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だいいち





「ほんとに行っちゃうの…?」

「ま、そういうもんだしな。お前も大丈夫そうだし」

そういって私の隣を見る金髪の男性。朝の光が髪に当たってきらきらと輝いて見える。精悍な美丈夫はなんてことなさそうに声をかける。


「じゃあ、頼んだ」

「うん。心配しなくていいからね」

それに返事をするのは優し気な男性。ダークブラウンの髪が日に当たりさらに茶色く見えている。にっこりと笑っていると更に優しそうに見えるが、見た目だけでなく性格も優しい。




「じゃあなー」

軽く手をあげて別れを告げているが、彼には戻ってくる気はないのだ。これからどこに行くかも決めていないのに、今生の別れかもしれないというのに全く、なんて呑気なのだ。


「拗ねなくても大丈夫だよ。あいつのことだから、ふらっと帰って来るんじゃない?」

「別に拗ねてないですよ。ただ、今生の別れかもしれないってのに…本当にお兄ちゃんってば」

ぶつぶつと文句を言いながらもその背中をじっと見つめ、見えなくなるまで見送った。

まあ、割とすぐに見えなくなるんだけど。






私は前世の記憶がある。

前世は人間、性別は女。あまり詳しいことは覚えていないが、それでもわかることがある。


この世界は、前世と同じ世界ではないということ。

今の世界はたくさんの種族がいる、らしい。私は見たことがないためわからないが。そして、ヒトという種族がいる。しかし私はヒトではない。ヒトとは国が違うらしい。国というか、大陸ごと違う。

私はサリクという種族なのだ。

サリクはヒトとは違うらしい。どういう分類で分けられているのか知らないし、ヒトを見たこともないから何とも言えないが、前世での人間とあまり変わらないように思う。










少女には親がいない。いや、いたけれど消えてしまった。そして兄も独り立ちをしていった。これにはサリクという種族について少し説明しなければならない。

サリクの子育ては、親が飽きれば終わる。そのため、赤子のまま育児が終わることも普通なのだ。親がいなくなって1年は兄がいてくれたが、なぜ親は消えたのか少女は知らなかった。前世が人間であった少女はサリクという種族について知らず、サリクとして生まれたにも関わらずその本能が動くことがない。人間、ヒトとしての常識は知っているがサリクのものとはずれが生じている。少女はそのことに気づいていない。そのため、兄は普通種族として親がいなくなれば独り立ちするのだが、心配で残ることに。しかし1年が経ってそろそろ独り立ちがしたくなったし、妹も13になったし大丈夫だろうと家を出ることに。

そのことを伝えれば少女は反対した。


「いやいやいやいや、待って待って。私まだ13なんだよ、なんもできないよ?ほんとだよ?ねえ?」

「いや、大丈夫だろ。なんとかなるから。それにサリクとしてはもう十分独り立ちする歳だぞ」

「うそだろ。13歳で独り立ちとか、ほんとに早いから。お兄ちゃんも私を置いてくつもり?!」

じわりと涙目になった妹に兄としては苦笑するしかない。どうしてこんなにもサリクらしくないのだろうと思う。しかしそれが妹なのだ。

「置いてくんじゃなくて独り立ちすんだよ。サリクの本能はそういうもんだからな」

「そんなこと言ったって…」


中々納得しない少女と話しながら兄は荷物を簡単に詰める。

「えっ、まってそんなすぐに行くつもりなの?今日?」

「ああ、今朝のうちに出ようかと」

「いやいやうそでしょ!なんで?そんなもんなの!?」

大袈裟に驚く少女を振り返ることもせずに兄は荷物を詰め終える。

「そんなもんだ」

「うそでしょ…!」


呆然とした少女。出て行こうとする兄。その時、声が聞こえる。

「なら俺が一緒に住むから大丈夫だよ」

玄関には兄の友達が。任せろという兄の友達の言葉に兄は頼んだなんて勝手に決めて独り立ちしてしまう。

「ええぇぇ……」

「まあ、大丈夫だよ。じゃあ、これからよろしくね」




そうして、私は兄の友達と住むことになった。





「うーん…(確かに13の私一人より親しい成人がいる方が安心だよね)。…よろしく」

兄が独り立ちすることに反対していたのは、何も兄と離れたくないという気持ちからではない。

サリクは狩りをする。トラマという狼のような猫のような不思議な大きい生き物を狩ったり、テティンという首の長い鶏のような生き物を狩ったりするのが普通なのだが、本能に目覚めていない私はそれらを狩ることができない。狩る方法は気配を消して弓を射ったり、木の上に潜んで罠にかかった獲物を仕留めたり。いや、ほんとに無理なんだよ。弓をうまく射ることができても、刺さらない。毛皮が厚いのかなんなのか、ナイフで仕留めようとしても、石を無理やり削っているような感触なのだ。なぜだ…。兄たちはいとも容易く捌けるというのに。そんな私が一人で生きていけるわけがない。この状態で保護者が消えるとなれば、最早生き残る術はない。

そんな私に代わりと言っていいのか、兄の友達が残ってくれたのだが。いいのだろうか…。それはそれで申し訳ないというか。しかし生き残るためには大事なので有難く残ってもらうことに。


基本、サリクは群れて生活をすることがない。つまり、村や国がないのだ。私や兄の住んでいた家は、親がいたときに私たちの親と兄の友達の親が親しかったらしく、割と近くに家がある。その家には、彼が独りで住んでいた。私が物心つく頃には彼の親はすでにいなかったのだ。





「荷物とってくるから、待っててね。森の方には行かないようにして。あ、ごはんまだだったんだよね。お腹空いてるでしょう?先に食べてていいよ」

にこにこしながら小さい子に言い聞かせるように私の頭を撫でて言った。


「わ、私そんなに子どもじゃないよ。それに、ごはんも待てるから!」

「そう?」

「そうだよ!」

少しむっとしながら言う。どれだけ小さい子だと思ってるのだ。13歳は前世では中学生なんだぞ。これでは小学生低学年みたいじゃないか。


「そっかあ。じゃあ、行ってくるね」

「…うん。待ってるから」

彼は再び私の頭を撫でてから家を出て行った。








「はっ。これ、私を本当に子どもだと思ってる…?」

いや、子どもなんだけど!でも13歳という難しいお年頃なんだよ…。






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