第3話 1度目の邂逅
俺は激しい衝撃に息が詰まる。
銃弾が腹にあたって、まっさかさまに地上へと落ちたのだ。
「ぐっ!!がはっ!!」
せき込むと、口から多量の血が噴き出た。
口いっぱいに鉄の味が広がる。
どうやら銃弾は腹を貫通しているらしい。
…だが、不思議と痛みは感じない。
「うぉおおおお!魔王だっ!魔王を殺せぇ!!」
不意に、周りの白い甲冑の男たちが雄叫びを上げて俺に殺意の視線を浴びせてくる。
振り下ろされる剣。
「うぉ!?くっ…!」
俺は当たる寸前で剣を避ける。
だが、ある違和感を俺は感じた。
なんだか、体が思うように動かないのだ。
すると、視界の端でログ画面が更新されていた。
ログ
ー状態異常【呪い】発生ー
ー能力に制限がかかりました。-
「なっ!?」
こんな状況で!?なんと運の悪い…。
弾丸に何か仕込まれていたのか?…そんなこと考えてる場合じゃない。
殺らなきゃ、殺られる。
俺はそれを痛感していた。
思うように動かない体だが、それでも十分敵兵の速さには追いつける。
愛用のロングソードを出そうとしたが、呪いのせいか、なぜかロングソードは現れない。
「くっそ!!おらああ!!」
全力の俺の一撃が、敵兵の剣をすり抜け、腹にあたる。
「ごぶへっ!!」
変な悲鳴を上げたその男は、原型もとどめないほどに爆散する。
後に残ったのは、無傷の剣だけだ。
俺の右手は返り血で真っ赤に染まってしまっていたが、すぐさま剣を拾い、上空からの記憶を頼りにガイゼル達の方へと歩みを向ける。
その時、遠くでセルリアの声が聞こえた。
確かに、聞こえたのだ。
男たちの雄叫び、悲鳴、剣戟の音…それらを乗り越え、その声は俺に届いたのだ。
「誰か……助けて……」
と。
そこからの記憶は定かではない。
自信の異常な能力を全て発揮して敵を斬り、殴りつけ、蹴りつける。
一直線に声のした方へ行くと、あられもない姿のメイドたちが居た。
そこで、俺はブチ切れた。
先ほどからのやり取りで、聖国は勘違いして襲ってきているのだと思っていたが、もうそんなことはどうでもいい。
このような戦場で、しかも敵であった女を…奴らは手籠めにしようとしていたのだ。
許せるわけがない。
しかも、セルリアまで男に組みふされていて、その柔肌がさらされてしまっていた。
「【瞬光剣】ッッ!!」
淡く蒼い輝きを纏った俺の剣は、まっすぐに一人のメイドを捕らえている男の首を斬り飛ばした。
余波で周りにいた敵兵が吹き跳ぶが、メイドは衝撃を受けていない…不思議だったが、そんなことをいちいち考察している暇なんてない。今は皆を守ることの方が大事だ。
「あ、あり「礼は後だっ!!まずはこのクズどもから、みんなを救うぞっ!!」
半裸のメイドをおんぶしたとき、俺の体からまたしても血が噴き出る。
自然治癒能力も働くには働いている様だが、呪いの浸食が強く、回復が追いついていないのだ。
だが、そんなこと、気にしていられるか。
「こンのヤロウ…!!死ねぇええええ!!」
セルリアに当たらないように気を付けながら、敵の首を飛ばす。
切断面から血が噴き出て、男はどうと倒れ伏す。
涙を流しているセルリアに手を差し伸べる。
「もう、大丈夫だ…またせたな。セルリア。」
一層セルリアの頬を伝う涙は量を増す。
何も言えないようなので、俺はセルリアにガイゼルのところに戻るようにいった。
セルリアもここは戦場だとわかっていたので、おとなしく仲間たちと下がり始める。
ほかの商業都市の騎士団の連中と合流し、俺も戦線に加わった。
騎士の奴が俺のけがを見て、下がるように言ってきたが、俺は耳を貸さない。
だって、ここで戦わなかったら…男じゃないと、思ったから。
全身に魔力をいきわたらせるように意識を集中する。
「あ、あれは、身体強化…なのか!?」
周りの騎士たちが闘いながら、俺を見て、何か言っているが、そんなこと関係ない。
魔力を循環させ、浸透させる。
そして、目の前の敵兵たちの前に瞬時に躍り出た。
「うおおぉおぉおおおおお!!」
俺はありったけの力を目の前の敵にぶつける。
神速の速さで、抜刀。
敵を斬り伏せる。
一人、二人、三人…十人…二十人…。
五十人を斬ったところで、段々とめんどくさくなってきた。
そして、俺は思い出す。
【魔力爆散】の存在を。
俺はためらいなく使う。
もう、どういう風に使えばいいかなんてこと、分かり切っていた。
闘技場を無作為に破壊してしまったのは、魔力の扱いが下手だったからだ。
方向を指定してやれば、爆破は思った方向への砲撃に変わる。
俺は手に持っている剣を中心に見立て、敵を斬ったその刹那に、それを発動させた。
「【魔力爆散】!!!!」
突きと一緒に放たれたソレは、目の前を蒼く塗りつぶした。
眩い輝きが、あたりに破滅の光をまき散らす。
土はえぐれ、人や物も消え去るその必滅の一撃は、爆破方向へ向けた放射線状に滅びをまき散らした。
はずだった。
次の瞬間、俺が目にしたのは…
「お前がアレンかっ!!いやあすげぇ破壊力だなっ!?」
全てを防ぎ切り、ぴんぴんしている日本人と、兵士たちの姿だった。




