第百三十六魔 ここでこうきたか
2019/4/7 誤字を修正いたしました。内容に変更はございません。
「アハッ、では第二試合――始め」
オーゼットの号令と共に、第二試合の火蓋が切られた。
因みにマヲちゃんは元の幼女の姿（いや、こっちが仮の姿なのか？）に戻って、観客席でみんなとたけのこニョッキで遊んでいる。
こうしていると、やっぱりただの幼女にしか見えないな。
「ターラス、や～っちゃっておしまい！」
「ホラアラサッサー！」
っ！
おっと、イカンイカン。
今は試合に集中せねば。
特にノーズェの動向には注目だ。
沙魔美の一番のライバルだからな。
「ふ……ふふ……、私が勝ったら、あなたも私のお友達になってくださいね……」
「お断りでごわす！」
ターラスは懐から牛肉のスペアリブのようなものを大量に取り出し、それをムシャムシャとその場で食べ出した。
ファッ！？
見たところお前は牛から進化した人類だろ！？
それだと共食いにならないか！？（まあ、地球人でも猿の脳味噌とかを食べる人もいるけど）
「フンガー！」
「「「っ！」」」
ターラスがスペアリブを食べ終わると、ただでさえゴリマッチョだったターラスの筋肉が更に肥大化し、１００％中の１００％のあの人みたいな体型になった。
な、何だあれは！？
「これがおいどんの特性でごわす。おいどんは牛肉を食べれば食べる程、一時的に筋肉を無制限に増量することができるんでごわす」
なっ！？
それは……、シンプルだけど強力な特性だな。
ヒロ〇カの世界でもオールマ〇トが最強なように、肉体を強化するっていうのは、パワー、スピード、ディフェンス、全てをアップさせることに繋がる。
攻守共に優れた、圧倒的な汎用性を誇る特性と言って差し支えない。
明らかにパワー系ではなさそうなノーズェとは、ある意味対極だな。
いったいノーズェは、ターラスにどう対処するつもりなんだ……？
「覚悟するでごわす！」
ターラスは牛みたいな角を前方に突き出し、目にも止まらぬ速さで猛牛の如くノーズェに突進していった。
な、何て速さだ！？
ザシャアァッ
「ああああっ！」
「「「っ！？」」」
ノーズェはその突進をモロにくらい、派手に吹っ飛ばされて闘技場の床に墜落した（因みにマヲちゃんに削られた闘技場のクレーターは、オーゼットが魔法で瞬時に修復した）。
ターラスの頭はノーズェの返り血を浴びて、赤く染まっている。
ええっ！？
オイオイあっけなく敗けそうだぞノーズェ！？
案外ノーズェって、強くはなかったのかな……？
「あ……ああ……あ」
っ！
何だ……！？
ノーズェの周りの空気が歪んで見える……！？
「痛い……苦しい……何で……何で……私はお友達が欲しいだけなのに……独りは嫌だからお友達が欲しいだけなのに……お友達と一緒にウィンドウショッピングがしたいだけなのに……お友達と一緒に少女漫画が原作の実写映画を観に行きたいだけなのに……お友達と一緒にゲームセンターのクレーンゲームで散財したいだけなのに……お友達とそれぞれ違う味のクレープを買って半分こしたいだけなのに……お友達とパジャマパーティーがしたいだけなのに……お友達と恋バナがしたいだけなのに……そして……お友達と死ぬまでお友達でいたいだけなのにいいいいいいいい」
涙が出てきたッッ！！！
ドウッ
うわっ！？
ノーズェから立っていられない程の衝撃波が飛んできた。
こ、これは……。
ノーズェが持っている亀のぬいぐるみが直径２メートル程に膨張し、それが自ら意思を持ったみたいに地面を歩き出し、ノーズェはその亀の上に乗った。
そしてノーズェが前髪を掻き上げると、隠れていた左眼が露わになった。
が、その左眼には眼球は収まっていなかった。
その代わり、細い紐のようなものが無数に蠢いていた。
無数の紐はずるりと左眼から出てきた。
――それは薔薇の茎だった。
鋭利な棘が付いている、夥しい数の薔薇の茎だった。
ところどころに綺麗な薔薇の花が咲いている。
一人の人間の中に収まっていたとは思えない程の膨大な量の茎が伸びてきて、その茎が大蛇のような姿を形作った。
それは、見ているだけで気分が悪くなる程、おぞましい風貌をしていた。
「ふ……ふふ……、これが私の壊錠、伝説の破滅形態シニスターハードラックホットヨガタートルスネークです……」
「「「！！！」」」
こ、これがノーズェの壊錠……。
最凶の魔女の名に相応しい、何とも不吉なオーラを放っている。
「ふっ、そんな見掛け倒しに怖気づくおいどんではないでごわす！喰らうでごわす！」
が、ターラスは果敢にも先程同様、音速並みのスピードでのノーズェに突進していった。
「ふ……ふふ……」
ノーズェはそれでも尚、不敵な笑みを浮かべ――
ザシャアァッ
「ああああっ！」
「「「っ！？！？！？」」」
えーーー！？！？！？
にもかかわらず、俺達の前には先程とまったく同じ光景が広がった。
またしてもノーズェはターラスの突進をモロにくらい、派手に吹っ飛ばされたのだ。
ターラスの頭はノーズェの返り血で、完全に真っ赤に染まりきってしまった。
えぇ……。
壊錠でもこれって、マジでノーズェって大したことないの……？
「ふ……ふふ……、浴びましたね……私の血を……」
「あ？だったら何なんでごわすか？」
ノーズェは幽霊みたいにゆらぁと立ち上がり、自身の痛々しい傷を愛おしそうに撫でた。
な、何だ？
ノーズェの血を浴びたからといって、それが何だっていうんだ……？
「ふ……ふふ……、これであなたの敗けです……。悪いことは言いませんから、降参した方がいいですよ……」
っ！
どういうことだ……！？
「フンッ！苦し紛れの戯言は見苦しいでごわすよ！これで終わりにしてやるでごわす！」
ターラスはまたしてもノーズェに突っ込んでいった。
――が。
ツルンッ
「なっ！？グハアッ！？」
「「「っ！」」」
ターラスはノーズェの身体から滴り落ちていた血溜まりで足を滑らせ、盛大に転倒してしまった。
物凄い速さで駆けていたため、倒れた際の衝撃も凄まじいものだった。
「ぐ、ぐがああ……。おいどんともあろうものが、何たる不覚。――だが、次こそはッ！」
再度体勢を立て直し、ターラスは突貫する。
――が。
「うがっ！？目、目があああ！！」
「「「っ！！」」」
ツルンッ
「ゴッハアッ！？」
「「「っ！？」」」
今度は頭に付いていたノーズェの血が落ちてきてターラスの目に入り、視界を奪われたターラスはさっきと同じ血溜まりで足を滑らせた。
「ふ……ふふ……、だから言ったでしょう……？あなたの敗けだと……」
ノーズェはニタァと口端を吊り上げた。
「こ、これは……、いったい何が起きてるんでごわすか……？」
ターラスはよろめきながらも立ち上がり、ノーズェに問うた。
「ふ……ふふ……、私は最凶の魔女……。この伝説の破滅形態シニスターハードラックホットヨガタートルスネーク状態の私の返り血を浴びた者は……死ぬまで不運にまみれる魔法に掛かるのです……」
「何でごわすと！？」
そんな！？
そんなバカなことが本当にあるのか！？
……だが、さっきのターラスの挙動からして、あながちハッタリとも思えないのは確かだ。
「う、噓でごわす……！そんなこと、あるはずがないでごわ――――がはっ」
「「「！！」」」
突如、ターラスが嘔吐しながらその場に倒れた。
見れば、ターラスの全身にじんましんのようなものが浮き出ている。
こ、今度は何が起きたんだ！？
「ふ……ふふ……、大方、不運にも……急激に牛肉アレルギーにでもなってしまったみたいですね……。先程食べた牛肉に、あたってしまったんでしょう……」
なっ！？
牛肉アレルギーだと！？
そんな……、今の今で何ともなかった人間が、急にアレルギーを発症するなんてことがあり得るのか！？
……いや、まったくないとは言い切れない。
そして、たとえ可能性が０．０１％しかなかったとしても、ノーズェの返り血を浴びてしまった者は、その不運を引き寄せてしまうのかもしれない。
何て恐ろしい魔法なんだ……。
まさしく最凶の魔女の名に相応しい魔法と言える……。
この力の何が厄介って、こちらがノーズェに攻撃したら、最強クラスのカウンター攻撃が自動で発動するところだ。
ノーズェに勝とうと思うなら、ノーズェの返り血を一滴も浴びずに勝つ以外に方法がない。
そんなこと、果たして沙魔美達にできるのだろうか……？
「が……がはっ。あぐぐが……」
ターラスはのたうち回って全身を掻きむしっている。
アナフィラキシーショックも引き起こしているのかもしれない。
このままでは、本当に命が危ないぞ……。
「ふ……ふふ……、今すぐ降参して私とお友達になってくれるなら……、あなたに掛かった不運の魔法を解いてさしあげますよ……？私の魔法が解ければ、そのアレルギーもなかったことになります……」
っ！
流石にノーズェもそこまで鬼ではなかったか。
確かにこうなっては、最早ターラスに勝ち目はない。
命あっての物種だ。
素直に降参する方が賢明だろう。
「ぐ……がふ。……そういう訳には……いかないでごわす」
「……ふ？」
！？
「おいどんは誇り高き伝説中の伝説の宇宙海賊マージドロンアクダマオジャマミレンの一員でごわす……。こんなところで無様に降参して、リーブル様の顔に泥を塗るくらいなら、死んだ方がマシでごわす……」
ターラス！？
……お前、それ程までにリーブルのことを……。
「ふ……ふふ……、そうですか……。それは残念です……」
「待ちなッ！！」
「「「っ！？」」」
その時、リーブルが颯爽と立ち上がり、闘技場に何かを投げ入れた。
――それは一本のタオルだった。
「なっ！？リーブル様、何を！？」
「何カッコつけてアタシの目の前で勝手に死のうとしてんだい。そんなことは何があろうとこのアタシが許さないよ」
「……リーブル様」
「これは命令だよターラス――降参しな。そしてアタシと一緒に、どっかに飛ばされたエリアスを捜しに行くんだよ。わかったね？」
「……はい。……ホラアラサッサー」
……なるほど。
これは確かに伝説中の伝説の宇宙海賊かもしれない。
己のメンツよりも部下の命を第一に考えるその姿勢は、海賊とはいえ頭が下がる。
「……おいどんの、降参でごわす」
「ふ……ふふ……、そうですか……」
ノーズェが口笛をピュイと吹くと、ターラスの身体のじんましんはたちどころに消え去った。
そしてターラスは気を失ったのか、その場で動かなくなった。
だが、何故か勝ったはずのノーズェの顔は、少しだけ寂しげだった。
「アハッ、その覚悟、とても立派だったよターラスくん。――ターラスくんの降参により、勝者は最凶の魔女ノーズェくん。コングラチュレーション」
オーゼットは盛大な拍手でノーズェを祝福した。
「……覚えておきなよノーズェとやら。ターラスの仇は、アタシが取るからね」
リーブルはノーズェを射抜くような眼で見下ろした。
「ふ……ふふ……、その時は、あなたも私のお友達になってくださいね……」
「……」
しかし、どうやらノーズェに対しては暖簾に腕押しらしかった。
この魔女は、本当に得体が知れない……。
「……沙魔美、どうだ？ノーズェには勝てそうか？」
俺はずっと険しい顔で試合を観戦していた、隣の沙魔美に聞いてみた。
壊錠だけでもこれだけ厄介なのに、ノーズェはまだ畜城をも隠し持っているのだ。
正直凡人の俺には、ノーズェに勝てるビジョンがまったく頭に浮かばない。
「……フン、楽勝よ。パッと思いつくだけでも、１０８通りはあの女に勝つ方法があるわ」
「それはお前の煩悩の数じゃないのか……？」
まあ、冗談を言うくらいの心の余裕はあるってことだと、前向きに思っておこう。
「それよりも悪しき魔女、いい加減私の頭から胸をどけなさい」
依然として真衣ちゃんの頭を胸置きにしている沙魔美だった。
「アハッ、次は第三試合だね。先ず一人目は――」
オーゼットは抽選ボックスに手を入れた。
「なるほどなるほど。ここでこうきたか。――リーブルくんだね」
「「「ワアアアアアアアアアアアッッ」」」
リーブルの名が呼ばれた途端、会場は今日一番の熱気に包まれた。
ついに出てきたか、伝説中の伝説の宇宙海賊マージドロンアクダマオジャマミレンのキャプテンが……。
まだ名前を呼ばれていないのは、ピッセとキャリコと沙魔美のみ。
そしてリーブルの対戦相手が決まれば、自動で四回戦の対戦カードも決まる。
果たしてリーブルの相手は、誰になるんだ……！？
次回、「オーワングランプリ第三試合、リーブルの相手はまさかの……！？」。デュエルスタンバイ！
