ローズナイト
「何故って………、もうわかってるでしょうに。」
廊下の奥から現れた予想外の人物、リリーがまるで自分がここにいて当たり前のような口調で答え俺は足に絡みついた蔓を吹っ飛ばして立ち上がり、向かい合った。
なぜ彼女がここにいるのか。
その答えは簡単に導き出されるが、俺はあまり信じたくはなかった。
「まあいいわ。理由は二つ、私の家がクーデター側だったのが一つ目。最も、ここに来たのは計画から思いっきり脱線したイレギュラーな事なのだけれど。」
「イレギュラー?」
「そう、イレギュラーよ。あなたが昨夜言ったように何処の家も陰で足を引っ張り合い、それぞれ独自の計画を立てていたわ。つまり厳密にはクーデターのような組織立ったものではなくて、唯の烏合の衆よ。私の家、バーナード侯爵家も独自の計画を立てていたのだけれど」
「先の暗殺未遂事件か。」
「あれのせいで計画を大幅に修正せざるを得なかった。で、ここからが二つ目の理由であり私の最大の目的。」
彼女が俺にゆっくりと、握手を求めるかのように笑顔で手を差し出してきた。
「あなたが欲しいのよ。見たこともない武器、仕事に対する責任感、それに私と唯一張り合えるほどの力、どれも侯爵家にとって喉から手が出るほど魅力的なの。幸い、官僚に何人か仲の良いお友達がいて今回の襲撃対象から侯爵家は外れているから時間はかかってもやり直せる。もちろん悪いようにはしないわ、こちらも相応の対価を用意するか」
俺は腰のベレッタを早撃ちの様にホルスターから引き抜いて躊躇いもなく彼女に向けて発砲し、放たれた9mmパラベラム弾が銀髪を何本か抉り取りそのまま突き進んでいった。
彼女は手を差し伸べた状態で茫然としたが、すぐに我に返りスカート内に隠していた短い杖を出して俺に向ける。
「攻撃してはこないだろうと思って高を括ってたけど、まさかやるなんて思わなかったわ。交渉は決裂ね。」
「言ったはずだ。俺は飼い犬になるつもりはない、と。それと」
俺はベレッタをホルスターに戻して再びM1897の銃口を彼女に向け、殺気を放ちながら強い口調で言い放った。
「俺はお前と将来を誓い合った仲でもなければ、身内でもない。罪悪感は最小限で済む。」
覚悟は決めた。あとはそれを実行するだけだ。
冒険者として依頼は受けた以上、何が立ちはだかっていようが遂行する。
それがこの世界で見つけた俺の信念だ。
「そう、なら仕方ないわね。お父様からは五体満足で連れてこいって言われてるけど、半殺しの覚悟はできてる?」
「そのセリフ、そっくりそのまま返すぞ。銃は加減ができないんでな!!」
俺は会話が終わったと同時にM1897を発砲、それと同時に彼女が杖を前方に突き出すと廊下の床が壁の様に隆起して散弾を受け止める。
俺は舌打ちし、チューブマガジン内の散弾すべてを壁に叩き込み最後となる5発目で壁がボロボロになり、遂には瓦解して煙が立ち込めた。
俺はリロードを素早く終わらせ銃口を向けた瞬間、舞い上がっていた煙がまるで突風を受けたかのように吹き飛ばされ、現れたリリーは先ほどのドレス姿とはかけ離れている。
「鎧………?いや、違う。植物か?」
見た目は緑を基調として所々に赤いラインが入った西洋甲冑だが、材質は金属ではなさそうだ。
あのわずかな時間で姿が変わったんだ。早着替えのような手品ではなく、れっきとした魔法だろう。
それに持っているものが杖からレイピアのような剣に変わっている。
俺は動かれる前に発砲して飛び出た弾丸は腕に命中したが、リリーの腕は突き飛ばされたかのように後ろに弾かれ、本人は苦悶の表情を浮かべて俺を睨み返した。
「ッ!!想像してたより、かなりきついわね。ローズアーマーが間に合わなかったら腕が吹き飛んでたわ。」
「12ゲージのスラッグ弾をまともに受けて痛いで済むとは……。少しファンタジーを舐めてたな。」
当たり所によっては一撃で熊を仕留めることができる高威力の弾丸なんだが、あの植物が纏わりついたような鎧はかなり……下手すると物理的な攻撃に対しては装甲車並の防御を発揮するのだろうか。
だとしたらスラッグ弾とはいえ、足止めにしか使えないか。
「今度はこっちの番よ!!」
彼女が刺突の構えをとり、俺は接近戦を予想して後ろに跳びながら発砲しようと引き金に力を加えると。
彼女がすでに目の前にいた。
「んなっ!?」
慌てて回避しようとしたがすでに遅く、リリーのレイピアは俺の肩に深く突き刺ささりその衝撃で散弾があらぬ方向に飛び出した。
肉が抉られ、肩が焼かれるような激痛が走り、彼女は俺が悲鳴を上げる隙も与えずに突き刺さったレイピアを引き抜くと同時に蹴り飛ばし、俺はサッカーボールの様に吹き飛ばされて突き当りの壁に叩きつけられた。
「わかった?これが単純な魔術師としての、覆しようのない才能の差とローズアーマーの力よ。まぁ、これは身体能力を底上げできる代わりに体内の魔力を根こそぎ奪われるから滅多に使えない、いわば切り札みたいなものだけれど使って正解だったわ。これを使わないと勝てる気がしないんだもん。」
彼女が勝利を確信したのか、余裕を持って近づいてくる。
「獲物を仕留めた、狩人気取りか?随分と、余裕じゃ……ねぇか。」
俺は思いっきり咳き込み、口から血を吐き出した。
こりゃあ、あばら骨が何本か駄目になったかな。それに所々に痺れるような痛みが襲ってくる。
立ち上がるのでやっとだろうが、俺はリリーを睨み殺気をぶつける。
「その傷でまだ戦うつもり?まるで手負いのツノギツネね。」
あきれたように言いながら、確実に距離を詰めてくる。
絶体絶命の状況だが、俺にだって切り札くらいある!!
「リリー。俺の国には、こんな言葉がある。」
痛む体に鞭をいれ、M1897を構えて銃口をリリーの胴体に合わせる。
リリーは俺の言葉と行動をを不思議に思うが、それでも十分な距離にまで近づいてきたのを確認して彼女に向かってニヤリと笑みを向け
「追い込まれた狐はジャッカルより凶暴だ!!」
俺は叫ぶと同時に引き金を引いた。
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