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第5話;最後の追いかけっこ

ボーイズラブとなっております。苦手な方はご遠慮ください。

 職員室の中は・・・もはや職員室ではなかった・・・。

 

 この表現は、とても正しいと思う。外見は職員室だが、中身は違うのだ。どう違うかっていうとそれは・・・。

「ここは・・・どこぞの王宮か・・・?」

 そう、アリスが思わず呆然としてしまうような造りなのだ。

 何?この赤い絨毯?

 何?この落ちてきそうなほど大きいシャンデリア??

 何?この・・・

「・・・・」

「・・・・」

 きょろきょろと室内を見回していたアリスは、壁際にいた人?と目が合う。なぜ?マークかというと・・・。

「・・・う、薄い?」

 薄いのだ。と、いうか、これは・・・

 世に言う、トランプ兵ってやつじゃ・・・!!

 実物を見ると可愛くない。と、いうか。気持ち悪い。頭身は4頭身くらいか。

 などと、しげしげと考えていると・・・

「貴様!侵入者だな!ひっとらえてクイーン様に突き出してやる!!」

 アリスを見つけてからゆうに15秒。同じように止まっていたトランプ兵はアリスに向かってそういうと、いきなり5枚(人??)に分身し、アリスを囲む。

「や!ちょっと、待ってくれ!!俺は・・・!」

 何だか怪しい雲行きに、話し合いの場を設けようとするアリスだったが・・・。

「とらえろ〜〜〜!!」

 あえなく、その不思議な生き物によって両手を縛られ、生け捕りにされてしまうのだった。


「よく見るとなかなか美人だな」

「クイーン様も喜ばれるやもしれん」

「クイーン様は美人がお好きだからな」

「俺、男なんだけど」

 美人って何だよ。

「クイーン様はどこにおられるか?」

「奥のお部屋ではないか?」

「では、この者を献上しに行くとするか」

「っていうか、クイーンって・・・」

 美人がお好きって・・・

 レズビアン??

 ずるずるとトランプ兵に引かれながら。アリスはまだ見ぬ親玉、クイーンについて想像を膨らませるのであった。


 どうやら、本当に親玉はクイーンと言って、ここにいるらしい。何かよくわからない生命体にラチられてしまってはいるけれど。クイーンの所まで運んでくれるなら手間が省けるかな。とか思ってしまうのは。平和ボケした日本で生まれ育っているからであろうか。

 とりあえず。

 シンクロを解いて、さっさと平穏な日々に戻りたい!!!!

 アリスの願いは、ただもうそれにつきるのであった。



・・・あ〜、なんとなく予感はしてたけどさぁ・・・。


王広間の一段高くなったその場所の。豪華な椅子にふんぞり返っていたのは・・・。

クイーンという名の。

男であった。

クイーンというよりはキングのほうがあっているのでは?と言いたくなるようなその青年。その端整な顔は、どこか冷たいがとても印象的で一度見たら忘れることなどできないほどの美しい顔立ちだった。いい男!まさにこの一言につきるような。人を支配することが生まれた時から決まっていたような、そんな雰囲気と風貌である。後ろは肩につくくらいまで伸びているそのブロンズがその端整な顔を引き立てている。

そして。そのまわりには・・・。

美男子が囲んでいる・・・。


何か?あれか?この世界はホモばっかりか?


 ちょこっと投げやりになりながら、アリスがそんなことを考えていると。尊大なクイーン様がアリスに話しかける。

「お前、名前は?」

「佐久間アリスです・・・」

 なんかもう。この後の展開もだいたい予想できちゃうしね。

「俺の側室にならないか?」

 はいはいきましたよ〜。つーか。俺はそんなこと微塵も!望んでねぇつーーーの!!!

「辞退します」

 さらりと受け流すアリス。

「くく。まぁいい。で?何か言いたいことはないのか?何もなければ外へ放り出すが」

 この男もさらりと恐ろしいことを言ってくれる。

「シンクロを、解いてほしいんですけど・・・」

 アリスは、クイーンに。ついに。長い長い道のりを経て。この言葉が言えた。

「・・・嫌だ」

 半分どうでもよさそうに、クイーンはアリスに言った。

「何でだよ!シンクロ解いてもらわないと困るんだよ・・・!」

 アリスは食い下がった。

 何よりも!ここにいたら精神状態がおかしくなる!!

 俺は男で!!!女の子が好きなんだよ!!!

 なんだかちょっと、そこかよ!とっつこみたくなるような理由を思うアリスであったが・・・。

「俺はここが気に入ったんだよ。だから。今のところシンクロを解く気はない」

 しれっと話すクイーン。

「あんたの気に入った気に入らないでいつまでもこの状態を作っててもらっても困るんですけど・・・俺の友達やクラスメートが、空間をさまよってるんです・・・!助けてやってもれえませんか」

 これも本当。

 何とか考えを変えて欲しい。

 元の世界に戻りたい。


 そんな、アリスの思いが伝わったのか・・・。

「・・・わかった。シンクロを解こう」

 頭を下げて頼むアリスに、クイーンが言った。

「え・・・!本当ですか!?」

 アリスはそのクイーンの言葉に顔をほころばせる。

「ただし。条件がある」


 やっとの思いでクイーンのところまで辿り着いたアリス。シンクロを解いてもらおうとしたが、クイーンは簡単にはシンクロを解いてくれなかった。


「条件とは・・・」


「時間内に、このバニーを捕まえることだ」


 制限時間30分。その時間内に、(いつの間にか現れた)バニーを捕まえること。それができれば、シンクロは解く。

 ただし。

 それができなければ・・・

「お前には、俺の側室にでもなってもらうかな」

 死んでも・・・捕まえなければ・・・。

 アリスは切にそう感じた。・・・身に詰まるとはまさにこのことだね☆

 

スタートラインは職員室前の廊下。またまた不思議なこの空間では、いつの間にそうなったのか。先が見えないほど長く廊下が続いていた。本当の、追いかけっこである。そして横を見ると・・・どこまでも余裕なバニーがぴょこぴょこしている。

・・・人がピンチを感じまくりな時にこのウサギもどきめ・・・首ひねってやろうか・・・。

何て怖いこと考えてみたりみなかったりしながら。トランプ兵によって両手の拘束が解かれる。

「せいぜい頑張って追いかけろよ」

 ムカつくほど憎たらしい笑みを浮かべながら、クイーンはアリスにそう言った。

「俺のベッドで死ぬほどよがらせてやるから」

 さらりと放送コードにひっかかりそうな台詞を吐くこの尊大な男に。これが女ならメロメロの腰くだけなんだろうな、と思いながら。

「・・・俺は男だっつの」

 いったい日に何度この台詞を口にすればよいのか。ていうか、まぁ、この格好のせいだよな!うん!!と、一人で無理やり納得しながら。

 男だと言っているのに相変わらず。

「だから何だ」

 まったく気にしないここの連中め・・・。


 腕組をして、ニヤニヤしながらクイーンはアリスとバニーを眺めている。

 その中で。

「では、いきますぞ!」

 トランプ兵の高らかなトランペットの音が廊下に響き渡り(大げさなんだよ!)。

「よ〜〜〜い!」

 ドォン!!

 ピストルの小気味よい音が響いた。

 そして。最後の追いかけごっこが始まった・・・。


 まっすぐに伸びた廊下はどこまでも続き、アリスはその長い髪とスカートをはためかせながら前方を走るバニーを追いかける。

 というか。何で一緒にスタートしたのに、こんなに差がでるかな・・・。

 必死に走って追いかけるアリスをよそに。あきらかに。前方のウサギは余裕である。後ろを振り向きながら、時には後ろ向きに走りながら・・・、アリスの怒りのバロメーターをあげてくれる。

「この・・・くそウサギ〜〜」

 それなのに、一向に縮まらない距離・・・。どんな走りっぷりだ。このウサギは(注:ウサギではありません)。

 

 そんな殺伐とした中を走りに走り続け。

「残り5分です!」

 どこからか現れたトランプ兵がそう告げる。

 残り。5分。


 ヤバイ。

 非常にヤバイ。


 もう20分以上も走り続け、しかも、その前にも走り通しのアリスのスピードはあきらかに落ちまくっている。決定的に距離があかないのは、バニーがそんな様子を楽しみながら微妙な間隔を取って走っているからであろう。そんな状態で、残り5分でバニーが捕まえられるはずもない。

 てことは何か・・・?

 シンクロはずっととかれないまま・・・

 あまつさえ、俺は・・・

 クイーンという名の・・・男の側室・・・。

「嫌だッ・・・!!嫌すぎるッ・・・!!!」

 背中を流れる嫌な汗を感じながら、前方のバニーを見据えると・・・。


「きゅ!?」

・・・・こけた。

いうなれば。あ〜、ほら!後ろ向きで走ってるからでしょ!しょうがない子ね〜。とい

うやつである。

 びたんと硬い廊下にこけ、小さなバニーはきゅーきゅー泣き出した。

「お、おい!大丈夫か!?」

 さすがに、泣いている子どもには弱い。アリスは、泣いているバニーに近づく。

 これは、しかし。思わぬ形でアリスに幸運の女神が微笑んだようだ。

「どっか、けがしたのか?おい、バニー?」

 やっと追いついて、バニーを心配し、肩に手をかけようとした瞬間。


ごちん!


 盛大な。音がした。

「きゅっきゅ〜!」

 先ほどまでうずくまって泣いていたバニーは一転。がぜん元気。

 逆に、アリスはというと・・・。

「いってェ〜〜・・・!」

 バニーに思いっきり。すねを蹴られた。

 そう、バニーはこけるふりをし、嘘泣きをし。あまつさえ、アリスのすねを思いっきり蹴ってくれたのだった・・・。

 そして、まったく悪びれるはずもないバニーは。アリスから安全距離を保ち、離れると。


 アリスに背を向けて。

「何・・・?」

 痛みの中で、半泣きになりながらアリスの見たものは・・・。


 おしりペンペン。

 あっかんべ〜。


 だった・・・。


「ははははは!してやられたなぁ!」

 その模様を。クイーンは先ほどの大広間にてモニター観戦中。クイーンにとっても意外なバニーの行動に、果ては腹を抱えて笑いはじめた。

「くくく・・・、側室は近いなぁ。アリス・・・」

 モニターの前でほくそ笑みながら。

 もう誰が見ても。この追いかけっこの結果はあきらかで。

 あとは、タイムリミットを待つだけ。

 というか、その時間すら無駄?

 と思ってしまうような、この状況で。


「こンの・・・くそウサギ〜〜・・・」

 マグマのような・・・

「テメー・・・いいかげん・・・」

 ふつふつと恐ろしい、アリスの怒りが。

「ブチ切れたぜ・・・」

 

 こんな3歳児に、キレることはないさ。

 つか、んなことできっかよ。


 そう思ってきたアリスだったが。

「いいかげん・・・おいたが過ぎんじゃねぇの・・・?」

 悪いことをしたらおしおきだよな。

 一人でぶつぶつ言いながら、アリスはすくっと立ち上がる。

 その瞳には・・・怒気が・・・。

 前方でアリスをからかっていたバニーにも、その怒気が伝わったらしい。バニーはピクリともせず、アリスを見てたたずんでいる。

 アリスは、そのバニーに対して。

 大きく深呼吸をしたあと・・・。

「てめー!!このくそウサギ!!!誰に喧嘩うってやがんだ!!いいかげんにしやがれ!!!その耳引っこ抜いて誰に喧嘩うったか体でわからせてやるからな!!!ガキだからって誰が容赦するか〜〜!!」

 一歩、一歩と言いながらゆっくりアリスはバニーに近づく。

 それに、一歩ずつ後ずさりを始めたバニーに対し・・・。

「ウサギ!!人の許可なく、勝手に動くんじゃね〜!!!そこで止まって待ってろ!!」

 びしっと、バニーに指をさして。

「これ以上!俺に逆らうんじゃね〜〜〜!!!!」

 どっかんと、大爆発・・・・。

 はー、はーと、肩で息をするアリスに・・・。その場で固まっているバニー。

 そこまで言ってようやく少し落ち着いたアリスは。ちょっと言いすぎたかな〜?なんて、後の祭りなことを考えながら。いやはや、相変わらず、キレると手のつけられないこの男。

「あ〜・・・おい?」

 固まるバニーに、声をかけようとした、その次の瞬間。


「きゅきゅきゅぅ〜〜〜〜!!!」


 何と。

 バニーは。

 アリスに向かって全速力で走ってきた。

「な・・な・・・!?」

 そして。

 アリスへ向かって盛大にジャンプ!

「うわぁ!?」

 バニーは、アリスにくっつき、すりすりと頬をすりよせている。それはもう、あなたにメロメロよん。という感じで・・・。

「ど・・・どうなってんの・・・?」

 いきなりの展開に、アリスはどうしていいかわからず呆然とする。


「よかったじゃん、アリス!」

 すると、後ろから突然声をかけられる。

「・・・!リアン!?」

 振り向くと、そこにはいつでもどこでも神出鬼没、なリアンがいた。

「バニー捕まえたんだね〜すごいすごい!」

 本当にそう思ってんのか?と思うような言い方なリアンだが。それよりも。

「ど・・・どゆこと?これ・・・?」

 アリスは、自分の胸の中にいるバニーを指差してリアンに問うた。

「あ〜、それね」

 ぷぷっと、リアンは笑いながら。

「バニーはねぇ、マゾなんだよ」

 マゾ。

「この歳でマゾとかおっかしいよねぇ!」

 あはははは!と笑いながら言うリアンに。と、いうことは何か?

「俺は女王様かよ!!!」

 冷静につっこむアリスだが。

「よくわかってんじゃん。さっきのアレ!女王様以外の何者でもないでしょ〜〜!」

 ちょと、自分の性格について見直す、というか、今後考えていきたいと思います・・・。

 そう、思わずにはいられないのであった・・・。


「さぁ、バニー、アリスから離れな」

 ひとしきり笑ったあと、リアンはバニーにそう言った。バニーは、それに対し、嫌々と首を振る。

「しばらくこのままかなぁ」

 原因のいったんであるアリスは、苦笑いを浮かべながらバニーを見つめる。

 しかし。

「だめだよ」

 リアンは、いつになくまじめにそう答えた。

「え?」

「だって、アリスはバニーを捕まえただろ?」

 バニーを捕まえるということは・・・。

「!あ・・・!」

「クイーンも、モニターで見てたはずだから。ほら」

 あたりを見渡すと、空間がガラスのようにかけらになって少しずつ崩れていっている。

「もう、元の世界に帰らないとね」

 リアンはそういうと、バニーをアリスから引き離す。

「きゅきゅ!!」

 バニーは半分泣きながら、アリスに手を伸ばしている。

「リアン・・・バニー・・・」

 何だか、夢のような時間だった。

 いろんなことがあって、頭の中は今でもぐちゃぐちゃだけど・・・。

 何だか、元に戻るとなったら、少し寂しい気もする。

「ほら、バニー、アリスにお別れしな」

 バニーは嫌々をし、聞かない。

 そんなバニーの頭をなで、そして、アリスは。

 ちゅっと、バニーの額にキスをした。

「かなりムカついたけど・・・追いかけっこ、楽しかったぜ。バニー」

 にっこりと、バニーに微笑む。それに、バニーは大人しくなる。

「リアンも、世話になってないけど、ありがとな!」

「そうくるかい」

 どちらからともなく、静かな笑いがこぼれる。

「マスターたちにもよろしく。思えば、貴重な体験だったからさ!」

「何ならまたするかい?」

「はは・・・考えとくよ」

 まさしく。解決したから言える台詞であろう。

 そして、空間が歪みだす。

「じゃあね、アリス」

「じゃあな。リアン、バニー」

すると、バニーはリアンの腕の中から逃れ、アリスの元へ駆け寄る。

「バニー!」

 止めようとするリアンの声を背に、バニーは、ポケットから小さな石を取り出した。

 きらきらと光の当たる角度によって変化するその石の色。見たことのない石だった。

「くれるのか?」

 アリスが聞くと、バニーはこくりとうなづいた。

 そして、その石をアリスに渡すと、リアンの元へ帰った。

 2人が、手を振っている。

 その2人を、大きな光が包み込んだ・・・。



「・・・〜ぃ・・・」

 遠くで誰かの声がする。

「お〜・・い」

 光が、入ってくる。

「佐久間!おいってば!」

 アリスは、目を覚ました。

「ここ・・・は?」

 目の前には、見慣れたクラスメートの姿。

「お〜い!寝ぼけてんじゃね〜か?家庭科室だろ?てか、衣装合わせの最中に寝るなよ!」

 ははははと、他のクラスメートたちも笑う。

 いつもの、風景。

「やっぱ似合うね〜」

いつもの、声。

「別にメイク、いらなくね〜?」

 今までのは・・・夢だったのか・・・?

「ほら、いつまでもソコにいないで、出て来いよ!細かいとこ直すから」

「あ、あぁ」

 アリスが立ち上がった時、ポケットから、何かが落ちた。

「これは・・・」

 その石は、まぎれもなく、アリスがバニーからもらったものだった。

 

 こうして、アリスは無事元の世界に戻ったのであった・・・。

 一つの、大きな思い出とともに・・・。

                                  〜END〜

完結しました!アリスな世界!今まで読んでくださった方々、ありがとうございました!!

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