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貴族のパーティーは血の香り

「先手を打たれたか。」


翌朝、グラハムさんの私室で昨夜の事の顛末を話したところ彼が苦い顔をした。


「十中八九、狙いは金目の物ではなく君だろうな。」


「取り逃がしただけでなく、屋敷に大きな傷を付けてしまった事をお詫びします。申し訳ありませんでした。」


「いや、いいんだ。屋敷は金で直せるが命は金じゃ直せないからな。そう頭を下げなくてもいい。」


グラハムさんが宥め、俺は頭を上げて部屋を出ようとすると


「そういえば、今朝早くに帰ったリリーから一つ伝言を預かってるよ。」


伝言?


「あの時は馬鹿にしてごめんなさい。だそうだ。」


なるほど。あの時聞き取れなかった部分はこれか。


「ああ、あともう一つあったんだ。」


「もう一つ?」


「昨夜の事は怒らないから黙っててほしい。何のことか私にはさっぱりだが、リリーは君に言えばわかると言っていたよ。」


そのことなら元より秘密にするつもりだ。安心しろ。


「それとサクラ君。」


「なんでしょうか?」


「フィオナの事だが………もう一線は超えたかな?」


笑顔で尋ねて来たが、俺は即座にはっきりと否定した。


あの後、俺は普通に部屋に戻ってソファーの上で寝たのでそんなことはしていない。


「そうか、残念だよ。せっかく既成事実をつくってなし崩し的に婿に迎えようと思ったのだが。ほんとに残念だよ。」


「やっぱりわかってましたか。」


「伊達にあの子の父親をやっていないよ。」


彼がわざとらしく落胆するが、その後は軽い雑談になりしばらく笑いあった後俺は今夜の準備をするために部屋を後にした。
















さて、準備を終え空いた時間を貴族相手の礼儀作法や立ち振る舞い方をフィオナさんのスパルタ授業で教わっているうちに夕方になった。


現在、俺はグラハムさんが昔着ていたタキシードのような正装を借りて王宮の中を歩いていて、隣には薄い緑色のドレスを着たフィオナさんがぎこちない俺のエスコートに合わせている。


王宮とだけあって中は広く上手く言い表せないが、豪華絢爛という言葉が相応しく壁や通路に何気なく置かれている絵画や彫刻なども見る者が見れば興奮するのだろう。


最も、俺には芸術品に関する造詣や鑑定眼などは皆無なので「高そうなんだろうな~」くらいにしか思わない。


そんなことを考えてるうちにパーティー会場にたどり着き、会場内ではすでに多くの貴族たちが集まっていた。


ある者はグラスを片手に会話を楽しみ、またある者は音楽に聞き惚れ料理に舌鼓を打っている。


まさに気品ある社交界だが


「なんか、俺だけ場違いなような感じがするんですが。」


「そっか、こういうのは未体験だったわよね。そのうち慣れるから気にしないで。」


根っからの庶民気質には少し眩しすぎるが、堂々としていれば浮くことはないだろう。


俺は会場の奥にあるバルコニーに陣取り、景色を眺めるふりをしながら会場全体を隈なく見渡し怪しい人物がいないかどうか探し、フィオナさんは参加者との親睦を兼ねた見回りをしている。


社交界こそ貴族の戦場。言葉こそ貴族の武器。


誰が言ったのかは知らないが実に的を得ている。


華やかに見えるこのパーティー会場のなかで参加者たちが何かしらの事で鎬を削っているのだろう。


「あら、あんたも来てたのね。」


「遊びで来たわけじゃないけどな。」


声をかけてきたのはフリルをあしらったロングドレスのような服を着たリリーだった。


手にはグラスを持っているが、まさか酒じゃあないよな?


「安心して、ただの果実ジュースよ。それよりもあんた、自覚してないでしょうけどそこそこ注目の的になってるわよ。」


「注目?変な事した覚えはないんだがな。」


「今まで公式非公式問わず連戦連勝であり天才と呼ぶ人も少なくないバーナード侯爵家の才女、リリー・バーナード侯爵令嬢と唯一張り合った人物であり尚且つあのコードウェル子爵家の四女が婚約者と呼ぶ無名の冒険者。そんな人物が目立たないとでも?」


バルコニーの柵に背中を預けたリリーがグラスに口を付けると、俺に視線戻した。


「今のところは様子見ってとこで話しかけてくる人はいないだろうけど、我先にと近寄ってくるのも時間の問題ね。大方、自分のところの専属護衛にならないか?とかいって引き込みに来るでしょうけどそれをかわし続ける口を持ってるのかしら?」


「忠告感謝するよ。言い寄られたら仕事の邪魔になる。」


「その仕事一辺倒なところも好評価ね。私がただ善意だけであなたの虫除けになるために声をかけて来たと思う?」


「ギルドを通した依頼なら受けるが飼い犬になるつもりはない。そうお前の親父さんに言っといてくれ。」


貴族の専属護衛ともなれば高給取りだし色々な方面の偉い方々とのパイプを作れ、何よりも命の危険が格段に減る。


メリットは大きいが、生憎俺は今の暮らしを気に入ってるんだ。


リリーは残念ね。と呟くとグラスの中身を一気に飲み干した。


「あんまり飲むと昨日みたいなことになるぞ。」


「ちょっ、なんてこと言うのよ!?だいたいあれはあんたが耳元であんなものを使うからでしょ!!まさかあんた」


「安心しろ、嫁入り前の女の恥を公開する趣味は無い。誰にも話しちゃいないよ。」


やっぱ反応が大げさだから面白いな。ただこの辺にしとかないと騒ぎそうだから適当に宥めておくか。


そう考えているとふと、喉が渇いたので会場内を歩き回っているウェイターから飲み物を貰おうと思って一番近くにいるウェイターもしくはメイドを探すと丁度真正面、距離にして10m位のところに発見した。


見つけたのは手に何も持っていないウェイターだが、彼に頼んで果実ジュースでも持ってきてもらおう。


そう思って近づこうとすると、少し違和感を感じた。


あいつはなんで手を後ろに回したまま動かないんだろうか。


少し視線を動かすと彼の斜め前、だいたい数メートルのところには一人の若い女性が4,5人の男性に囲まれて何やら楽しげに会話をしている。


その女性、服装は派手ではないが容姿はかなりの美人だ。


モデルのような美しさ。というよりは少女の面影を残した可愛らしい女性に近く、まるでアイドルのような感じ。といったら伝わるだろうか。


単純に彼女に見とれているだけか?


しかし彼の位置からは後姿しか見えないはずだ。


俺が不思議に思っているとそのウェイターが手を後ろに回したまま彼女にむかって歩き出すと















服の袖からナイフを取り出して彼女に突っ込んでいった。








「危ない!!」


俺が叫びながら一本のナイフを懐から取り出す。


この距離じゃあ身体強化を使っても間に合わず、銃を使おうにも俺には西部劇のガンマンのような早撃ちなんてできない。


しかし、俺が出したのは唯のナイフじゃない。


出したナイフの切っ先を相手に向けると俺はグリップ部分のボタンを強く押し込むと、ナイフの刃の部分だけ勢いよく飛び出した。


俺が出したのは旧ソ連が開発した特殊部隊専用特殊ナイフ、通称スぺツナズナイフだ。





スペツナズナイフ

旧ソ連の特殊部隊、スペツナズが運用したと言われている特殊ナイフ。グリップ内部に強力なバネが仕込まれており、それを利用することによって刃を前方に飛ばす仕組み。射程は5~10mと言われているが、そもそも謎が多いので本当にスペツナズが運用したのかさえはっきりしていない。




なぜ奴が目の前の女性を狙ったのかわからない。


もしかしたら彼女がシャルロット大公では?と思ったが普通主賓が来たなら全員が彼女に注目していなければおかしいので、おそらく奴は陽動役と言ったところか。


ならば速やかに排除したのち本命を探すことに専念しよう。


グリップから飛び出した刃は一直線に進み、進路上にいた女性の髪がほんの数ミリだけ短くなるが刃はそのまま進みウェイターの肩に深く突き刺さった。


「ぐうぉ!?」


奴がくぐもった声を出し立ち止まったが、乱暴に突き刺さった刃を引き抜くと血を垂らし料理の載ったテーブルをひっくり返しながら衛兵が来るよりも早く窓から飛び降りた。


突然の出来事に騒然とし、悲鳴を上げる女性もいたが俺は駆け付けて来た衛兵を捕まえると犯人の追跡とシャルロット大公の護衛を命じた。


この国では冒険者ランクAプラスともなれば正規軍の百人隊長と同等の権限や税金の一部免除などの特権が与えられるが、有事の際は軍の指揮下に入る義務がある。


俺は捕まえた衛兵にギルドの身分証明書となるドックタグのような金属板を突き付けるようにして見せると、衛兵が敬礼をした後行動に移ったのを確認しさっきの女性にけががないか尋ねようと思ったとたん先ほどの衛兵が俺の正面にいた女性を見ると大慌てで直立不動の態勢になり、他の衛兵も彼に続くと













「「「「大公殿下!!お怪我はありませんか!?」」」」















マジで?

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