第四十一魔 ゼーット!!
ウチの一番古い記憶は、ドブ溜めみたいな路地裏で、残飯を漁っとる光景や。
ウチの生まれた星じゃ、女は子供を産む道具くらいにしか思われとらんかった。
ある程度成長した女は、娼館に売られるか、貴族の家にソウイウ係として奉公に出されるかぐらいしか、人生の選択肢はなかった。
まあ、貴族の家に産まれた女は、政略結婚の駒として重宝されることもあったみたいやが、それにしたって幸せとはとても言い難い人生やろな。
そんな世の中やから、ウチみたいに産まれた子が女って時点で、親に捨てられる子供もぎょうさんおった。
ウチら捨て子が生きてく術は、残飯漁りか盗みくらいしかなかったのが正直なところや。
ウチもご多分にもれず、その二つを生活の糧として何とか生きてきたんやが、一ヶ所に留まっとると店主達から目を付けられるんで、定期的に住む場所を変えながら、人生という当てのない荒野を、一人で歯を食いしばりながら放浪しとった。
そんなウチが流れ着いた場所が、ウチの星で一番の繁栄を誇っとる、『トーカン地方』や。
トーカンには人もモノも、ウチの故郷とは比べものにならん程、溢れかえっとった。
残飯も豊富で、ウチは生まれて初めて『腹がいっぱいになる』という経験をした。
ここは天国や。
そう思って、ウチはトーカンに長く留まることを決意した。
だが現実はそう甘くなかった。
確かにモノは豊富やが、その代わり孤児同士の縄張り争いが激しく、ヨソモンな上、一匹狼なウチは、いつも他の孤児達から目の敵にされとった。
しかもトーカンには男の孤児も多かった。
どーやら人が増えると、その分、闇も増えるらしい。
トーカンの裏路地は、男の孤児だけが集まった集団が幅を利かせとって、苦労してウチが一人で盗んだ食料を、そいつらに無理矢理奪われたことも何度もあった。
こんなとこでも女は男のいいようにされなあかんのか!
女に生まれたというだけで、こんなにも理不尽な人生を強要されることへの怒りが、皮肉なことにウチの一番の原動力になっとった。
そんなある日のことや。
ウチは偶然デカいアタッシュケースを置き引きすることに成功した。
人気のないところに行ってから中を開けると、そこには札束がギッシリと詰まっとった。
なっ!?
それを見た途端、ウチは嬉しさよりも恐怖が全身を支配した。
多分これはマフィアが裏取引で使う金や。
ウチはとんでもないモンに手を付けてもうた。
このことが連中にバレたら、ウチは間違いなく殺される。
かといって素直に金を返したとしても、とても許してはもらえんやろう。
万事休すか……。
ウチが絶望に打ちひしがれとると、遠くから「オイ!こっちもくまなく探せ!」というドスの利いた声が聞こえてきた。
やつらや!
ウチは必死にその場から逃げた。
だがすぐに、行き止まりに突き当たってしもうた。
ウチの身長じゃ、ジャンプしても微妙に上まで届かん。
そうこうしている内に、後ろからさっきの男達の声が近付いとるのがわかった。
クソッ!こんなところで!
「ねえあなた、助けてあげようか?」
「は?」
その声はウチの頭の上から聞こえてきた。
見上げれば、いつの間にか壁の上にウチと同じくらいの歳の女が座っとった。
胸には丸くて虹色に輝いた、綺麗な宝石が付いたネックレスを下げとる。
何やコイツ!?
いや、それより今、「助けてあげようか?」って言うとったか?
「……ナニモンやジブン」
「今はそんなことどうでもいいでしょ。追われてるんでしょ、やつらに?その手に持ってるものを、半分分けてくれるんなら、あなたを助けてあげるわよ」
「……ホウ」
そういうことか。
多分コイツはウチがこれを盗むところを見とったんや。
せやからウチを助ける代わりに、分け前をもらおういう魂胆なんやな。
まあ、そういうことならウチにとっても渡りに船や。
「……ええで。どっちにしろ捕まったら終わりなんやからな」
「交渉成立ね。じゃあ先にそのアタッシュケースをこっちに投げて」
「そういう訳にはイカンな。そしたらジブンはウチを捨てて、トンズラするかもしれんしな」
「……フフ、意外と頭が回るじゃない。気に入ったわ。じゃあそれを持ったまま私の手を掴める?」
「朝飯前や」
ウチはアタッシュケースを脇に抱えたまま、助走をつけてジャンプし、その女の手を掴んだ。
その瞬間、後ろから「オイ!いたぞ!」という声が聞こえてきた。
「やつらや!オイ!早う上げてくれ!!」
「わかってるわよ!でもあなた重いのよ!」
「なっ!?ウチはそない重ないわ!このアタッシュケースが重いんや!」
パーン
え!?何の音や!?
ふと横を見ると、ウチの顔のすぐ側の壁に、銃弾の跡が付いとるのが見えた。
やつら銃を撃ってきおった!?
「オイ!やつら銃を持っとる!頼むから早うしてくれ!」
「う・る・さ・い・わ・ねえ!!」
パーン
間一髪ウチは引き上げられ、その女と一緒に壁の向こう側に落下した。
あと一秒遅かったら、ウチの土手っ腹には風穴が開いとったやろう。
「いててて。遅いわジブン!死ぬとこやったやろ!」
「はっ!?命の恩人に向かってその態度は何よ!……いや、喧嘩は後。今は逃げるわよ」
「あ、ああ」
「この壁の向こうだ!誰か裏から回れ!」
「マズい!挟み撃ちにされたら終わりやぞ!」
「大丈夫。こっちよ」
「え?」
女が大きな廃材をどかすと、そこには人が一人通れるくらいの穴が開いとった。
「何やこの穴は!?」
「いいから後に付いて来て。ああ、廃材を元に戻すのを忘れずにね」
「……オウ」
女の後に続いて穴を降りると、そこは汚い下水道やった。
この世の全ての悪臭を寄せ集めた様な、鼻が破裂しそうな臭いが立ち込めとる。
「クッサ!!何やねんここ!?」
「見ての通りこの街を通ってる下水道よ。ここを真っ直ぐ進めば街の外れまで行けるわ。そこまで行けばやつらも追ってこないわよ」
「さ、さよか」
涙が出る程臭いはキツかったが、死ぬよりはマシやと割り切って、ウチは女と一緒に薄暗い下水道をひたすら進んだ。
「ハア―!やっと地上に出た!マジで臭さで死ぬかと思たわ」
「大袈裟ねえ。あれくらいじゃ人は死なないわよ」
「しっかしジブン、よくあんな道知っとったな」
「まあこの街は私の生まれ故郷だからね。いざという時のために、ああいう抜け道はいくつか確保してるわよ」
「ふーん、ウチと歳も然程変わらなそうやのに、大したもんやな。……まあ、それとさっきはホンマ助かったわ。サンキューな」
「さっきは文句言ってたクセに」
「いや!あれは言葉の綾っちゅーか……。悪気はなかったんや!すまん!」
「フフ、冗談よ。あなたのその話し方、もしかして『サイカン地方』出身?」
「……ああ、そうや。いろいろあってな。ここに流れ着いたんや」
「……そう。ここはそういう人、多いけどね」
「……そうみたいやな」
それはウチも感じとった。
ここにはサイカンだけやなく、世界中からいろんな人種が集まって、一つのコミュニティを形成しとる。
まるで人種のるつぼや。
それだけに光も闇も、人の数だけ存在しとる。
まあ、今ウチが手にしとるこの金は、間違いなく闇の側の金やろが。
「自己紹介がまだだったわね。私の名前はヴァルコよ。もっとも、捨て子だから自分で勝手に付けた名前だけど」
「……ウチはピッセや。ウチもジブンと同じで、自分自身が名付け親や」
「そう、これからよろしくねピッセ」
「は?これから?どういうことや?」
「だってあなたはもうこの街じゃお尋ね者よ。一人じゃ生きていけないわ。でもそのお金と私の知恵があれば、世界中のやつらを見返すことだって夢じゃない。私と一緒に成り上がりましょうよ」
「……何で初対面のウチに、そないなことが言えるんや?」
「……実は私ね。あなたのことは前から知ってたの」
「は!?」
今何て言うた!?
「言ったでしょ。ここは私の生まれ故郷だって。ヨソモノが入ってきたら、逐一チェックはするわよ。普通、この街に来た新入りは、大きな集団の傘下に入るか、そうでなければこの街から追い出されるかのどちらかなんだけど、あなたはそのどちらにも当て嵌まらずに、私と同じく女の身一つで戦っていた。だから、もしも誰かと手を組むなら、あなたしかいないって思ってたのよ」
「……へえ」
急にそないなことを言われると、何だかムズムズするが……まあ、悪い気はせんな。
「どうかしら?私と一緒に、伝説を創りましょうよ」
「……ハッ、伝説ときたか」
おもろいやんけ。
「わーったわ。やったるわ。世界中、いや、全宇宙にウチらの伝説を轟かせたろうや!」
「フフ、改めてよろしくね、ピッセ」
「ああ、ヴァルコ」
ウチとヴァルコは固い握手を交わした。
これが、のちに伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのキャプテンと、副キャプテンになる女の出会いやった。
それからウチらは先ず、マフィアの追ってから逃げるために、トーカンを遠く離れた辺境の地まで移動した。
幸い資金はたっぷりあったし、ウチとヴァルコは、生まれて初めてフカフカのベッドで寝たりもした。
どんな辺境にも裏の世界いうもんはあって、ウチらは潤沢な資金を餌に、裏社会から大量の銃火器を仕入れた。
そしてヴァルコの入念な下調べにより、金持ちの貴族達から銃火器を使って金品を強奪して回った。
ある程度稼いだら別の地に移動する生活を繰り返し、ウチらは順調に資産を増やしていった。
その辺りからウチの身体に変化が起き始めた。
身体中に異様に力がみなぎる様になってきたんや。
ウチらの種族は数百年に一人の割合で、驚異的とも言える身体能力を持つもんが生まれることがあった。
どうやらウチはそれやったらしい。
その力は、軽く拳で小突いただけで、巨大な大岩を粉砕する程やった。
そこから先は、ウチは武器さえ使う必要がなくなった。
この拳一つで、並み居る男達を全て粉砕し、目に見えるもの全てを奪った。
やつらが使う銃火器じゃ、ウチにはかすり傷一つ付けられへんかった。
ヴァルコにはウチみたいな身体能力はなかったが、その代わり機械の扱いに長けとって、ヴァルコが情報戦を、ウチが肉弾戦をそれぞれ担当して、ウチらは向かうところ敵なしやった。
ウチらが大人になる頃には、裏社会でウチらの名前を知らんもんは、一人もいないくらいになっとった。
ある夜、祝杯を上げながらヴァルコが言った。
「ねえ、私達で宇宙海賊団を立ち上げない?」
「あん?何やそれ?」
「私達はこの星だけに留まってる器じゃないわ。宇宙船を調達して、宇宙海賊として銀河中を飛び回りましょうよ。でもそのためには私達二人だけじゃメンバーが足りないわ。だから銀河中から、私達みたいに、男に虐げられてる女達を仲間に引き入れて、女だけの最強の宇宙海賊団を作りましょう」
「……ククク、ホンマジブンは、普段は冷静なクセに、たまにとんでもないこと言い出すのう」
「でも、面白そうでしょ?」
「ああ、最高におもろい。乗った!そうと決まればファミリーネームを決めなアカンな!」
「ファミリーネーム?」
「ああ、ウチらは捨て子やからファミリーネームがないやろ?せやけど宇宙海賊団を作るとなったら、クルーはみんなウチらの家族や。やったら、ファミリーネームが必要やろが」
「フフ、あなたらしいわね。それならそう……『ヴァッカリヤ』はどうかしら?」
「……ホウ、流石ヴァルコや、エエセンスしとる」
ヴァッカリヤはこの星の神話に出てくる、戦の女神の名前や。
まさしくウチらのファミリーネームに相応しい名前と言えるやろう。
「よし!今日からウチらは、『ピッセ・ヴァッカリヤ』と『ヴァルコ・ヴァッカリヤ』や!」
「フフ、さあ、これから忙しくなるわよ」
「望むところや!」
それからウチらは伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツと自ら名乗り、各地を回りながら着々と仲間を増やしていった。
数年後には、この星の裏社会最大勢力やったトーカン地方のマフィア団体を壊滅させ、実質この星は伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツの支配下に置かれることになった。
そしてウチらはヴァルコの指示の下、巨大な宇宙船を建造し、満を持して銀河の海に乗り出していったんや。
宇宙での海賊行為も順調やった。
仲間の数も少しずつ増えていき、総勢128人の大所帯にまでなった。
ある日ウチが宇宙船のラウンジに行くと、ヴァルコが一人でいつも胸に下げとる丸い虹色の宝石を眺めとった。
「……なあヴァルコ、前から聞こうと思っとったんやが、その宝石は何なんや?」
「……これはね、私の母が唯一私に残してくれたものよ」
「は?オカン?」
「ええ。私の一番古い記憶はね、私の母と思われる人から『ゴメンねゴメンね』と泣かれながら、このネックレスを首に掛けられる光景なの」
「……」
「多分母が私を捨てるにあたって、せめてもの餞別にくれたんだと思うわ。それ以来、この宝石は私の生きる支えになってくれた。どんなに辛いことがあっても、この宝石を見ていると辛さが紛れたわ」
「……せやったんか」
思えば、ウチらも何度か窮地に陥ることもあったんやが、その度にヴァルコは、宝石を握りしめながらジッと何かに祈っとるようやった。
あれは多分、オカンのことを想っとったんやな……。
「……恨んどらんのか?オカンのこと」
「……そうね、最初は恨んでいたわ。あなたも知っての通り、あそこでの生活は地獄そのものだったもの。……でも今は自分でもよくわからないわ。私もあなたと世界中を旅して、あの時の母はああするしかなかったんだってことも、今なら少しはわかるから」
「……さよか」
「それに最近調べたんだけど、この宝石は『伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーン』っていって、とっても希少なお宝だったの。まあ、母はそんなこと知らずに私にくれたんでしょうけど、いざとなったらこれを売り払えば、しばらく生活には困らないわ」
「いざとなったら売る気なんか!?」
オカンの形見やないんかい!?
「冗談よ。それに私達にいざという時なんてこないわ。私達は無敵だもの」
「……せやな」
しかしこの時のウチらは宇宙の広さをナメとった。
この頃からウチらの噂を聞きつけた他の宇宙海賊から、ウチらは頻繫に喧嘩を売られる様になっていった。
そのドツキアイの中で、一人、また一人と家族は死んでいき、その度に建てた墓標の数は、最終的には126基にも上った。
つまり、ウチとヴァルコ以外の家族は、全員あの世に逝ってもうた。
またウチらは、二人だけになった。
それでもウチとヴァルコは諦めへんかった。
死んでいった家族達のためにも、また一から伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツを宇宙一の海賊団にすべく、銀河中を飛び回った。
そして悲劇は起きた。
その日ウチとヴァルコは、ある星に降り立ってフネの補給をしとった。
補給も終わり、いざフネに乗り込もうとした矢先、突然大勢の男達にウチとヴァルコは取り囲まれた。
「……何やジブンらは」
「グヘヘヘ。俺達は伝説の宇宙海賊ビガンローラービューティーコロシアムだ。聞いたことくらいはあるだろう?」
リーダー格っぽい、太った金髪の男がそう言った。
「ホウ、ジブンらがあの」
伝説の宇宙海賊ビガンローラービューティーコロシアムいうたら、最近メキメキと頭角を現しとる新興の宇宙海賊団や。
コイツらがそうなんか。
その割には弱っちょろそうなんばっかやけどな。
「そのぽっと出の若手芸人が、ベテランのウチらに何の用やねん。ウチらが伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツと知っての狼藉やろな?」
「もちろん知ってるぜ。今や『あの人は今』でしか見ないような、落ちぶれた自称ベテラン宇宙海賊団だってことをな」
「なっ!んやとゴラァ!!」
「ピッセ、落ち着いて。……あなた達、私達に何の用なの?」
「グヘヘ。そっちのねえちゃんは話がわかりそうだな。いやなに、うちのボスがよ、美しいモンに目がないお人でな。お前らが持ってる、伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンをどうしてもご所望なんだよ」
「え!?」
「なっ!?何でジブンらがそのことを知ってるんや!?」
「グヘヘヘ。噂ってのはいつの間にか世間に出回ってるもんだぜ。お?見たとこ、そっちのねえちゃんが首に下げてるのが、噂の品みたいだな」
「……だったら何よ」
「悪いこたぁ言わねーから、素直にそれを俺達に渡しな」
「……」
「渡す訳ないやろ、この金髪豚野郎が」
「!……ピッセ」
「アァン!!何だとテメェ!!俺は金髪豚野郎って言われるのが、注射の次に嫌いなんだよ!!」
「コドモかお前は」
「……ピッセ、穏便に済ませられるなら、私は別に……」
「ウッサイわヴァルコ。別にジブンのために言うたんちゃうわ。それにコイツらが伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンを渡したら素直に帰してくれるタマな訳ないやろ。渡した途端、後ろからズドンされるに決まっとるわ。ウチらは宇宙海賊や。所詮はヤるか、ヤられるかの、因果な商売やで」
「……そうだったわね。ありがとう、ピッセ」
「ハッ、礼はコイツらを蹴散らしてから聞くわ」
「……どうやら交渉は決裂のようだな。オメェら!やっちまえ!!」
「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ!!」
ドウッ
「なあっ!?ヨシヒロー!!クソッ!怯むな!大勢で掛かれー!!」
「ピッセ、しゃがんで」
「オウ」
「伝説の必殺兵器エンドコンテンツクソゲービーム」
ズドバーッ
「ファーーー!?!?ヤスアキ!コウタ!ケンタロー!ぜ、全員だ!全員一斉に跳び掛かるんだー!!」
「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ!!」
「伝説の必殺兵器エンドコンテンツクソゲービーム」
「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ!!」
「伝説の必殺兵器エンドコンテンツクソゲービーム」
「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ!!」
「伝説の必殺兵器エンドコンテンツクソゲービーム」
ドウッ
ズドバーッ
ドウッ
ズドバーッ
ドウッ
ズドバーッ
「マンマミーア!バ、バケモンだコイツらー!!」
「フウ、後はお前だけみたいやの」
「ヒ、ヒイ~」
「うるさいよ、キミ」
「あ!ボス!」
「な!コイツが……」
いつの間にか金髪豚野郎の後ろに、全身を趣味の悪い装飾品で着飾った優男が立っとった。
「ボス、お願いです!みんなの仇を討ってくだせえ!」
「寄らないでよ、キミ汚いんだから」
「え?」
ゴパァンッ
「モンペッ!」
「なっ!?」
優男が軽く拳を振っただけで、金髪豚野郎の頭は吹っ飛んだ。
「まったく、これだから男は嫌いなんだよな。でもフロイライン、キミ達はとってもビュリフォーだよ。ボク、ハートゥにビンビンきちゃった。とってもベリベリビュリフォーだよ」
「……ピッセ」
「……ああ、わかっとる。フザけた言動には騙されん。コイツ相当強いで」
「そうね」
「んん~、ヒソヒソ話をしているフロイラインもビュリフォー。ボクの名前はスゴルピオ。一応伝説の宇宙海賊ビガンローラービューティーコロシアムのキャプテンをやっているよ。といっても、残念ながらクルーは今やボクだけになってしまったようだけどね。ちなみに見ておわかりのように、ボクはビュリフォーなモノが大好きなんだ」
「……その割にはクルーはムサい男ばっかやったけどな」
「それはしょうがないんだよ。だってボクはビュリフォーなフロイラインを見ると、天国にイかせてあげなくちゃ気が済まないタチなんだから」
「はあっ!?何やと!?」
「だって今はビュリフォーなフロイラインも、いつかは醜く爛れてしまうんだよ。そんなのボクには耐えられないよ。ビュリフォーなフロイラインは、ビュリフォーなうちに天国に送り届けてあげるのが、フェミニストとしての矜持だとは思わないかい?」
「ケッ!なーにがフェミニストや。お前はただのエゴイストや」
「んん~、それならそれで構わないよ。エゴを押し通す力も、ある種のビュリフォーだからね」
「……」
「でもね、だからこそボクは宝石に惹かれるんだ。宝石は生き物と違って、永遠にビュリフォーなままだからね。ボクの夢はね、全宇宙の宝石という宝石を、全てボクが独占することなんだ」
「……イカレとるな」
「んふふふ、伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのキャプテンの言葉とは思えないね。宝があったら奪うのが海賊の流儀じゃないか。キミ達だってそうしてきたんだろう?」
「……それもそうやな」
こんなイカレ男と同じにされるのは心外やが、傍から見たら同族か。
「さてと、お喋りはこの辺にして。どうかな?そっちの知的なフロイラインが首に下げてる伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンを渡してくれたら、二人共楽に天国にイかせてあげるよ?」
「せっかくのお誘いやが、ジブンは生理的に無理なんでお断りさせてもらうわ」
「……右に同じ」
「そっかー、残念だよ。それじゃあまた来世で――」
「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ!!」
ドウッ
「いやいや、まだボクが喋ってるんだから、そこは空気読もうよ」
「なっ!?」
コイツ、ウチの伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウを、左の手のひらだけで受け止めおった!?
「ピッセ!避けて!」
「!」
「伝説の必殺兵器エンドコンテンツクソゲービーム!」
ズドバーッ
危なっ!
間一髪ウチはヴァルコの放った伝説の必殺兵器エンドコンテンツクソゲービームを避けた。
いくらウチでもこれを喰らったらタダじゃ済まん。
でもスゴルピオには直撃した。
これは流石に効いたやろ!
「んん~、困るよ知的なフロイライン。危うくボクのコレクションに傷が付くところだったじゃないか」
「はあっ!?」
「くっ!」
スゴルピオはかすり傷一つ負っとらんかった。
何やコイツ、マジモンのバケモンか……。
「それじゃあバイバイ、粗野なフロイライン。せめてビュリフォーな身体に傷が残らないように、人差し指だけで心臓を一突きしてあげるよ」
「チイッ!」
「ピッセ!」
スゴルピオが右手の人差し指を、ウチの心臓目掛けて突き刺してきた。
アカン!
グサッ
クッ!
……。
あれ?
痛ない。
一体何が――
「怪我はない?ピッ……セ」
「!!ヴァルコ!!」
ウチの前には、ウチを庇って心臓を突き刺されたヴァルコが立っとった。
「オヤオヤ?キャプテンを庇ったのかい?んん~、何てビュリフォーな家族愛だろうねえ。ボクは感動したよ」
「何でや……何でウチなんかのこと、庇ったんや!」
「当たり前じゃない……。あなたは伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのキャプテンなんだもの……。キャプテンを守るのが、副キャプテンの役目よ」
「ヴァルコ……」
「んん〜、ベリベリビュリフォー!!よし、知的なフロイラインの勇気に免じて、粗野なフロイラインの命は助けてあげようじゃないか」
「何やと!?」
「その代わりこれはもらうけどね」
スゴルピオはヴァルコの首に下がっとる伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンをもぎ取り、自分の懐にしまった。
「ではご機嫌よう。ビュリフォーなフロイライン達」
「ま、待たんかいコラァ!」
「ピッセ」
「!何やヴァルコ?」
ピト
え?
ヴァルコは妙な模様が印字されたシールをウチの身体に貼った。
何やこれ?
『一分後に転送を開始します』
「!?」
転送!?
何のことや!?
「これは私が密かに開発してたものでね……貼った人を強制的にフネに転送して、そのまま自動操縦でフネを宇宙の彼方へ飛び立たせる装置なの」
「な!?何でそないなもんを!?」
「いつかこういう日が来るかもしれないと、ずっと思ってたからね……。あなたは自分より強い相手でも、構わず向かっていきがちだから」
「そんな……そないなこと言うな!絶対ウチがアイツをぶっ飛ばして、伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンも奪い返したる!いや、その前にジブンの手当てが先や!」
「……ピッセ」
「え?」
ブチュウッ
「!?」
ヴァルコに突然キスされた。
「……ヴァルコ」
「今までありがとうピッセ……。愛してるわ……。あなたは……生き……て」
ヴァルコはゆっくりと瞼を閉じた。
生まれて初めてしたキスは、血の味がした。
「ヴァルコ……ヴァルコ……ヴァルコー!!!」
『あと三十秒で転送を開始します』
「!」
三十秒……。
それだけあれば。
「スゴルピオ!!」
ウチは既に遠く離れたところを歩いとるスゴルピオに、後ろから跳び掛かった。
「んん〜?まったく無粋なフロイラインだね。せっかく知的なフロイラインが命を懸けてキミを守ったというのに。まあ、そういうことならキミも仲良く天国にイかせてあげるよ」
スゴルピオは人差し指をウチの眉間目掛けて突き刺してきた。
ウチはすんでのところで顔を左に逸らした。
結果、スゴルピオの人差し指はウチの右眼を深く抉った。
「おやおや、咄嗟に急所は外したか。大した反射神経だね。でも寿命が数秒延びただけだよ」
「数秒あれば十分や」
「え?」
ウチが右手の拳を開くと、そこには伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンがあった。
「へえ、流石は伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのキャプテンだね。右眼を抉られながらも、ボクの懐からそれをスッたのか。でも、また取り返せばいいだけの話だよ」
「スゴルピオ!!」
「?何だい?」
「お前はいつか必ずウチがこの手で殺す!!それまで首を洗って待っとけ!!」
「?何を言ってるんだい?キミはここで死ぬんだよ」
『転送を開始します』
「え?」
ウチの身体が光に包まれた。
「なっ!?ちょ、ま!」
「またな」
バシュンッ
ウチの身体は一瞬でフネの操縦席に転送された。
そしてあらかじめエンジンが掛かっていたフネは、直後にこの星から飛び立った。
飛び立つ直前に窓からヴァルコの姿が見えたが、ヴァルコはとても死んでいるとは思えん程、安らかな顔で眠っとった。
「う……うう……ヴァルコ……ヴァルコォォ……」
それからウチは銀河の海を、当てもなく彷徨いながら、明くる日も明くる日も泣き続けた。
何日そうしていたかはわからんが、涙も枯れ果てた頃、ウチはクルー達の墓標の最前列にヴァルコの墓を建てた。
フネが生物の生息する星である、『地球』を発見した旨を通知してきたのは、そのすぐ後やった。
それが今からほんの三ヶ月くらい前の話や。
初めて肘川に来た時はビビったで。
先輩に一目惚れしたこともそうやが、ウチのフネに腹黒娘が乗り込んで来た時の衝撃はそれ以上やった。
腹黒娘の雰囲気がヴァルコそっくりやったからや。
ウチは平静を装っとったが、内心は心臓バクバクやった。
せやからウチに一切メリットのない、腹黒娘からの麻雀勝負なんかを受けてまったんや。
でもこの三ヶ月は、ホンマにいろんなことがあって、ほんの少しだけ、悲しみを紛らわすことができとった。
その点だけは、この連中にも感謝してもエエのかもしれんな。
「ピッセちゃん、2卓にペスカトーレ持ってって」
「オ、オウ店長」
ウチはペスカトーレの皿を持って、いつもの席にいる腹黒娘と魔女のところに歩いていった。
そして、今日も腹黒娘の気を引くために、ワザとぶっきら棒に皿を腹黒娘の前に置いた。
が。
……あれ?
リアクションがないな?
いつもならごっつイライラした眼で、ウチのこと睨んでくんのに。
今日は随分神妙な顔で、無言で俯いとる。
よく見たら魔女も同様や。
いや、それどころか、先輩もお嬢も、はたまた店長も似たような感じや!
どうしたんやみんな!?
さっきまで、いつも通りワイワイやっとったやないか!?
ウチがほんの少し、昔のことを思い出しとった内に、何があったんや!?
せっかく額の文字も、旬の『鱈』に変えたのに、誰もツッコまんし。
「オイ、何か悪いモンでも食ったんか?腹黒娘」
「……ピッセ」
「ん?何や?」
カランコロンカラーン
あ、お客や。
まあ、詮索は後にするか。
「いらっしゃ……」
「んん~、ここにいるフロイラインはみんな、ベリベリビュリフォーだねえ」
「なっ!?何でお前がここに!?」
「何でとは随分冷たいじゃないか。キミに会いに来たに決まってるだろう?粗野なフロイライン」
「クッ!伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ!!」
ドウッ
「懲りないなあ、キミも」
スゴルピオはあの時と同じく、伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウを、左の手のひらだけで受け止めた。
衝撃で店の壁にドデカイ風穴が開いたが、スゴルピオはかすり傷一つ負っとらん。
クソッ!
「オイみんな!すぐここから逃げろ!!」
「そうはいかないよ」
「キャッ!」
「菓乃子氏!」
「菓乃子!」
いつの間にかスゴルピオは腹黒娘をお姫様抱っこしとった。
なっ!?
「実はこの星には昨日から着いてて、粗野なフロイラインのことも見付けてたんだけど、日本語の習得がてら、キミの生活を一日ストーキン……観察させてもらってたんだ。キミがこの二面性のあるフロイラインにご執心なのはすぐにわかったよ。なにせ、ボクが天国にイかせてあげた知的なフロイラインに、雰囲気がそっくりだったからね」
「な……何やと」
観察してた!?
しかも腹黒娘がヴァルコに似とることに気付いた上に、腹黒娘の腹黒具合まで一目で見抜いたんか!?
……こいつ、思てた以上に変態やな。
「……何が望みや?」
「んん〜、そんなの言わずもがなじゃないかな?キミがボクから奪った、伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンだよ」
ケッ!
よー言うわ。
元はと言えばお前がヴァルコから奪ったんやんけ。
「……すまんがそいつはやれんな」
「じゃあこの二面性のあるフロイラインがどうなってもいいのかい?」
スゴルピオは空気が凍りつく程の冷たい眼で、腹黒娘を見下ろした。
「ヒッ」
「いや!それは……」
「それが嫌なら素直に伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンを差し出すことだね。そうすればこの二面性のあるフロイラインは返してあげるよ。じゃ、伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンが用意できたら来ておくれ。ボクは上で待ってるから」
「は?上?」
「いや!離して!」
スゴルピオは腹黒娘を抱えたまま、ウチが開けた風穴から外に出ると、天高くジャンプしていった。
「いやー!!」
「オイ!待てや!!」
ウチも外に出て夜空を見上げると、遥か上空に派手なイルミネーションを備え付けた、スゴルピオの宇宙船らしきものが浮いとった。
あそこに伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンを持って来いってことか……。
だがアイツのことや、伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンを渡したところで、素直に腹黒娘を返すとは思えん。
「すまんみんな!詳しく説明しとる暇はないんやが、アイツは――」
「わかってるわよピッセ、あのビュリフォーボットは、ヴァルコさんの仇なんでしょ?」
「え」
魔女が流石に空気を読んだのか、いつもみたいにウチを『カマセ』とは呼ばずにそう言った。
てか今、『ヴァルコさん』て言うたか!?
ウチは腹黒娘以外にはヴァルコの名前は教えとらんぞ!?何で魔女がヴァルコのことを知ってるんや!?
「いえね、怒らないで聞いてほしいのだけれど、さっきあなたが珍しく浮かない顔をしてたから、こりゃ何かあるなと思って、あなたの頭の中の映像を、みんなの頭にも魔法で転送したのよ」
「……は?」
「もちろんそのままじゃわかりにくいから、言語を日本語に変換したり、時間の単位を地球に合わせたりはしたけどね。てへ」
「てへじゃないわ!!!」
何ヒトの極めてセンシティブな思い出を、勝手に暴露しとんねん!!
これ、訴えたらウチが500パー勝てる案件やからな!!
しかしこれで、みんながお通夜みたいな顔をしとった理由がわかったわ……。
わかりたくはなかったが……。
「そういう訳だから、あなたと私達の想いは同じよカマセ」
「ピッセや!」
結局やるんかい!この遣り取り!
「私はあなたを手伝うわ。一緒にヴァルコさんの仇を討って、菓乃子氏を助けましょう」
「……魔女」
「俺も行くよ!俺じゃ沙魔美みたいに戦力にはならないだろうけど、ここでじっとはしてられない!」
「……先輩」
「伊田目さん、すいませんが俺とピッセは一足先に休憩もらって、ちょっと外出してきます」
「おういいぞ。ホールは未来延がいるしな」
「お任せください!」
「まあ、店の壁がこの有り様じゃ、客は来ねーかもしんねーけどな」
「そ、それはすまん店長……」
「後で私が直しますよシェフ」
「……魔女、恩に着るで」
「それはいいんだけど、伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンはどこに隠してあるの?別にビュリフォーボットに渡すつもりは私もないけど、交渉材料としては、現物がないと不利よ」
「その点は心配いらん。肌身離さず持っとるわ」
「え?」
ウチは右眼の眼帯を外した。
そして眼球の代わりに埋め込んどる、伝説の宝玉ハッピーうれピーよろピくねーレインボーストーンを晒した。
「なるほど、そこなら失くさないわね。……綺麗ね」
「そうやろ?メッチャ希少な宝石らしいで」
「いえ、あなたがよ」
「なっ!?」
「冗談よ」
「ウォイ!」
「ピッセちゃん」
「ん?何や店長」
「ペスカトーレ作り直して待ってるから、必ず菓乃子ちゃんを助けてあげな」
「……ああ!」
「俺からもいいか、ピッセ」
「何や先輩?」
「流石に長くなり過ぎたんで、この話は後半に続くんだけど、多分後半の冒頭で知らない人が、突然関係ない話をし出すと思うが、そういうもんだから気にすんなよ」
「急にどうしたんや先輩!?」
「ああそれと、前後編の場合は語り部が最後に『後半に続くゼーット!!』って言うのが恒例になってるから、それも頑張ってな」
「無茶振りが過ぎるやろ!?」
こ、後半に続くゼーット!!
……これでええんか?




