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フロレゾン  作者: 茉莉花


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4/13

アイドルやろうよ!


Floraison(フロレゾン)

―フランス語で「開花」を意味する―


過去に場面緘黙症を抱えていた霞と仲間たちと一緒にアイドルとして花開く。


栃木県足利市を舞台に

『場面緘黙症×アイドル×足利市』

今までにない繊細でリアルなアイドル成長ストーリー。


あっという間に放課後になり、2人は昇降口を目指し廊下を歩いていた。

誰かと登下校出来る日が来るなんて…と霞は夢見心地になりながら蘭の隣を歩く。

霞の周りにお花が飛んでいるように見えた蘭は、小動物のような可愛さに癒やされながら隣を歩いていた。


だが次の瞬間、背中がゾワッとするような悪寒がした。嫌な予感がして後ろを振り返ると、こちらを目掛けて走ってくる黒髪のツインテールが目に飛び込んできた。


「霞!走るよ!」

「へ?」

蘭は素早く霞の腕を掴むと勢い良く走り出した。

思わず素っ頓狂な声を上げた霞は突然腕を引っ張られ、何が起きたのか理解出来ぬまま道連れになった。

前を歩く生徒たちをかき分けながら廊下の角を曲がり、本来の目的地である昇降口を通り過ぎ、体育館へ繋がる渡り廊下辺りまで来ると、やっと蘭は立ち止まった。

昔から運動神経抜群で体力のある蘭に必死について行った霞は、息も絶え絶えにその場に座り込んだ。

「…何とか撒けたな。急にごめん、霞。大丈夫?」

蘭は周りの様子を伺い安全を確かめると、座り込んだ霞に向き合う。

急に走り出してどうしたのか霞が蘭に問いかけようとしたその時、頭上から甲高い声が響いた。

「撒けてないわよ!!」

霞はビクッと肩を跳ね上げ恐る恐る振り返ると、仁王立ちしている足が見え、そのまま見上げていくと、長い黒髪を赤いリボンでツインテールに結い上げた生徒が腰に手を当てこちらを見下ろしていた。

蘭は思い切り苦い顔をすると、諦めるように彼女を見上げた。

「今朝からしつこいな…もうあの話は終わっただろ。それに廊下を走ったら先生に怒られるぞ」

溜息をつきながら霞に向き直り呼吸を落ち着かせる。

「まだ終わってないし、そもそも蘭が逃げるからでしょ!そっちだって走ってたじゃない!!」

「それは椿が追いかけてくるからだろ」

「だからってなんで逃げるのよ!!」

息を整えながら2人の激しい口論にオロオロする霞。

「とりあえず、今日は霞と帰るから…」

蘭は座り込んだ霞を立たせると昇降口へ向かう。

「え!もう友達が出来たの!?あの周りに全く興味を示さないクールな蘭が?珍しい〜!」

さっきまで鬼の形相をしていたのにコロッと表情を変えて、2人の後ろをついて行くように椿も昇降口へ歩き出す。

「霞とは幼馴染なんだ。あと、ついてくるな」

「だって同じ方向なんだから仕方ないじゃない〜。それでそれで!2人はいつからの知り合いなの?

私にも紹介してよ!あ!挨拶がまだだったわね!初めまして!A組の椿でーす!」

蘭は質問しながら徐々に近づいてくる椿を押しのけ霞の盾になる。

「霞に近づくな。幼稚園からだよ」

霞から引き離される事にムッとした。

「私は蘭じゃなくて霞ちゃんに聞いてるのよ!

てかなんでそんなに警戒するわけ?別に襲ったりしないわよ!」

2人に挟まれてオロオロする霞をよそに口論はヒートアップする。

靴を履き替えて校門へ向かって歩き出すと、椿もさっさと靴を履き替え2人の後を追う。

「てか蘭が全部答えるから霞ちゃんが喋るタイミング無いじゃないの!」

「霞は昔から人前で話すのが苦手なんだ」

「にしたって、ちょっと過保護過ぎない?保護者か?」

「椿には関係ないだろ」


霞は蘭の隣で口を挟むタイミングを伺っていた。

突然現れた彼女は蘭とどういった関係性なのかずっと気になっていて度々口を開くも、入り込む隙間が無かった。

しばらく2人のキャッチボールを眺めていたが、

霞は2人の様子を伺い口論が途切れたタイミングで思い切って口を挟んだ。

「…あっ、あの!2人はお友達…なの?」

椿は初めて聞く霞の声に反応し目を輝かせた。

良くぞ聞いてくれたとばかりに、霞との間にいた蘭を押しのけ霞に近づく。

「蘭とは中学校で同じクラスだったのよ!それで体育の授業で蘭のダンスを見て感動したの!」

今度は霞が目をキラキラ輝かせて蘭を見た。

「…!蘭ちゃんまだダンス続けてるんだ!」

「え…てことは蘭って幼稚園からダンスやってたの?どおりで上手い訳ね!」

「うんうん!蘭ちゃんは幼稚園の時からダンスが上手で、よく一緒にでんき組のダンス踊ってたんだよね」

霞は満面の笑みで蘭に振り返る。

蘭は霞の言葉にピシッと固まる。

「えーー嘘!私もそのアイドル大好きだった〜!」

椿は霞の両手を取り縦にぶんぶんと振った。

霞は共通の趣味を分かち合えた喜びで思わず蘭の存在を忘れ、椿と手を繋ぎはしゃいだ。

ところが椿はふと何かを思い出したかのようにピタッと動きを止め、大人しくなった。

「っていうか〜…そんな話、蘭から一度も聞いたこと無いんですけど〜?」

椿はニヤニヤしながらゆっくりと蘭を振り返った。

「え、ごめん…蘭ちゃん。言っちゃいけなかった…?」

と、ショックを受けたように振り返る霞。

ムカつく顔の椿と、今にも泣きそうな霞に挟まれ逃げ場のない状況に頬をほんのり赤く染め、追い詰められたような表情を浮かべる蘭。

「…っ。」


蘭は葛藤の末、観念したように口を開いた。

「…幼い頃は多少なりとも憧れていたよ。」

「じゃあアイドルがきっかけで今でもダンスを続けているのね!それなら…」

椿は顔を輝かせて言葉を続けようとした時、蘭がそれを遮る。

「とりあえず振付だけは提供してやる。メンバーは他を当たってくれ」

キラキラした顔から一瞬で真顔になる椿は霞の肩を掴み縋った。

「ねえ〜霞ちゃんからも何か言ってやって〜!本当にしぶといんだよ〜この人!」

肩を思い切り掴まれ揺らされる霞は、話が見えない状況に困惑する。

それを察したかのように蘭が助けに入る。

「関係ない霞を巻き込むな」

「関係なくないわ!霞ちゃんもアイドルやらない?足利でアイドルグループを作るのよ!それでず〜っと蘭を誘ってるんだけどなかなかメンバーになってくれなくてさ〜」

霞は一瞬顔をほころばせたが、その後に続く言葉に驚いたように蘭を見る。

「蘭ちゃん…」

霞が何か言いかけようとした時、

「椿は向こうの方角だろ。私たちはこっちだから」

霞の背に手を当て椿と離れるように駅の方歩き出す蘭。

「全くもう!いつも逃げるんだから!この続きはまた明日ね!」

そう言うと、あっさり身を引いた椿は霞たちとは逆方向に歩いていった。


蘭は盛大な溜息をつくと、霞を駅まで送るために足利駅へと向かって歩き出し、霞に話しかけた。

「ごめん、霞。巻き込んじゃって」

霞は心配そうに答える。

「ううん。大丈夫だけど…」


「…アイドルのことだろ?」

霞の心情を察するように蘭が話し出す。


「実は小6の時にアイドルのオーディションを受けたんだ」

霞は目を丸くして蘭を見つめた。

「そうだったの…!」

蘭は苦笑いしながら続けた。

「でも…審査員に言われたんだ。君のダンスはアイドルの域を越えてしまっているって」

「え…」

「アイドルは可愛さ重視の振付が多いだろ?

つまり私のダンスはキレがあり過ぎて、まるでバックダンサーのようだと指摘されちゃって…」


蘭は言葉を続ける。

「私はアイドルを目指すために必死に練習して

培ってきた自分のダンスが好きで誇りにも思ってる。

でも手を抜いてアイドルのレベルに合わせるのは私のプライドが許さない。そう思って、もうアイドルになろうとは思わなくなったんだ…」


少し悲しそうな顔で霞に笑いかけた。

霞は蘭がそんな状態になっているとは想像もしていなかった。幼い頃、近くで見ていた蘭のダンスはいつもかっこよくて大好きだった。


いつか一緒にアイドルをやろうと夢見ていたあの頃を思い出し、椿ちゃんのアイドルの誘いをどうして断るのか聞こうとしたが、思えば蘭ちゃんはずっと難しい顔をしてた。

軽々しくアイドルをやろうと言ってくる椿ちゃんを邪険に扱う蘭ちゃんの態度にも納得がいった。


でも一つ疑問が残った。

「でも、まだダンスを続けてるのって…」

霞はそう問いかけると、あぁ…と納得するように蘭は口を開いた。

「悔しいけど、言われた通りダンサーになった方が自分のこだわりを維持し続けられるし、今までの努力が無駄になることはないと思ったからね」


どこか抑えているように感じる蘭ちゃんが苦しそうに見えてつい問い詰めるように聞いてしまった。


「そっか。確かに蘭ちゃんのダンスは映えるもんね。きっとダンサーになっても活躍できるよ!


でも…どうして振付は提供してあげるの?」


不意をつかれたように蘭はハッとする。


「それってちょっとだけ、まだアイドルを諦めきれてないように感じるのは私の気のせいかな…?」

首を傾げじっと見つめてくる霞の瞳に釘付けになる蘭。

全てを見抜かれたような気がして霞から目が離せない。


「ダイヤの原石を見抜けないなんて、

その審査員の目はとんだ節穴ね!!!」


急に聞き覚えのある甲高い声が後ろから響く。

振り返ると腕組をして仁王立ちしている椿がいた。

「なっ…! 椿、帰ったんじゃ…」

蘭の反応を面白がるように椿は答える。

「そんな簡単に引き下がるわけないでしょ!

もしかしたら幼馴染の霞ちゃんには心の内を話すかもしれないと読んだ!

だからこっそり2人の後をつけさせてもらったのよ!」

蘭は呆れたように答えた。

「なら話は早い。私がアイドルをやらない理由がこれでわかっただろ…」

知られてしまったなら開き直るしかないと、蘭は改めて誘いを断ろうとしたその時。


椿が叫んだ。


「型にハマったアイドルなんて埋もれちゃうわ!」


蘭の心臓が跳ね上がる。


「今や数千組のアイドルがいるんだよ?

み〜んな個性を無くしておんなじようなダンス、衣装、髪型、メイク、歌い方、話し方をしてたら、今どき誰も見向きしないのは百も承知してるわ!!

そのくらい研究済みよ!!ドルヲタ舐めんな!!!


でもね、アイドルの域を越えるほどカッコいいダンスをするメンバーがいるグループなんてちょ〜個性的でいっちばん目立つと思わない!!?」


蘭の心情を理解したように自信満々に言い放った椿は、ムカつくほどのキラッキラしたドヤ顔だった。


可愛いダンスじゃないとアイドルじゃない。

個性を無くして型にはめたようなダンスをしないといけないが為に、プライドを曲げることが許せなかった。自分のダンスが受け入れられないのならその道は諦めよう。自分に言い聞かせるように、当時の審査員の言葉の呪縛が絡みついて離れなかった。


ずっと誰かに言ってほしかった言葉だ。

初めて私のダンスを見てすごいと近寄ってきてくれた椿はとても印象深かった。

アイドルをやろうと誘われてつい舞い上がりそうにもなったが、言葉の呪縛は強烈だった。

アイドルになるなら自分を抑えなきゃいけない。

プライドを曲げてまでアイドルをやるのは本望じゃない。未練がありつつも、そう言い聞かせて椿の誘いを断り続けていた。


でも、自分たちで作るグループなら自由に、制限なく、プライドも曲げずに自分らしく、踊れる…?



心臓が激しく高鳴り俯いて必死に堪えていると、目の前に片手が差し伸べられる。

正面を見ると片手を差し出した椿が優しく微笑んでいた。

蘭は驚いたように見つめていると、

「蘭ちゃん!一緒にアイドルやろう?」

続いて霞も片手を蘭に差し出す。

「蘭!私たちでアイドルグループ作るよ!」

優しく微笑んでいた椿はニカッと笑った。


蘭は困ったように、でも嬉しそうに笑い2人の手を取った。


霞には少しだけキラキラ光る蘭の涙が見えた。


一気に3人メンバーが増えました〜♪

続きはまたまた気長にお待ちいただけたら幸いです。

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