第二十五魔 ご褒美を
2018/10/8 誤字を修正いたしました。内容に変更はございません。
ピンポーン
ゲッ。
誰か来た。
この家のチャイムが鳴って、今までろくな目にあったことがないので、正直チャイムの音は若干トラウマになっている。
今日は大学も休みだし、バイトも無いので、家でゆっくりしようと思っていたのに……。
とりあえず、一旦無視してみようかな。
ピンポーン
……。
ピンポーン
ピンポーン
……。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
あ、この鳴らし方はあの子だ。
「はいはーい、どうしたんだい真衣ちゃ…………え」
「お兄さん!助けてください!」
そこには、お姫様の格好をした真衣ちゃんが立っていた。
「麦茶でもいいかな?」
「どうぞお構いなく。今回は本当に長居する余裕はありませんので」
「あ、そう……。で?何で真衣ちゃんは俺のベッドに横になってるのかな?」
「すいません。実は今、死ぬほど疲れてる(元州知事)ので、少しだけ休ませてください」
「そうなんだ……」
じゃあ自分の家で休んだ方がいいんじゃ……?
「ハアァ~、この枕でいつもお兄さんが寝ているんですね~(クンカクンカ)」
「いや……その枕は沙魔美のだけど……」
「ぬあっ!?何でもっと早く言ってくれないんですか!じゃあこっちがお兄さんの……」
「真衣ちゃん、何か大事な用があるんじゃないのかい?」
「あ、そうでした!大変なことが起きたんです!助けてくださいお兄さん!」
「うん。内容によるけど、とりあえず話してみてよ」
「はい、実は今日は私の学校の文化祭なのです」
「ふんふん、それで?」
「それで私のクラスは、出し物で白雪姫の劇をやることになっていたんですが……」
「ほうほう」
だから真衣ちゃんはお姫様の格好をしているのか。
白雪姫役ってことは主役じゃないか。
大したものだ。
「ですが、今日になって私以外の演者が全員、インフルエンザやらノロウィルスやら干ばつやら一揆やらで来れなくなってしまいまして、このままじゃ劇ができないんです!」
「……それは大変だね」
後半に変なのが混ざってた気がするけど、今はスルーしよう。
「だからお願いです!お兄さんが代わりに出演してください!」
「え?」
何でそうなるの?
「……でも、俺は部外者だし、代わりだったら同じクラスの子にやってもらえば……」
「他の子も粗方一揆に参加しているので、演者に回す人手はないんです……。それに、担任の先生の許可は取ってあります。身内だったら、出演オッケーだそうです」
「そうなの?」
ていうか、一揆の件が気になり過ぎて、内容が全然入ってこない。
ドガシャーン
「話は聞かせてもらったわ!」
「ふおっ!?沙魔美!?」
「悪しき魔女!?」
沙魔美が玄関のドアを蹴破って、颯爽と登場した。
……何でお前はいつも、物を壊さないと出てこれないんだよ。
「ここがマイシスターの学校ね。中々良いところじゃない」
「悪しき魔女!何であなたまで付いて来てるんですか!」
「アラ、私だって将来はマイシスターの姉になるんですから、身内みたいなものでしょう?それにどちらにしろ、堕理雄だけじゃ演者は足りないでしょ?」
「ぐぬぬ……それはそうですが……」
「真衣ちゃん、沙魔美の言う通りだよ。不本意だけど、ここは沙魔美の手も借りようよ」
「堕理雄あなた今、不本意って言った?」
「……まあ、しょうがないですね。でも、くれぐれも邪魔だけはしないでくださいよ!」
「それは『押すなよ!絶対に押すなよ!』って意味よね?」
「そのままの意味ですよ!本当に、私とお兄さんの晴れ舞台を邪魔したら、承知しませんよ!」
「真衣ちゃん、何か趣旨変わってない?」
しかし真衣ちゃんの学校が、女子校だというのは知らなかった。
俺は当然、女子校なんて初めて来たから、さっきからずっと嫌な汗をかいている。
女子高生達の視線が痛いぜ。
俺達は真衣ちゃんに案内されて、真衣ちゃんのクラスまで辿り着いた。
何やら教室の中で、ガヤガヤと若い女の子達の声がする。
「さ、みんなに紹介します。中に入ってください」
「あ、うん」
真衣ちゃんが教室のドアを開けて中に入っていったので、俺達も後に続いた。
「あ!真衣ちゃんおかえり!」
「あれ?もしかしてその人が、真衣ちゃんの愛しのお兄さん?」
「えー凄いイケメンじゃん!いいなー真衣ちゃん」
「ねえねえお兄さん、今度私と遊びに行きませんかあ?」
「あーズルい!私も今誘おうと思ってたのに!」
「え、いや、あの、えっと」
「ちょっとみんな!お兄さんが困ってるでしょ!質問があるなら妹である私を通してね」
女子高生コエー!!
初対面なのにメッチャグイグイ来る!!
何!?女子校の女の子ってみんなこうなの!?
俺は共学だったけど、女の子はここまで積極的じゃなかったぞ。
「堕理雄……JKにチヤホヤされて、随分ご満悦じゃない……」
「ヒッ」
沙魔美が滅滅オーラ(?)を出して俺を睨んでいる。
いや、どこをどう見たらご満悦に見えるんだよ!?
俺は今、ただただ怯えてるんだよ!
「あー!おねえさんスッゴイ美人ですねー!」
「え?」
「本当だー。髪もサラサラだしスタイルも良いし、憧れちゃーう」
「ねえねえ、お兄さんとはどんな関係なんですかあ?」
「もしかして、恋人同士とか?」
「え、ええ、まあ」
「キャー、やっぱりー!」
「美男美女のカップルで超ステキー!」
「マジ卍!」
「馴れ初めは?馴れ初めを教えてください!」
「えっと……大学で堕理雄が……」
「みんな!この人は関係ないから構わないで!さっさと劇の打ち合わせするよ!」
「わあー、真衣ちゃん修羅場なの?修羅場なんだね?マジ卍!」
「そんなんじゃないから!!」
女子高生スゲェ。
沙魔美すらも圧倒している。
マジ卍!
いや、ニャッポリート!
もしかして、この世で最強の生き物は女子高生なんじゃなかろうか?
紛争地域に女子高生を百人くらい投入すれば、たちまち紛争は収まるかもしれない。
そもそもドンパチやってるすぐ横で、こんなノリを始終見せられたら、戦う気なんか無くなるわな。
「あなたが夜田さんのお兄さんね。初めまして」
「え、あ、どうも」
凄く美人のおねえさんが俺に話し掛けてきた。
多分担任の先生だろう。
とはいえ、歳は俺と然程離れていなそうだ。
まだ新任なのかもしれない。
「私はこのクラスの担任の生先押江です。今日は急にごめんなさいね。でも助かったわ」
「あ、はい、俺なんかでお役に立てるなら……」
「真衣ちゃーん、助けに来ましたよー」
「え」
教室のドアを勢いよく開けて、未来延ちゃんが入って来た。
その後ろには、菓乃子とピッセもいる。
「なっ!?君ら、何でここに!?」
「私が呼んだのよ」
「沙魔美……」
「白雪姫を演るなら頭数が必要でしょ?みんな快く引き受けてくれたわ」
「アッハハー、白雪姫なら、このイタリアンレストランの娘にお任せください」
「わ、私は、演劇とかやったことないから、上手くできるかわかんないけど……」
「ケッ、何でウチが、こないなことに付き合わなあかんねん」
「アラ?カマセじゃないの。あなたは別に呼んでないわよ」
「ピッセや!!ウチはまだ、ジブンにボコられたこと忘れとらんからな、魔女!」
「はいはい喧嘩はそこまでですよピッセちゃん。今日は真衣ちゃんのお手伝いに来たんですから、シッカリ働いてくださいね」
「ぐ……わ、わかったわい、お嬢」
「よろしい」
ピッセは路頭に迷っていたところを助けられた未来延ちゃんに頭が上がらない。
普段も未来延ちゃんを『お嬢』と呼び、いつも後を付いて回っている。
まるで大型犬と飼い主の様だ。
ちなみに今日のピッセは額に『鯛』と書いてある。
おめかし(?)だろうか。
「わあ!また美人さん達がいっぱい来た!」
「な、なんや?ジブンら」
「アハハ!『ジブン』だって、マジウケるー」
「おねえさんのメイド服カワイイですねー」
「お、おう、さよか」
「ねえねえ、もしかしておねえさん達も、真衣ちゃんのお兄さんとイケナイ関係だったりするんですかあ?」
「え?……まあ、先輩とウチは、亀甲縛りプレイをした仲やけど」
「キャー!鬼畜ー!」
「ウオオオイ、ピッセー!!!誤解を招くような言い方をするんじゃない!!!」
まあ、亀甲縛りされたのは事実だけども!
ちなみに俺はピッセから『先輩』と呼ばれている。
確かにスパシーバでは俺の方が先輩だが、二百歳のババ……もといおねえさんに先輩と呼ばれるのは、何ともこそばゆい。
「マスターお待たせしやした!アッシが到着しやしたよー!」
「え」
突然教室のドアを勢いよく開けて、高身長でイケメンだが、いかにもチャラそうな男が入って来た。
誰だこの人?
でも、この声と喋り方は……。
「お、堕理雄さん、お元気そうで。ところで、会って早々なんですが、ちーとばかし金貸してもらえやせんかね?」
「……お前、クズオ(※クズオブザイヤーの略)か?」
「そんな酷いあだ名つけないでくださいよ!アッシには『伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴン』って、親から貰った立派な名前があるんでやすから!」
「それって名前だったの?種族名とかじゃなくて?」
てか何で人間の格好してるんだよ。
「私が魔法で人間の姿に変えたのよ。如何せん人手が足りてないしね」
「あ、そう……」
「マスター!今日はお呼びいただけて光栄でやす!必ずや、マスターのお役に立ってみせやすよ!」
「ちょっと、その姿で私に近付くのはやめてちょうだい。正直言ってあなた、生理的に無理だわ」
「そ、そんなあ」
何だか少し可哀想だが、まあこれも日頃の行いの結果だろう。
「いやあ、それにしても人間のJKは、みんなキラキラしてて良い匂いがしやすねえ」
「おいやめろ、通報されるぞ」
「え、何あの人、マジキモくない?」
「本当だ、マジキモい、マジ卍」
「キモッ、キモッ、キモッ(京伏のエース)」
「そ、そんなあ」
JKからも普通にキモがられている……。
流石JK。
イケメンな見た目に騙されず、内面のクズさを瞬時に見抜いたらしい。
「さあみなさん、そろそろ公演が始まりますよ。準備をしてください」
生先先生が俺達に向かって言った。
「え?ちょっと待ってください。もう始まるんですか?まだ一切練習すらしてないですけど……」
「まあ白雪姫ならみなさん内容はご存知でしょうし、ぶっつけでも何とかなるでしょう」
「そ、そんなあ」
既にろくな未来が見えないんですが……。
「あ、そうそう」
「ん?何ですか先生」
生先先生は含みのある笑みを浮かべて、俺の耳元で囁いた。
「頑張ったら後でいっぱい、ご褒美をあげますからね」
「なっ」
……ご褒美(意味深)。
後半へつづく(キー〇ン山田)。




