第11話 2度目の邂逅 勇者の死
俺が目を覚ますと、そこは塔の上だった。
遠くで激しい戦いが繰り広げられているのが見えた…あれは、ヴァイルと、あの勇者か。
「貴様は我が絶対に殺してやる!!死ね!!」
「誰がお前に殺されてやるものかっ!!おとなしく俺に服従しろっ!!」
そんな言葉をかけあいながら、二人は殺しあっていた…形成は均衡している様だ。
ヴァイルが目にもとまらぬ速さで剣を振るって、勇者はぎりぎりでそれを防いでいる。
反撃もこなしているようで、ヴァイルと勇者はすでにぼろぼろだ。
「何がどうなってるんだ…?」
俺はそうつぶやくと、自分の体に目を向ける。
なぜか鉄縄でぐるぐる巻きにされていた。
邪魔だと思い、ちょっと力を入れると、蒼い光が体から発せられ、鉄縄が轟音と共に消し飛んだ。
「は?」
意味が分からない。いや、いくら力が強くなったからと言って、これはありえないだろう。
「アレンっ!?無事なのねっ!?」
「か、回復します!!」
俺に気付いたクローディアとリリアが駆け寄ってきて俺の体をなでまわす。
淡い光を放つリリアの右手が俺の体を這いずり回る。
「…やばい、気持ちいい…ってちょっと待て!ヴァイルが戦闘中だろう!?」
なぜか下の方が元気になってきたのであわてて俺は二人をどかし、ヴァイルの方を見る。
すると、勇者とヴァイルの両方と俺は目があった。
「主!無事だったのだなっ!?」
「貴様ぁあああ!?なぜ傷がふさがっている…!?」
ヴァイルが目を輝かせながら俺を見てきた。
勇者は俺への殺意でいっぱいのようで、インベントリから拳銃のようなものを取り出すと、俺たちに向けて乱射し始めた。
「奥義、【フルバースト】ッッ!!」
俺が見ている世界が、瞬時に止まった…ように見えた。
いや、勇者が四方八方でたらめに撃った弾は、確実に俺やクローディア、ヴァイルとリリア…そして、気を失っている王様っぽい人や、兵士たち…さらにはセルリアの方にまでそれは進み続けていた。
そんなすべてがゆっくりに見える世界で、俺は通常の速さで動けた。
(なんだこれ…って、今は考察してる場合じゃない!!)
俺は急いで全ての銃弾の進行方向に【絶対障壁】を張る。
すると、世界が通常通りに動き出した。
「全部死ねぇ!!死んでしまえぇ!!」
半狂乱状態に陥っている勇者は、銃を撃ち続ける。
だが、そのすべてを俺の障壁が防ぎきる。
それにやっと気づいた勇者は、俺の方を見て…
「この、魔王がああああああ!!死にさらせぇええ!!」
俺に剣を向けて、突っ込んできた。
万感の思いを持って、俺はそれに相対する。
瞬時に右手にロングソードを出現させる。
同時に、爆発的な蒼い魔力があたりにまき散らされる。
そして、一喝。
「ふざけるなっ!!」
それは、異様な光景だった。
俺の一喝は空気を震わせ、勇者の体を進行方向とは逆に吹っ飛ばしながら、ずたずたに切り裂いたのだ。
あたりに鮮血が舞い散る…だが、切り裂かれた勇者の体はすぐに元の通りに修復された。
「な、なぜ俺が吹き飛ばされるっ!?俺は最強のはずだっ!!どうしてだっ!!魔王!!貴様っ、俺の魔力を奪ったなああ!?」
俺に指をさしながらあらぬ言いがかりをつけてきた。
視界の端には、緊張が抜けたのか、膝をついたヴァイルと、俺をガン見しているクローディアとリリア…そしてセルリアがいた。
「ご主人様っ!!」
俺に声を掛けてきたセルリアを、俺は手で制す。
何も言わなくてもいい。すべて把握した。
俺の仲間たちがここにいる。しかも女性ばかりで、みんな装備がぼろぼろだ。
簡単に推測できるソレに、俺の怒りが高まっていく。
周囲の空気が、俺の怒気にあてられたようにピリピリと魔力を帯びるのを感じた。
「おい、勇者とやら…。お前は本当に下衆だなぁ…?」
声のいら立ちを隠せなかった。まあ隠すつもりもないのだが。
当の勇者はというと、俺の殺気を全身に受けているのか、足が震えていた。
一歩踏み出すと、
「ひぃ!?よ、寄るな魔王っ!!」
勇者は二歩下がる。
「俺が…魔王?はっ…いい加減にしろ。俺が魔王だとしたら…このあたり全体、有無を言わさず吹っ飛ばしてる。」
あたりはとても静かだ。
今から俺は同じ人間を手にかけようとしている。
だが、罪悪感はない。
3歩、勇者の方へ行く。2歩の途中くらいで、勇者は腰を抜かしてしまった。
「さ、最高神の命令だったんだっ!!俺は悪くな「黙れっ!!俺の嫁たちに手を出して、生きていられると思うなっ!!」
再び俺の声が奴を切り裂く。
「ぎゃああああ!!た、助けてくれ!神様ぁ!!」
だが、治癒能力で奴の体は瞬時に治る。
勇者の眼はすでに絶望の色で染まっていた。
「【不死族化】」
俺はゆっくり、スキルをつぶやく。
すると、体中に力がみなぎり、髪は銀髪で腰くらいの長さになった。
体格もよくなった気がする。
「あ、あれは…伝承の…不死族か…!?」
俺の強化された聴力が、はるか後方にいる王様っぽい人の呟きが聞こえた。
だが、そんなことはどうでもいい。
「す、姿を現したな魔王!おい、王!早くこいつを最高神と会わせろ!!」
その言葉は俺には聞こえなかった。
今は、目の前の奴を殺す。ただそれだけのことしか考えられなくなっていた。
商業都市での奴の攻撃…思い出しただけで、俺の腸は煮えくりかえる。
バチバチと魔力を放っているロングソードを、俺は天高く振り上げ、俺は言う。
「【瞬光剣】ッ!!」
瞬時に膨大な魔力が俺の剣から発せられ、目の前の勇者を蒼い光の奔流が瞬く間に飲み込む。
眩い光の中、俺は確かに手ごたえを感じる。
「ぎゃあああああああああ!!」
剣を振り切ると、光の波は収まった。
勇者の居た一角は、数十メートルの円形にくぼみ、跡形もなく吹き飛んでいた。
その時、ログが更新された。
ー勇者の死亡を確認ー
ー最高神権限により、勇者の資格が、アレンへ譲渡されましたー
ー勇者資格譲渡により、イベント【魔王の打倒】が発生ー
ー謁見の間への扉、イベント終了まで使用不能ー
ーイベント終了条件 魔王の戦闘不能ー
「は…!?【魔王の打倒】!?勇者資格譲渡!?どういうことだっ!?」
それは勇者が俺に変わったということを示していた。
ー魔王反応を確認ー
ー場所 聖国周辺ー
静まり返る屋上に、一人の兵士がやってくる。
そして、王にこう告げた。
「魔王が襲来しましたぁああ!!」
「なにいいいい!?」
王の叫び声が、屋上に響き渡った。




