特別招待
Floraison
―フランス語で「開花」を意味する―
過去に場面緘黙症を抱えていた霞は仲間たちと一緒にアイドルとして花開く。
栃木県足利市を舞台に
『場面緘黙症×アイドル×足利市』
今までにない繊細でリアルなアイドル成長ストーリー。
先日、あらかたグループの方向性が決まり
一段落したところで次の問題が発生した。
アイドルの活動を始めるには、まず音源が必要だ。
その曲のイメージからダンスの振付や衣装製作に入るのが一般的だろう。
作詞担当になってしまった霞は頭を抱えていた。
まず私が作詞を進めなければ美萌里ちゃんが作曲出来ないし、蘭ちゃんも振付考えられないし、陽茉莉ちゃんの衣装製作だって遅らせてしまう…。
蘭と駅前で別れると、改札を抜けて駅のホームへ入りベンチに座った。帰りの電車を待っている間、とにかく曲のインプットをしようと、スマホの音楽アプリを開いた。鞄からイヤホンを取り出し耳にはめる。
アプリを開くと、昔大好きだったアイドルのミュージックビデオがトップに出てきた。
霞は懐かしさでつい再生ボタンを押す。
霞は周囲の様子を伺い、人が居ないことを確認すると、画面の中のアイドルと一緒に歌を小さく口ずさんだ。
足利駅の自動ドアをくぐり抜けると、ポケットから交通系ICカードを取り出し、改札口でかざしていつものように駅のホームに入る。
ちょうど誰も居ない時間帯なのか人気がない。
はずなのだが、微かに何か聞こえる…と耳を澄ますと、透き通った歌声が左の方から聞こえてくる。
声のする方を見てみると、柔らかい桜色の髪をした可憐な少女がいた。自分と同じ制服を着ていることで同じ学校の生徒だとわかった。
声に導かれるように静かに歩み寄り、隣のベンチへ座った。
「…?」
霞は曲の2番まで差し掛かったところで何か異変に気づいた。
視線をスマホから足元に移した。そのまま横に動かすと自分と同じ制服のスカートが目に入り、一気に青ざめる。
こんな近くに人が寄ってくるなんて蘭ちゃん以外あり得ない…!でも蘭ちゃんが駅の中にいるなんておかしい…!じゃあ、誰…?!
ワナワナと震えながらその生徒の顔を確認するように見上げた。
「〜〜〜っ!!!!」
その顔に見覚えがあったことと、先程まで気配に気づかず歌い続けていた姿を見られていたことに盛大な恥ずかしさが押し寄せ、霞は声にならない悲鳴を上げた。
思わずスマホを宙に投げて落としそうになり、霞は慌てて腕を伸ばしたところで、彼女もスマホを受け止めようと手を伸ばした。
結果、2人でスマホをキャッチして、霞は彼女に手を握られている状態になった。
ガクガクと震えながらだんだん顔を赤くしていく霞に気づいた彼女は申し訳なさそうに、「ごめん、脅かすつもりじゃなかった…」と彼女は手を離してくれた。
「あっ…えっ…ええと、…な、何か、ごっ、ごご、ご用でしょう、か…?」
イヤホンを外しながら用件を訊ねたが、まだ心臓が激しく暴れているので言葉がどもりまくる。
「…綺麗な声が聞こえてきたからつい気になって」
「へ…?」
「私と相性が良さよそうな声してるね…」
「…?」
どことなく掴めない雰囲気の彼女に戸惑う霞。
「その歌、私も知ってる。」
その言葉に霞はパァっと顔を明るくする。
「えっ本当!」
「君、花園の生徒だよね?1年?」
「…っはい、そっ、そうで…」
ついため口で話してしまったことに対して、もし先輩だったらどうしよう…と頭をよぎらせ霞は顔を青くした。
「私も今年入学したから同級生だね」
その言葉に霞は安堵した。
この短時間でコロコロ顔色が変わる霞を見てフッと面白そうに笑う。
「君のこと、よく学校で見かけてた」
「えっ?」
「同じクラスの古川とよく一緒にいるよね」
「…てことは、椿ちゃんと同じA組…」
「入学初日からなんとなく視線を感じるんだよね…そいつから。何か知ってる?」
顔は無表情だか、少し不機嫌そうに見える。
「…えっ、えーと、椿ちゃんがごめんね…?」
なんとなく想像できて、知り合いとしてこちらが申し訳なく思ったのでつい代わりに謝る。
「あなたが謝ることじゃないよ」
「あっ、昔、どこかで合ったことあるとか…?」
「いや、全くそんな記憶はない」
「あっ、そっか…」
ピシャリと言われてしまってどことなくショックを受ける。
「それより、よく廊下の広間にいるよね。何してるの?」
「あっ、えと…実は椿ちゃん達とアイドルをやることになって…」
彼女は少し目を見開く。
「…へぇ。それは、どこかの事務所に入るの?」
「え?…ううん、椿ちゃんは自分達で一から作ろうとしてるから…それはないと思う…」
彼女はまた少し目を見開く。
「…そう。」
彼女の少し興味深そうな目に変わった瞬間を見て霞は問いかけた。
「…えと、…アイドルに興味があるの?」
「…まぁ、少しね」
彼女はどこか遠くを見つめるように答えた。
「「間もなく1番線に下り列車がまいります。黄色い点字ブロックの…」」
駅のアナウンスが流れると、彼女は立ち上がり霞に振り返る。
「ねぇ、このあと予定ある?ちょっと遊びに来ない?」
「へ?」
いきなりの展開に思考がついて行かず固まっていると、彼女は霞の手を引いた。
2人は到着した電車に一緒に乗り込んだ。
霞はどこに連れて行かれるのだろうと恐怖に怯えていると、自宅の最寄り駅よりも2つ手前の駅、足利フラワーパーク駅で降ろされた。
「…フラワーパーク?」
「初めて?」
「あ、ううん!小さい時に家族で来たことあるよ!
よく中の公園で遊んでたな〜」
懐かしさに霞はふふっと笑う。
「あぁ、昔はあったね、公園。でも今はもうないよ」
「ええ!!そうなの…」
公園がなくなってしまったことにショックを受けている霞を気にも留めず、電車に乗り込む前からずっと掴んでいた手を引き入場ゲートへ進んだ。
「あら、おかえり!」
チケット売り場の中からよく通る声が飛んできた。
「ただいま、姉さん」
「あんたが友達連れてくるなんて珍しいわね」
「この子、中に入れていい?」
「良いわよ!」
彼女は姉と思わしき人物と淡白な会話を交わすと霞の手を引き中へと進んだ。
霞はそのやり取りをポカンと見ていたが入場ゲートをくぐり抜けたところで我に返った。
「あっ、えっと、チケット代って…」
「大丈夫。特別招待ってことで。」
彼女は霞にフッと笑いかけた。
申し訳なさでどうにかなりそうだったが、久々のフラワーパーク、特別招待といった非日常感にのぼせ、霞は素直にそれを受け取った。
「…ありがとう!」
2人は花が咲き乱れる百花繚乱な世界へ進んでいった。
ついに謎の少女が出てきて声を発しましたね。
やっと出番です。待たせてごめんね…。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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