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第4話 焦燥と崖際

クローディア達は、聖国内の宿屋で一番大きな部屋で話し合いをしていた。

アレンが失踪してから四日が経った。

ヴァイルがいる事で、アレンの生存は確認できているがそれ以外の情報が全く不足している。

ハデスは情報を持っていそうだったが、思念を飛ばして、アレンとゼウスが戦っているのは見えるのだ。そして、ゼウスの手によってアレンの関係している人間すべてを信頼できなくなるような幻術をかけ続けられているのはわかる。

だが、それだけだ。

状況は見えるが、手は出せない…。それを聞いた一同は、一段と沈んだ顔になっていた。


「…本当に、アレンを助けることはできないの…?」


クローディアが瞳に涙をためながら、誰に言うのでもなく呟いた。

ハデスはその独り言に答えるように言う。


「…現状難しいだろうね…。」


「ぐすっ…あ、アレンのもとに行くことは…本当にできないんですか…?」


リリアが泣きじゃくりながら、何か手はないのかとすがるような目でハデスとヴァイルを見る。

ヴァイルは答える。


「……手は…ないことも…ないが…」


「本当にっ!?教えなさいっ!」


クローディアがすさまじい剣幕でヴァイルに詰めより、問い詰める。

ヴァイルはそんな少女を落ち着け、と言いながら再び椅子に座らせる。

クローディアは憮然とした表情だ。それもそうだろう。最愛の男を助ける手段があると言われたのだ。気が焦るのも無理はない。


「だが、かなり危険だぞ?第一に、万が一行けたとして、お前らに何ができるというのだ?相手はあの最高神だぞ?…いくら主によって強化されたお前たちでも、かなう相手ではない。…最悪、足を引っ張る可能性すらあるのだ。目の前で最高神にクローディアやリリアをだしにされて脅されたりしたら、主はきっと、お前たちの身の安全の方を選ぶだろう。奴はそういう男だ。」


「そんなの…わかってるわよ…!!じゃあ、どうすればいいっていうのよっ!?黙ってアレンがぼろぼろになって…帰ってこないかもしれないのに…ずっと待ってろっていうのっ!?そんなの…そんなの…



「「私は、耐えられない!!」」



リリアも力強く最後の言葉を言い切る。

そしてリリアが続ける。

その目には強い意志の光が宿っていた。


「私は、アレンが死ぬのなら、ともに死ぬことを選びます!…私一人がのうのうと生きながらえるなんて…そんなの、そんなの嫌です!!」


「私だってそうよ…!死ぬなら、一緒よ!あのときに誓ったんだから…絶対に、離れてなんか、やるもんかって…!」


二人の眼には覚悟の炎が宿っていた。

愛する者が死ぬときは、自分も一緒に死ぬ。それほどの覚悟を二人は宿していたのだ。


それを見たヴァイルとハデスは顔を見合わせる。

互いに顔を見合わせ、頷きあう。

そして、ヴァイルが一歩前に出て、二人の前に立つ。


「…それほどの覚悟か…まったく、人間というのは何とも愚かしい生き物だ…」


「なんですって!?」


ヴァイルがあきれたように言うと、クローディアが声を荒げて叫ぶ。

だが、それを手で制すると、ヴァイルは続ける。


「だが…嫌いではない。だが、な…。相手が相手だ。相手はすべてを総べる最高の神。ゼウスだ…。先ほども話した通り、主の足手まといになる可能性がある…しかし、ピンチだった場合、救えるのもまたお前たちだけかも知れぬ…。」


そう言ってヴァイルは宿屋の出口の方へ向かう。


「どこへ行くんですか!?」


リリアが焦ったような声でヴァイルを引き留めようとした。

ヴァイルはついて来いと言ったような雰囲気だ。


「…連れて行ってやろう。主のいる…最高神の元へ。」


「ヴァイル!?正気かい!?僕と君が二人がかりでもかなりきつい術式だぞ!?」


今まで黙っていたハデスがヴァイルの行動を見て、驚きの言葉を返す。


「…リーダー。無理は承知の上だ。」


ヴァイルはすでに覚悟を決めているようだった。それを見たハデスははぁ、と大きなため息をつき、二人の少女へ向き合う。


「二人とも、これだけは言っておくよ?僕とヴァイルは転移にすべての力を総動員する…。そう、『すべて』だ。…おそらく、最高神の元へとついたころには僕とヴァイルは全く役に立たなくなると思ってくれ…。かろうじて生きてはいるが、半死半生の状態にはなるだろうね。」


ものすごく軽い口調で早口でまくしたてるハデス。軽く自棄になっているようだった。


「…アレンを探しつつ、ヴァイルとハデスを守ればいいのね…?」


先のビジョンが見えない。

とてもではないが、そんな状態で敵地に乗り込むなど自殺行為だ。

ハデスがなぜこんな二人を期待させるようなことを言ったのかと言うと…それはただ単にヴァイルが行くと言い出したからだ。かつての戦友であり、無二の親友でもある彼…彼女は、ハデスにとっても大切な存在だ。

絶対に、失いたくない対象なのだ。

だから、言う。


「そうだ。絶対に…5人で帰ってくるぞ。ヴァイル、僕、君、リリア…そしてアレン。誰が欠けても後悔しか残らないからね。…やるからには、みんな死ぬ気だ。」


そこまで言うと、ハデスは天を仰ぎ、またもやため息を吐く。


「なんたってこんな自殺みたいな真似をしなきゃいけないんだ…まったく。でも、僕も君たちのそういうとこ、嫌いじゃないからね…バカみたいだと思うけど、長く生きているとたまにバカをやりたくなるものなんだね…初めて知ったよ…。」


「なに、リーダー。悪いことばかりではないだろう?もし失敗しても全員まとめてあの世行きだ…。一人だけ生き残るなんてことは絶対にないだろう。…さて、これから我らは一心同体だ。まずは天界に一番近く、最高神の謁見の間の扉まで一番近い…あの聖国の塔の天辺から出発だ。すぐ行くぞ。覚悟と準備はいいか?」


ハデスの言葉にヴァイルが愉快そうに返すと、ヴァイルは二人に向けてニヒルな笑顔を向けて、覚悟を問うた。


二人の答えはもちろん…




「「万端に決まって(ます!)るでしょ!」」




こうして、勝ち目の薄い戦に、4人は挑むことにした。


―――――――――


時間はさかのぼり、アレンと神が戦い始めて二日目。


もはやアレンの時間の感覚は麻痺していた。

あまりにも長い戦闘。

相手の体力も尽きないが、こちらの体力も尽きない。


まさに無限ともいえる死闘。


一瞬の油断が死を招くこの状況で…ゼウスは、何度目か分からない笑いをもらす。


「くくっ…だんだんいい顔になってきたねぇ…アレン君!…ここらでこれは…どうかな…!?」


瞬間、アレンの脳内にイメージが焼きつけられる。

それは…リリアが知らない男に抱かれている映像だった。顔は恍惚としているが、目はうつろだ。


『あ…ひぃ…んあぁあああ!!』


男に抱かれているリリアはあられもない悲鳴を上げている。


「それは現実だよ。アレン君…君の最愛のお嫁さんは、私の手に堕ちた…。私は神だといっただろう?どんなことでもできるんだ…」


「なっ!?こ、こんな…バカな!?」


信じたくない。アレンはそう思う。

だが、イメージは遠慮なしに脳の中に入ってくる。リリアの嬌声…男の荒い息遣い…絡み合う二人の体温すら感じられるほど鮮明なイメージがたたきつけられる。


その瞬間、アレンは動揺してしまう。


隙が、できてしまった。


「くひっ!!」


その変な笑い声に、アレンはようやくゼウスと戦闘中だという事実を思い出す。


だが、すでに遅い。


ゼウスの剣は、アレンの腹に突き刺さる直前だった。


全てがスローモーションに変わる。


とっさにアレンは全魔力を開放した。


そして、流れ込んでくるイメージを否定する。


(うそだ…うそだ…うそだ…)


アレンは自分に言い聞かせるように思う。

相手は狡猾な神だ。

きっと自分をだますためにこんなことをしているんだ。


そうは思うが、奴がこんなことをする理由がわからない。


アレンの心はもう折れそうだった。


だが、気合を入れなおす。


(…くそっ…!考えたって仕方ない…今は、目の前の脅威を排除する!!)


「【不死族化】!!」


光速の詠唱で、アレンの体はすさまじい魔力を帯びる。


剣をかろうじて避ける。


そして、次の瞬間…ゼウスは不気味な笑い顔になる。


(しまっ…)


「かかったね…」




後悔するが、もう遅い…。

アレンの周りには突如として、黄金の剣を持った、数千の純白の羽を生やした天使のような存在に囲まれていた。

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