第三十一魔 今から
「今回は実験的に、地の文は一切なしの、会話文のみでお送りするわ」
「は?沙魔美、お前それ本気で言ってるのか?」
「私はいつでも本気よ。ただ地の文がないから、私が本当に沙魔美だという保証はないけどね。実は沙魔美に見せかけて、伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンが喋っているのかもしれないわよ」
「それは流石に嫌過ぎるので、お前が沙魔美だということはハッキリさせておく」
「堕理雄は本当に面白味がないわよね。念のためもう一度言うわ、堕理雄は本当に面白味がないわよね」
「何故念を入れた?俺はそろそろお前に本気で怒ってもいいよな?」
「そんな下半身裸の男に怒られても、逆に笑っちゃうわ」
「ズボンもパンツも穿いてるよ!地の文がないからって、言ったもん勝ちみたいになったら、戦争になるぞ!」
「何よ!じゃあ私が脱げばいいんでしょ!はい服をゴミ箱にドーン!」
「ウオオオ!?何で急に全裸になってんだよ!?病院行くか!?」
「大丈夫よ。ニーソックスだけは履いてあげるから。堕理雄好きでしょ?全裸ニーソ」
「勝手にひとの性癖を断定するな!……まあ、嫌いじゃないけど」
「いやー、それにしても堕理雄と付き合い始めてからの、この半年弱、いろんなことがあったわよねー」
「この流れで思い出話するの!?全裸ニーソのままで!?」
「うるさいわね。じゃあ堕理雄もお揃いにしてあげるわよ。ハイ」
「フオオオオオ!!??何で俺まで全裸ニーソにしてんだよ!?こんなのただの変態じゃねーか!?」
「そんなことないわ、よく似合ってるわよ。これも一種のペアルックね」
「前衛的過ぎるだろ!?そもそも誰にも見せらんねーよ、こんなペアルック!」
「私は別に見せても構わないわよ。カリスマ読者モデルカップルとして、私達でアパレル業界に革命を起こしましょう」
「服着てねーじゃねーか!それに革命起こす前に前科付くわ!」
「堕理雄は本当に文句ばっかりね。じゃあ気持ちを落ち着かせるために、一回野球拳でもやる?」
「すぐ終わっちゃうよ!?お互い二枚しか持ち駒ないからね!」
「何だか堕理雄の相手してたらお腹空いちゃったわ。豚カツでも作るわね」
「俺がお前の相手してるんだけどな」
「アッー!アーツィ!アーツ!アーツェ!アツゥイ!」
「全裸で揚げ物したら、そりゃ油が跳ねて熱いよ!お前さてはバカだな!?」
「フウ、しょうがない、豚カツは諦めましょう」
「服を着るという選択肢はないのか?」
「でもさっきの話の続きだけど、私達ももうすぐ付き合って半年ね」
「どうしてもその話するのか?全裸ニーソペアルックで?」
「堕理雄はどうだった?この半年間」
「ん、まあ……何だかんだ言って楽しかったよ。辛かったこともいっぱいあったけどな」
「フフフ、男と女が付き合ってたらそんなもんじゃない?よく言われてることだけど、辛いことが100個あっても、楽しいことが101個あれば、それでいいじゃない」
「俺の辛いことと、楽しいことの比率は100対1くらいなんだが……」
「私は1対100くらいだから、足したらちょうどいいわね」
「足すな足すな。随分理不尽なゼロサムゲームだな」
「……でも私は、堕理雄に出会えて本当に幸せだったわよ」
「何だお前、死ぬのか?死亡フラグがビンビンに立ってるぞ?」
「……本心よ。実は私ね、子供の頃イジメられてたの。『魔女だ魔女だ近寄るな』ってね」
「!」
「嘘だけど」
「ウオオイ!!次そんな嘘を吐いたら、マジで殴るぞ!」
「でも気味悪がられていたのは本当。そりゃそうよね。こんな不発弾が服を着て歩いてるような女、誰も近寄りたくはないわ」
「……今は服すら着てないけどな」
「でもそんな私を、堕理雄は初めて受け入れてくれた。私、天にも昇る気持ちだったわ」
「……まあ、魔女であろうと、なかろうと、そんなのはその人の個性の一つに過ぎないしな。拒絶する理由にはならないだろ」
「フフフ、本心でそう思ってそうなところが、堕理雄の一番の魅力よね。知ってる?堕理雄に初めて出会った日、堕理雄が拾ってくれたハンカチ、あれ拾った人の寿命を50年縮める魔法が掛かっていたのよ」
「はあ!?マジかよお前!?何でそんな大事なこと、今まで黙ってたんだよ!!」
「嘘よ」
「殴る!歯を食いしばれ!!」
「でも仮にそうだったとしても、堕理雄はあのハンカチを拾ってくれたでしょう?」
「拾わねーよ!ここで俺が『もちろん拾うよ』とでも言ったら、イイハナシダナーになるのかもしんねーけど、生憎俺はそこまで善人じゃねーよ!」
「えっ!?そうなの!?もう私、SNSで『私の彼氏は人生の全てを私に捧げた豚奴隷です』って豪語しちゃったんだけど!?」
「ブッ殺すぞお前!!初めて彼氏できたからってイキり過ぎだろ!?最高にイタいやつだ!!」
「でも堕理雄はそんな私が……?」
「だから好きじゃないって!もうやってらんねーよ!やめさせてもらうわ!」
「「どうも、ありがとうございましたー」」
「どうかしら菓乃子氏?昨日二人で徹夜して考えた、漫才のネタなんだけど」
「あ……うん……いいんじゃ……ないかな」
「菓乃子、こいつのためにもハッキリとつまんないって言ってやってくれ」
「あ、あははははは……」
「よし!じゃあ打ち上げも兼ねて、今から3Pしましょっか?」
「「は?」」




