売られた喧嘩
屋敷の広い庭を進み、扉が見えてくると誰かが立っているのが確認できる。
もう日が落ちているので顔はわからないが、体つきがかなりがっしりとしている。警備の人間だろうか?
「お帰りなさいませ、フィオナお嬢様。それと、こちらの方は…?」
「ただいま、ゴラン。こっちはサクラ君。私と同じ冒険者よ。」
フィオナさんがゴランと呼んだ男性を見て俺は一瞬吹き出しそうになったが、堪えて軽く会釈をした。
なぜかと言うとゴランの容姿に理由がある。
2m近い身長、盛り上がった筋肉、つぶらな瞳、短く切り揃えた黒髪。
しかし着ているのは皺一つない黒の燕尾服。警備員がこんな服装なわけがない。
「そうですか。おっと、申し遅れました。私は当家の執事を務めさせていただいてるゴラン・グスタフと申します。どうぞお見知り置きを。」
ゴリラをそのまんま擬人化したみたいな執事、ゴランが丁寧にお辞儀をする。
「中で旦那様がお待ちです。サクラ様もどうぞこちらへ。」
ゴランに案内されて俺は屋敷内に足を踏み入れた。
「お邪魔します。」
屋敷内は煌びやかな調度品がふんだんに、という訳ではなく落ち着きのある感じだ。
家具はその家の家主の価値観が図れるとは言うが、贅沢品は好まない人なのだろうか。
「こちらでお待ちになっています。」
案内されたのは一つの部屋の前。フィオナさんが言うにはリビングのような場所らしい。
「私が先に行って説明してくるからちょっと待っててね。」
そういってフィオナさんが部屋に入る。
会話の内容はよく聞こえないが、笑い声がすることから楽しげな感じだ。
しばらくすると入ってもいいと声が掛かったので、失礼にならないようにドアをノックして一声かけてから入室する。
「やあ、待ってたよ。」
中央の椅子に座り声をかけてきた中年男性、この人が父親のグラハムさんで隣にいる銀髪の少女は………誰だ?
フィオナさんに妹がいるなんて聞いてないし、かと言ってメイドには見えない。
まあ、それは後で考えよう。
「ど、どうも初めまして。」
面接に来た就活中の学生のような感じだが、立場上礼儀が必要なのでぎこちないながらも社交辞令をこなす。
「そう固くならないでもいい。肩の力を抜いてそこに座りなさい。」
グラハムさんはにこやかに笑って俺に椅子を勧めたのでお言葉に甘えて着席する。
グラハムさんはもう40代後半らしいが見た感じはまだ30後半にしか見えない。
顔の彫りは深く、目鼻立ちは整っていてカイゼル髭が似合う中々の男前だ。
そして隣の、10歳前後に見える少女はさっきからずっと俺の顔を………まるで値踏みをするようにじろじろと見てくる。
「あの、僕の顔に何かついてますか?」
「ん~。見た目は悪くなさそうね。」
何だって?
「ああすまないね。この子はフィオナの姉のフランシスカの娘のリリー、私の孫だよ。数日前から預かってるんだよ。」
「そうでしたか。失礼ですが奥様のシェリーさんは?」
「彼女は今所用でミレヴァを離れていてね。来月まで戻らないよ。」
なるほどね。しかしなぜじろじろと見つめてくるんだ?
「フィオナ叔母さまの話ではこの歳でAプラスまで上り詰めた実力者って話だけど、魔術師のランクはD。なんか胡散臭いな~。」
リリーが溜息をつきながら机の上にあったクッキーのようなお菓子を口に放り込む。
いきなり胡散臭いとは失礼だな。確かに能力あってこそのAプラスだがこう言われると流石に腹が立つ。
俺は素直な子供は好きだが小生意気なガキは嫌いなんだ。そして俺は気が短い方だと自覚している。
しかしここで声を荒げるのは大人げない。年長者の余裕で軽く受け流そう。
「剣は持ってなさそうだし、その腰の変なのは武器には見えないわね。まあランクDなんて所詮雑魚だから親の権力に物を言わせたか、叔母さまを誑し込んだか。そのどっちかに決まってるわね。」
前言撤回、本気で叩き潰す!!
「こらリリー!サクラ君に失礼だろ。すまないね、この子昔っからこうでね。おまけに実力もあるもんだからかえって手におえなくてね。」
「構いませんよグラハムさん。それに、子供はしっかりと躾けるのが年長者の義務ですから。すみませんがどこか広い場所をお借りしてもよろしいですか?こうまで貶されると白黒つけたくなるのが私の性分でしてね。」
「あ、ああ。屋敷の庭を使うといい。サクラ君、君の怒りは解るがリリーはバーナード侯爵家ではかなり将来を期待されているんだ。手加減はしてくれないと侯爵家の面子を潰すことになるからな。くれぐれも頼むぞ。」
グラハムさんが忠告を入れてくれ、フィオナさんは何も言わずに見送ってくれる。この二人は俺の実力をしっかりと見極めているからこんなに落ち着いている。
未だに余裕の態度のリリーと共に、ゴランに案内されて俺とリリーは屋敷の広い庭で向かい合った。
感想、評価をよろしくお願いします。




