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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人魚姫鎮魂歌《メロウ・レクイエム》

作者: 十叶 夕海

 遥か遥か未来のこと。


 人が 真空の海に漕ぎ出して数百年。


 自分以外の人型と出会ってからでも結構時間が過ぎたあたり。


 人間は同じことを繰り返している。


 それは、国であれ個人であれ。


 それは、今も昔も変わらない。


 宇宙にあっても、それは変わらないのだ。


 ・・・哀しいまでに。







 人魚姫鎮魂歌メロウ・レクイエム








 

 宇宙スペース巨大メガ複合企業体コングロマリット

 そんなのは、メイン業種が違えば、今は結構いるしある。

 所謂、地球人起源で有名な、そして大きなのは、カイケイジ。

 そう、日本起源の企業体で漢字で書くなら、『海景寺』と書く。

 初代は、火星の資源掘りだったが、とある落盤で上司の上司、更に上司の息子を助けたことから、道を開き巻かされた火星の金山とレアメタル鉱で一山立てた立志相伝の人物である。

 それから百年ほど立ち、宇宙スペース巨大メガ複合企業体コングロマリットの中で大きくなった。

 太陽系を遥か離れたとある星。

 その惑星首都のある都市が舞台のこの物語。

 私達がしる東京なり、ニューヨークなりとそう変わらない。

 良く栄え、そして、人の欲が集まる街があるという意味合いでも。

 主人公、と言うか、王子様は、八代目最有力候補で、七代目の長男の名前は、リッカード。

 当年とって、22歳の大学生だ。

 来年からは、大学院生で、黒髪青眼のどこにでもいるような学生だ。

 まぁ、もちろん、身なりや持ち物は立場相応に豪奢であったし、それから来る自信も彼を魅力的には見せていたけれど。

 地球は日本で言うところの、キャバクラのようなところで彼は、飲んでいた。

 名前は、『ムーラン』と言う地球に在った酒場由来の名前だ。

 そして、このキャバクラでは、ピアノの生演奏と歌をBGMにするのだが、ちょうど交代した。

 もちろん、BGMだ、普通は気にしないし、するものではない。

 彼らは、キャストではないのだから、極論すれば、ジュークボックスと変わらない。

 物悲しいピアノの音色が流れた。

 

   




          『海』から 生まれて 『海』へと巡り還る


             命が宿命  重ならぬは宿命


               約束の螺旋の『輪』


             だけども 私の『海』は存在しない


           貴方と一緒になれる私の『海』は存在しない


         二つに別けた心臓ハート 貴方と分け合えたなら


             貴方の『海』へと渡れるかしら


         『海』の『輪』から 生まれて 『海』へと巡り還る


          『輪』に別たれようとも また何時か巡り巡る


           いつか どこかで また貴方に会いたい






 上手い歌ではあったが、新顔であったし、彼女との面識には、エリッカードには無かった。

 いや、無いはずだった。

 おまけに言うなら、口説く事も無いはずだった・・・のだが、なぜか彼には気になったのだ。

 どこかであったような・・・、そんな近視感デジャビュ

 彼女は、赤いクセのある髪のスレンダーな少女だった。

 多分、リッカードよりも少し、若いくらいの。

 その場では、これだけだった。

 一応、擬似恋愛と言えど、キャスト・・・所謂、キャバ嬢・・・といる時に他の女、しかも、キャストでないのを口説いていたら、まぁ、楽しくない展開だ。

 一緒に来ていたグリメロ・・・リッカードより、高頻度でこのキャバクラに通っている・・・によれば、彼女の情報は、次のような感じ。



  ・名前は、『メル・ケージ』

  ・一週間前から、店に出てる歌い手

  ・年齢不詳であるが、数年前にこの街に流れ着いたらしい。

  ・現在は、『ムーラン』の店長の居候。

  ・天涯孤独らしく、両親係累に関しては話さない。

  ・カイケイジの紋章に似たメダルを持っているらしい。

 

 

 


 其処まで聞いて、リッカードは口を挟んだ。 

 「は?カイケイジのメダル?」

 「そう、らしいぜ?

  トライデントとハンマーの意匠っぽかったし、明るいトコで彼女見たことあるけど、おばさんそっくりだったし?」

 「メイヤおば様の子ども、なのか?」

 カイケイジの紋章メダルは、最低限とはいえ、カイケイジの血縁であることを示すもので、小さいながらも、溶接で鎖をつなぐ為、実質、血縁の証だ。

 男子だんじならば、ペンダント。

 女子にょにならば、ブレスレットだ。

 特に、女の子につけられるそれはデザインも凝っており、鎖も細い。

 その分、ヂャマ鉱に高分子カーボンを織り込み、メダルにも複製防止のためのノウハウを仕込んでいる。

 つまりは、奪ったとか、そういう類が発生しない・・・大変しにくい状況。

 しかし、グリメロも、カイケイジほどではないが大会社の息子であり、リッカードが幼い頃からの悪友だ。

 つまりは、メイヤ=カイケイジとの面識もあるし、真贋程度ならばメダルもよく見たことがある。

 なにせ、プールや風呂、ジムの後のシャワーなどの時に、幾らでも、親友の首から下がったメダルを見る機会が在るのだから。

 少なくとも、あからさまなニセモノではないようだ。

 因みに、そのメイヤ・・・リッカードの父親・現当主の歳の離れた妹で、二十年前から付き合っている恋人と十年前に駆け落ちした、リッカードはそう聞いていて、未だ見つかっていない。

 メルと同じく、赤くクセのある髪スレンダーな美少女だった。

 生きていれば、三十代後半か40代頭のはずだ。(因みにリッカード父は五十後半だったりする)

 隠し子がいたのかもしれない、グリメロがそう思えるほどにメイヤ叔母との血縁を疑うほうが難しいぐらいに、メイヤとそっくりな彼女。

 興味がわいたのだろう、その数日後の夕方。

 グリメロは、二人がレストランに入るところを見たと言う。

そして、同時期にリッカードのマンションに暮らし始めた。

 多分、この時が、一番幸せだったのだろう。

 「好きだよ、メル。」

 「私もよ、リック。

  ずっとずっと、一緒にいたいな。」

 

リッカードのマンションを訪ねたグリメロがうっかり、そんな光景を見て、遠い目と共に砂糖を吐いて退散、なんてこともあった。

何というか、とても、幸せそうで、だけど、二人の間に入ろうと思えば入れそうな、そんな脆さのあるとても美しいクリスタルガラスのような光景で。

壊れそうで、だけど、壊したくなくて、そんな日常だった。

リッカードやメルはもとより、長くリッカードを見ていたグリメロにしてみても。

彼のことを大方の人間がカイケイジとしてしか見てくれず、寄ってくる女も、 十代目母の座か、九代目夫人の座が 目当て、或いはあからさまに金目当てだった。

 数晩の女は居ても、長続きはしなかった。

 しつこい女が、不自然な死や失踪をすることも珍しくはなかったのだ。

 だけれど、リッカードとメルのそれは、季節が一つ過ぎるほど続いた。

 とてもとても、幸せな・・・後のことを思うならば、とても穏やかな日々が続いた。





          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 此処で、一人の独り言を挟もう。


 場所は、定かではないが、海の底のように暗い場所。

 一人のアッシュブロンドのブラックスーツを着た美女が足を組んでそこにいた。

 「ふむ、御当主殿からの依頼か。」

 「テロメア剤?」

 「となると、あの娘御の息の根を止めるか。」

 「・・・おそろしや、おそろしや。

  手に入らねば、始末か。」

 「すまぬなぁ、同胞はらからの娘よ」

 「輪から抜け出せたやも知れぬ同胞はらからにして、わたしよ。」



  くつりくつり、と彼女・ヴァネッサはそう、嗤う。

  それでも、同胞(はらから)の幸せを望みながら、ただ嗤う。

  叶わぬと知りつつも、ヴァネッサは往年の自分へとただただ嗤う。






           ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 メルとリッカードが同居し始めて、数ヶ月。

 まだ、続くと思っていたその生活は、突然、途絶えた。

 これは、リッカードが知らないことではあるが、彼の父親が尋ねてきた日でもあった。

 リッカードが帰って来ると手紙だけが残っていた。

 それ以外は、彼女の衣服と少しのお金だけが無くなっていて、ほとんどのお金が残っていた。

 ・・・・それから、リッカードは、彼女を探した。

 父の来訪は知らずとも、何かがあって・・・離れたくて彼女が離れたわけではないと解っていたからだ。

 




 見つけたのは、全くの偶然。

 元々、彼女と出会った歓楽街に行った。

 少しでも手がかりが欲しかったから。

 かすかに、歌が聞こえてきた。

 初めて出会ったときに、メルが歌っていた歌だった。

 それを辿り走る、リッカード。



           貴方と一緒になれる私の『海』は存在しない


         二つに別けた心臓ハート 貴方と分け合えたなら


             貴方の『海』へと渡れるかしら


         『海』の『輪』から 生まれて 『海』へと巡り還る


          『輪』に別たれようとも また何時か巡り巡る


           いつか どこかで また貴方に会いたい





 ついたのは、彼女がかつて働いていた店の店長の自宅。

 「んまっ、リッちゃん。

  ・・・って、ダメよ、ちょ、入らないでってば。」

 スキンヘッドのゴツイサングラス男・・・店長が出てきたのを押しのけて、リッカードは奥へと押し入る。

 歌が聞こえてきた通りに面した部屋に。

「誰?」

「・・・メ・・・ル?」

窓際のベッドに居たのは、中年より老人に差し掛かった女性。

白髪だらけになっていたが、メルの・・・メイヤ叔母の・・・面影が確かにあった。

今の外見年齢に比しても、乾いた枝のような腕やカサついた肌。

控えめに表現しても、死にかけだった。

最期の歌だったのだろう先程の歌。

奇しくも、奇跡のようにリッカードに届き、こうして引き合わせた。

「うん、ごめんね」

「どうして、」

二の句が告げず、言葉に詰まる。

メルは、独白のように話した。

自分が、クローンであること。

卵子から作成するタイプであったが、細胞の年齢と崩壊が止めようが無かったこと。

テロメア剤で抑制していたが、数ヶ月前から手には入らなくなったこと。

無理矢理、テロメア剤で抑制していた反動でこうなったこと。

もう長くはないこと。

そして・・・。

「ありがとう、リッカード。

 貴方に出会えて幸せだったわ。

 向こうで待ってるから、なるべく、遅く来てね。」



数日後。


彼女は逝った。


空気に溶けるような穏やかな死に顔だった。




そして、最期まで、自分が、リッカードの叔母のクローンであることは明言しなかった。


そして、自分が失踪する日に、リッカード父親が来たことは口にしなかった。





          『海』から 生まれて 『海』へと巡り還る

             命が宿命  重ならぬは宿命

               約束の螺旋の『輪』

             だけども 私の『海』は存在しない

           貴方と一緒になれる私の『海』は存在しない

            貴方と一緒になれる私の『海』は存在しない

         二つに別けた心臓ハート 貴方と分け合えたなら

             貴方の『海』へと渡れるかしら

         『海』の『輪』から 生まれて 『海』へと巡り還る

          『輪』に別たれようとも また何時か巡り巡る


          いつか どこかで また貴方に会いたい








会えないかも知れないけれど だけど 私はまってるわ





一応、頑張りましたが、メリバです。


途中経過の活動報告にも、記しましたが、悪ノシリーズで言う『悪ノ娘』が終わったところまでがこの話。

詳細を知らずとも、歓楽街のお姉さんなんかが語り継ぐのはこの話までですし、あくまでも、『人魚姫』としては此処までです



また、登場人物に関しては、基本某ネズミな人魚姫からもじりました。

なので、削りましたが、メルを逃がした・・・足を与えたのは、後半の独白の主・ヴァネッサだったりします。


メルとリッカードが血縁なのは理由がありまして。

一応、原話では触れられてないですが、海の側の国だと言うことは、海関係の祭事があるでしょうし、海神から娘を迎え入れたりと関係があったのでしょう。

と言うことでの血縁です。

一応、叔母のクローンですが、完コピではなく、卵子に叔母の細胞と赤ん坊の体細胞を組み合わせて、人工子宮で促成栽培したのが、メルです。

なので、従姉妹程度の血の近さです。



また、カイケイジはまんま、メルの偽名です。

メル=海=カイですし?

以前、旅先で見たお寺さんの名前をもじりました。



ではでは、閲覧ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人魚姫SFの新作考えてるとうかがって、過去にどんな物を書かれているのか拝見してたら本作を見つけたので読んで見ました。 肝心なことは言葉にできない。泡となって消える。確かに人魚姫ですね。染…
[良い点] 手に入らないのなら、いっそ……というリッカードのお父さんのほの暗い情熱が垣間見えて、切なくなりました。メルとの会話はどんなものだったんでしょう。 色々想像できるお話でした。 [一言] 面白…
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