第十三魔 前を見ていてね
2018/11/28 誤字を修正いたしました。内容に変更はございません。
「女性用成人向け漫画家、諸星つきみがお送りする前回のあらすじ!私、諸星つきみは女性用成人向け漫画を描いている、新進気鋭の漫画家。この度、デビュー当時からお世話になっている担当さんが産休に入ってしまい、代わりに新卒の子が新担当になったの。でもこの子が典型的なカワイイ系のヘタレ受け厨で、屈強な男前受けが好きな私とは、意見が真っ向から対立してもう大変。果たして来週の締め切りまでに原稿は間に合うのかしら?そして、みんなで海に来た堕理雄達は、その後どうなっているのかしら?それでは後半をどうぞ」
「今のおねえさん誰!?あと、あらすじほとんど関係ないこと喋ってたけど、今の要る!?」
「堕理雄、何を一人で叫んでるの?次はビーチバレーをするわよ」
「あ、ああ、ビーチバレーね」
見ればいつの間にか砂浜に、立派なビーチバレーコートができている。大方、沙魔美が魔法で造ったのだろう。
まったく、ちょっと目を離すとすぐこれだ。
まあ、今日ぐらいは大目に見てやるか(また方々から甘いやつだと言われそうだが)。
「じゃあチーム分けをしましょ。五人だから二人と三人のチームね。このクジを引いて赤い印が付いていたら二人チーム、無印なら三人チームよ」
「よし!お兄さん、私と一緒に絶対二人チームになりましょう!」
「いや、運次第だから何とも言えないよ」
「アッハハー、私はイタリアンレストランの娘ですから、クジ引きには自信がありますよ」
「それクジに関係ある未来延ちゃん?――おや?どうしたんだ菓乃子、クジを引く素振りなんかして。そんなに一緒のチームになりたい人でもいるのか?」
「あ、いやいや別にそんなことないけど、あはははは」
「?」
「さあ、みんなクジは掴んだわね。じゃあせーので一斉に引きましょう。せーの」
「おい、沙魔美」
「……何かしら」
「お前魔法でクジを操作して、俺と二人チームにしただろ?」
「……いったい何のことだか」
「あ!やっぱりそうなんですね悪しき魔女!このチャオズが!」
「真衣ちゃん、今の若い子はチャオズが天下一武道会で、クジを操作したことなんて知らないよ」
「フフン、何とでも言うがいいわ。鳥が自分の羽で空を飛んだからといって、何で咎められなきゃいけないの?」
「開き直りやがったこいつ……。ハア、しょうがない。真衣ちゃん、次の試合では絶対に魔法は使わせないから、この試合はこのチームでやってもいいかな?」
「ぐぬぬぬ、つ、次は絶対に魔法はナシですからね!」
「ツーン」
「沙魔美」
「……わかったわよ。次は使わないわ」
「よし、じゃあ始めようか。言っとくけど、試合中も魔法で肉体を強化するのはナシだからな沙魔美」
「え!?ちょっと待ってよ!私魔法使わないと、運動能力ゼロなんだけど!?」
「そんなの知るかよ。普通の人は、魔法なんて使わないで生きてるんだ。たまには自分の力だけで戦ってみせろよ」
「魔法も私の力の一部なんだけど……」
「屁理屈を言うな。さあ、試合開始だ」
「よーし!先ずは私のサーブからですよ悪しき魔女!喰らいなさい!」
真衣ちゃんの打ったサーブは意外に鋭く、一直線に沙魔美の方に跳んでいった。
「沙魔美!レシーブだ!」
「え!?あ、ちょっと、マジ、怖い、キャアア!」
宣言通り、沙魔美のフォームはへなちょこだった。
どうやら沙魔美は、魔法無しだと本当にポンコツらしい。
しかし偶然にも、ボールは沙魔美の豊満な胸にぶつかり、その反動でボールは相手コートに返って地面に落ちた。
オオフ……。
「あれ?あ!ねえ、堕理雄!見た今の!?これが私の実力よ!!」
「うん、そうだな……。まあ、よくやったよ……」
胸の大きさも、実力の内なのは確かだしな。
「なっ!?何ですか今のは!?キィー!!!」
真衣ちゃんがいろんな意味で、凄く悔しがっている。
ド、ドンマイ。
だがその後は主に真衣ちゃんが、徹底的にポンコツ魔女を狙い続け、あっという間に俺達のチームは負けてしまった。
「フハハハハ!貴様の力はそんなものか悪しき魔女よ!我に勝とうなど、百万光年早いわ!」
「真衣ちゃん、完全にキャラが変わってるよ。あと、光年は距離の単位だよ」
沙魔美はというと、そんな真衣ちゃんの煽りにも反論できないくらい、ヘロヘロに疲れきっていた。
「大丈夫か、沙魔美?」
「だいじょばないわ……。申し訳ないけど、私は少し休憩させてもらうわ……」
「ああ、その方がよさそうだな。そこのパラソルの下で休んでろよ」
「ええ……」
「さあ、お兄さん!今の内に、残った四人で次の試合をやりましょう!」
「ん、ああ、そうだね。じゃあまたクジを引こうか」
「ホアアーッ!チャオズよ、我に力を!」
「チャオズはクジの神様ではないよ真衣ちゃん」
「堕理雄君、よ、よろしくね」
「ああ、よろしくな菓乃子」
「何故じゃあああ!!何故なんじゃチャオズよおおお!!!」
「まあまあ、きっと次は愛しのお兄さんと同じチームになれますって。今回は私と一緒に頑張りましょう」
「え、ええ……」
これが物欲センサーというやつか。
何故真衣ちゃんがそんなに俺と同じチームになりたいのかは謎だが、そう望めば望む程、それは手のひらから零れ落ちていくものなのだろうな。
「こうなったらこの試合も、さっさと終わらせます!喰らえ!必殺サーブ!!」
すっかり真衣ちゃんが、チャオズ信者になってしまった。
どどん波は真っ直ぐに菓乃子の方に向かっている。
だがさっきの試合を見る限りでは、菓乃子はビーチバレーの腕は悪くない。
このサーブも取れるはずだ。
「菓乃子!頼む!」
「は、はい!」
案の定、菓乃子は見事にボールの勢いを殺したレシーブをし、ボールは俺の頭上にフワッと上がってきた。
よし!いいぞ。
俺は菓乃子にトスを上げた。
「菓乃子、スパイクだ!」
「うん!」
バシッと小気味良い音を立てて、ボールが相手コートに跳んでいった。
やったか!?
「やってないですよ。残念でした」
いつの間にか未来延ちゃんがボールの着地地点に移動しており、これまた見事なレシーブを披露した。
何だか沙魔美以外の三人は、女の子の割には結構運動神経良いよな。
沙魔美が悪過ぎるだけかもしんないけど。
再び相手チームの鋭いスパイクが跳んできたが、今度も菓乃子がトスを上げやすい、最高のレシーブをしてくれた。
だが、そんな菓乃子に、俺は若干の違和感を覚えた。
何だろう?何かがおかしいな。
いや、今は試合に集中だ。
俺は再度菓乃子にトスを上げた。
ところが、余計なことを考えていたせいか、今度はトスが少し乱れてしまった。
「ごめん!菓乃子!」
「大丈夫!任せて!」
菓乃子は乱れたトスを物ともせず、的確にボールの位置に跳び上がった。
が、その瞬間俺は違和感の正体に気付いた。
菓乃子の首の後ろで結んでいる、ホルターネックのビキニの紐が緩んでいる!
むしろ今にも解けてしまいそうだ!
危ない!
「菓乃子!水着の紐が!」
「えっ?」
菓乃子が空中でスパイクを打った弾みで紐は解け、水着が完全にはだけてしまった。
「キ、キャアアア!!」
「菓乃子!危ない!」
菓乃子が変な体制で地面に着地しそうになったので、俺は慌てて菓乃子の下に駆け寄った。
しかし、不安定な砂場に足を取られ、俺は仰向けに転んでしまった。
そして、その俺の上に、菓乃子が不時着してきた。
結果、俺の顔に菓乃子のはだけた形の良い胸が、ふにゅんっと覆い被さった。
く、苦しい。息ができない。
「わあああ!!ごめんなさい堕理雄君!すぐどくから!」
「むぐぐぐぐ」
その時だった。
俺の近くの砂が、人間の手の形になり、俺の首を締めてきた。
「ぐええええ。し、しむ……」
「堕理雄君!」
「堕理雄……今のは浮気ということでいいのかしら?」
沙魔美が全身にドス黒いオーラを纏いながら、俺達のところにゆっくりと歩いてきた。
「ち、ちが……さま、み……」
「沙魔美氏!違うの!堕理雄君は本当に、私を助けようとしてくれただけで!」
「菓乃子氏、私にNTR属性はないって、何度も言ってるわよね?菓乃子氏のことは信じてたのに……」
「もう!しょうがないな。えい!」
「えっ」
菓乃子は突然沙魔美に抱きついて、唇にキスをした。
おファッ!?
「か、菓乃子氏……そんな……困るわこんな……。菓乃子氏とはお友達だと思っていたのに……」
「いや、こうでもしないと沙魔美氏は落ち着かないと思ったから、こうしただけ。どう?落ち着いた?」
「え、ええ……そうね」
「冷静になってみて。さっきのはどう考えても事故でしょ?」
「うん……そうね。疑ってごめんなさい菓乃子氏」
「わかってくれればいいよ」
「さま、み……早くこれを……」
「アラ、ごめんなさい堕理雄。忘れてたわ」
沙魔美が指をフイッと振ると、砂の手は元の砂粒に戻った。
「ブハアッ!し、死ぬかと思った……」
「コラアッ!悪しき魔女!!お兄さんに何てことするんですか!!」
「アラ、私と堕理雄は愛し合ってるんだから、私には堕理雄の生殺与奪の権利があるのよ」
「ないですよそんなの!!やっぱりあなたは、今すぐお兄さんと別れなさい!!」
「堕理雄と別れるくらいなら、私は地球を消滅させるわ。幸い私は、それくらいの力を持っているしね」
「くうっ!どこまでも卑怯な!」
「まあ、落ち着いてよ真衣ちゃん。俺なら大丈夫だからさ。さあ、続きをしよう」
「む、むう」
何とか場を収めて試合を再開したが、その後は特にトラブルもなく、からくも俺と菓乃子のチームが勝利した。
「やったな菓乃子!」
「うん!ありがとう堕理雄君」
「ムキイィー!さあ!さっさと次のチーム決めですよ!」
「あ、私も体力回復したから、また試合に参加するわ」
「じゃあクジ引きです!せーの!」
「フハハハハ!このまま私が、お兄さんと組めないまま終わるオチだと思ったでしょう?残念でしたー!組めちゃいましたー!ただ、悪しき魔女も同じチームなのがアレですけど……」
「フフフ、こんなこともあろうかと、復帰しておいてよかったわ」
「キィー!足を引っ張ったら承知しませんよ、悪しき魔女!」
「真衣ちゃんも、胸を引っ張らないように気を付けてね」
「胸を引っ張るって何ですか!?どういう状況!?」
「その点、真衣ちゃんは引っ張る程の胸がなくて羨ましいわ」
「クッソがあああ!!!」
何だかんだ仲良いよなこの二人。
「まあまあ真衣ちゃん、こんなやつでも、今はチームメイトなんだから、みんなで力を合わせて頑張ろうよ」
「ハ、ハイ、お兄さん!」
「私だって、バレーは薄い本で散々勉強してるんだから、次こそは目に物をお見せするわ」
だが、試合が始まってみれば、ポンコツ腐魔女がミスを連発し、あっという間に相手チームのマッチポイントになってしまった。
「イエーイ、あと一点で我々の勝ちですね、菓乃子さん」
「そうだね、未来延ちゃん」
「悪しき魔女ー!!あなたのせいですよ!!」
「ちょ……ちょっと、待って……今は話し掛けないで……吐きそう……」
「大丈夫か、沙魔美!」
『ヒロインがゲロを吐くアニメは名作』を、ここで発揮しないでくれよ。
「何だったら後は俺と真衣ちゃんに任せて、お前は休んでろよ」
「!そうですよ、悪しき魔女!そうしなさい、そうしなさい!」
「いや……やるわ。真衣ちゃんを、堕理雄と二人になんてさせないわよ。任せておいて……。左手はそえるだけ」
「それはバレーじゃないぞ。しょうがないな、くれぐれも無理はするなよ」
「じゃあそろそろよろしいですかー?私のサーブから、いっきまっすよー」
未来延ちゃんの弾丸サーブが、沙魔美の方に容赦なく跳んでいった。
くっ!万事休すか!
「沙魔美!」
「悪しき魔女!」
「大丈夫よ、左胸はそえるだけ」
何それ!?
沙魔美は左胸を右胸にそえて(?)、右胸でボールを受け止めた。
ボールは絶妙な角度で、俺の頭上に舞い上がった。
お前の胸スゲーな!
まるで将棋だな(?)。
さてこのボールを、沙魔美と真衣ちゃんどちらに上げるか。
普通に考えれば真衣ちゃんだが。
「堕理雄!私に任せて!」
「!沙魔美!」
いけるんだな?
お前を信じるぞ。
俺は沙魔美の頭上に、高めのトスを上げた。
「なっ!お兄さん!させるかー!!」
「真衣ちゃん!?」
真衣ちゃんは沙魔美に跳び掛かり、沙魔美の胸を踏み台にして、三角飛びの要領でボールに向かって跳躍した。
「私(の胸)を踏み台にしたぁ!?」
「フハハハハ!お兄さんのトスは私のものです!」
「……イケナイ子ね、真衣ちゃん。お姉さん怒ったわ。お仕置きよ」
沙魔美が指をフイッと振ると、真衣ちゃんの白スク水が、空中で木端微塵に弾け跳んだ。
えー!!!
真衣ちゃんは日焼け止めを塗っていなかったらしく、日焼けした箇所と、してない箇所がくっきりと浮き彫りになっており、何とも言えないアブナイ絵面になっていた。
「キ、キャアアア!!」
「真衣ちゃん!危ない!」
真衣ちゃんが変な体制で地面に着地しそうになったので、俺は慌てて真衣ちゃんの下に駆け寄った。
しかし、不安定な砂場に足を取られ、俺は仰向けに転んでしまった。
アレッ!?デジャヴ!?
そして、その俺の上に、真衣ちゃんが不時着してきた。
結果、俺の顔に真衣ちゃんの小さなお尻が、ぽふんっと覆い被さってきた。
く、苦しい。息ができない。
「ああ!お、お兄さん!責任を取ってください!!」
「むぐぐぐぐ」
その時だった。
辺りの砂が一箇所に集まり、二メートルはあろうかという、巨大な人間の手の形になった。
「堕理雄……あなたは一度ならず二度までも……」
「いや!今のはお前のせいだろう!?お前が真衣ちゃんの水着を、木端微塵にするから!」
「問答無用!」
俺は巨大な手に思い切りビンタされ、海の彼方まで吹っ飛ばされた。
あーれー。
何だこの、劣化版のトラ〇ルみたいな展開は……。
「じゃあ日も傾いてきたし、次の試合でラストにしましょうか」
「悪しき魔女!私この水着恥ずかしいです!何で普通の水着を出してくれないんですか!」
「アラ、とっても似合ってるわよ真衣ちゃん。これで私達お揃いね」
「全然嬉しくないです!」
真衣ちゃんの新しい水着も、沙魔美と同じスリングショットだった。
しかも水着の色は、深い青だ。
浜辺の放課後電磁波クラブが誕生した瞬間である。
「さあ、泣いても笑っても、これが最後のクジ引きよ。せーの」
どうせこの流れなら、最後は俺と未来延ちゃんがペアなんだろ?
「いやーすいませんね。私みたいな伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンがペアで」
「お前どっから出た!?」
実に五話ぶりの登場じゃないか!
むしろ懐かしくて、ちょっと嬉しいくらいだわ。
ちなみに、伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは、高校時代(?)バレー部で、インターハイ出場経験(??)もあったらしく、試合は俺と伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンチームの圧勝で終わった。
やだ素敵。
「みんなよっぽど疲れてたんだろうな。ぐっすりとよく寝てるよ」
「フフフ、そうね。でも堕理雄こそ疲れてるでしょ?魔法で自動運転にしましょうか?」
「いや、いいよ。お前に魔法は使わせたくないからな」
「本当に堕理雄は、カタいんだから」
「普通だよ」
車の後部座席で、菓乃子と未来延ちゃんと真衣ちゃんは、肩を寄せ合って、スヤスヤと可愛い寝息を立てている。
そりゃ、あれだけはしゃげば疲れるだろう。
まあ、みんなが楽しそうだったから、よしとしよう。
俺も正直、ちょっと眠いが、事故るわけにはいかないから、気を引き締めないとな。
「そうだわ、堕理雄。今日一日頑張ったご褒美に、眠気を飛ばしてあげるわね」
「……何をする気だ?」
例によって嫌な予感がする。
「まあまあ、あなたはそのまま運転に集中しててね」
そう言うと沙魔美は、おもむろに俺の股間に手を伸ばし、ズボンのファスナーをジイィッと下した。
「オ、オイ!沙魔美!?」
「大きな声を出さないで。みんなが起きちゃうわ。私が口でしてあげるから、あなたはちゃんと前を見ていてね」
「いや、それは……」
確かに眠気はトんだけれども……。




