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桃ちゃんと一緒 召喚され世界の壁となった俺は、搾り滓として転生す  作者: @aozora


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3/3

第3話 ここってもしかして始まりの村だったり?

木々の合間を風が抜ける。鼻腔に届く新緑の香りが心と身体を軽くする。


「おはよう、ライオス君。今朝はとても清々しくて気持ちがいいわね。

それでどうしたの?急に呼び出して。

何か大切なお話でもあったの?」


山間の村に訪れた春も徐々に夏の色を帯びはじめ、動物たちも森の恵みを求め活発に動き出す。


「ミ、ミリア。あっ、その、なんだ。俺たち今度の夏の旅立ちの儀を迎えたらこの村を出る事になるだろう?

それでミリアは村を出たらどうするのかと思って。

その、よかったら俺と・・・」


“ガサガサガサ”

不意に吹き込む風に木々が大きく騒めく。ミリアの長い金髪が靡き顔に掛かると、彼女は小さな悲鳴を上げる。


「キャッ」

「どうした、ミリア。ライオス、お前またミリアに悪さを」

横合いから掛けられた声、それは同じ村の若者であり幼馴染でもあるレインのものであった。


「ち、違う。俺はミリアと話を、そうしたら風が・・・」

不意の幼馴染の登場に、慌てて言葉を並べるライオス。


「ミリア、大丈夫か?なにもされてないか?」

「うん、レイン君ありがとう。私は大丈夫だよ?」

サッとミリアの傍に寄り、心配そうに声を掛けるレイン。

そんな彼に首を横に振って笑顔を作り、何も問題がないと伝えるミリア。


「そうか、よかった。ちょうど良い、ミリアに話があったんだ。

今度の旅立ちの儀が終わったら俺たちはこの村を巣立って行く。その時ミリアに一緒に付いて来て欲しい。

俺はこの山間の村しか知らない田舎者だ、だから俺たちが世間で通用するかどうかなんて分からない。

でもミリアが一緒だったらどこ迄でもやって行けると思うんだ。

ミリア、俺と一緒に冒険者になってくれないか?」


レインは真剣な瞳でミリアを見詰める。それは覚悟、それは願い。

幼い頃から共に過ごした一人の女性への、誠心誠意の告白。


「うん、レイン君、私嬉しい。私、何時かレイン君が側からいなくなっちゃうんじゃないかって、ずっと心配だったの。

でも、レイン君からそんな風に言ってくれるだなんて・・・。

レイン君、これからもずっと一緒にいてね」


「あぁ、当たり前じゃないか。ミリアと俺はずっと一緒だ。それはこれまでもこれからも変わらない」


差し出された右手。ミリアはその手を掴みレインと二人寄り添いながら村に向かい歩いて行く。

その場に残されたライオスは、そんな二人の光景をただ茫然と見送る。


「な、なんでだ~~~!!何であそこでレインの奴が出て来るんだよ、おかしいだろ。ここは村外れの大岩だぞ?特に目的も無く来るような場所じゃないぞ?

それなのになんで。

それにミリアちゃんもミリアちゃんだ、何でよりによってレインの奴なんかと。

俺のどこがレインに劣ってるって言うんだよ~~!!」


「・・・顔?」

その声は大岩の上から聞こえて来た。


「それとライオスお兄ちゃんってガサツだし?照れ臭いんだかどうか分からないけど、直ぐに突き放すような態度を取るじゃん?

その癖“それくらい分かってるだろう?”的な相手に依存するようなところがあるし?

要するに面倒臭い?

その点レインは何でもそつなく熟すし?多少熱血正義感馬鹿で思い込みが激しいけど、そう言った所も女性からすると可愛いって思うんじゃないのかな?

ちゃんと思った事も口にするしね。


でもやっぱり決め手は顔だよ顔、あの物語に出てくる英雄様や勇者様と言った風貌は世の女性たちが放っておかないと思うよ?

ミリアお姉ちゃんはその点上手い事やったよね。ライオスお兄ちゃんから呼び出されている事やもしかしたら告白されるかもみたいな事をそれとなく仄めかしながら、その日時や場所を吹聴して回っていたんだよ。

当然それはレインの耳にも入る、決心がまだそこまで固まっていなかったレインもこれには驚いたと思うよ?

男を見せなきゃって思ったんじゃない?


で、極め付けがさっきの風。あれだけ自然に風を操る、しかも無詠唱。

もうね、ミリアお姉ちゃんって天才、その才能が羨ましいよ。

レインが側に来ていた事も恐らく気配察知で感じていたんじゃないかな?

ライオスお兄ちゃんは告白する事に一杯一杯で気が付かなかったみたいだけど。

ライオスお兄ちゃんが告白を開始した時に吹く急な大風、これでうまい事レインが飛び込んで来なくても“よく聞こえなかった”とか言って誤魔化せるしね。

女の人って策士だよね~」


頭上からの声に口をパクパクさせ固まるライオス。


「な、な、ノッペリーノ、何でお前がここに。それになんでそんなに詳しく・・・」

言葉を失うライオスに、弟ノッペリーノは駄目押しの言葉を贈る。


「だからさっき言ったじゃん。ミリアお姉ちゃんがそれとなく吹聴して回っていたって。

こんな狭い村だよ?今日の告白は全員知ってるから。因みにさっきの解説はベネッセさんから聞きました。

ベネッセさん、“うちの娘って凄いわ。流石ミリア、今夜はお祝いしてやらないとね♪”とか言いながらルンルン気分で帰って行かれました。

他の方々はその辺の薮に潜んでいましたが、いたたまれなくなったからか、俺がライオスお兄ちゃんに詳しくお話ししている最中にコソコソ戻って行かれましたよ?」


ノッペリーノの言葉に肩を震わせワナワナするライオス。


「うわ~~、ノッペリーノの馬鹿~~~!!」

走り出すライオス、その背中に向け「あんまり遅くならない内に帰って来てね~」と声を掛けるノッペリーノ。

山間の寒村は、今日も平和に包まれているのでした。


――――――――――――


俺がこの村の子供として転生した事に気が付いたのは何時の事だっただろう。

って生まれる前から意識があったからな~。

いや~、ビックリビックリ。まさか再び人としての生を受けるとは思わんかったわ。

だって俺って壁よ?

思い出せるだけの前世でも人・人⇒人妖・壁・人よ?

まぁ途中の人から人妖になったのは死んでも死にきれなかったと言いますか何と言いますか。別に恨みとかそう言うんじゃないんだけど、魂が育ち過ぎて輪廻の輪に入り切れなかったって言うね。

そんでのんびり人妖ライフを満喫していたら突然壁転生。

そりゃね、いつかは成仏するとは思ってたよ?来世に向かう事に否やはないけどさ、壁ってどうなのよ壁って。


長いこと壁をやってたとは思うけど、その前の人生で五千年ばかり地獄生活してたからな~。これって地獄のような生活って意味じゃないよ?死んで地獄送りになってたってだけの話。

知ってる?地獄って外界と時間経過が違うの、大体一万倍くらい。だから五千年経過しても外界に出たら一年も経ってないって言うね、超ビックリ。

だもんで数千年単位の壁生活も割りと平気だったりしました。と言うか時間経過なんて分からないんだけどね、だって何もない空間で壁してただけだもん。ボーっとしてただけだし。


まぁそんなんで何時かこのまま意識も消えて壁として世界の一部にでもなるんかなって思ってたんですけどね、また人だって。

それも今度は誰かを乗っ取ったとか本来あるはずの人物を追い出したとかじゃなくって、まんま俺の意識体って言うね。

以前はそれで相当後悔したからな~、その点だけは良かったわ。


生まれ育ったのは山間の寒村、全世帯数が十軒しかないって言う所謂限界集落。

そんな所に子供を産むような若い夫婦がいるのっておかしいと思うでしょう?

俺もそう思って近所の爺様や婆様に聞いてみたんですわ、流石に直接本人に「何でこんな山奥に住んでるの?」って聞くのは憚られましたんでね。

したらウチの両親、この爺様婆様と同い年って言うね、意味解らないでしょ?

何でもある時山に入ったウチの親父殿が甘い香りのする果樹を見つけたらしく、その実を()いで村に持ち帰ったんだそうです。

一応毒の有無を調べる為に村の鑑定士のベネッセお婆さんのところに持ち込んで植物鑑定を掛けてもらったところ、<桃:食用可能>ってのが分かったんだとか。

そこで一つ剥いて皆で味見をしたところ、目茶苦茶甘くて美味しかったんだそうです。

ベネッセお婆さんにはお礼として二つ、村長のところに二つ、うちの親父殿と一緒に桃の実を見つけたマルコさんとで一つずつ分けて家で食べたんだそうです。

次の日、既に高齢でいつ死んでもおかしくなかったベネッセお婆さんは十代後半のうら若い女性に、筋力の衰えにより老化が隠せなかった村長は筋骨隆々の青年に、ウチの両親とマルコさんのところの夫婦が二十代中頃の若者に若返っていたんだそうです。

どうやらその若さは食べた桃の量に関係があったみたいです。


で、若返った村長とベネッセさんは村を離れウチの両親とマルコさんは村で子供を作ったらしいんですけどね、ベネッセさんが帰って来ちゃいまして。

何でも若さゆえの過ちと言いますか性欲が抑え切れなかったと言いますか、魅惑の身体を取り戻した乙女とはち切れんばかりの肉体美を誇る青年。

することしたら出来ちゃったって奴でして、気が付いた時には既に遅く村長は強敵を求めてどこか遠くに旅立った後、ベネッセさんは仕方なく子育ての為に村に戻って来たって訳です。


村長は十年経っても戻って来なかったら親父殿に村長を引き継いで欲しいと言ったらしいんですけどね、既に十六年目、帰ってくる様子は一切ないそうです。

何でも村長、王都でも有名な金級冒険者になっておられるとか。

そりゃ帰って来ませんって、もしかしたらお貴族様になっててもおかしくないですからね。


で、そんな話になると二匹目のどじょうじゃないですが桃の実を求めて山狩りとなる訳ですが、案の定誰もそんなものを見つける事が出来なかったんだそうです。

爺様曰く村には古くから精霊様の伝承があるとか、もしかしたら精霊様がお導き下さったんじゃないのかと言うのがもっぱらな噂なんだそうです。

今でもたまに冒険者が訪れては伝説の桃の実を求めてさまよい歩いているみたいですけどね。


さてここで問題です。そんな不思議な桃の実を食べて若返った両親から生まれた子供たちはどうなったのでしょうか。


“ドガ~~ン、ドゴ~~ン”


お~、やってるやってる。ライオスお兄ちゃん、今日も派手だな~。

山間に響く様に木霊する打撃音。森に住む大型魔獣がライオスお兄ちゃんの八つ当たりに遭ってるって所ですね。

まぁ魔獣を退治してくれるのは有り難いんですけどね、魔獣にとってはとんだ災難と言いますか。

ライオスお兄ちゃんのお陰で、この山間の村はすっかり平和なのでございます。

それじゃレインやミリアおねえちゃんはって言うとレインが物理と魔法、ミリアお姉ちゃんが魔法特化と言った感じですかね。

それぞれが元冒険者のマルコさんや同じく元冒険者でマルコさんの奥さんのリンダさん、ウチの親父殿やお母様、ベネッセさんに教わって一流の力を身に付けた様です。

親たち曰、すぐにでも金級冒険者として活躍できる力があるんだとか。あとは経験を積むだけとの事でした。


そんでその彼らがこの度夏の旅立ちの儀を受けて、一人前の大人として巣立って行く事になったって訳です。

巣立ちの日に告白、そして爆死。まぁ青春ですわな。

ライオスお兄ちゃん、都会で悪い女に騙されないといいんだけど、凄い心配。


“ガチャ”

扉を開けて家に入る。居間にはテーブル席にドカッと腰を下ろした親父殿の姿。


「お帰りノッペリーノ。少しそこに座りなさい」

この親父殿、名前をガルバスって言うんですけど、しゃべり方が爺様みたいと言いますか、年相応って言いますか。

まぁ見た目は若返っても中身は爺様ですからね、多少は身体に引っ張られたとしてもその辺は致し方が無いのかな?俺も人の事は言えないんですが。


「なんでしょうか親父殿、もしかしてライオスお兄ちゃんの件ですか?

覗きに関しては親父殿も同罪ですからね?と言うか村の衆全員あの場にいましたからね?

こんなに楽しい催しは中々ないって、皆さんワクワクなさっておいででしたから」


「いや、まぁその事はどうでも良い、問題はその後じゃ。

ライオスに対する対応、あれはないんじゃないのか?もう少し優しくするとか労わるとか、何かあるじゃろうて」


そう言い困った顔をする親父殿、イヤイヤイヤ、あれははっきり言ってあげた方が本人の為ですからね?

変に引き摺ってストーカーみたいになっちゃう方が問題ですから、ここはちゃんと止めを刺してあげないと。


「親父殿、未練を断ち切ってあげるのも優しさかと。甘い言葉を掛けるばかりが優しさではない、時には恨まれ様とも厳しい言葉を掛ける、その優しさを分かって貰えるかどうかではなく、それによって相手がより良い人生を歩めるように手助けをする。

無私の優しさとはそうしたものではないのでしょうか?」


俺の言葉に呻りを上げる親父殿。まぁ誰だって嫌われたくはないですからね、そんな行為に走る息子を心配する気持ちも分からんではないです。


「だがそれではあまりにもお前が報われんだろうが。ライオスにも誤解されたまま・・・」


俺は親父殿の言葉を手で制し首を横に振る。


「いいんですよ、それで。ライオスお兄ちゃんは大切な家族ですから。

親父殿が俺の心配をしてくれるのは分かりますが、それはライオスお兄ちゃんを馬鹿にし過ぎです。ライオスお兄ちゃんはこんな事で弟を嫌いになるような狭い心の持ち主ではありませんよ。

まぁ苦手とは思っているみたいですけどね、家族思いの優しいお兄ちゃんです。

そんなライオスお兄ちゃんには是非幸せになって貰いたい、どこかに好い人いないですかね、本当に」


「こればかりは縁だからな~」

「「ハァ~~~~」」

不器用な兄ライオス。そんな愛すべき家族の事を思い、深いため息を吐く父ガルバスと弟ノッペリーノなのでありました。

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