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第1話

ボーイズラブとなっております。苦手な方はご遠慮ください〜。

「ごめんなさい。あなたのこと・・・男として見れないわ・・・」

 そう言うと、朝日がまぶしく映える中、その少女はきびすを返して歩き出した。

通算15回目。

その場には、フラレ男がただ一人・・・。

何がそんなに悪いのか。


嗚呼。今日も虚しいヤローの巣窟。


「私立桜林男子高等学校1年D組、佐久間アリス君。そんなにたくさんラブレターもらっといて虚しい言わない」

机の中に入っていた5通のラブレター。

 ラブ・レター・・・

「男からラブレターもらってもむなしいわ!!!」

 力まかせにその少年は5通のラブレターをグチャグチャに丸める。

「俺は!女の子が好きなんだよ!!」

隣に座る悪友・瀬戸裕馬の首を絞めつつ、絶叫。

「・・ゲホ、殺す気かっ!キサマ!何が女の子が好きだ。無理だっつーの。テメェのその顔、鏡で見てみやがれ。どんな女も隣にいたくねーっつの」


 そう。

 朝一番で女にフラれ、そして、先ほどから妙にハイなこの兄ちゃん。佐久間アリス。この途方もなく乙女チックな命名を男の子にしたのは「不思議の国のアリス」の大ファンなアリスのお母様。そして、名は体を表すと言わんばかりのこの少年。

 街中を歩けば、必ず男が振り返るその端整なお顔立ち。けっしてロリ系な顔とかではないのだが、黙っていれば美人系である(黙っていれば、の話)。それを引き立てるような色素の薄いサラサラヘアー(顔を隠そうと髪を長めにしているのが、よけい色気となっていることに、本人は気づいていない)。体格は華奢ではないが、筋肉質でもない。

「お前も、どの女も隣にいたくないような顔にしてやろーか?」

 でも、性格はとっても男気。

「そりゃ勘弁」

 本気で、首をしめかねないことなどから、口を開けばただのやんちゃサンなことがわかる。

 ちなみに、さっきからアリスとコントをやっている悪友も、街を歩けば人が振り返る。こっちは女だが。特に、かっこいい!というわけではないが、短髪が陸上部で鍛えたその体格によく合っている、183cmのデカブツ。ちなみにアリスは174cm。低いわけではないが、裕馬の隣にいることが、彼にとっての不幸とも言えるだろう。

 そんな二人は今日も仲良し。

 あまりの仲良しさかげんに、担任の先生も思わず、

「佐久間・・・瀬戸・・・」

その声を震わせて・・・

「もうとっくにHRは始まっとんじゃ!静かにできんのなら、廊下に立っとけ〜〜!!」

 こんなにご立腹。


 しかし、月曜日の朝から隣の女子高の女の子にフラれ、1時限目から廊下に立たされる薄幸なこの少年。もちろん、薄幸っぷりはこれだけにとどまらなかったのだ―――。


『女装喫茶〜アリスの園〜』

 HRが終わり、ようやく教室に入り(めんどくさかったので、廊下でサボっていたともいう)、最初にアリスの目に入ってきたのは・・・

 黒板にでかでかと書かれた、その言葉。

「な・・・何―――・・・?」

 そして、唖然とするアリスに、やんややんやと群れるクラスメート達。

「よう!主役!衣装はまかせとけ!!すっげー可愛いやつ作ってやるからな!」

 そう肩を叩くのは、家庭科クラブのヤツ・・・

「メイクは俺が担当だ!」

 そう声をかけるのは、スタイリスト志望のヤツ・・・

「ま、うちは綺麗どころの佐久間がいるからな!あとの奴はテキトーに気持ち悪くなってウケ狙っていこうぜ!」

 委員長のその一言に、イエ〜!!!と盛り上がるクラスの男共。

「や、ちょっと?委員長??話が見えないんですけどね?」

 嫌な予感満載の中、アリスはできるだけ穏便に、心を落ち着かせて、委員長に問うた。

 そして、そんなアリスの心境を知ってか知らずか、委員長は饒舌に語る。

「あ?お前らが廊下で立ってる間に、今年の文化祭のクラスの出し物が決まったんだよ。最初は、『不思議の国のアリス』を演ろうかって話になったんだけど、誰も話をきちんと知らなくてさ〜。本読んだりするの、めんどくさいだろ?だから、いっそのこと女装喫茶にしてしまおうって話になったんだよ。そうしたら、アリスの衣装着とけばごまかせるだろ〜?俺って天才☆じゃ、楽しみにしてるぜ!佐久間!」

 ポンっと、委員長はその少年の肩を叩く。

 いい仕事したぜ!的な委員長の説明にブツッと何かの切れる音。

「何で『不思議の国のアリス』が絶対条件で俺が主役で女装なんだ!!!ざけんなテメ〜〜!!」

 それまでの穏便な笑顔から一変。

アリスは委員長の胸倉を掴み、前後に思いっきり首を絞め始めた。

「ぎゃ〜〜!佐久間がキレた〜〜!!」

「やめろ!!佐久間!!委員長が白目むいてる!!!」

 普段からその愛らしさとは別の暴君っぷりも熟知しているクラスメート達は、連携プレーで委員長奪還に乗り出した。しかし、男気多きアリス君は、その場で暴れまくりましたとさ、ちゃんちゃん。


 一方、裕馬はというと、

「あ〜ぁ。先が思いやられんなぁ。」

 その騒動をよそに、役割名簿の女装店員の欄にあった自分の名前を消し、大道具に勝手に名前を書き込むのでした。そして、大道具から、女装店員に委員長の名前をこっそり移すのでした。

 さらりとおいしい所をもっていくチャッカリさんでしたとさ。


「毎日毎日毎日毎日・・・・」

ぽかぽかのいい天気。今日は屋上で優雅にランチ(とはいっても、ランチの内容は売店で買ったパンであるが)。

「いいかげんにしろ〜〜〜!!!」

 そんな晴天のもとで絶叫。今日も今日とてご立腹なアリス君でした。

「うるさいな〜、しかたないだろ。ただでさえアリスは目立ってんのに、そのアリスの女装が見れるとなったら、そりゃ皆わきたつさ」

 一緒に学生ランチをしていた裕馬は最もなことを言いつつ、視線は今日発売の単行本。

「だからってなぁ!知らない奴らからも、楽しみにしてるぜ、とか言われてもキモイだけなんだよ!!」

 屋上のフェンスを足蹴りにしてへこませながら、アリスは声を荒げる。

「おい、学校壊すなよ。まぁ、男子高は潤いがないからね〜」

 相変わらず、単行本から目を離さずパックのコーヒー牛乳をすすりながら、裕馬は応える。

 アリス乱闘事件より1週間。どこで聞きおよんだのか(むしろ知らないことのほうが奇跡とも言える)、アリスは廊下ですれ違う人、人から何らかのコメントを頂いていた。ただでさえ、自分の容姿にコンプレックスを持つアリスは、日々怒りの拳を繰り出しそうになったり、ちょこっと繰り出してみたりしながら毎日を過ごしていた。そして、人だけには飽き足らず、こうして公共物にまで損害を与えているのだった。

 そんな。

 文化祭も1週間後に迫ったある日。

 学校中がにわかに活気づき、どのクラスでも準備が着々と進んでいた。アリス達のクラスも例外なく、あーだこーだと毎日大道具やら小道具、衣装や会場係りの人間達が遅くまで準備にいそしんでいた。そんな中、

「佐久間!今日衣装合わせするから、放課後残っとけよ〜」


 アリスは文化祭が近付くにつれ、鬼気迫る様相になってきていた。そのため、今までは準備にほとんど参加しなくても誰も何も言わなかった。まさしく、触らぬ神に祟りなし。である。

しかし、文化祭も間近のこの時期。

 衣装合わせだけはしておかなければならない。

 勇気ある委員長は

アリスの返答を聞く前にアリスの怒りを恐れて逃げた・・・。

「俺は狂犬かっての・・・」

 そう言うアリスだが、

 手はきっちり、拳を作っているのだった・・・。


 委員長を見送り、アリスは一人思いふける。

 いいかげん、腹はくくってる。

 だって、皆でする出し物に・・・

 いつまでも嫌だって、だだこねれないし。

「ま!似合うって決まったわけじゃないし!他の奴のほうが似合ってる奴がいるかもしれないしな!!」

 アリスはそう、自分に言い聞かせながら放課後の衣装合わせに臨むのであった。


 「・・・・・」

 金髪のゆるくウェーブのかかった髪に、青いカチューシャ。大きな丸襟の白いブラウスに、青いワンピース。ワンピースはウエストの部分が絞ってあり、膝が少し顔を出すその裾は下から白いフリルがのぞく。そして、白いハイソックスに、黒のローファー。

 まさしく、鏡に映るその姿は、不思議の国のアリスである。

「・・・いっ・・違和感がない・・・」

 アリスのクラスは今日は衣装合わせのため家庭科室を借りて作業をしていた。そして、ブーたれながら家庭科室に足を運んだアリスは、衣装係りからアリスの衣装一式を渡された。そしてそのまま、家庭科室の一角にある準備室で着替えることとなったのだが。

アリスは、着替え終わるとその場にあった鏡に映る自分の姿を見て、やりきれなさを感じた。

 その姿はもう、いいようもなく、パーフェクトだったのである。

 しかも、これからこの恥ずかしくも似合いすぎてる姿をクラスの人間にお披露目。さらに、文化祭当日には、一般大衆にさらけ出す・・・。

「・・・ぶっこわすかな・・・」

 “何を”とはあえて言わないが、そんなちょっと怖い考えが浮かぶのも、まあ、大目に見るってことで。

 アリスは、その場で数回深呼吸をすると、腹をくくって準備室を出た。

 しかも。

「これでどーだ!?文句ねぇ美しさだろ!!」

 仁王立ちしての、半ば自暴自棄状態。


 準備室の外では、衣装係りが待機しており衣装の合い具合を最終確認することになっていた。そして同時に、メイク担当も来ていて、どんなメイクが合うかも検討する予定だった。そのため、アリスが着替えのために準備室に入った時は、外の家庭科室には作業している人間、他の衣装合わせをする人間も含め10人前後がいた。

 それが、

 アリスが着替えて出てくるまで約5分。

 家庭科室には、誰もいなかった。

「・・・あ?」

 さっきまでは、がやがやとしていたその部屋は、うって変わってシンとしていた。

「何で誰もいないんだ?」

 アリスはあっけにとられ、部屋の中を歩き回る。

「佐田〜?飯田〜?おーい。着替えたぞー。野口〜?」

 クラスメートの名前を呼ぶが、返事がない。

「何だよ。皆して連れションかぁ?」

 言いながら、アリスはその情景に何か違和感を覚えた。

 辺りを見回す。途中で放棄されているミシン。雑に置かれた衣装の数々。投げ出された、糸と針。

 どこかへ行くにしては、作業工程が中途半端である。

「おいおい、何だっていうんだよ・・・」

 アリスは薄ら寒さを覚えた。

「おーい!佐田!飯田!!どこだよ!」

 アリスは家庭科室を出て、廊下でも呼んでみるが返事がない。


 おかしい


 何が?

 

 すべてが


 すべて?


 すべて?何が?どこが?いつもと違う?違う?何が?


「何で・・・こんなに静かなんだ・・・?」

 今は放課後だが、文化祭前なのでかなりの人間がまだ残っているはずだった。ここは家庭科室だが、下の階には2年生の教室もある。それに、外で部活をしている人間も少なからずいるはずだった。

 いつもは気にしていなくても、自然と耳に入ってくる音、声。

 廊下を走る音。誰かとしゃべる声。テンション高く歌いだす奴、何かを作る音、罵声、奇声、歓声等、等・・・。

 それらが今、何も聞こえなかった。

「は・・・?どういうことだよ!」

 アリスは、窓から階下のグランドを見渡すが誰もいない。


 何で・・・何で誰もいないんだ!?声も、音もしないって・・・どういうことだよ・・・!!


 アリスは、わけのわからない不安に襲われ、走り出した。

 階段を降りて、2年生の教室の扉を開ける。しかし、そこも無人であった。家庭科室と同様、作業を放棄した状態で人だけがいなくなっていた。

 次の教室を開けても、次の教室を開けても、誰一人として見当たらない。


「気味ワリィ・・・どうなってんだよ・・・」

 アリスは、2年生のすべての教室を回ったが、やはり、誰もいなかった。


 アリスは、とりあえずもう一度家庭科室へ行ってみようと階段を昇った。

「・・・は?・・なんだよ・・・これ・・・」

 西階段を昇って右に曲がる。そこには家庭科室があった。

“さっきまでは”

家庭科室があるはずのあおの一角にあったのは、家庭科室などではなく、別棟にあるはずの職員室だった。

「も・・・意味わかんね・・・」

 アリスは職員室前の廊下で固まったまま動くことができなくなった。


 ここはどこ?職員室?何で?家庭科室へ続く階段を昇ってきたはず?何が?どうなって?

 アリスの頭の中はパニックで。

 何を考えていいのか。むしろ、頭が考えることを拒否している。

 思考停止。


「あれ?人が残ってる」

 その時、いきなり後ろから声をかけられる。

「!」

 アリスは驚いて後ろを振り向く。するとそこには、白いカッターシャツに黒のスラックスをはいた男が立っていた。歳はアリスより二、三歳上だろうか。身長はアリスより少し高いくらいで、黒髪に中性的な感じだが、飄々とした表情をしている。

 アリスは何よりもまず、人がいたことにホッとした。

「あ、あの・・・」

 そして人を見つけると、今度は自分が慌てふためいていたことが恥ずかしくなり、アリスは何か言ってこの場を取り繕おうとした。

「君、名前は?」

 そこに。唐突に、その男は聞いた。

「ア・・・アリス!佐久間アリス!!」

 それに、何故か反射的に答えるアリス。

 その名前を聞き、男は少し考えてから、口を開いた。

「アリスか。ふーん。可愛い名前だね。男につける名前じゃないけど」

 クスクス笑いながら、男は話す。アリスは、人の気にしていることを・・・。と、赤くなりながら、名前を出したことを少し後悔していた。

「しっかし、可愛い格好だね〜。ホント、不思議の国のアリスみたいじゃん」

 にやにやとアリスの全身をなめまわすように見ながら、その男は言う。 

 そう言われて、アリスは自分の格好を思い出した。

 いうまでもなく。

 赤面。

「こ・・・これは!文化祭の衣装合わせでっ・・・!」

真っ赤になりながら、アリスはしどろもどろで衣装の説明をする。

 その様子は、

 いつもはズボンばっかりの女の子が、初めて男の子のためにオシャレをしてスカートをはいた時、それを指摘された時そのものであった。

「クク・・・、いいよ。最高じゃん。アリスね。いいシチュエーションかも」

「は?」

 一人、腹を抱えながら笑うその失礼な男に、アリスは。

 一人で納得してんなよ。だいたいアンタは誰なんだよ。と、その胸中でつぶやく。

 その男は、そんなアリスの思いを悟ったのか、

「あ、ごめんごめん。俺はリアンね。」

 目尻には笑いをこらえすぎて涙が・・・。

 そんなふうに自己紹介をすると、ようやく笑うのをやめ、アリスに向き直る(表情は相変わらず飄々としているが)。

「あのさー、信じられないと思うけど、とにかく話を真面目に聞いてくれるかな?俺さ、こっちの人間じゃないんだよね〜」

 再び、笑顔で爆弾発言。

 暗転。

                                 〜続く〜 

 

 


初めてなので、いたらない部分もあったと思いますがどうだったでしょうか。続きもがんばって書きたいと思いますのでどうぞヨロシクです!

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