奇跡というには残酷な
少年は、丘を登る。
もともと少ないスタミナを使い切って、はぁはぁと息をたてながら、それでも一心に登っていく。
時計の針はもうすぐ12を指そうとしていた。細い腕にきつく巻かれた時計を確認し、少年は足を速める。
「大切な日に限って時間ギリギリなのはいつもお前だったのにな。」
頂上まで最後の一歩を踏み出した。もう息は切れていない。心も頭も、すっきりしている。こんな気分になるのはいつ以来だろう。
刈り込まれたばかりの草の上に寝転がる。すぐ目の前に、星空があった。
「間に合ってよかった・・・。」
星の中でもより一層大きな輝きを放つその星を見据えながら、少年は言った。
「誕生日、おめでとう。」
少年は、丘を登る。
言いたいことがたくさんある。言い残したことが山ほどあるから。
「やっぱり僕はいつも、時間ギリギリだね。」
頂上まで最後の一歩。駈け出そうとした足はふわりと浮いて、地についた。
真っ黒な丘の頂上で寝転がりながら星を見る君。
その隣に腰を下ろした。
何から言おうか、言葉を選ぶうちに君が先を越す。
「誕生日、おめでとう。」
風が吹いたようだった。風はすべてをさらう。少年の後悔、未練、悲しみ、痛み。
涙で顔をぐしゃぐしゃにした少年は、「ありがとう。」満面の笑顔でそう呟いた。
空に一番近い場所で彼らは同じ星を眺めていた。
時計の針が12時を回る。目を真っ赤にはらした少年が立ち上がり、星の中へとけるように消えた。