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第15話 激闘

アレンの放つ気はまさに鬼神の如き威容を誇っている。流れる銀色の髪は蒼く輝く粒子を纏っているかのように淡く光り輝いていた。

【闘神の威圧】…このスキルのせいだけではない。ゼウスも、ラズエルも…その異常なまでの存在感…威圧感に身動きが取れなくなっていった。


「うおおおおおお!!行くぞ!!ゼウスッッ!!」


彼の雄叫びに、大気が切り裂かれる…。まさに鎌鼬(かまいたち)が巻き起こされているかのように、それはゼウスの体に襲い掛かった。


「ぐぅっ…!?」


神ですらたじろがせるその雄叫びは、もはや人である領域を完全に超えていた。

そして、アレンは剣を構え、戦闘態勢に瞬時に移る。

だが、ゼウスも伊達に最高神を名乗っているわけではない。

彼もまた、この遍く世界の最高峰…。まさに、最強。

短く息を吸い込み、カッ、と勢いよく息を放ち、アレンの叫びを相殺した。

その間に、瞬時に目の前に移動してきていたアレン。それを視認したゼウスは神速の技で黄金の剣を構え、これに応戦する。


アレンは思う。絶対に、この戦いで平穏をつかんで見せる、と。

愛しい少女たちと、ただただ、平凡に、平和に暮らすために…彼は神を殺すことをためらわない。

確かに、目の前の敵は強い。強化されているはずのアレンの体でも、ゼウスの刃と互角に渡り合う事以上のことがまだ出来ていない。


「はああああああ!!」


だが、ゼウスは気付く。すさまじい威圧と共に襲い掛かるアレンの神殺しの剣は、最高神である自分と言えども重傷…いや、致命傷を負わせることができる威力があることに。


「なんだとっ!?」


思わず、ゼウスは驚きの声を上げずにはいられない。

それもそのはず、アレンが最初にゼウスと対峙した時よりも、この青年は強くなっていたからだ。


最高神の額を、汗が一筋…伝った。

同時に、嗤う。


何が楽しいのか、何がおかしいのか、自分でもわからないが、ただただ、彼は嗤う。


ハデスと同格…いや、それ以上の強敵と巡り合えたからか、それとも、ただ単なる暇つぶしに何か意義を見出したのか。彼は自問自答する。


(何が、朕を笑わせている?)


答えは出ない。


(何が、朕をここまで奮い立たせている…?)


それでも、答えは出ない。


(確かに、最初は暇つぶしだった。アテネからの報告を受け、こいつの存在を知り、叩き潰してやりたくなった…。だが…それは、どうしてだ?)


自問自答を繰り返す彼の中に、答えはない。


「何がおかしい…!!…ハァッッ!!」


そんな時、アレンの剣が勢いよくゼウスに向けて振り下ろされる。

瞬時に自分の中に生じた『何か』を切り捨て、目の前の『敵』を倒すことにゼウスは集中することにした。


振り下ろされてくるその剣を、ゼウスはかろうじて受け止め、弾き返す。

その隙を狙って、瞬時に斬りこむ…が、アレンの防御は堅い。絶対障壁の壁が、ゼウスの剣を食い止めた。


これでは悔しいが、自分の分が悪すぎる。とっさにそう判断したゼウスはいったん距離をとる。


「ちっ!!」


空振りしたアレンは、それでも止まらない。

空中移動を駆使して、ゼウスに突っ込んでいく。


ーギィン!!


と激しく金属と金属のぶつかり合うような音が部屋に響く。そして、アレンとゼウスは鍔迫り合うような体制になった。


ゼウスは目の前の、もう神と肩を並べるほどの力を持った青年に、言葉をかける。

弱点を、つくために。


「なぁ、アレンよ…この状況で、朕がこう出たら…貴様はどうするのだ…?」


より一層嗤いを深めたゼウスの顔に、アレンは嫌な予感がした。

ゼウスの背後…入口付近を見た瞬間に、体が硬直してしまった。


なぜなら…ヴァイルとハデスを連れて、巻き込まれないようにと入口まで非難したリリアとクローディアの姿が、天使に変わってしまっていたからだ。


こちらを見つめるその目は、どこか無機質で、どこまでも冷たかった。


「だから弱いというのだっ!!貴様は!!」


その隙を、ゼウスは見逃さない。

身体の硬直で、力がわずかに抜けてしまったアレンを地面にたたきつける。


「ぐぁあ!!」


「「―――!!」」


アレンの耳に何かが聞こえるが、判別ができない。


(クローディア…リリア…!?何が起こったんだっ!?)


それでも、ゼウスの攻撃は止まらない。

瞬時に追撃を駆けようと剣を構え突進してくる敵の姿が、アレンには見えた。

その姿を見て、とっさにアレンも剣を構え、ゼウスの全力を受け止める。

足元の床は円状に一気に凹み、ひびが入る。


「ぐっ!!!!」


それでもアレンは、倒れない。



―――――――



「「アレン!!」」


優勢だった夫が、ゼウスと鍔迫り合った瞬間、こちらを見て、吹っ飛ばされた。

何が起こったのかよくわからなかったので、クローディアは周囲を見渡す。ラズエルはなぜか気絶しているので、脅威にはなりそうもない。

助けに行きたいが、今の実力では最高神には遠く及ばないことはしっかりわかっていた。


「あれは…幻術…か、愚弟め…また卑怯な手を…」


「ハデス!無事だった!?」


後ろからハデスの声が聞こえたのでびっくりして二人は振り返る。


「ああ、なんとかね…アレン君に助けてもらうことになるとは…いやはや、ふがいなくてごめんね…二人とも。」


「そんなことはいいです!ハデス!幻術って言いましたね!?アレンは一体どうしてしまったんですか?私たちの方を見た瞬間から、明らかに戦意を失ってしまっているように見えるんですが…」


リリアの言葉を聞いて、ハデスは考える。


「君たちを見て…か、まったく、一回はその手でアレン君は引っかかっちゃってるから、効果はすごいからなぁ…。二人とも、よく聞いて。…僕じゃあ、今のアレン君の眼を覚ますことはできない。…アレン君の芯を支えているのは、僕でも、ヴァイルでもない、君たち二人だ。……【コール】を使うんだ…。そして、彼を想って、激しく、情熱的に【愛】を伝える…。これが、彼を救うために必要なことなんだ!幻術にかかっている彼に、思いっきり想いを伝えて、目を覚まさせてやれ!!」


その言葉に、クローディアがすぐさま行動に移った。


左手の薬指にはまっている指輪を意識しながら、両手を組み、アレンを想う。


リリアもそれを見て、あわてて同じ様な格好になった。



―――――――



「どうした!アレンよ…!!先ほどまでの威勢はどうした!?」


「貴様っ…クローディアとリリアをどこへやった!!」


激しく剣を交えながら、叫ぶ俺。

だが、そんな俺を見ながら、ゼウスは鼻で笑い、こう告げる。


「フン!奴らなら、朕の力で牢獄に送ってやったわ!!今頃…死んでいるかもなぁ!!」


「なっ…!?」


再び動揺してしまい、その隙を突かれ、壁際に追い詰められてしまった。


「くっ…!」


その時、俺の頭に、はっきりと…聞こえたのだ。



二人の声が。



『アレン!!』


(クローディア、リリア!?)


『早くそんな奴、倒しちゃってよ!!アレン!…私の旦那は、そんなに弱い奴じゃないはずよっ!!……一回しか言わないから、よく聞きなさい…アレン。私ね、昔の夢は、強い冒険者になることだって言ったわね?…でも、今の夢は違う。今の夢は…アレン!あなたと、一生…いえ、永遠に愛し合って過ごすことが夢よ!!もちろん、リリアも一緒よ!!…だから、早くそんな奴倒して、元の世界に帰りましょう…!私たちの旅はまだ、続いてるんだから!』


頭に響くクローディアの声が、


『アレン…!あなたは言ってくれました…。ハーフエルフの私でも、人でも…気にしないって。その言葉に、私は救われたんです…!自分には何の価値もないんだってところから…完全に這い上がれたのは、カムレンとアレンのおかげです…!だから…、だから私も、あなたと永遠に一緒に居たいです…。愛し合いながら、クローディアと、私と、アレンとでずっと楽しく過ごしたいです…!最後の時が来る、その時まで!!』


リリアの声が…。



心を、震わす。



ーパリン



何かが砕ける音と共に、俺の視界は一気に明るくなる。


「なっ!?朕の幻術を打ち破っただと!?」


ゼウスの表情が驚愕の色で染まる。

そして俺はすべて理解する。

これまでの変な幻覚は、やはりまやかしだったのだ、と。


そして同時に、二人が無事なことに安堵した俺は叫ぶ。




「俺の嫁たちをよくもダシに使ってくれたな!!ゼウス!!…絶対に、絶対に貴様は許さんッッ!!」

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