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第6話 アレンとギルドと黒い少女

アレンは今、リリアの家のある北区画から南区画にある冒険者ギルドへ向かう途中の道を歩いていた。


南区画には冒険者ギルド、魔術師ギルド、商業ギルドなどのさまざまなギルドや店が立ち並んでいる。おしゃれな喫茶店や冒険者向けの酒場、はたまた錬金術で使うような素材を扱っている店、娼館や奴隷販売場・・・などなど南地区に行けばなんでもそろうと言わしめるほどバリエーションに富んだ区画である。

そのようなところであれば犯罪も起きそうなものだが、そこはフェレスの衛兵たちがいたるところに立っていて、目を光らせている為治安はいいのはずなのだが・・・。


(尾行されてる・・・のか?目的はなんだ?人さらいかもしれないな・・・だがこの辺の人たちは良く買出しに来るから顔を覚えてもらっているはずだし・・・よし・・・)


よく南区画にリリアに言われ買出しに来ていたアレンは、裏路地から娼館の位置、武器防具屋の位置などなど完璧ではないが良く使う道は覚えていた。


頃合いを見計らって歩くスピードを徐々に上げていく。【周辺探索】スキルはレベルがないが、使っていくうちに索敵能力が自分の周囲12mほどになっていたので、ついてくるの人物がいることは分かるようになっていた。


最終的に走り始めたアレンはすぐそこの角を曲がる。後をついてくる気配。角の物陰に隠れ、その人物が来るのを待つ。なぜか付呪がついていないのにつかえたインベントリから、大きい黒い布を準備する。


そして、10秒もしないうちにソレが姿を現した。全身のバネを使い勢いよくアレンはその小柄な人物を布で覆う。


「それっ!捕まえたぞっ!俺になんの用だ!衛兵を呼ばれたくなかったらおとなしくしろっ!!」


黒い布に包まれたソレはもがもがと激しく動き回る。だが、数十秒もするとだんだんスタミナが切れてきたのか、おとなしくなった。アレンは恐る恐る自分の腰ほどの子供のような体躯のソレにかかっている布を外す・・・すると


「ね、ネコミミ・・・しかも黒か・・・」


そう、まさしく獣人といったところか。黒い布を完全に取り外すと、頭にふっさふさの猫耳を付けた黒髪ロングの女の子が姿を現した。布の中で相当暴れたのだろうか、来ていた布の服はところどころ脱げ欠けていて、手のひらに収まるようなつつましやかな胸が丸見えだったのだ。しかも涙目。


(こりゃやばい!!やばいって見た目が!!ドストライク・・・じゃなくて!完全に襲った側と襲われた側じゃないですか!!)


アレンの背中に冷たい汗がすさまじい勢いで流れ始め、嫌な予感がした。

そして、アレンのその嫌な予感は最悪な形で実現


「にゃああああっむぐっ!?むぐぐ!!むぐむぐぅぅぅぅう!!」


する前にアレンはその敏捷さを生かして、すさまじい速さでその黒髪猫耳少女の口を手でふさぐ。

そして、服もやさしく直してやる。ずり落ちそうなショーツも直してやる。煩悩を押し殺して。


(これは・・・なんだ?まずは胸からだな・・・っていかんいかん!話を聞かねば・・・。)


アレンは耳元で低い声で優しく話しかけてやる。


「おとなしくしろ・・・優しくしてやるから・・・まずはおとなしくなれ。」


完全に不審者だった。それを聞いた黒髪猫耳少女は少し震えたあと、体中の力が抜けたようだ。アレンは話が通じたと思ったが、断じてそんなことはない。彼女は耳が弱いだけなのだ。


「・・・。」


くたぁっとなる黒髪にゃんこ。

アレンがあわてて手を放すとがばっと起き上がり、ひと声。


「なにするのよぉっ!ばかぁ!!////」


「ばかってっ・・・いや。この場合は俺が悪いな・・・すまんかった。だが、なぜ俺を君のような・・・その、美少女が追いかけてくるんだ。俺はそんなフラグ立てた覚えはないぞ?理由を話すんだ。」


最初はふざけ、あとのほうは真面目に聞いてみる。


「別に盗みとかそういうのじゃないから、まずは私のお尻と耳を撫でないでくれない?後をつけたのは悪かったけど、強姦で訴えるわよ?」


「あぁっ!?ごめんっ!なんかすげぇ両手が気持ちいいと思ったら・・・」


名残惜しそうに手を放すと、逃げないように、とつぶやき手を少女のくびれた腰に移動させる。コイツ、確信犯でしかも最低である。


「この人ヤバそうね・・・組むのやめようかしら・・・」


「何か言ったか?早く理由を話すんだ」さすさす


「いえ、なんでもないわよ?というか、普通に・・・んっ、撫でてくるのね・・・っん///にゃっ・・・いい加減にしてっ」


「理由を、話すまで、俺は、撫でるのを、やめない!!」


さすさすさすさすさす。


「話すって言ってるでしょうが!やめてっ!んっ///ふにゃあぁぁっ・・・」


現実世界なら見た目的に完璧アウトである。なにせ見た目18才の男が自分の半分くらいしかサイズのない女の子の腰をさすっているのだ。おまわりさん。こいつです。

いい感じにトリップしかけた猫耳少女を見て、アレンはやっと我にかえった。


(やっべぇぇぇぇぇ!!やっちまったあぁああああああああ!夢にまで見た黒髪猫耳美少女だったからついつい!!)


つい、じゃねぇよ。


(好感度を上げなければ。キリッ)


もう最底辺だと思うのですが。

黒髪猫耳少女はトリップしかけてぴくぴくしていたが、こちらも我に返ったようだ。


「もうっなにすんのっよ!!」


勢いよく立ちあがった少女は思いっきりアレンの顔にびんたをした。



――――――――


「いや、わるかったって・・・ほら、なんかおごるから、わけを聞かせてくれ。」


所変わって、ここは冒険者ギルド近くの喫茶店だ。軽い軽食とおいしい紅茶、甘味も楽しめるのだ。

アレンの懐事情は決してよくない。リリアの手伝いをしていた時に、こっそり付呪した属性石を雑貨屋に売って小遣いを稼いでいた程度だ。所持金は、3ギールと128ドールだ。


「むぅ・・・。この変態・・・。」


「いや、だから悪かったって・・・ほら、このケーキなんておいしそうじゃないか?」


ぴくぴくと猫耳がうごく。かわいい。


(これはもうひと押しだな)


「なんでもしてやるから・・・なっ?」


「いま、なんでもするっていったわね・・・?」


「ああ、俺に出来る範囲であれば協力するさ。」


「へぇ・・・尾行していた相手をずいぶん信用しているのね?この場に私の仲間がいて、いまにも殺されるかもしれないのよ?」


アレンは急に真面目な顔になり、言い放った。


「黒髪猫耳美少女に、悪い奴なんていないっ!!!」


「ひっ!?いきなり大声出さないでよ!?びっくりしたじゃない!」


「あ、ごめんごめん。だが、これは本当なのだよっ!この程度でびびるようでは悪人は務まらんよ。もしやってるならやめろ。向いてないから。」


「ふふっ・・・ずいぶんないいようね・・・」


黒髪猫耳美少女は何かたくらんだような顔をして、店員を呼ぶ。


「この店で一番高い紅茶とケーキを1つずつお願いします。」


美少女の小さな抵抗だった。アレンは微笑ましいなと思うが、自分の金だと気付くと青い顔になった。


「ホント遠慮ないな・・・。さて・・・喫茶店に来たが、まず自己紹介といこうか?俺はアレン。冒険者になるためにギルドに行こうとしていたんだ。君の名前と、俺を尾行していた訳を聞かせてくれ。あと結婚してくれ。」


「さて・・・殴られたい?それとも蹴られたい?」


美少女なのに背後に竜が見えた・・・気がした。


「ごめんなさい。」


アレンが土下座せんとばかりに頭を下げると、美少女は、はぁ、とため息をついてから話し始める。


「私は、クローディアよ。あとをつけていたのは、私も冒険者になりたかったからよ。」


「え?冒険者になるならそのまま冒険者ギルドに行けばいいじゃないか?なんでそんなことを?・・・頼む。結婚してくれ。」


ガスン!と脛を蹴られたアレンは涙目になる。


「はぁ・・・あなた本当に何にも知らないのね?世間知らずもいいとこだわ・・・いい?もう一度確認するけど、なんでもするって言ったわよね?アレン?」


(いきなり名前呼び・・・か。結構クるな・・・結婚してくれ。)


などとアレンが思考していると、キッ、と睨まれる。


(あぁ・・・・睨んでもかわいい・・・じゃなくて)


「あ、あぁ。なんでもするよ?だけど事情を教えてくれないか?君みたいな子がなんで冒険者に?お店で働くとかそういう風な方向でもいいんじゃないか?」


「あなたどこの出身なのよ・・・いい?私たち獣人・・・っていっても、私は耳と尻尾以外ほとんど人間だけど・・・まぁ獣人に対するこの国の評価ってとっても低いのよ?なんでも公国の領主が獣人嫌いらしくて、個人で運営してるお店では獣人を雇うだけで高い税を払わされるの。」


「じゃあ国を出ればよかったじゃないか?」


「・・・国を出るのは簡単じゃないのよ?私は親の片方がこの国の人間で・・・私が生まれてすぐに死んじゃったらしくて、あったことがないからわからないけれど。お母さんも・・・7年前に死んじゃって・・・」


クローディアは目に涙を浮かべながら話していく。


「生きにくいからほかの国に行こうとして、門番の人に話しかけたら、この国の獣人は人間の奴隷でなければ通せないって言われたの。」


アレンはクローディアの頭をなでながら話を聞く。

紅茶とケーキが運ばれてきた。


「つらかったな・・・」


「いえ・・・そのあと親切な衛兵さんは教えてくれたわ・・・冒険者になれば、獣人でもいろんな国を旅できるって。それで、ギルドへ入ろうと思ったら、二人一組で研修するとかいうじゃない?パーティーに誘ってくるのは下心ありありの気持ち悪い男ばっかりで、足踏みしてたのよ・・・で、そんなとき、チョロそうな女慣れしてなさそうな軽装鎧の、冒険者(未承認)って書いてあるあんたを見つけたってわけ。で、話しかけようと思ったら、このザマよ?わかった?」


クローディアもつらかったのだろうか、誰も味方がいない中、一人で生きるのが難しいのは想像に難くない。

最後のほうは開き直りながらケーキと紅茶をすごい勢いで食べ始めた。


「・・・君がすごく不憫で残念な人見知りの子ってことは分かった。というかパーティー組んでくれるのか?こっちがお願いしたいくらいなんだが。」


「もぐもぐ・・・え?そうなの?」


「ああ、まじめな話をするとだな、俺もパーティー組むの誰になるのかなって心配してたんだ。君みたいな子だと俺も安心して冒険できるってもんだ。で、俺はこのロングソードで戦うけど、君の得意なものってなんだい?」


アレンは自分の腰についているロングソードを見ながら、クローディアを見て・・・「悪い予感」がした。

クローディアは布の普通の服だ。背も小さいし、何より短剣もなにも持っていない。


クローディアはドヤ顔をして言う。




「家事・・・よ!」




アレンは頭が真っ白になった。


「火をつけるのが得意なの?」


「いいえ?家の掃除とか洗濯とか料理とかよ?」


「キミはバ「なんでもするっていったじゃない」


「・・・え、でもそんなんじゃ君死んじゃ「守ってくれるわよね?当然」


「俺死ぬん「な・ん・で・もするって言ったわよね?」


アレンは




「わかった・・・頑張る・・・」




折れた。


喫茶店での支払いは1Gギールだった。出費が痛い。



喫茶店から出たクローディアは満面の笑顔を浮かべ、アレンのほうを向く。


(畜生、かわいいなっ!!)


「よし。じゃあ行くわよっ!アレン!冒険者ギルドへ!!」


「まて、その前に君の装備を整えようか・・・」


「私お金ないわよ?」


アレンはこの先どうなるだろうか・・・と天を仰ぎ見た。

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