歓迎
Floraison
―フランス語で「開花」を意味する―
過去に場面緘黙症を抱えていた霞は仲間たちと一緒にアイドルとして花開く。
栃木県足利市を舞台に
『場面緘黙症×アイドル×足利市』
今までにない繊細でリアルなアイドル成長ストーリー。
2人は花園の中を進んでいく。
彼女は足利フラワーパークのオーナーの娘だと教えてくれた。だから彼女は自由に出入り出来たのだと理解した。
「わぁ〜、久々に来たけどこんなにお花が咲いてるんだね〜」
色とりどりの花達を見てほんわかしていると、再び彼女に手を引かれて歩き出した。
「?」
どこかに連れて行こうとしているのか、彼女は迷いなくどんどん奥へ進んでいく。
「そういえば、あなたはアイドルの経験があるの?」
突然の問いに肩を揺らす。
「えっ、えっと…、初めて、…です」
「…人前で歌ったりした経験は?」
「…全く、…というか、そもそも、人前で話すの苦手で…。そういえば…、アイドルってみんなの前で歌わないと、…いけないんだ…」
改めてアイドルの現実を思い出して身体が震える。
「……合唱の時はどうだったの?それもダメ?」
「…合唱、なら。みんなと一緒なら歌える…!
でもソロは無理かもぉ……」
「……」
彼女は不思議そうに霞を見つめる。
「…どうしてアイドルをやろうとしてるの?」
「…え?」
頭を抱えて涙目になっていた霞はその問いに一瞬キョトンとするが、幼い頃の記憶を思い出して冷静になった。
「私、でんき組っていうアイドルが大好きで、小さい時よくテレビの前で一緒に歌ったり踊ってたりしてたんだ…。それで、私…、幼稚園で、っ」
一瞬迷って言葉を止めてしまったが、
この間の陽茉莉ちゃんの言葉が脳裏をよぎった。
「…私、場面緘黙症っていう不安症があって、
幼稚園で声を出すことが出来なくて、みんなとお喋りすることが出来なかったの。でもっ、…唯一、一人だけ、お話できるお友達がいて…。
いつも隣にいてくれて、その子も私と同じアイドルが大好きで、ダンスがとっても上手で、一緒にアイドルやろうって約束したの…!
小学校上がるタイミングで離れ離れになっちゃったけど、この花園高校でまた再会できて、椿ちゃんが誘ってくれたお陰で、やっと夢が叶うんだって思ったらつい嬉しくて承諾しちゃったけど…、、
人前で歌うことなんてすっかり忘れてた…!」
さっきまで楽しそうに話していた霞はまた落ち込みモードに入ってしまった。
「……でも、これがきっかけで…、少しずつでも…、人前で話すことが克服できれば良いな…って思って、アイドルに挑戦してみようと思ったの!」
先程まで揺らいでいた瞳が真っ直ぐ彼女の目を捉えた。
「…話してくれて、ありがとう。きっと、克服できるよ。」
そう言って彼女はある場所の前で歩みを止めた。
目の前で揺れる花を見つめながら彼女は口を開いた。
「…私、実はアイドルやっていたんだ。」
「…え?」
「渡良瀬橋34って聞いたことない…?」
「あっ、足利のご当地アイドルの…!すごい!」
本物のアイドルを目の前にしてキラキラした眼差しで彼女を見る。
「…でも、メンバーとあまり打ち解けられなかった。私は、もっとグループが良くなるようにと思って、歌のアドバイスをしたつもりだったんだけど、嫌味に捉えられてしまったみたいで…。
私は…人の気持ちがわからないから、無意識に相手を傷つけてしまうみたい…。
メンバーとすれ違ったその日を境に、みんなが次々と辞めていってしまって、結局私一人だけになってしまって、渡良瀬橋34は、解散…。」
「…っ」
衝撃的な話を聞かされ、胸が締めつけられそうになった。
「私は歌うことが大好きなの。だから、もっとみんなにも歌の技術を上げて、歌うことの楽しさを伝えたかっただけなの。」
「今度こそ、間違えずに、みんなと歌いたい…」
目の前の花を見上げていた彼女はゆっくり霞に振り向いた。
その瞬間、2人の間に一気に風が吹き抜け、背後の花が一斉に揺れ動く。
「そういえば…名前、言ってなかったね。
私、藤子。
私もそのアイドルグループに入れてほしいな。」
彼女の背後にある大藤が夕日に照らされキラキラ光り、微笑む彼女がまるで藤の花の精に見えるほど妖艶で、妖かしく、思わず息を呑んだ。
彼女から目が離せなかった。
「初めまして、最上藤子です。」
翌日の放課後、藤子はB組の教室へ向かい、霞達と合流した。
今朝、蘭はいつものように改札前で霞が来るのを待っていたら、先日駅で見かけた例の生徒が当然のように霞の隣にいていったい何事かと思った。
話を聞いたところ、元アイドルで、どうやら私たちの作るアイドルグループに入りたいらしく、メンバーに挨拶をしたいとのことだった。
それは良いとして…、
なんか距離感がおかしくないか?やけに霞に近いような…というか完全に密接してるじゃないか…!
沸々と湧き上がる感情を抑え、平常心で藤子に挨拶をする。
霞の緘黙のことを説明しようとしたら、自分から藤子に症状を話したと聞いてとても驚いた。
自分の知らないところでこんなに成長してるとは…。
…少し、寂しいと思うのはなぜだろう。
「うわ〜、めっちゃ美人さん〜!!
初めまして!ひまりで〜す!!」
よろしくねと藤子の手を取り両手で握手をする。
「美萌里です。よろしくお願いします♪」
陽茉莉にぶんぶんと手を動かされながら、藤子は顔だけ美萌里に向けて挨拶をする。
「よろしく。」
そこへ椿が遅れてやって来た。
彼女の顔を見た瞬間、
「あ〜〜〜!!!思い出した…!!!
あなた、渡良瀬橋34にいたわよね!?」
鼓膜を破られてしまいそうな大声を上げる彼女に眉をひそめた。
「…それを思い出そうと、ずっとジロジロ見てたのね」
「じっ、ジロジロなんて…、こっそり見てたつもりだったのに!」
「…毎日毎日視線を感じてうんざりしてたところよ」
「なっ…!」
頭に血が上りそうになってる椿を蘭と霞が抑える。
「椿、落ち着け」
「つっ、椿ちゃんっ…!藤子ちゃんもフロレゾンに入れてあげられないかな…?」
「ええ??!霞ちゃん、正気!?」
「ほっ、本物のアイドル経験者だよ…?絶対良い影響になると思うの…」
藤子は顔色を変えず無表情のまま話し出す。
「ダンスに関しては私よりも彼女の方が専門的だと霞から聞いた。
私が力になれる事と言えば、歌のことなら多少なり指導できるけど。」
椿はだんだん冷静を取り戻してきた。
「…なるほど。歌姫はグループに一人は必要よね…。グループの歌唱力を上げるにも良い人材だわ!」
先程まで目を吊り上げていた彼女はどこへ行ったのか。見事な手のひら返しにやれやれと蘭は溜息をつく。
「元アイドルさんがメンバーになるなんて心強いですね!」
「すご〜い!ひまりも歌上手くなりたい〜!!」
みんなが歓迎ムードになっていると、藤子はポツリと呟いた。
「それで、提案なんだけど…」
「おっ!早速?」
椿が身を乗り出した。
「霞から大体の事情は聞いたんだけど、
彼女をソロで歌わせるのは厳しいと思うの。」
いきなり自分の話題になり、霞はビクッと肩を揺らす。
「だから、私とハモるような形でパート分けするのが最適かと…」
「それ、私じゃダメなの?」
藤子の言葉を遮るように蘭は口を出した。
「…あなたは歌の経験があるの?」
「っ…それは、藤子よりはないかもしれないけど…」
「心配なのは分かるけど、私に霞を任せてもらえない…?」
真っ直ぐ蘭を見つめてくる藤子に、たじろいでしまった蘭は諦めるかのように承諾した。
その日の夜、霞は昨日見たフラワーパークで見た神秘的な光景を思い出して歌詞作りに取り組んだ。
私たち全員に花の名前が入っていること。フロレゾンというフランス語の意味。
少し情報を詰め込みすぎた気もするが、電波ソングにすると聞いていたのできっとこれで良いのだろうと、翌日美萌里に歌詞ノートを託した。
お待たせしました!!
前回まで名前を伏せていたのはこの為に取って置きたかったのです…!
このシーンがアニメ化してくれたらどんな映像になるのだろうと妄想と膨らませながら書いていました(←変態ですね笑)
本日も最後までお読みいただきありがとうございます。またお付き合いしていただけると嬉しいです。
ではまた。




