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信用をかけた決闘

ウルガ森林内にも一応道がある。いや、「道らしきもの」と言ったほうが正しい。中世程度の技術能力しかないこの世界では仕方がないかもしれないが特に森林内の道は劣悪の度を越えている。路面は凹凸が激しいので馬車の乗り心地は最悪、酷いときには魔物に馬車を襲撃されてたまに道端に転がってる死体の仲間入りをすることもある。後者は最近は減ってきてはいるが、サスペンションの概念すらないこの世界では馬車の乗り心地が改善されるのはまだまだ月日が経つのを待たねばならない。

そんな道を走る一台のトラック。言うまでも無いが佐倉が能力で出した軍用トラック「73式大型トラック」だ。


1973年から配備され幾度の改良を経て現在も使用されている自衛隊の主力トラックであるこの車両は高い耐久性と汎用性を持ち、東日本大震災では海水に浸かっても使用でき、海外派遣では隊員と共に派遣され難民への物資の輸送など正に自衛隊の縁の下の力持ちのような存在である。


「すごい!こんな道をまったく揺れずにしかも馬もいないのにこんな速く進めるなんて!」


「興奮するのはいいがそこらへんのものは触るなよ。」


ハンドルを握る佐倉が助手席で子供のように目を輝かせているリディアに注意する。

昨夜、自己紹介を済ませて少し話を聞いたところどうやらリディアは俺たちのことをギルドから密命を受けた冒険者だと勘違いしていたらしい。本人は隠そうとしていたが嘘が下手なのかすぐに判った。その後はなんとか旅人であることを納得してもらったが、尊敬の念を抱いたのだろうか話すときは敬語になった。


「おい、何そこでイチャついてんだ。」


後部の荷台に座る山名が冷やかしてくるが俺はそれを聞き流して運転に集中する。特にリディアに運転席をいじられると困る。荷台には野口と芥川が戦利品であるギガント・マンティスの鎌を芥川の能力で出したロープで縛っている。


「そろそろ森林を抜けるはずです。ほら、あれが出口ですよ。」


「やっと出口か。」


野口が荷台から身を乗り出し風を肌で感じる。ふと、森の外はどんな風になっているのかという好奇心が働いて視力を鷹に設定する。


「すごい…、さすが異世界!」


「ああ、壮観だな。」


「小学生以来だよ、こんなにワクワクするのは。」


野口に続き山名と芥川も身を乗り出して見た景色は、地平線まで続きそうな大草原だった。俺も思わず息を呑むが見慣れた景色であるリディアにとっては理解できずにただ首を傾げるだけだ。


「このまま街道を辿ればヒルヒフという村が見えるはずです。そこにはギルドの支部があるので今回の事を報告しましょう。」


「了解だ、ついでだからそこで冒険者の登録を済まそう。」


俺たちが冒険者として生きていくということは昨夜に話し合って即決したことだ。やっぱり男たるもの、そういった刺激的な日々を送るのは憧れであり、ロマンでもある。

そんなことを考えていると前方に目的地であるヒルヒフ村が見えてきた。さすがに村の中まで、しかもファンタジーの「ふ」の字もないトラックで入るわけにはいかないので村から少し離れた場所で降りてトラックを消して鎌だけ担いで村へと入った。


「なんか、めっちゃ見られてないか?」


「ああ、見られてるな。」


「さすがに恥ずかしいな。」


ギルド支部へと向かう途中ですれ違う村人らしき人たちからじろじろと、まるで珍獣でも見るかのような目で俺たちを見てくる。まあ、仕方ないといえば仕方ない。

人々から変な視線を感じつつギルド支部にたどり着き西部劇の酒場のような扉をあける。

ギルド内は賑やかというより騒いでいるのか喧嘩しているのかよくわからないほど喧騒につつまれていた。日本なら確実に近所迷惑のレベルを超えて警察のお世話になるだろう。

昼間から豪快に酒を飲み騒いでいる筋骨隆々のおっさん、隅のほうで静かに酒を飲むベテランらしき中年男性、依頼を慎重に吟味する若い女性、ウエイター兼職員の女性を口説いている若い男性など様々な人がいた。


「こんにちは。本日のご用件は……」


受付らしきカウンターへと進み、そこの担当であろう若い女性が俺たちが担いでいるギガント・マンティスの鎌を見て呆然とする。


「どうかしました?」


「あ、あの…。もしかしてそれってギガント・マンティスの鎌……ですよね?」


「そうですけ」


「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!!??」


「!?」


受付の女性が急に大声をだして、周りの冒険者たちが野次馬のように俺たちに近寄ってくる。


「こっ、こんなものを一体どこで!?」


「近くの森林、ウルガ森林でしたっけ?あそこにいたんで倒しました。いくらぐらいで買い取ってもらえますか?」


「ウルガ森林?馬鹿言っちゃいけねえ、俺はあそこで10年近く狩りをしてるがそんな化けもん見たことねえ。兄ちゃんたち、悪いことはいわねえからさっさと倒した奴のところに戻って謝って来な。」


身の丈ほどもありそうな巨大な斧を持った大男が盗品だと信じて疑わず、周囲もそれに同調する。


「そんな!?この人たちは盗んでなんかいません!!それに、私はしっかりとこの目で見ました!!」


「倒してるところを、か?」


「そっ、それは……その。」


リディアがフォローをいれるがすぐに反論できなくなってしまう。彼女は姿を見はしたものの肝心の倒すところは気絶していて見ていないのであえなく論破されてしまった。


「そもそも、そんな刀一本持たずにギガント・マンティスが倒せるわけねえだろ。」


「そうそう、次からはもっとマシな嘘を考えるんだな‘お嬢ちゃん’。」


「問題事が多くてBプラスへの昇格が白紙になった盗賊もどきのくせに。」


「このクソガキ!Dマイナスが調子に乗りやがって!!」


冒険者というより盗賊といったほうがしっくりときそうな男が顔を真っ赤にして立ち上がり、仲間であろう3人の男が剣に手をかけて周りの野次馬を押しのける。

俺は腰のホルスターに収まってるベレッタの安全装置を外していつでも撃てるように構える。

山名たちも身構え、正に一触即発の事態だ。


「これはいったい何の騒ぎだ?」


突然背後から聞こえた声に全員が振り向く。そこにいたのはまるで威厳という鎧を着た一人の女性だった。


「ぎ、ギルドマスター!?これはですね、その、あの…。」


「大方、そこのパーティーが本当にギガント・マンティスを倒したかどうか、だろ。フィオナ。」


「は、はい。その通りです。」


フィオナと呼ばれた受付の女性は驚きを隠しながらもしっかりと答える。


「冒険者どうしのイザコザには本来ならギルドは不干渉だが今回は例外だ。冒険者でもない人間がランクA級を倒し、その戦利品を持ち帰ったのだからな。そこでだ、こうするのはどうだ?」


ギルドマスターと呼ばれた女性がフィオナに何か耳打ちをすると4枚の紙を持ってこさせた。


「ちょうどこの支部にはランクBプラス級の依頼が4つ来ていてな、どうだ?1つの依頼に対して各パーティーから1人ずつだして依頼をすべて達成したパーティーが勝ちというのは。ランクAマイナス級を倒したんだ、簡単だろう?」





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