第四十二魔 パーティよお
2018/12/26 誤字を修正いたしました。内容に変更はございません。
「産休中の漫画編集者の夫、上月梨夫がお送りする前回のあらすじ。僕、上月梨夫は漫画編集者である妻の倫子との間に、この度子供を授かったんだ。でも僕には誰にも言えない秘密がある。実は妻のお腹の中にいる子は、僕の子ではないということを、僕が知っていることだ。それもそのはずさ、妻にも言ってなかったけれど、実は僕には子供を作るタネがないんだ。だから僕らの間に子供が出来るはずはない。僕はタネがないことを妻にずっと言わなきゃと悩んでいたんだけど、もし言ったら離婚届を突き付けられるんじゃないかと思うと、いつも言い出せず毎日は過ぎていった。そんなある日のことだった。妻と、妻がいつも財布に忍ばせている写真の男性が、一緒にラブホテルに入っていくところを偶然目撃してしまったのは……。僕は怒りに震えたが、同時にこれは妻にずっと隠し事をしてきた僕への天罰だとも思った。そして妻は妊娠した。僕は夜も眠れない程悩んだけれど、結局は知らないフリをする決心をした。これが僕への罰ならば、一生知らないフリをして妻と産まれてくる子供を支えるのが僕の贖罪だ。でも本当にこれでよかったのかな?子供が大きくなるにつれて、どんどんと僕と似なくなっていくのに、何も言わない僕を見たら、果たして妻は何を思うんだろう……。そして、ビュリフォーボットに攫われた菓乃子の運命やいかに。それでは後半が始まるゼーット!!」
「ジブンか!先輩が言うてたやつは!?」
「そうだよ。僕だよ」
「何か怖いわジブン!早うどっかいけや!」
「何してるのカマセ?早く菓乃子氏を助けにいくわよ!」
「ピッセや!今いくわ!」
絶対ウチがヴァルコの仇を討って、腹黒娘も助けちゃる。
もう二度と、あんな思いはゴメンや。
「ええか魔女。ウチが伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンをエサにして、ヤツを引き付ける。その隙を突いて、ジブンはヤツを攻撃してくれ」
「わかったわ、任せてちょうだい。がんばるぞい!」
「……よし、いくで」
ウチは魔女と先輩をそれぞれ両脇に抱えた。
「え?待ってくれピッセ。俺達この体勢で、あの宇宙船まで運ばれるのか?」
「それが一番早いやろ。喋ってたら舌噛むで」
「ちょ、待って!まだ心の準備が!」
ドウッ
「ヒュン!」
ウチはひとっ飛びに、趣味の悪い宇宙船の甲板までジャンプした。
そこは甲板というよりは、闘技場の様な造りになっとった。
ゴテゴテした装飾が鼻につくが、決戦の場としては相応しいな。
「んん〜?思ったより早く来たね。まだ二面性のあるフロイラインと、親睦を深めている最中だというのに」
「みんな!」
「腹黒娘!?」
「菓乃子氏!?」
「菓乃子!?」
闘技場の端には、スゴルピオと、亀甲縛りで宙吊りにされた腹黒娘が立っとった。
……ウチとやっとること被っとるやないかい!?
幸いウチが先輩にやった時とは違って、腹黒娘は服は着とるが、宇宙海賊がみんな亀甲縛り好きの変態だと地球人に思われたらどないしてくれんねん!
まあ、コイツが変態なのは、紛れもない事実やが……。
「見ないで……見ないでぇー!」
おおう。
腹黒娘が言うと、マジモンの陵辱系エロゲーやな。
ウチもこないだお嬢に借りて試しにプレイしてみたが、地球人もなかなかに業が深い種族やで。
「ちょっとアナタ!何勝手に私の菓乃子氏を亀甲縛ってるのよ!菓乃子氏を亀甲縛っていいのは私だけよ!」
「お前にも権利はないぞ沙魔美」
「んん〜、ところで伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンは持ってきてくれたのかな?粗野なフロイライン」
「ああ、ここや」
ウチは眼帯を外した。
「んん〜!ベリベリビュリフォー!!そんなところに隠していたとは、流石のボクも気付かなビュリフォーだよ。どれどれ!もっと近くでよく見せておくれ!」
スゴルピオは無防備でノコノコこっちに歩いて来おった。
今や!魔女!
「やっておしまい!伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴン!」
「いよっしゃー!久方ぶりの活躍のチャンスでやすよー!喰らいやがれー!」
瞬時に召喚された伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンは、灼熱の炎を吐き出してスゴルピオを焼き払った。
やったか!?
「んん〜、急に酷いじゃないか、妖艶なフロイライン」
「え?」
いつの間にかスゴルピオは伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンの足元に立っとった。
なっ!?
ズドンッ
「ゴバハアー!もう出番終わりでやすかあー!?」
キラーン
スゴルピオに土手っ腹を思い切り殴られた伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンは、夜空の彼方に消えていった。
あいつの方がウチより余程カマセキャラちゃうか?
「チイッ!魔女!挟み撃ちにして一気に決めるで!」
「ぞい!」
ウチと魔女はスゴルピオを左右から取り囲んで、拳の連打を繰り出した。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
「んん~、ビュリフォー。一生懸命頑張るフロイライン達はベリベリビュリフォーだねえ」
「「!!」」
スゴルピオは右手でウチの、左手で魔女の猛攻を全て受け切った。
そして右の掌底をウチに、左の掌底を魔女に撃ち込んできた。
「キャアア!」
「ガアア!」
「沙魔美!ピッセ!」
「沙魔美氏!ピッセ!」
ウチと魔女はそれぞれ反対方向に吹っ飛ばされた。
クソッ!二人掛かりでもこれか!
相変わらずナンチュウ強さや!
「んん〜、どうやら伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンを素直に渡すつもりはないみたいだね。しょうがない、ボクのとっておきの技でキミを天国に送ってから、ゆっくりいただくとしよう」
「何やと!?」
スゴルピオが手のひらを開くと、その上に直径一メートル程の光の玉が生成された。
な、何やあれは!?
……いや、何かはわからんが、トンデモなくヤバいモンやってことは直感でわかる。
あれを喰らったら一溜まりもないやろう……。
「それじゃあ天国で知的なフロイラインによろしくね」
「クッ!」
「伝説の必殺光弾ビュリフォーエレクトリカルビュリフォーサンシャインビュリフォーボール!」
どんだけビュリフォー言うねん!
伝説の必殺光弾ビュリフォーエレクトリカルビュリフォーサンシャインビュリフォーボール(長いな!)は、真っ直ぐウチに向かって飛んできた。
アカン!
まだ掌底のダメージが抜けてへんから足が動かん!
……ヴァルコ。
チュドーン
……。
あれ?
痛ない。
一体何が――
「生きてる?カマ……セ」
「!!魔女!?」
ウチの前には、魔女がウチを庇ってガイナ立ちをしとった。
何故ガイナ立ち!?
ウチは崩れ落ちそうになる魔女を慌てて抱きかかえた。
「何でや!?何でジブンが!?」
「あなた回想で言ってたじゃない……。あのビュリフォーボットは……あなたの手で必ず倒すんでしょ?だから、あなたがやられたらこの戦いは終わりなのよ……」
「……魔女」
「私なら大丈夫……。喰らう直前に魔法で障壁を張ったから……死にはしないわ……。でもごめんなさい……後は……任せた……わ」
「魔女!」
魔女はウチの腕の中で気を失った。
「沙魔美!」
「沙魔美氏!」
「……大丈夫や。死んではおらん」
だがもう魔女の力も借りられん……。
魔女はああ言ってくれたものの、ウチ一人でホンマにこのバケモンに勝てるんか……?
「んん〜、ベリベリビュリフォー!!奇しくもあの時と似たようなシチュエーションになったね!でも残念。流石に今回は粗野なフロイラインの命を助けてあげることはできないよ。この国の諺にもあるだろう?仏の顔も三度までってやつさ」
「……まだウチは三度も見逃してはもらっとらんけどな」
クソッ!
ウチは何を言うとるんや!?
こんな不俱戴天の仇に、命乞いとも取れる台詞を吐くやなんて!
「んん~、確かにそうだね。でもボクは地球人じゃないから、適応外ってことでヨロシク!てことで、今度こそサヨナラ、粗野なフロイライン。伝説の必殺光弾ビュリフォーエレクトリカルビュリフォーサンシャインビュリフォーボール!」
……オワリか。
……スマン、ヴァルコ。
ウチはここまでみたいや。
「諦めんじゃないわよピッセー!!!」
!?
ヴァルコ!?
いや、ちゃう、腹黒娘か!
「あなたが諦めたら、ヴァルコさんの仇は誰が討つのよ!」
……腹黒娘。
そうやな。
他の誰でもない、ウチが諦めてどないすんねん。
ウチの命は、ヴァルコが自分の命と引き換えに救ってくれた命や。
ウチが一人で勝手に諦めてエエ命やない!
……感謝するで腹黒娘。
もうちょい、足掻いてみるわ!
「オンドリャアアアアア!!!」
ガシイッ
ウチは伝説の必殺光弾ビュリフォーエレクトリカルビュリフォーサンシャインビュリフォーボールを両手で受け止めた。
「何だって!?」
「ふぐううううう!!!」
……だが、アカン。
やっぱ抑えきれん!
この……まま……じゃ……押し切られ……る。
……ヴァルコ!
「うるさいわねえ。寝られないじゃない」
「!?」
ヴァルコ!?
今度は間違いなくヴァルコの声や!!
……いや、そんな訳はない。
ヴァルコは確かにあの時……。
「そうよ。私はヴァルコじゃないわ」
「なっ!?ど、どこや!?どこにいるんやヴァルコ!?」
「だからヴァルコじゃないって」
「はあっ!?」
絶対にヴァルコの声やろ!?
ウチが聞き間違える訳ない!
……あれ?
オカシイな?
何でウチ、こんな余裕なんや?
伝説の必殺光弾ビュリフォーエレクトリカルビュリフォーサンシャインビュリフォーボールを受け止めとる最中やのに?
ふと見ると、伝説の必殺光弾ビュリフォーエレクトリカルビュリフォーサンシャインビュリフォーボールがその場で止まっとる。
それだけやない。
スゴルピオも、腹黒娘も、時間が止まった様にピクリとも動かん。
……いや、実際時間が止まっとる。
いったい何が起きてるんや?
「おいピッセ……何が起きてるんだこれ?」
「!……先輩」
先輩は動いとる。
マジでどないなっとんや!?
ウチと先輩以外は時間が止まっとるやなんて、何がどないなったら、そないなことになるんや!?
「私がやったのよ」
「っ!ヴァルコ!!」
「何度も言うけどヴァルコじゃないわ」
じゃあ誰なんや!?
それにどっから声がしてるんや!?
むしろウチの頭の中から聞こえてきとるような……。
「ここよ、ここ」
「は?」
ウチの右眼から、勝手に伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンが飛び出てきて、その姿が一瞬でヴァルコのそれに変わった。
ぬあっ!?
「……ヴァルコ」
「何回言わせるの?私はヴァルコじゃないわよ。今の私はヴァルコの姿を模してるだけ。一番長く、私を大事にしてくれてたからね」
「私を?」
……てことは。
「そ。私は伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンに宿る精霊みたいなものよ」
「……精霊」
「ちなみに名前は『レイ』よ。よろしく」
「レイ」
そういえばウチの故郷で聞いたことがある。
長年人の心に触れた宝石には、魂が宿ると。
日本でいう、付喪神みたいなモンか?
ただの迷信やと思うとったが、ホンマモンやったんか……。
「……ヴァルコのことは残念だったわ」
「……」
そうやろな。
レイは、ウチよりも長い年月、ヴァルコと一緒に人生を過ごしてきたんやもんな。
「だから、私もヴァルコの仇を討つのに、力を貸してあげようと思って」
「っ!ホンマか!」
それは僥倖や!
こんな、時間さえも止めることができるやつの力を借りれれば、スゴルピオにも勝てるかもしれん!
「でもその代わり条件があるわ」
「は?条件?」
条件、て?
「何、簡単なことよ。ちょっとそこのおにいさん」
「……え?俺ですか?」
あまりの出来事に無言で惚けとった先輩が、急に自分に話題が振られて、何ともマヌケな声で答えた。
「そうあなたよ。ちょっとこっちに来て」
「あ、はあ……」
先輩は頭にハテナマークを浮かべながら、レイに近寄った。
すると――。
ブチュウッ
「「!?」」
レイが先輩にキスをした。
ななななな何しとんねん!?!?
「ふう!やっぱ若い男とキスすると、女性ホルモンがビンビン出てくるのを感じるわあ」
「あなた女性ホルモンとか出るんですか!?」
「お前女性ホルモンとか出るんか!?」
「「!」」
シマッタ。
先輩とツッコミが被った。
せやからツッコミ役は、一人までにしとけって言うといたのに(言ってない)。
「いやー、実はさー、私もピッセ越しにおにいさんのことずっと見ててさー。おにいさんメッチャ私のタイプだったんだよねー」
「……はあ」
……ええ。
流石先輩。
遂に精霊まで攻略しおった(しかもまたもや無自覚に)。
まるでトラ〇ルのリ〇さんやな。
しかし今だけは魔女が気絶しといてくれて助かったわ。
起きとったらスゴルピオやなく、魔女に地球が滅ぼされるところやった……。
「よし!これで満足したから、約束通り力を貸してあげるわ。それ」
レイがウチに手をかざすと、ウチの身体の中から尋常やない程の力が溢れてくるのを感じた。
な!?何やこの力は!?
「お、おい、ピッセ」
「ん?何や先輩」
「……お前の額の文字が変わったぞ」
「え?何にや?」
「……『鮫』だ」
……ククク。
なかなか粋なことしてくれるやないかい、レイ。
ほなら、ご要望にお応えして、鮫らしくスゴルピオを喰らってやるわ。
「ああ、でもその状態は三十秒しかもたないから気を付けてね」
「……ハッ」
三十秒もあれば十分や!
「じゃ、そろそろ時間が動き出すから、後は頑張ってねー」
レイは元通りの宝石の姿に戻って、またウチの右眼に収まった。
そしてそれと同時に、世界が時を刻み始めた。
「フンッ!」
ウチは伝説の必殺光弾ビュリフォーエレクトリカルビュリフォーサンシャインビュリフォーボールを、両手で挟み込んだ。
「なっ!?何をする気だい!?粗野なフロイライン!?」
「こ・う・す・る・ん・やあ!!」
バチンッ
「はあっ!?」
ウチは伝説の必殺光弾ビュリフォーエレクトリカルビュリフォーサンシャインビュリフォーボールを、両手で叩き潰した。
「ふうー。ま、ざっとこんなもんやろ」
「そ、そそそそそそんな……。この一瞬で何が起きたっていうんだい!?キミのその闘気……ボクよりも遥かに……」
「ああそうやな。まあちいとばかしズルい手を使わせてもろたが、それぐらいは勘弁したってくれや」
「そ、そんな……このボクが……このボクがああああ!!!」
「じゃあ時間もないんで、この辺でお開きにさせてもらうわ。変態ビュリフォー豚野郎、最後に何か言い残すことはあるか?」
「くっ……ボクを倒したとしても、また第二、第三の変態ビュリフォー豚野郎が……」
「退場台詞までウチと被んなや!伝説の最終拳技スーパーファイナルアトミックインスタバエフォロワーヒャクマンニントッパナッコウ!!!」
「んん~!!!ビューリフォーーーー!!!!!」
ゴパアッ
変態ビュリフォー豚野郎は、塵となって跡形もなく消え去った。
……勝った……か。
……ヴァルコ……見とってくれたか……。
仇は討ったで。
「……ピッセ」
「腹黒娘……待っとけ、今助けちゃ……クッ!?」
「ピッセ!?」
全身から力が抜けて、思わずウチは倒れそうになった。
これがさっきの力の代償か……。
こりゃしばらく歩くのもしんどいかもな。
まあ、後は帰るだけや。問題はないやろ。
ビービービービー
『緊急事態、緊急事態。エネルギーの供給がストップしました。当艦は墜落します』
「は!?」
突然地面がガクンと揺れ、フネが少しずつ下降していくのを感じた。
何やと!?
墜落!?
「ピッセ!どういうことだよ墜落って!?」
「……聞いたことがある。持ち主の生命エネルギーを動力として、飛ぶフネがあるってな。……多分これもそれや」
「生命エネルギー!?」
「ああ、アイツくらいのバケモンなら、ほぼ無尽蔵にこのフネを動かせるやろからな。補給いらずの、永久機関て訳や」
「そんな……じゃあ、ピッセがエネルギーを供給すれば」
「せやな、フネの持ち主やないウチでも、エンジンに直接触れればエネルギーの供給は可能やろう」
「っ!じゃあ!」
「せやが、ウチにはこのフネの操縦方法がわからん」
「え!?そうなの!?車の運転なんて、どれも同じ様なもんじゃないの!?」
「車と一緒にすんなや!ウチのフネとは、製造された星すらちゃうねんぞ!」
「じゃ、じゃあ……どうすれば……」
「……」
ウチの体力が万全なら、ここに飛んで来た時みたいに、みんなを抱えて飛べるんやが……。
今のウチじゃそれも無理や。
クソッ。
せっかくヴァルコの仇が討てたのに、このままじゃみんなお陀仏やないか!
「ピッセ、私の縄を解いて」
「!腹黒娘……」
いや、そないな格好でハズいのはわかるけど、正直今はそれどころやないんやが……。
「いいから早く!」
「あ、ああ」
ウチは腹黒娘の縄を解いて地面に立たせた。
「ありがとう。じゃあ操縦室に行くわよ」
「は?ジブンこのフネの操縦方法知っとんのか?」
「あなた達がここに来る間に、あのキモい人にそれとなく聞いておいたのよ。こんなこともあろうかとね」
「何やと!?」
コイツ……マジで狡猾やな。
そういえばここに来た時、スゴルピオが腹黒娘と親睦を深めとる最中みたいなことを言うてたが、それがまさにそうやったんか。
ホンマ、そんなとこもヴァルコそっくりやな。
「さあ!あなたはエネルギーの供給をお願い!」
「オ、オウ」
「菓乃子!俺も何かできることはないか!?」
「堕理雄君は沙魔美氏をしっかり支えてて。このフネは裏山に不時着させるつもりだけど、それでもかなりの衝撃はくると思うから」
「わ、わかった!」
「……腹黒娘」
「大丈夫よ、私を信じて。『私達は無敵』、でしょ?」
「!」
ヴァルコの台詞を……。
ハッ、とことん生意気な娘やでホンマ!
「よし!ウチの命はジブンに預けるで!操縦は任せた!」
「任された!」
ウチは操縦席の横にあるエンジンのエネルギー供給管を握って、残り少ない生命エネルギーをありったけ注ぎ込んだ。
「ふんぬああああ!!!」
ビービービービー
『エネルギーが供給されました。ですがエネルギー残量は僅かです。三十秒後に当艦は墜落します』
フネの下降はピタリと止まった。
「っ!腹黒娘、聞こえたか!あと三十秒や!」
「う・る・さ・い・わ・ねえ!!今やってるわよ!」
腹黒娘が操縦席でアクセルらしきものを全開にするのが見えた次の瞬間、フネは物凄いスピードで前方に飛び出した。
「うおっ!?オイ!スピード出し過ぎや!」
「これくらいじゃないと三十秒で裏山まで間に合わないわ!民家の上に降りる訳にはいかないでしょ!大丈夫、着陸する時はブレーキ掛けるから!」
「クッ」
こんな時まで他人の心配してからに。
どこまでお人好しやねん。
「あっ!裏山が見えたわ!着陸するから、みんな何かに掴まって!」
腹黒娘は今度はブレーキを全開にし、フネを裏山の林の中に突っ込ませた。
ぬあああ!!
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリーーー
ズズーン
「………………と、止まった……か」
「フウ、ギリギリセーフってとこね」
「ギリギリアウトやこんなん!死ぬとこやったやろ!」
「はっ!?命の恩人に向かってその態度は何よ!…………フッ、フフ」
「……ク、クククク」
「アハ、アハハハハハ」
「アーハッハッハッハッハッハ。……なかなかやるやないか、菓乃子」
「!……あなたもね、ピッセ」
ウチと菓乃子は固い握手を交わした。
その時、
『サヨウナラ、ピッセ』
と、どこからかヴァルコの声が聞こえた気がしたが、ただの気のせいやったかもしれん。
「?どうしたのピッセ?」
「いや、何でもないわ」
「?変なの」
またな、ヴァルコ。
ウチがそっちに行くのは、もう少し後になりそうやけど、気長に待っといてくれ。
「あのー、イイ雰囲気のところ申し訳ないんだけど、主人公は俺だってことは、忘れないでね?」
「「……」」
KY自称主人公の虚しい呟きは、冷たい夜の空に溶けていった。
「うう~ん、むにゃむにゃむにゃ。よ~し、今夜は特別に、みんなで堕理雄を監禁パーティよお、むにゃむにゃ」
「「「は?」」」
ヤンデレ魔女の不穏な寝言も、同じく溶けていった。




