表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

奇跡というには残酷な

作者: 小鳥遊浅葱

 少年は、丘を登る。

もともと少ないスタミナを使い切って、はぁはぁと息をたてながら、それでも一心に登っていく。

 時計の針はもうすぐ12を指そうとしていた。細い腕にきつく巻かれた時計を確認し、少年は足を速める。

 

「大切な日に限って時間ギリギリなのはいつもお前だったのにな。」

 

 頂上まで最後の一歩を踏み出した。もう息は切れていない。心も頭も、すっきりしている。こんな気分になるのはいつ以来だろう。

 刈り込まれたばかりの草の上に寝転がる。すぐ目の前に、星空があった。


「間に合ってよかった・・・。」


星の中でもより一層大きな輝きを放つその星を見据えながら、少年は言った。

「誕生日、おめでとう。」


 

 少年は、丘を登る。

言いたいことがたくさんある。言い残したことが山ほどあるから。

「やっぱり僕はいつも、時間ギリギリだね。」

 頂上まで最後の一歩。駈け出そうとした足はふわりと浮いて、地についた。


 真っ黒な丘の頂上で寝転がりながら星を見る君。

その隣に腰を下ろした。

 何から言おうか、言葉を選ぶうちに君が先を越す。


「誕生日、おめでとう。」


 風が吹いたようだった。風はすべてをさらう。少年の後悔、未練、悲しみ、痛み。

涙で顔をぐしゃぐしゃにした少年は、「ありがとう。」満面の笑顔でそう呟いた。



 空に一番近い場所で彼らは同じ星を眺めていた。

時計の針が12時を回る。目を真っ赤にはらした少年が立ち上がり、星の中へとけるように消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ