第四十八魔 さて問題です
「みなさん!これからみんなで、初詣に行きませんか?」
「グッドアイデアよ未来延さん。すぐに行きましょう」
「久しぶりだな、このノリ」
今日は大晦日。
俺は今日もバイトで、今さっきやっと閉店作業が終わって、仕事納めになったところだ。
俺がシュナイダーの寝顔を見て、ホッコリした気分でホールに戻ると、最早スタッフのごとく閉店後も店内にいる沙魔美と菓乃子に、未来延ちゃんが初詣に行こうと提案していた。
「先輩、初詣いうんは何や?」
「ああ、初詣っていうのは、年が明けてから初めて神社や寺院に参拝する行事のことだよピッセ。今年一年の感謝を捧げたり、新年の無事と平安を祈願したりするんだ」
「へえ、地球人はホンマに、イベント事が好きやな」
「まあ、そうかもな」
「ま、そんだけ平和っちゅうことかもしれんな」
「……そうだな」
ピッセが言うと、なかなかに含蓄のある言葉だ。
「じゃあ私、前から行ってみたかったから、阿佐田山に行きたいわ!」
「え?沙魔美、お前阿佐田山行ったことないのか?」
阿佐田山は千葉県阿佐田市の中心にそびえる小さな山で、山の頂上には広大なお寺が建っている。
日本でも有数の初詣スポットとなっており、毎年全国から三百万人もの人が、参拝に訪れるそうだ。
千葉県民なら、一度は行ったことがあるのではないだろうか。
ちなみに、俺と菓乃子の実家も阿佐田市なので、俺と菓乃子がまだ付き合っていた、高三の大晦日には、二人で初詣に行き、合格祈願をしたこともあった。
知っての通り、俺はその後見事玉砕した訳だが……。
「……うん、実は一度も行ったことがないの……。一緒に行ってくれる友達もいなかったし……」
「……そうか」
あれ?おかしいな?
眼から汗が……。
「よし!じゃあ今からみんなで阿佐田山に行くか!」
「でも堕理雄君、沙魔美氏、水を差すようで悪いけど、もう十一時だよ。今からじゃ電車ないんじゃない?」
「そんなの、私がコレすれば、一瞬よ!」
沙魔美は、自分の指をクイクイ動かしてみせた。
……フウ、しょうがないな。
「今日だけは特別だぞ。お前のアッシー君としての力を見せてやれ沙魔美!」
「何かしら。今彼氏から凄くディスられた気がするけど、気にしたら負けね。じゃ、せっかくだからマイシスターも呼びましょう!久しぶりに、マイシスターの醜態が見たーいなっと!」
沙魔美が指をフイッと振ると、俺達の目の前に、ハムスターの着ぐるみパジャマを着た真衣ちゃんが、グーグー寝息を立てながら現れた。
カワイイな!
しかも大晦日の夜なのに、年が明ける前に寝ちゃってるんだ!?(そんなところもカワイイ)
「グガー、スピピピー。……んがっ?お、お兄さん!?初夢にしては随分リアルな……」
「申し訳ないけど現実なんだよ真衣ちゃん。寝てるところごめんね」
「ふあっ!?ま、また悪しき魔女がやりやがったんですねー!!ああ!お兄さん違うんです!いつもはこんな、恥ずかしいパジャマは着てないんです!」
「いや、今回はむしろ好感度爆上がりだよ真衣ちゃん」
「え?そうですか?……じゃあいいですけど。えへへ」
うんうん、カワイイカワイイ。
真衣ちゃんみたいな妹がいて、俺は本当に幸せ者だ。
「今からみんなで阿佐田山に初詣に行くんだけど、マイシスターも一緒にどう?もちろん堕理雄も行くわよ。ああでも、眠いなら無理に――」
「行きます!!」
「食い気味」
「真衣ちゃん、何も言わず出てきたら、冴子さんや親父が心配するんじゃない?」
「『お兄さんと恋愛成就のお参りに行ってきます』ってメールしておくので大丈夫です!」
「あ、そう……」
真衣ちゃんにも恋愛を成就させたい相手がいるのかな?
何かちょっとお兄さん妬いちゃうな。
「シェフ、そういう訳なんで、また従業員のみなさんをお借りしますね」
「おう、良いお年を」
「良いお年を。それでは、阿佐田山に向かって、ズームイン!!」
「朝の情報番組!?」
沙魔美がズームインポーズを取ると、俺達は一瞬で阿佐田山にワープした。
流石大晦日の夜だけあって、凄い人ゴミだ。
「おはようございます。今朝はここ、千葉県の阿佐田山に来ています」
「誰に話し掛けてんだ沙魔美!?今は夜だし!」
「もう、相変わらずノリが悪いわね堕理雄は。そんなんじゃモテないわよ」
「仮にモテても、お前に邪魔されるから意味ねーよ」
「フフフ、よくわかってるじゃない。それよりも、私に何か言うことがあるんじゃない?」
「あれ!?いつの間に着物に着替えたんだ!?」
「フフ、やっぱりお正月は着物でしょ?どう、似合ってる?」
「お……おう」
とても似合ってる。
沙魔美は綺麗な黒髪だし、やっぱこういう日本風の格好も似合うな。
沙魔美が着ているのは黒を基調にした、赤い刺繡が入った着物で、確か黒の着物は、既婚女性が着るものなはずだが、細かいことはいいだろう。
何より黒は、魔女のイメージカラーだ。
俺が誕生日にプレゼントした、鍵をモチーフにしたピアスも、意外と着物にマッチしている。
まあ、単に彼氏の欲目かもしれないが。
「ところで、他のみんなの姿が見えないけど、どうしたんだ?」
「確かにそうね。私が適当な場所にワープさせたから、はぐれたのかしら?」
「お前が適当な場所にワープさせたから、はぐれたんだよ!何でお前はいつもそうなんだ!?」
「てへ」
「イラッ!……って、うわっ」
「キャッ」
突然俺と沙魔美の間を、大勢の外国人観光客の方々が通り過ぎ、沙魔美ともはぐれてしまった。
……まあ、十二時まではまだ時間があるし、それまでに合流すればいいか。
「お、先輩、ここにおったんか」
「ピッセ」
はぐれた先で、偶然ピッセと鉢合わせた。
ピッセもいつの間にか着物に着替えている。
「その着物はどうしたんだピッセ?」
「なんや、ここに着いたらこうなっとったわ。大方魔女が魔法で着替えさせたんやろ」
「へえ」
てことは、他のみんなも着物なのかな?
なかなか沙魔美も、粋な計らいをするじゃないか。
ただ、ピッセの着物は濃い目のピンクを基調としており、柄も派手なので、日焼けしているピッセの顔と相まって、正直キャバ嬢にしか見えない……。
これを狙ってやってるんだとしたら、相変わらず俺の彼女はイイ性格をしている。
しかも、額の文字も『鰤』に変わってるし。
正月魚だから?
「しっかし、この着物いうんは動きにくいのお。ホンマ、地球人の趣向は謎やで」
「まあ、そうだな」
さっきの話とも通ずるが、わざわざ動きにくい着物を着れるのも、日本が平和だからに他ならない。
生まれた時からずっとサバイバル生活だったピッセからすれば、確かに理解し難い文化だろう。
「……なあ、先輩」
「ん?何だ、改まって?」
「菓乃子は……ウチのこと、どう思っとるんやろか……」
「は?」
何、急に?
「いやな、正直言うと、ウチはもっと菓乃子と仲良うなりたいんや。一緒にパンケーキ食べたり、ネズミーランド行ったりしてみたいんやが、どーにもつれない態度での……。ウチ、何か嫌われることでもしたんかな?」
「え……どうだろう」
そんなこと、俺に聞かれても……。
「なあ、頼みがあるんやが、先輩の方から何気なく、菓乃子がウチのことどう思っとるか、聞き出してくれへんか?」
「は?俺が!?イヤだよそんなの!」
「へえー、そーなんやー。意外と薄情やな先輩はー。あー、クリスマスのバイトは、ごっつしんどかったなー。誰かさんがいてくれたら、あないなことにはならんかったのになー」
「!」
……オオフ。
それを言われると、こっちも弱いぜ。
「……わかったよ。聞くだけ聞いてみるよ。その代わり、あまり期待はしないでくれよ」
「よっしゃ、おおきに!期待しとるで!」
「お前ひとの話聞いてたか!?……って、うわっ」
「うおっ」
またしても大勢の外国人観光客の方々が通り過ぎ、ピッセとはぐれてしまった。
……あれ?もしかしてこれ、こうやって一人ずつ合流しては、別れていくパティーンのやつか?
「あ、堕理雄君、やっと見付けた」
「菓乃子」
ここで菓乃子か……。
よりにもよって、ピッセから無茶振りをされた直後に……。
ちなみに、菓乃子の着物は、黄色を基調とした可愛い柄のもので、菓乃子によく似合っていた。
やっぱ色物キャラ達が跋扈してる中で、菓乃子だけが唯一の癒しだぜ。
「ど、どうかなこの着物?沙魔美氏が選んでくれたみたいなんだけど」
「うん、とても似合ってるよ」
「ホントに?ふふ、ありがと」
「……」
聞くなら今しかないか……。
「なあ、菓乃子」
「ん?なあに、堕理雄君?」
「……実はさ、折り入って聞きたいことがあるんだけど」
「え…………それって大事な話?」
「え?まあ、大事といえば、大事かな……?」
「ちょっと待って!一回深呼吸させて!」
「え、ああ。俺はいいけど……」
「スーハ―、スーハ―。…………はい、どうぞ」
「あ、ああ、ええと」
何でそんなに緊張してるんだ?
こんな空気だと、言い辛いんだけど……。
「……菓乃子はさ、ピッセのこと、どう思ってるのかな?」
「……え?ピッセのこと?」
「ああ…………あ!」
「?」
しまった。
『何気なく』って言われてたのに、思わずドストレートに聞いてしまった。
「……ふーん。何だ、そーいうことか。大方、ピッセに聞いてくれって頼まれたんだね?」
「あ、いや、その、何というか……」
バレテーラ。
「ま、いいけど。……別に、ピッセのことは嫌いじゃないよ」
「あ、そうなんだ」
よかったな、ピッセ。
「堕理雄君を拉致した時のことは、まだ全部許した訳じゃないけど、沙魔美氏の魔法でピッセの過去を知って、ピッセにもいろいろ事情があったんだってことは、わかったから」
「……そっか」
「でも、ピッセが私に執着してるのは、私がヴァルコさんに雰囲気が似てるからだと思うの」
「え?……そうかな」
「そうだよ。だから正直、ピッセの気持ちは私には重い。私は、ヴァルコさんの代わりにはなれないから」
「……別に、ピッセは菓乃子に、ヴァルコさんの代わりになってほしい訳じゃないと思うけど」
「……」
……ううむ。
何だか、思いの外、重たい空気になってしまった。
こんな時こそ、外国人観光客の方々の出番だぞ!
……。
…………。
………………。
来んのかい!
「堕理雄君、私ね……って、キャッ!」
「うわっ」
ここで来んのかい!
今菓乃子が、何を言い掛けたのか、メッチャ気になるやんけ!(何故関西弁?)
「あ!お兄さん!ずっと探してたんですよ!」
「真衣ちゃん」
次は真衣ちゃんか。
マイシスター真衣ちゃん。
菓乃子とはタイプが違うけど、真衣ちゃんも俺の心のオアシスだぜ。
「悪しき魔女に用意してもらったのは癪ですけど、どうですかこの着物?大人っぽく見えますか?」
「う、うん」
真衣ちゃんの着物は、緑を基調にした可愛らしい柄のもので、とてもよく似合ってはいるのだが、ぶっちゃけ、七五三の晴れ着にしか見えない……。
「どうですか!?大人っぽいですか!?」
「うん……何て言うか」
「大人っぽいですか!?」
「……えっと」
「大人っぽいですか!?」
「……」
真衣ちゃんが、大人っぽいですかボットになってしまった。
「……お」
「……お?」
「……大人っぽいと思うよ」
「イエスッ!コングラチュレーション!」
「……」
また一つ俺は、優しい噓を吐いてしまった。
「お兄さん、よかったら私と……って、ひゃっ!」
「うわっ」
今度は早めに外国人観光客の方々が来た。
「ちょっと!私の出番だけ少なくないですか!?久しぶりのお兄さんと二人きりだったのに……クソがああああ!!!」
「真衣ちゃーん!」
でも、久しぶりに真衣ちゃんの『クソがあ』が聞けたから、お兄さんは満足だよ。
さて、最後は未来延ちゃんか。
「どうも、私が伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンです」
「ひっっっっっっっっさしぶりじゃないか伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサン!!生きとったんかワレ!!」
てか前に海に行った時も、このパティーンじゃなかったか!?
「いやーご無沙汰してすいませんね。前期はアニメの仕事が忙しかったもので」
「何言ってんのお前!?あっちの六つ子とお前らは、何の関係もねーだろ!?」
「あ、いたいた堕理雄。どこをほっつき歩いてたのよ。やっぱ堕理雄は、監禁しておかないとダメね」
「沙魔美。それにみんなも」
みんなは既に合流済みだったようだ。
あれ?でも未来延ちゃんだけがいないな?
「私ならここですよ普津沢さん」
「ああ、未来延ちゃん、そこにいたのか……って、ファッ!?」
未来延ちゃんは何と、白無垢を着ていた。
何!?今から結婚式でもすんの!?
「いえいえ、一度着てみたかったから、沙魔美さんにオーダーしただけですよ。それとも、普津沢さんが貰ってくれますか?」
「いや……それは……」
後ろで般若の様な眼をしている魔女が怖いので、ノーコメントでお願いします。
「あ!堕理雄!そろそろ新年よ!五……四……三……二……一…………」
「「「「「「ハッピーニューイヤー!!」」」」」」
境内にいる大勢の人達が、みんな一つになって、新しい年をお祝いした。
早速巨大なお賽銭箱に、わらわらと人が群がって行く。
この光景を見ていると、年が明けたという実感が湧くな。
「ねえねえ堕理雄」
「ん?」
沙魔美が俺に擦り寄ってきて、耳元で囁いた。
「堕理雄は、何をお祈りするの?」
「え?……そういうのは、人に言ったら、叶わなくなるって言うだろ」
「フフフ、そうね。じゃあ私も教えなーい」
「……お前のは、何となく想像が付くがな」
どーせ俺を、監禁できますようにとかだろ?
「さて、どうかしら。しょーがないわね、そこまで言うなら、教えてあげるわよ」
「そこまで言ってないから、教えなくていい」
「……『愛する人と、いつまでも一緒にいられますように』よ」
「……そっか」
奇遇だな、俺も同じだよ。
「そうだわ堕理雄、もう一つ、イイコトを教えてあげる」
「聞きたくないな」
例によって、嫌な予感がする。
「本来着物を着る時はね、下着のラインが響かないように、下着はつけないのよ」
「え!?そうなの!?」
……初めて知った。
「さて問題です。私は今、下着をつけているでしょーか?」
「え……それは……」
……どっちだろう。
「フフフ、正解は、帰ったら確かめさせてあげるわね」
「……」
一富士二鷹三茄子!(?)




