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第16話 エル・フロウライト

クローディアを抱えて屋敷に戻ってきたアレンたちはなんだか落ち着かない様子だった。



玄関に入ってきたリリアは柱に隠れ、アレンがクローディアをお姫様抱っこして入ってくる…それを見たガイゼルは大笑いしていた。


「ハッハッハ!…青春だな!アレン君!」


「ガイゼルさん…俺の身にもなってくださいよ…」


ばんばんとクローディアを起こさない様に、アレンの背中をたたくという曲芸をやってのけたガイゼルはアレンたちに提案をした。


「まぁ、あんなことがあった後だもう一泊するといい。…衛兵たちの対応は私がしよう……こういうときに、権力は役に立つのだよ…。」


ガイゼルは「くっくっく…」とか言って笑っていた。

完全に悪役だった。


「……。すみませんが、お言葉に甘えてもう一泊させて頂きます。ガイゼルさん。クローディアはもう寝ちゃってるし、リリアもあんな調子なんで…」


アレンの言葉にびくっとなるリリア。

言いながら、クローディアをメイド二人に預ける。

ガイゼルは先日まで使っていたクローディアとリリアの部屋に二人を連れて行くように言う。

リリアはそそくさと部屋に籠ってしまった。



「……まぁ、アレン君。君は知らないようだから言っておくが、この国では一夫多妻制は認められているからな。存分に二人とも愛してやるといいさ…エルはやらんからな。君のような嗜好の持ち主は個人的には好きだが、息子にするには抵抗があるのでな…」


「あんたいきなり何言ってんだ!?というかエルはそういう関係じゃ…」


ほう…とガイゼルはアレンの言葉に目を細める。

とたんにアレンですらたじろいでしまう怒気を纏うガイゼル


「頬に、キスしたのにか…?その気がない…と?貴様…「あぁぁあああ!!失言でした!すいませんっっ!!って…俺はどういう反応をしたらいいんだよっ!?」


「ハッハッハ!!冗談だよ!アレン君!…ふぅ…さて、十分楽しんだところで、結局あいつは一体なんだったんだ?」


いきなり真面目になるガイゼルにたじろぐアレン。

だが、彼もいっぱしの男だ。気を取り直して、わかることを話す。


「あいつは、ファフニールっていう名前らしい…どうやら…その…俺を狙って、『最高神』から使わされた存在…みたいなことを言ってた。実質命令してきたのは『アテネ』っていう神様らしいけど…」


その言葉に疑問そうな顔をするガイゼル。


「わからんな…聞いたことがない…神、か。君はとんでもないものに狙われているようだ…。先ほどの戦いを見る限り、君は常軌を逸した能力を持っている…それと関係しているのか?」


質問されるが、アレンには答えようがなかった。


「…いや、俺にもわかんないな…大体、俺が狙われた理由も、殺されなきゃならん理由もないんだ……しかも、みんなを危険にさらした…そうだ。ガイゼルさん…これを渡しておきます…すみません。ちょっと頼みごとをしたいと思います。」


アレンは先日ガイゼルから渡された短剣を取り出した。

ガイゼルは何かと思い、それを見ると、目を見開いた。


「これは…確かに先日私が渡した短剣…だよな…?なんだこの魔力量は…まるでアーティファクト級の魔術品になっているじゃないか?まさか…アレン君、君は付呪までできるというのかっ!?」


アレンは無言でうなずく。


「ええ…あんまり表ざたにしないで頂けるとありがたいのですが…」


ううむ…と悩むガイゼルだったが、すぐさま快い返事を返してくれた。


「わかった…娘の恩人がそういうのであれば私はそのように計らおう。…それで、私に頼みごと、とは?」


本題に入るガイゼルは爛々と目を輝かせていた。


「ええと…クローディアとリリアが起きたら…」



話し終えたアレンはガイゼルを恐る恐る見つめる。

ガイゼルはうなる。


「君は、それでいいのか?もし、まぁ、絶対ないと思うが、想定外のことが起きたらどうするつもりだ?」


「俺が二人を思う気持ちを舐めてもらっちゃこまりますよ。勿論…アイツを護衛につけます。見つからないように。」


ガイゼルはため息をつきながら、仕方がない。と呟いた。


「いいだろう。友人の頼みだ。それと、アレン君。私のことはガイゼルと呼び捨てにしてもらってかま「それだけは遠慮しておきます…周りから何を言われるかわかったもんじゃないからな…」


そんなやりとりをした後、アレンは自室ではなく、ガイゼルの屋敷を出て、どこかへ行ってしまった。

そのなんとも言えない背を見たガイゼルは思う。


(まったく…回りくどいことをするなぁ…若者よ…だが、アレン君ほどの力を持つものが周りに与える影響は計り知れん…この方が、よいのかもしれんな。後は、彼女たち次第だが。)






――――――――






人知れずアレンが去ったのち、ガイゼルが個々に夕食を部屋でとるようにと頼まれたリリア、クローディア、エル。


だが、リリアはもうすでに疲れ切ってしまっていたのか、すぐに眠りに落ちてしまったらしい。


クローディアもあのまますやすやと眠ってしまったとのこと。


エルだけが食事を部屋でとったあと、ベッドにごろんと横になり、考える。


少女、エル・フロウライトは困っていた。


(…完全にわたくし、空気ですの…。)


そう、彼女はアレンが戦っているときも、クローディアとリリアがアレンに駆け寄っていっている時も、何もできなかったのだ。


(まあ、別に構いませんの…アレンさんががんばっていた時も、わたくし何もできなかったですし…強く…強くなりたいですの…もう、お父様やアレンさんに守られるような弱い女に甘んじるつもりはありませんの…。)


そう思ったエルはなぜか別れ際にアレンの頬にキスしたことを思い出す。

とたんに熟れたリンゴのように顔が赤くなってしまうエル。

その時、手紙のようなものが一枚、開け放たれたテラスから彼女の頭の上に舞い降りる。


(なんですの?これは…手紙…?)


封筒の表にあった宛名は『エル・フロウライト様』。

そして、封筒の裏の右下には


『アレンより』


と書いてあった。あわてて開封するエル。


そこには流麗な文字でこうあった。


『こんばんは。エル。こんな形で手紙を渡したことをまず謝罪したい。ごめんな。

君がこれを読んでいるとき、俺は屋敷を去っていると思う。

なぜか、と君は疑問に思うだろう、だが、詳しくはガイゼルさん…君のお父さんに聞いてくれ…。

ちゃんとした言葉は必要だったと思う。だけど、そうもいっていられない事情ができてな…。』


その文章の後には魔術文字が書いてある。


その下にはアレンの文字でこうあった。


『これに触れてみてくれ。これからの君に役立つものが入っている…俺からのささやかなお礼とお詫びってやつだ。


ひと段落ついたら、また会おうぜ。


君の友人 アレンより』



エルはなにがなんだかよくわからなかったが、一つ確かなことがある。

明日、父に聞けばすぐわかるということだけだ。


そして、手紙にある文字に触れる。


すると、蒼い魔力がエルの部屋中に広がり、キラキラと光り輝き始める。


「わぁ…すごい…ですの…」


蒼い魔力で形作られた蝶や鳥たちが部屋の中を飛び回る。

それはこの世のものとは思えないほどきれいで、幻想的な風景がエルの目の前に広がる。


そんな風景に目をとられていると、エルの目の前の鳥が球状に変化する。


すると、一つの首飾りが出てきた。

それは、蒼いサファイアに魔術刻印が施されたものだった。


それを手に取ると、周りの蒼がサファイアめがけて収束していく。


気が付くと、周りはいつもと同じ部屋に戻っており、エルの手の中には一つのサファイアの入った首飾りがあった。


「これは…綺麗ですの…でも、これが、私の役に立つもの…?」


疑問に思っていると、いつもまにか一枚の紙が置いてあることにエルは気が付いた。


それを見て、エルは目を見開いた。

そこにはアレンの文字で、首飾りの能力と、メッセージが書いてあった。



名称:蒼結晶


耐久力:∞


付呪効果:【不滅】

     【魔力増強】LV300

     【魔術強化】LV300

     【緊急時能力伝導】LV-




『今日からこれはキミのものだ。好きに使うといい…だけど、これを使って人を殺したりはしてはいけないよ?これは君を守るために俺が作り上げた至高の逸品だ。決してそこらへんの石に付呪をしたわけではないぞ?……ホントだからな?………さて、俺からの頼みなんだが、これは常に肌身離さず持っていて欲しい…まぁ、すぐそばに置いておくだけでもいいんだが。これがあれば君の身の安全は保障される。風呂とかにつけても大丈夫なようになってる。どれだけ乱暴に扱っても壊れる心配はない。』




(これ…アーティファクト…『神の遺物』よりすごい能力ですの…)


エルはその能力値にただ驚くばかりだったが、しばらくすると、アレンの手紙も、一枚の紙もすべて蒼い粒子となって消えてしまう。



(アレンさんからの、贈り物…)



エルはどこにいるかしれないアレンを思いながら、今日は眠りにつくことにした。

今日の出来事はエルには激しすぎたのだ。




きらきらと輝く首飾りを見ながら、エルの意識は知らないうちに眠りに落ちていた。

さて、これで第2章は終了です。

次からはアレンが去ったその後のお話からスタート…する予定です。

主に、リリア、クローディアのお話になると思いますが。


今後とも、『ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?』をよろしくお願いいたします。

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