キャプテン①
秋大の初戦は中堅・樋橋北中学校。
めぼしい選手はいないかな…
部活終わり。
夕焼けに染まったグラウンド。
ノックの音が途切れ、片付けをする部員たちの声も少しずつ遠ざかっていく。
グラウンドに残るのは、土の匂いと秋風だけだった。
「銀、勝。少しいいか」
その声に、俺と銀は同時に振り返る。
そこに立っていたのは伊能監督だった。
かつて名門・安条高校を甲子園優勝へ導き、その後はプロ野球でも活躍した伝説の選手。
今は鷹浜中野球部の監督として、俺たちを鍛えている。
「はい!」
二人で返事をすると、監督はゆっくりと歩み寄ってきた。
腕を組み、俺たちを見つめる。
その視線だけで空気が張り詰める。
「話は二つだ」
静かな口調だった。
それでも、その一言だけで背筋が伸びる。
「まず一つ」
監督の視線が銀へ向く。
「明日から、お前がキャプテンだ」
銀は目を見開いた。
「……俺、ですか」
「そうだ」
短く答え、監督は続ける。
「お前には人を動かす力がある。プレーだけじゃない。声も、空気も、お前なら変えられる」
銀は拳を握った。
「……はい!」
その返事は、いつもより力強かった。
監督は今度は俺を見る。
「勝」
「はい」
「お前は副キャプテンだ」
一瞬だけ息を止める。
「銀を支えろ」
「……はい!」
監督は小さく頷いた。
「二人で、このチームを全国へ連れていけ」
「はい!」
夕焼けに二人の声が重なる。
監督は少しだけ笑みを浮かべた。
だが、その表情はすぐに消えた。
「二つ目だ」
空気が変わる。
「お前らバッテリー、俺に何か隠してるだろう」
心臓が跳ねた。
銀と目が合う。
逃げるか。
ごまかすか。
いや。
ここまで来たら隠す意味はない。
「隠しているわけじゃありません」
「ほう」
「まだ、形になっていないだけです」
監督は黙って聞いている。
「俺、右だけじゃなく……左でも投げています」
数秒。
沈黙が流れた。
監督の目が鋭くなる。
「俺が受けています。右も左も全部」
監督はゆっくり息を吐いた。
「スイッチピッチャー、か」
思わず顔を上げる。
知っていたのか。
「昔、何人か見たことはある」
監督は遠くを見るような目をした。
「だが、ほとんどが途中でやめた」
「……」
「右も左も中途半端になったからだ」
言葉が胸に刺さる。
俺も、その可能性は何度も考えた。
「で?」
監督の視線が戻る。
「考えはあって始めたのか」
「あります」
「言ってみろ」
俺はグローブを握り締めた。
あの日。
最後の大会。
俺の渾身のストレートは、スタンドへ運ばれた。
あの景色は、今も忘れられない。
「右は完成形です」
静かに言葉を紡ぐ。
「でも、それだけじゃ届きませんでした」
監督は何も言わない。
「だから、もう一つ武器が必要だと思いました」
一歩踏み出す。
「左はまだ未完成です。でも完成させます」
もう迷いはない。
「右も左も、どっちもエースにします」
静寂。
隣で銀が笑う。
「俺が全部受けます」
監督が視線を向ける。
「右でも左でも、勝たせます」
しばらく誰も話さなかった。
風だけが三人の間を通り抜ける。
やがて監督は小さく息を吐いた。
「……いいだろう」
その一言で胸が熱くなる。
「ただし」
俺たちは顔を上げた。
「遊びで終わらせるな」
「はい!」
「中途半端になるくらいなら、今すぐやめろ」
「はい!」
「やるなら誰にも真似できないところまで行け」
その言葉は命令ではなく、期待だった。
「全国で通用する武器にしてみせろ」
「はい!」
監督は満足そうに頷いた。
「次の練習試合で試す」
「ありがとうございます!」
監督は背中を向ける。
歩きながら一言だけ残した。
「楽しみにしている」
夕日に照らされながら去っていく背中は、どこまでも大きかった。
その数日後。
秋季大会初戦。
球場には朝から多くの観客が集まっていた。
スタンドには応援団の太鼓が鳴り響き、鷹浜中の選手たちがベンチからグラウンドへ飛び出していく。
整列を終え、俺たちはベンチへ戻る。
アナウンスが静かに響いた。
「一回表、鷹浜中学校の攻撃を開始します」
球場の空気が引き締まる。
続いて、打順が読み上げられる。
「一番、キャッチャー、中尾くん」
スタンドがざわついた。
「やっぱり今日も一番か」
「鷹浜の主砲がトップバッターなんだな」
銀はゆっくり立ち上がる。
バットを肩に担ぎ、軽く首を鳴らした。
「流れ、取ってくる」
「頼んだ、キャプテン」
「任せろ」
背中を向けて歩いていく。
その背中は、夏よりずっと頼もしく見えた。
打席に立つ。
相手エースが大きく振りかぶる。
「プレイ!」
初球。
鋭いストレート。
銀は静かに見送る。
「ボール!」
一球見ただけで軌道を頭に刻む。
二球目。
今度はストライクゾーンへ。
銀のバットが鋭く振り抜かれた。
乾いた快音が球場に響く。
打球は三遊間を真っ二つに破る。
ショートが飛び込む。
届かない。
「セーフ!」
先頭打者ヒット。
ベンチが一気に盛り上がる。
銀は一塁上で拳を握った。
「流れ、持ってきたぞ」
続くアナウンス。
「二番、セカンド、波田くん」
波田が打席へ向かう。
一塁を見る。
「行くよな」
銀は小さく頷く。
リードを広げる。
投手がセットに入る。
牽制はない。
その瞬間だった。
銀がスタートを切る。
キャッチャーが立ち上がる。
「走った!」
送球。
しかし銀は迷わない。
全力で滑り込む。
「セーフ!」
盗塁成功。
スタンドがどよめく。
「速い!」
「流れを完全に引き寄せた!」
ベンチから歓声が上がる。
波田は静かにバントの構えを取った。
投手は明らかに動揺している。
監督がベンチから静かに頷く。
「いいぞ。そのまま揺さぶれ」
鷹浜の攻撃は、まだ始まったばかりだった。
伊能 正
年齢61歳
ポジション:ピッチャー(?)
噂:愛知の名門・安条高校で甲子園優勝に導き、プロで活躍した後は母校である、安条高校の監督したあと、今に至るようだ。
花田 蓮一
年齢13歳(中2)
誕生日:11/9
ポジション:外野
右打ち
ミート⑥
走力⑥
守備⑦
噂:嶋口が守備交代するときの相手が彼らしい。




