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第6話 絶望の牢獄

「ここは…どこだ…?」


俺は一人呟く。体を動かそうとするが、ピクリとも動かない。


「…そうか、俺は…ゼウスに…負けたのか…」


状況を理解する。周りを見渡すと、白い鉄格子が嵌められた小さな窓が真上に一つあるだけで、周りはすべて白い石で囲まれていた。広さはというと、大体十人は入れるくらいの大きさだろうか。


すると、知らず知らずのうちに俺の眼から生暖かいものが流れ落ちる。


(俺は…泣いているのか…。)


涙が止まらない。どこかで最高神にだって楽勝で勝てると思っていた自分がいた。俺が一番強いのだ…と。だが、それは間違いだった。その油断もあったのだろうが、卑怯な手を使われ、大事な嫁たちを痛めつけられ…何一つ守れなかった。そう思うと、ついに嗚咽が漏れ始めた。


「ぐっ…クソっ…なんで…俺たちがっ…」


胸に去来するのは過ぎ去りし日々の想い出。

リリアと鉱山都市で買い物をしたこともあった。なんでも屋を営んでいたルナは無事だろうか…。あの時のリリアの慌てふためく姿は最高だった…。

クローディアとの最初の出会いは本当に運命的だった。城壁都市の喫茶店の話は、今にして思えば、『冒険者(未承認)って書いてあったのよ』っていうセリフにはちょっと疑問を覚えるが、あれはきっと他者解析スキルが発生しかけてた証拠だったのだろうか…。

思い出すのは、すべて愛しの嫁たちの記憶。

…最初にキスをしたときの味はしょっぱい味だった。

涙で、濡れていたから。


今も、涙の味がする。

俺の涙の味だ。


助けはないだろう…クローディアも、リリアもつかまって…最高神のおもちゃにされてしまっているのか…。


そう考えると、悔しくて、悔しくて…俺の心はもう、限界だ。


「返せっ!!…俺のクローディアと、リリアを…返せよぉおぉおおおおお!!うあああああああああ!!」


牢獄の中に俺の涙声がこだまする。

当然、答えるものはない…と思ったその時、目の前に今一番会いたくないやつが現れた。


「くひっ…元気そうだねぇ?アレン…。」


俺の頭は瞬時に覚醒する。

奴への怒りでいっぱいだ。


「貴様ああああああああああ!!殺すッッ!!絶対に殺す!!…なんで動かない!動け…動けよぉぉおっ!!」


ピクリとも動かない体を、無理やり怒りで動かそうとするが、やはり…体は動かない。

俺の顔は怒りで真っ赤になっている事だろう。


「おぉ…怖いな…なぜ貴様は不死族如きの分際で、最高神たる我に引けを取らない能力を持っているのだ…?…だが、こんな状況では、その能力も役立たずであるがなぁ…!!くっくっく…はっはっは!!」


ゼウスは笑い飛ばしながら、俺のことを蹴りつけてきた。全力の一撃だ。


「がぁっ!!」


頬に一発…口の中が切れた。


「ぐふぅっ!!」


腹に二発目…胃の中にものが無くて幸運だった。出てきたのは胃液だけだった。


「ほう…なかなか耐久力もあるようだな…では…今度こそ貴様の精神を根こそぎ削りとってやろう…。くはは…楽しいだろうな…?」


俺を一瞥して、壁の方を向いたゼウスは、何やら詠唱を始めていた。

そして、現れた二つの十字架を見て、俺は絶句する。


「今から貴様の目の前で、こいつらを…殺す!!」


そこには、クローディアとリリアが居た。

どちらも気絶してしまっている様だ…顔にあざまである。拷問か何かを受けたのだろうか…。

そして、そんな二人の前にゼウスが立つと、黄金の剣を上段に構えた。


「や、やめろぉおおおおおお!!うおおああああ!!」


「ふふふ…はははははは!!目の前で愛する者を殺される…これ以上の責め苦は無いよなあ!?苦しめ!!もっと苦しめ!!ふはははははは!!」


そして…ゼウスの黄金の剣が…クローディアの首に落ちる寸前…


ぴたっ…と剣が止まる。


「…ぶぁあぁあかぁ!こんな面白いイベント、そう簡単に終わらせてたまるか…。…最後に、会話するくらいは許してやろう…ほら、起きろ!」


そういいながら、ゼウスは二人の髪の毛をつかみ揺さぶる。


「ううぁあ!!痛いっ!痛いぃ!」


「やぁああ!!」


二人の悲鳴があたりに響く。

俺はついに耐えられなくなり、ゼウスに頼み込むことにした。


「や、やめろゼウス!!彼女たちは関係ないんだろう!?俺が、俺だけ死ねば…こいつらは助けてやってくれ!!頼む!!」


「ほう…?」


俺の言葉を聞くと、ゼウスは目を細め、考え込むようなそぶりを見せた。

だが、二人の嫁は…それを許さない。


「ダメよアレン!!…私たちなら、心配しないでっ…!だから、自分だけ死ぬなんて…言わないで!!」


「そうです!自分だけ死ぬなんて…私だって許しませんよっ!!」


それを聞いたゼウスは、また笑う。


「くはははは!!やはり健気な女どもよっ!!」


「負けちゃダメよ!アレン…!ほら、あなたなら…絶対に勝て」



俺は、その瞬間、何が起こったのかわからなかった。


目の前には、クローディアの体が光の粒子に変わりつつあった。



そう…死んだのだ。

何の前触れもなく、何の山場もなく…ただただ…殺された。


時間が、止まる。

だが、瞬時にリリアの悲鳴で我に返る。


声にならないリリアの叫び。目には涙が浮かんでいる。


だが、それもすぐに止んでしまった。



…目の前で、愛する者が…光の粒子となって消え去る。



思考が落ち着かない。


何が起こった?


なんで、クローディアとリリアがいない?



誰かの笑い声がこの空間に響いているのが聞こえるが、そんなのどうでもいい。


なにもかも、どうでもいい。




俺の中の何かが、壊れる音がした。







―――――――――





場所は変わり、同時刻、フェガリア聖国の塔の屋上。


「ねえ…ヴァイル……アレン…無事…よね…?」


私は急に不安になり、塔の屋上の術式の中心に立つヴァイルに尋ねる。


「…クローディアが信じずに、誰が主を信じるというのだ…。」


作業していた手を止め、私の方を振り返ってそういうヴァイルは、どことなく不安そうな表情をしていた。

それを見て私は思う。ヴァイルも、怖いのだと。


「…大丈夫ですよクローディア。きっとアレンは無事です…!なんて言っても、私たちの旦那様ですよ?」


無理に声を出しているのが丸わかりだ。

だが、リリアのその気遣いが私にはうれしかった。

だから、私も声を大きくして、虚勢を張る。


「そうよね!…アレンはあんなに強いんだもの!!今頃最高神なんかけちょんけちょんよっ!!」


そんなやりとりをしているうちに、どうやら準備が整ったようだ。


「準備ができた…さて…それじゃあ…術式を起動しようか…。」


ハデスがヴァイルの横に並び立つ。

それにならって、私たちも二人の近くに行った。


あとは術式を起動させて、転移するだけだ。

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