぽい台詞を吐くな」

「ハハッ、相変わらず仲が良いな、堕理雄と沙魔美ちゃんは」


 俺の左隣に座っている、同じく黒い礼服姿の親父が言った。

 ただでさえ厳つい見た目をしている上、右腕もないので、完全に裏社会の人間にしか見えない。

 まあ、実際親父の実家は、ゴリゴリの裏社会なのだが。


「冷やかすなよ親父。そういうこと言うと、沙魔美はすぐ調子に乗るんだから」

「光栄ですわお義父様。明日辺り、堕理雄さんとの結納を執り行おうと思うのですけど、ご都合はいかがでしょう?」

「オウ、俺は空いてるぜ」

「俺は空いてない。そもそもまだ結納の予定はない」

「頭が固いわね堕理雄は」

「頭が固いな堕理雄は」

「……」


 コイツら、よく考えたら似た者同士だな。

 常に人をおちょくってるとことか、そっくりだ。


「フフフ、大変ね堕理雄君」


 親父の左隣に座っている、黒いマタニティースーツを着た冴子さんが言った。

 もう大分お腹も大きくなっており、臨月も近そうだ。


「え、ええ、それはもう……」

「でも竜也さんが言った通り、仲が良さそうで羨ましいわ」

「あ、はあ」


 うーむ、イカンな。

 最近夢とはいえ、親父と冴子さんの高校時代を追体験しているので、正直言って、滅茶苦茶気まずい。

 もちろんあくまであれは、ただの夢なので、事実とは限らないのだが……。

 しかし、先日の夢では別れてしまった親父と冴子さんが、今ではこうして夫婦になっているのだから、人生というのは、つくづくどう転ぶかわからないもんだ。


「春の訪れを感じるこの良き日、私達三年生一同は無事、卒業式を迎えることができました」

「あ!堕理雄、マイシスターの答辞コントが始まったわよ!」

「コントじゃねえ。黙って聞いてろ」


 しかし凄いよな真衣ちゃんは。

 卒業生代表に選ばれるなんて。

 落ちこぼれだった俺とは、大違いだ。

 頑張れ真衣ちゃん。

 お兄さんは陰ながら応援してるぜ。


「校長先生をはじめ、日々励ましを下さった先生方、ご来賓の方々、保護者の皆様。本日は私達のために、誠にありがとうございます」


 おお。

 流石真衣ちゃん。

 凄くちゃんとした答辞じゃないか。


「思えば、三年前、不安と期待に胸を膨らませ学校の門をくぐりました。あの日から三年間、数えきれない程の思い出を、仲間と共に作ってきました。……みんなで一丸となって練習に励んだ」

「「「「合唱コンクール」」」」

「歯を食いしばって頑張った」

「「「「部活動」」」」


 呼びかけだ。

 やったなー、俺の卒業式の時も。

 まあ、俺の卒業式の時は、菓乃子と進路が別れることがショックで、正直ずっと式の最中、上の空だったのだが……。


「文化祭の出し物の劇でやった」

「「「「白雪姫」」」」

「思えば、あの日が初めてお兄さんがこの学校に来てくれた日でした」


 ……おや?

 雲行きが怪しくなってきたぞ。

 今、『お兄さん』って言った?

 それって俺のこと……?


「死力を尽くして戦った」

「「「「体育祭」」」」

「お兄さんと一緒に食べた唐揚げの味は、今でも忘れられません」


 完全に俺のことだわ。

 あの子、卒業生代表の答辞で、極めて個人的な兄との思い出を語ろうとしてるわ。

 これはマズいぞ。

 手遅れになる前に、何とか止められないかな?


「ことあるごとに入浴中に呼び出される」

「「「「スパシーバ」」」」

「悪しき魔女のことは、絶対に許せません」


 遂に学校とは関係ない、ただの愚痴を言い始めたぞ?

 てか卒業生のみんなも、ちゃんと合わせてるってことは、これ練習済みなの?

 みんなはそれでいいの?


「フフフ、なかなか魅せてくれるじゃない、マイシスター。見届けるわよ、あなたの覚悟を!」

「だからお前は誰目線なんだよ……」


 このままじゃ沙魔美が言った通り、本当に答辞コントになっちゃうよ?


「私が作ったお弁当を、『とても美味しいね』と、お兄さんが言ったから」

「「「「9月8日はお弁当記念日」」」」


 どこかで聞いたことあるフレーズ出てきた!

 てか、『お弁当記念日』って語呂悪っ。

 やっぱ短歌って、語呂が大事なんだね。


「最近お兄さんが私のことを」

「「「「イヤラシイ眼で見ている気がします」」」」

「でも私は、お兄さんにだったら、全てを捧げる覚悟ができています」


 真衣ちゃーん!?!?!?

 唐突に冤罪をぶっかけてくるのはやめてくれるかな!?

 みんなの視線が痛過ぎて、お兄さんは全身に穴が空きそうだよ!?


「今の話、本当なの堕理雄?」


 沙魔美が、ゴミを見るような眼で俺を見てくる。


「本当な訳ねーだろ!妹のことをそんな眼で見るか!」

「……どうなのかしらね」


 沙魔美の疑念は晴れないようだ。

 ハア。

 こりゃ誤解を解くのに、また骨が折れそうだな……。


「そういえば先日、玉〇宏さんと木〇晴夏さんがご結婚される予定という報道が出ましたね。お二人共、とてもお似合いで、素敵なカップルだと思います」

「「「「まるでお兄さんと私みたいな」」」」


 もうやめて!

 お兄さんのライフはゼロよ!

 俺達をあのお二人と一緒にするなんて、君はどれだけ勇気がカンストしてるんだ!?

 まあ、真衣ちゃんも木〇さんも、作中でよく胸平らと弄られてるという共通点はあるが(実際の木〇さんは、全然胸平らじゃないけどな)。


「そして私達が、本日卒業できる感謝の気持ちを、一番に伝えたい方がいます。それが」

「「「「理事長100%です」」」」


 誰!?

 理事長100%!?

 ってことは、もしかして……。


「どーもー。私がこの学校の理事長の、理事長100%です」


 壇上に、全裸で大きな蝶ネクタイをした、股間をお盆で隠したオッサンが登場した。

 ニャッポリート!?

 この変態がこの学校の理事長!?

 うせやろ!?


「今日は卒業式ということで、お祝いに一発芸を披露したいと思います」


 そう言うと理事長100%は、目にも止まらぬ速さで、股間のお盆を回転させた。

 するとお盆の裏には、『門出』と書かれていた。


「卒業生のみなさん、本日はご卒業、誠におめでとうございまーす」


 理事長100%は、ドヤ顔で壇上から颯爽と去っていった。

 後には割れんばかりの拍手と、歓声が鳴り響いた。

 ……そうか。

 前々からこの学校はオカシイと思っていたけど、原因はあの人だったんだな……。

 左を向くと、親父も冴子さんも、ゲラゲラと楽しそうに笑っていた。

 オイオイ、娘がこんなとんでもない学校に通ってたってのに、それでいいのかよ。

 でも、ふと壇上の真衣ちゃんを見ると、俺と目が合ったらしく、満面の笑みでピースサインを送ってきた。

 ……ま、いっか。

 あの真衣ちゃんの笑顔を見ていれば、この学校での三年間が、とても充実したものであったのは疑いようのない事実だ。

 勉強を教えるだけが学校じゃないもんな。

 確かにこの学校で過ごした日々は、一生忘れられない思い出にはなるだろう(良いか悪いかは別として)。

 俺も真衣ちゃんに、精一杯の笑顔でピースサインを返した。

 本当に卒業おめでとう、真衣ちゃん。


「でもさっきの理事長100%は、なかなかよかったわね。堕理雄も今夜、私の前で、堕理雄100%をやってくれない?」


 沙魔美が俺に言ってきた。


「やる訳ねーだろ。それに俺は今日、いろんな意味で疲れたよ」


 特に冤罪の(くだり)が。


「じゃあ私が先に、沙魔美100%をやったら、堕理雄もやってくれる?」

「え」


 ……それじゃ、お盆が三枚必要じゃない?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
応援バナー
(バナー作:「シンG」様)

バナー
(バナー作:「石河 翠」様)
(女の子はPicrewの「ゆる女子メーカー」でつくられております)
https://picrew.me/image_maker/41113
― 新着の感想 ―
[良い点] サマミ100%ですと!(ガタッ) お盆3枚でも、魔法で動かせばイケそうですね。
[良い点] 油断していたところで、理事長にやられました (´;ω;`)ウッ…ww [気になる点] お盆が3枚 (。´・ω・)? 二枚は解るような? 後ろ側ですかね?? (;'∀') [一言] >落ち…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ