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第8話 潜入

「しかし…穏やかな天気ねぇ…」


隠れながら私たちは移動していましたが、神の居る城にほど近い場所で、いきなりクローディアがしみじみと呟きました。


「そうですね…本当に…いい天気ですよねぇ…本当にこんなところに最高神がいるんですか?」


蒼い空、白い雲…そして肌を撫でる心地よい風…。それらがすべて合わさり、しかも遠くには雄大な山々まで見えるんです。まさしく天国といった場所でしょうか…。この世のものとは思えないほどの風景と環境だったので、この先に私たちの命を狙った最高神がいるなんて私はどうしても信じられません。

ですが、それを否定するかのように顔を顰めながら、ハデスが私の方を見て話し始めます。


「いいかいリリアちゃん。これも全部ゼウスの罠だよ。綺麗な場所だって、君は今思ったね?…それが油断につながりかねないんだ。君の愛しの夫…アレン君だって例外じゃなかったのかもしれない。それにこれは全部奴が作った偽物だ…。限りなく本物に似せてあるから君達にはわからないだろうけど、僕からしたらこんなの、盛大な一人遊びを見せつけられているようで腹立たしいね。」


私の隣でクローディアの顔が曇るのがわかりました。アレンのことが心配でたまらないのでしょう。

ハデスの言葉に私も気が引き締まりました。そして、自分に言い聞かせます。ここは、敵の居る場所だ。と。


「緊張感が足りなかったですね…ごめんなさい。」


「いや、分かってくれればいいんだ…。…ほら、城の裏口が見えてきた。あそこからなら地下牢まではそう長い距離を歩かなくていい。気を引き締めて、行こうか。」


ハデスは何か思いつめたような顔をしていましたが、城の裏口を遠目で見つけると、いったん立ち止まり、緊張を孕んだ顔で私たちに注意を促しました。


「ええ、分かったわ…。」


クローディアも緊張しているようで、声にそれが出ていました。


早く、アレンに会いたい。


私たちの思いはそれに尽きます。もし、アレンがどうなっていようとも、それを受け止める覚悟はできていました。…少なくとも私は、ですが。

なので私も力強く答えます。


「準備は万端です…。行きましょう。アレンを助けに。」


そんな私を見て、ヴァイルは笑いながら言いました。


「前よりも逞しくなったな。リリア…。流石主の嫁だ…。さぁ、我らの大切な…主を迎えに行くとしよう。」


私たちは人4人は通れるくらいの裏口から、ついに城へと潜入を果たしたのでした。



――――――――



城内に入った我らは、リーダーを先頭にして素早く先に進んでいた。

だが、おかしい。なにがおかしいかと言うと…


「…おいリーダー。いくらなんでも静かすぎないか…?前にこちらへ攻め込んだ時には、メイドの百人はいたはずではないか?」


そう、城に入ってからというもの、甲冑や絵画はあったが、生物に会っていないのだ。これはいくらなんでも不自然すぎる。通常であれば、城を掃除する者や、炊事をするものを城に置くのが一般的な神の城のあり方だ。その点からみると、はっきりとこの城が異質なことがわかる。あまりにも生活感が無いのだ。

我に言われてからリーダーも気付いたようで、はっとした顔をする。


「みんな、走るぞっ!!」


その号令が出た瞬間、全員が弾丸のように駆けだした。

走っている途中で、クローディアが叫ぶ。


「どうしたっていうのよ!?」


「ゼウスに感づかれた!!このまま一直線に牢獄まで向かい、アレン君を救出する!!目標は変わらない!!…たとえ誰が欠けようとも、絶対に走り続けるんだ…!いいね!!」


リーダーが叫ぶと、途端に後ろからおぞましい声が聞こえた…。

忘れもしない。…奴の声だった。


『ハァァデェェスゥゥウウウ!!ようやく見つけた!!朕が兄よ…!今度こそ貴様を殺して、朕が冥界を総べるのだ!!』


地の底から聞こえてくるようなそんな威圧感のある声。だが、我らのスピードは落ちなかった。

周りを見ると、クローディアもリリアも無言で走り続けていた。…ゼウスの姿は周りにはまだない。


「…これは脅し文句みたいなものだっ!!気にせずに走り続けろ!!奴は別方向にいるぞ!!…こっちが、最短ルートだ!!」


リーダーが横の細道を指をさし、先導する。


「…来る…!みんな!上に全力で障壁を展開するんだ!!」


その言葉に我らは4重の障壁を作り出す。一番外側の外殻から、我、クローディア、リリア、リーダーの順だ。障壁を作り出したと同時に、すさまじい剣圧が我の障壁を襲う。まさしく巨大な岩の塊がそのまま落ちてきたような衝撃だ。攻撃した相手を見ると、黄金の剣を持った、金髪の女性型天使がそこに居た。


「ぐぬぅ!!…まだまだ!!我の障壁は、この程度では破れぬぞぉお!!」


防ぎ切ったと同時に、魔力を爆散。レーザーのように一直線に伸びる黒い光は、確実に天使の体を燃やし尽くした。


「クハハ!我が力…見たか!!」


「ほらヴァイル!悦に入ってないで、急ぐよ!!」


大きく我が燃え尽きた敵に対して笑い飛ばしていると、先に進んでいたリーダーからの叱責が飛んできた。…仕方ないではないか。久しぶりに敵をぶっ飛ばしたのだから…少しくらい余韻に浸らせろ。


「ろくでもないこと考えてないで、早く行くわよ!!」


クローディアにもせかされたので、我も全力で駆け抜けた。



――――――――



それからしばらく走ると、目の前に大きなドーム状の空間が広がった。

ここまでの襲撃は先ほどの1回だけだった…。だが、それが僕を不安にさせる。


そして、目の前にあるソレに、先ほどの襲撃はあからさまに陽動だったことに、今更ながらに気付かされた。


そう、ドーム状のだだっ広い空間には、先ほどと同じ顔の天使…千はいるだろうか。そいつらが、黄金の剣を持って、僕たちを待ち構えていたのだった。


「侵入者を排除しマス」


機械的な声を上げて、彼女たちはいっせいに僕たちに襲い掛かってきた。

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