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第16話 黒い閃光とデスヒーラー

「なんだっ!?邪魔するなっ!!」


いきなり空から落ちてきた黒髪の男に怒鳴るアレン。


「いてて…ごめんごめん……まあ、両者ともに剣を収めてくれよ…」


顔を伏せたまま両手を開き、手のひらをアレンとアテネ、ラズエルのいる方へ向ける男。


「俺は急いでるんだ!!お前らなんかにかまってる暇はないっ!!」


必死の形相で叫ぶアレンに、男は静かに告げる。ゆっくりと顔をあげ、アレンを見つめる。

その目は白目の部分が赤色になっており、黒目は漆黒…光を反射しない虚無のような目を、その男はしていた。

それを見た瞬間、アレンは言葉を発せなくなってしまう。


「君は、君の妻を信じてあげられないのかい?あの程度の魔物、倒せなくてどうするんだ…これからの君たちの歩む道は、これよりももっとつらく、激しいものだよ?」


「っ…!!」


その言葉に悲しそうな、悔しそうな顔をするアレン。


「ふふふ…そう、素直さが大事だよ。若者は…ところで、アテネ、ラズエル君…君たちは一体何をしてるんだ?」


男が現れた瞬間に動きが止まっていた神と天使をアレンは見る…すると、なにか黒い縄のようなものが彼女らを縛り上げているのが見えた。


「ぐっ…ハデスぅぅぅ!!貴様!!絶対に、殺して、やる!!」


ラズエルが怒りの形相で男…ハデスを見る。

彼女の目からは、なぜか涙があふれていた。

そして、アテネはなんの感情もないように見える。


「アレンを、殺しに来たんだ。世界のバランスを保つために、守るために、さ。」


アテネは静かに答える。

ハデスはイラついたように頭をガシガシと掻きながら、アテネをにらむ。


「なぜだい?なぜ、君たちはそうまでして愚かなんだ…今の神の現状をみろ…皆が堕落し、腐りきっている…しまいには遊びで自分の世界に地球人を招く愚か者までいる…そういう無能な輩や、君達みたいな『私たちは真面目に世界を守ってます』的な奴…僕は、大っ嫌いだぞ?……アテネ、君ならあいつの死を望んでいると思ったんだけどね。」


その瞬間、アレンはハデスから、全身を圧迫されているようなプレッシャーを感じた。


「ひぅっ!!」


「…ハデス…」


アテネはうつむき、ラズエルに至っては気絶してしまっている。


「去れ!!貴様らはここにいるべきではない!!」


そこで、ハデスは世界が壊れるような、恐ろしい声を放つ。

それは、空気を震わせ、アレンの肌を傷つけるほどの威力だった。


「くっ…転移!!」


悔しそうな顔をして、ラズエルを連れてアテネは消えていった…。

その異常な光景を見て、ハデスにアレンは問いかける。


「…おい、お前は、誰なんだ?俺の、敵か、味方か…はっきりしてくれ。」


すると、ハデスがこちらを向く。

一瞬でプレッシャーがとけ、アレンは大きく息をついた。


「…敵か、味方か…か。僕は、冥界の王…神様だからね。誰の味方で、誰の敵ってことはないよ…君が、最高神の、敵にならない限りはね…さぁて、少し出過ぎたみたいだ…アレン君。正真正銘の神からのアドバイスをするね。」


ひょうひょうとしたハデスはアレンの耳元へ体を持っていく。


「…神は狡猾で卑怯だ…だけど君はそれを正面からぶち壊さなきゃいけない…頑張るんだよ。『源を示す者』よ…。」


「え!?どういう」


アレンが意味を聞こうと尋ねる前に、瞬時に消え去るハデス。

だが、今は考え込む暇などない。

あの巨大な化け物がクローディアとリリアのいる北の平原にいるのだ…頭に浮かぶ疑問を振り払い、源神ガイアの方を見る。


「…急がないとな…」


先ほどまでいた冒険者らしき集団と、魔物たちが完全に交戦していたのだ。

そして、遠目でよく見えないが、ガイアは小さい何かと戦っているのが見えていた。




―――――――――――




「うおおおおお!!やるじゃねぇか、嬢ちゃん!!」


戦闘中に不意に横を通りすぎた黒猫に声を掛けるヨーグ。


「ふふふ…まだまだ行くわよっ!!【乱斬り】ぃぃ!!」


クローディアは目にもとまらぬ速さで敵陣を駆け抜ける。

そして、彼女が通った道筋には魔物の死体が山のように築かれていた。

その様子を見ていたヨーグは驚く。

彼の奥さんが家事スキルを高める事で使えるようになる包丁技…【乱切り】という技を使っていたからだ。もちろん、戦闘用ではなく、野菜などを斬るときに、だ。

決して魔物をざく切りにするための技ではない。


「あれって…家事スキル、だよな…?……えぇい!細かいことはどうでもいい!!俺たちも手柄を立てるんだ!!あの黒い嬢ちゃんと、デスヒーラーの彼女がいれば負けることはない!!いくぞおおおおお!!」


「ちょっと、ヨーグさん!私は治癒術士です!!【強制治癒】!!」


そういいながら、リリアも前線に出てきて、魔物達を蹴散らしていた。

じゅわっ、という音と共に崩れ去る魔物の体。

その様子はあまりにグロテスクで、熟練の冒険者ですら目をそらさざるを得なかった。


「おいリリアさん!その技、強力なのはいいんだが、見た目どうにかなんねぇのか!!」


ヨーグが吐きそうになりながらリリアにぐちる。


「私だって、好きでこんなことしてるわけじゃありません…!!範囲指定!!ヨーグさん、詠唱入りますので、援護をお願いします!!」


「…わかったよっ!!くそ…」


嫌そうな顔をしながらも彼女を守りながら闘うヨーグ。

そして、ヨーグはもう片方の黒猫が再度目に入ってしまった。

そこには…


「【いちょう斬り】!【薄斬り】!【千斬り】ぃぃぃいい!!ふふふっ…あはははははは!楽しいわね!!あははっ!!にゃあああああ!!」


ものすごい楽しそうな笑顔でスキルを使いまくっている猫がいた。

その姿はあまりに猟奇的…すさまじい勢いで銀杏の葉のような形に切られる魔物、薄くスライスされる魔物、細かい細切れのようになってしまう魔物…とてもじゃないが、見れたものではなかった。


「おぇえええええええええ!!嬢ちゃん!!気持ち悪い戦い方すんな!!」


ちょっと吐いてしまったヨーグ。

リリアはびっくりした様子だが、何ともないように洗浄の魔法を使い、瞬時に洗い流す。


「ちょっとヨーグさん!!戦闘中ですよ!!集中してください!!」


「あれ見てあんたは大丈夫なのか!?そっちの方が驚きだよっ!!」


ヨーグの悲痛な叫びが戦場にとどろく。

もはや周りの冒険者…かなりの手練れのはずのレムト支部長ですら気持ち悪そうな顔をして、口に手を当てていた。

もちろん、千五百はいた魔物達ももはや残りわずかになっていた。


「あははっ!!【千斬り】!【千斬り】!【千斬り】ぃぃぃぃいい!!」


ザクザクーブシュ!、ザクザクーブシュ!、ザクザクーブシュ!

包丁で斬っては魔物の体液がまき散らされ、斬っては散り、斬っては散り…

戦場に立っていたものすべてがその黒猫に恐怖していた。

どこからともなく『黒き閃光』…という言葉が聞こえてくる。

そして、同時にー


「ああ、めんどくさくなってきました!!【治癒】!」


詠唱なしで治癒を成功させている治癒術士はなぜか敵に治癒をかける。

するとじゅわっという奇怪な音をたてて魔物が徐々に蒸発する…。

その治癒しているはずなのになぜか魔物が死に絶えていく光景は、冒険者たちの心に消えない傷をつけることだろう。

それを見た冒険者の口からは、『デスヒーラー』…という言葉も聞こえてきた。



「誰か、この地獄絵図から俺を助けてくれ…」


ヨーグの独り言が、むなしく響いた。

そして、ようやく復帰したレムトは冒険者に号令をかける。


「皆、よく耐えた!!我らの勝利だ!!だが、敵はまだいるぞっ!!ロックタイタン亜種に向かって、進むのだ!!」


クローディアとリリアはようやく我に返り、ロックタイタン亜種と呼ばれた魔物…源神ガイアを見る。

そして、二人は目撃する。


小さい標的に向かって、攻撃をしているガイアを。

周りにいた騎士団たちは撤退を始めていた。

そして、その小さい標的を見たクローディアは、かろうじて、それを認識できた。


「あれって、ヴァイル!?リリアっ!助けに行くわよっ!!」


「ヴァイルさん…!今行きます!!」



二人は空を駆けだし、ヴァイルの元へと向かう。


「ゴアアアアアアアアアアアアアア!!」


ガイアの叫びが、空に響く。

巨大な拳が、完全にヴァイルを捕らえていた…。

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