歴史のおはなし
会話文が少なく長話が続きます。
申し訳ありません。
少し、歴史の話をしよう。
歴史と言っても日本史や世界史のような地球国家の歴史ではなく今俺がいる国、ヴィラーシャ公国の歴史だ。
公国、とあるようにこの国は大公によって治められている国家である。
しかし初めからこうだったわけではない。むしろ「公国」自体、建国からたったの2年しか経っていない。
なので今から俺が話すのはそのたった2年分の歴史ではなくそれ以前まであった国家、「ヴィラーシャ王国」。
その中でも一人の男から話し始めようと思う。
その男の名は、アルベルト・フォン・ヴィラーシャ。ヴィラーシャ王国第36代国王だ。
アルベルト王とはどのような人物だったか?と、彼の治世時代の事を知る人々に尋ねると決まってこんな答えが返ってくる。
普通
そう、「普通」。
これ一択だ。
誉れ高い武勇を持ち広大な領土を得たわけでもなく、天才的な政治手腕で富国強兵を実現したわけでもない。
かと言って重大な失策をした記録もないし、良策をやった記録も存在しない。
その為歴史家の中では彼は無能だったのか、それとも慎重な性格の賢王だったのかで未だに議論が続いている。
そんなアルベルト王だが、彼には一つだけ誇れることがあった。
それは誰にでも分け隔てなく接した事である。
臣下や召使には常に笑顔で接し、どんな些細な悩み事でも真剣に耳を傾けていた。
そういう人柄だったからか、彼の周りには自然と有能な人物が集まり王宮内は常に和やかな雰囲気が漂っていたという。
しかし、彼の治世は長くは続かなかった。
ある時、国中に疫病が大流行し国王自身もその疫病に罹ってしまったことだ。
幸い、その疫病は薬で完治できるものであったため臣下たちが我先に薬を持って駆け付けたが、彼はその薬を押し返すと
「私一人の為に貴重な薬を使うな!!国民と重病人に対して最優先に使え!!」
と、彼は大声で叫んだ。
普段怒ることなんてなかった彼が唯一臣下に向かって怒った瞬間だった。
臣下たちはその命令通りに動きその尽力もあって被害は最小限に抑えられたが、その代わりに大きな代償を支払うことなった。
アルベルト・フォン・ヴィラーシャ王、崩御。享年31歳、若すぎる死だった。
彼の死は国中に伝えられ、葬儀には多くの国民が王宮へと詰めかけた。
葬儀は滞りなく進み、その後の新王の戴冠式も無事に行われた。
即位した新王の名前は、エレナ・フォン・ヴィラーシャ。アルベルト王の妹に当たる人物が第37代国王に即位した。
王国史上初めての女王になったと同時に、ヴィラーシャ王国最後の王にもなった人物だ。
なぜかと言うと、このエレナという女王。かなりとんでもない人物だったからだ。
彼女が最初にやったことは、行政改革という名の先王時代の臣下の多くを閑職へと追いやり、空いた役職に自分にとって都合のいい人物を出世させて彼らに王としての仕事を丸投げしたことだ。
それでいて自分は豪遊し、金が足りなくなれば勝手に国家予算に手を出すだけでなく、国民にいきなり重税を課したものだから流石に追いやられた臣下たちも黙ってはいない。
しかし彼女は彼らに国家反逆罪や暗殺未遂などのありもしない罪を捏造して徹底的に弾圧した。
正に暴君、性悪女を絵に描いたような人物である。
このままでは国は亡ぶ。そう考え弾圧を逃れた一部の臣下たちがある人物を担ぎあげてクーデターを引き起こした。
その人物の名前はシャルロット・アルベール、当時15歳のアルベール伯爵家の一人娘である。
ここでなぜ彼女が?と思うだろうがこれには理由があり、それを語るには先々代国王の治世までさかのぼる必要がある。
その国王、名前は伏せておくがかなりの好色家として有名でありそれこそ美女であれば見境なく寝所に連れ込むような人物だったらしい。
当然、彼には数多くの子供がいたがそれ故に一つの不安に襲われた。
自分の死後、この子たちが血みどろの権力闘争を繰り広げ仕舞いにはそれが原因で国が滅びてしまうのでは。と彼は考えた。
それを防ぐために、彼は自分の子供たちの中から将来有望と予想される子以外は全員貴族や豪商たちのもとに養子としてやってしまったのだ。
シャルロットもそのうちの一人だが、当時彼女はまだ1歳。
そんな幼子が有能かどうかなんてわからず、かと言って彼女という例外を認めるわけにもいかないので他の子供と一緒に養子組に組み込まれてしまった。
つまり、俗にいう貧乏くじを彼女は引いてしまったのだ。
しかし幸か不幸か、彼女は成長するにつれてメキメキと頭角を現し始めた。
元々知的好奇心が人一倍あったので、書物や大人から多くの知識を学び、吸収していき明るく活発な性格もあってか多くの人から好かれるようになった。
知識教養もあり、人格にも問題なし。それでいて一応王家の血筋を引いている。
クーデター側にとってはこの上ない優良物件であり、彼女自身もクーデターには賛成だったので彼女をリーダーにしたクーデター側はこっそりと仲間を集めて、遂に実行に移した。
圧政を行った君主に人望が無いことはこの世界でも例外ではなく、抵抗らしい抵抗を受けずにクーデターは成功。
エレナ女王以下、彼女にすり寄って甘い蜜を吸っていた人物たちはことごとく処刑台の露になり国名も王国から公国へと変わった。
そして、クーデター側のリーダーとなったシャルロット伯爵令嬢は弾圧を逃れたアルベルト王時代の臣下に支えられて初代大公に即位して、今ではシャルロット・ヴィラーシャと名乗っている。
これでこの国の歴史の話はおしまい、めでたしめでたしだ。
「それで、その話が証拠にどうつながってくるんだ?」
「まあまあ、話は最後まで聞いて。」
長話を終えたターニャさんがテーブルの上のクッキーを口に放り込むと
「そのシャルロット大公が養子に出された子供の一人で、当時1歳だったって話は憶えてるよね?それだとさ、他に養子に出された子供たちはどうなったのか。気にならない?」
「確かに気にな……まさか。」
「そう、そのまさかだよ。養子に出された子供は合計で32人、そのうち貴族の家にいったのは男女が計14人。その中でもシャルロット大公は最年少の1歳。そんなお子ちゃまが今では大公様、兄や姉としては腹立たしいことこの上ないんじゃないかな。」
なるほど、簡単にまとめると。
シャルロット大公の兄や姉たちは自分たちを差し置いて大出世?した彼女が憎い。
なんとか引きずりおろしたいが、クーデターをするための兵力が足りない。
そこでジーキンスに目を着け、彼の発明品を兵力に組み込むためにスポンサーになった。
しかし彼が捕まり、ベラベラと喋られては困るので口封じに消した。
ざっとこんなところか。
「さて、話すこと話したんだから。」
「わかってますって、約束は守りますよ。」
身を乗り出してくるターニャさんを軽く宥めつつ、俺は一丁の銃を彼女に差し出した。
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