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第9話 思いがけない再会

商業都市の中心部には、円形に広がる大きな建物がある。そこが、闘技場と呼ばれる場所だ。

そこで行われるのは賭け事だ。人と人、魔物と人、魔物と魔物が血肉を削り合って勝負し、見物客はその勝ち負けを予想するのだ。

試合に出るものは基本的に死なないようになっている。コロシアム全体が魔法陣となっており、それが働いている間は気絶したり、重傷を負うと人の場合はすぐさま医務室へ転送される。魔物は専用の施設へ転送され、そこで治癒される。

闘技場で戦う者にも報酬が与えられる。試合はトーナメント式で、一週間に1試合消化される形だ。


そんな市民の娯楽の会場は今、かつてないほどの熱気であふれていた。

原因は間違いなくアレンだ。

その日の朝に掲示板に張り出された手配書の人物が、捕まったという事実が市民たちに発表されたのだ。

そして、そのアレンは「罪人の審判」にかけられることになったという…娯楽に飢えている市民たちはこぞって犯罪者の顔を直に見に来ていた。



そんな闘技場がよく見える特別室に、ゲイルはいた。


コンコン、と小気味よいノックの音がする。

ゲイルが入れ、と一言掛けると初老の男性…執事のギルグが入ってきた。


「ゲイル様…ガイゼルがやってきました…エルとあの冒険者と、あと…女が二人一緒です。」


その知らせに笑みが深くなるゲイル。


「ガッハッハ!!……顔を見るまでもない…早く【罪人の審判】を開始せよ!!」


扉越しの声に、ギルグは勢いよく返事をし、騎士団に命令する。


「さて、…時間を長引かせるのも面倒だ…少し弱らせておけ。」


「ハッ!!」


返事をした騎士は駆け出して行った。


「審判は正午過ぎから行います…それまでお待ちください。ゲイル様。」


「よし…あとはエルの誘拐だ……これでガイゼルもお終いよっ!!ガッハッハッハ!!ああ…そういえば、女二人はなんだ?アレンという愚か者の仲間か?」


「そのようですが…」


「そうか、その女二人もついでに拘束して、余のもとへこさせよ…奴の死を目の当たりにしながら痛めつける女の悲鳴が早く聞きたいのう…ガッハッハッハ!!」



部屋の中で下卑た笑い声をあげるゲイル。

後ろからする笑い声を気にも留めずギルグは持ち場に戻った。






—————————




闘技場の舞台裏にアレン達は連れてこられていた。


「おい…そんなきつく締めるなよ…逃げねぇってのに…」


ガタイのいい騎士に縄で縛られる一同。


ガイゼルとエルは到着してすぐに騎士団と一緒にゲイルのもとへ行っている。


そこへ、初老の紳士がどこからともなく現れた。

そして、クローディアとリリアを見ると


「…おい、そこの女二人をゲイル様のもとへ連れて行け。」


「ハッ!かしこまりましたっ!ギルグ様!」


「え!?ちょっとまってください…!あうっ!なにするんですか!?」


「なによっ!触らないでよっ!…くっ!」


騎士たちに瞬く間に縄で縛りあげられるクローディアとリリア。


それを見て血相を変えるアレン。


「おい!ちょっとまて!そいつらは関係ないだろうがっ!!」


それを見てフンと鼻を鳴らすギルグ。

騎士たちはかまわずクローディアとリリアを担ぎ上げ、奥へと消えてしまった。

アレンはギルグを睨み付ける。


「おい、俺の仲間をどうする気だ!」


「そんなに吠えるな…なに、ゲイル様の慰み者にするにはちょうど良いと思ってな…なに、貴様はここで死ぬのだ。女の一人や二人、大したものではなかろう?」


それを聞き、全力ですべてをぶち壊したくなったアレンだが、耐える。ガイゼルと、エルのために。

クローディアとリリアのために。


「覚えてろよ…このクズが…!」


「おぉ…こわいこわい…騎士たちよ、コイツを痛めつけよ。」


その言葉に騎士たちに殴られ、蹴られるアレン。


(ちっとも痛くねぇ…ふりだけでもしとくか…)


ぐぅ、とか、がはっ、とか言うアレン。


ある程度痛めつけられたアレン(体力は減ってすらいないのだが)は闘技場の入り口まで連れてこられた。そこには、5人ほどのみすぼらしい姿をした男たちがいた。


(あれ?刑を執行されるのは俺だけじゃないのか?)



外で拡声魔法をつかった男の声がする。


『さぁ…本日のメインイベント…犯罪者に『罪人の審判』が執行されます!!この罪人の名はアレン!なんと冒険者だ!この男、なんとゲイル市長の命を狙った不届きもののリーダー!そんな男たちの末路はきっと悲惨で、凄惨なものになるでしょう!!皆様、準備はいいですか…?それではまず、犯罪者を蹂躙する…魔物の登場だぁあああ!!』


わああああっと湧く観客たち。



そして、アレンから遠いが、向かいの柵が開き、巨大な白いドラゴンが3体、姿を現した。

咆哮する3体の竜。



「「「グオォォオオオオオオオオオオオオ!!」」」


それに負けじと司会の男も絶叫する。


『魔物の名は、裁きの竜!勇者王イシュタル様が捕獲したものが先日届きました!これまでの魔物の中でも最強の部類です!』


その言葉に観客はまたもや歓声を上げる。


裁きの竜は北の極限…魔の山の頂上に生息している希少な魔物だ。力も強く、一瞬で敵を凍らせるブレスを吐く。危険度SSSのこんな闘技場に出させる魔物では本来ないのだが、ゲイルがペット用として勇者王に依頼をだしていたのだ。


『さあ、次は犯罪者たちの登場だ!!少しはいい戦いを見せろよ!?』


アレンと5人の男たちは目もあわさずに騎士たちに促され、進む。


その途中、男が二人、入ってきた。


「この野郎どもめ!俺の娘をあんな目に合わせやがって…俺がまずお前らを殺してやる!!」


一人の男が5人の男を棒で滅多打ちにする。


頃合いを見て騎士が止めに入っているのを横目でアレンは確認していた。


アレンは他を気にする余裕なんてなかった。なぜなら、もう一人入ってきたその男を見て、驚愕した。


それと同時に、騎士がアレン達の持ち物を没収しようとしてきた。


「おい、持ち物はこちらで預かる…汚れた犯罪者め…お前らみたいなのはみんな死んでしまえばいいんだ。」


しかしそこでアレンの目の前にいる男が騎士に語りかける。


「おい、持ち物は没収してやるな…あんなドラゴン相手、持ち物が万全でも、こいつらでは倒せん。自分の使い慣れた武器があれば戦う気力も湧いてくる…最終的には絶望を眼に浮かべ、死にゆく様がみられんだ。悪い話じゃあないと思うが?」


その言葉に特別だ、と騎士は見逃してくれた。


男5人が先に闘技場に出る。


男は続いて素早く部屋を出ようとしたアレンのすぐ目の前に立つ。

アレンは何も言わない男に観念したのか、話しかけざるを得なかった。


「ヨ…ヨーグのおっちゃ「バカ野郎!このクズが!お前、お嬢ちゃんはどうしたんだ!?一緒に冒険者やるんじゃなかったのか!?」


「ち、違うんだ!!これは冤罪なん「冤罪ならのこのこつかまってんじゃねぇ!!さっさとあいつら倒して、無実を証明して見せろ!!」


ヨーグの目に涙が浮かんでいるのを見たアレンは耳元でささやく。

こんな状況でも信じてくれるヨーグを見たアレンは申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、言わなければ。


「俺、負けないから。いくらゲイル市長が俺に罪を被せてきても、俺の心にある正義は揺るがない。おっちゃん。泣くな。勝って、全部終わらせたら、事情を説明するよ。リリアも、クローディアもみんな無事だ。」


「絶対、だぞ。クソガキ。死んだら俺がもう一回ぶち殺しにいってやるからな…。まったく、今日はなんて日だ…闘技場の犯罪者の躾っていう珍しい報酬のいい依頼があったと思ったら、クソガキがいるなんてな…」



その言葉を最後に、アレンはヨーグの前から立ち去る。





この茶番を終わらせるために。

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