入学式(前編)
Floraison
―フランス語で「開花」を意味する―
過去に場面緘黙症を抱えていた霞と仲間たちと一緒にアイドルとして花開く。
栃木県足利市を舞台に
『場面緘黙症×アイドル×足利市』
今までにない繊細でリアルなアイドル成長ストーリー。
『“あ”って言ってみて!』
『なんで喋らないの??』
『え〜?聞こえな〜い』
『家では喋ってるんでしょ?』
『霞ちゃん喋んないから一緒にいてもつまんない』
『何か言ってよ!わかんないじゃん!!』
クラスメイトに詰め寄られ、軽蔑の目を向けられる。
『霞ちゃん。先生と一緒に言ってみようか!』
黒板の前でみんなに見られながら黙って立ち尽くす私に、見かねた先生が隣に立ち一緒に教科書を持つ。
『そんな小さな声じゃあこの先やっていけないよ?』
私なりに頑張って振り絞った声を聞いた先生が、冷たく見下ろす。
「…っっ!!!」
一気に覚醒して飛び起きる。
額には冷や汗をかいていた。
「……最悪な目覚め。」
はぁ…と溜息をつきベッドから降りる。
今日から新学期なのに…と落ち込みながら身支度をする。
レースがついた大きな襟のブラウスを着て裾に白いラインの入った黒いスカートを履く。黒いジャケットを羽織りボタンを留めたら、『足』という刻印の入ったカメオがついた白いリボンを胸元に付ける。
ブレザーとセーラー服をいいとこ取りしたような可愛い制服に落ち込んだ気分も少し和らいできた。
窓の外を見ると桜の花びらが風に乗って舞い踊っている。
「あ、そうだ…。」
何かを思い出したかのように
ドレッサーの引き出しを開けカスミソウの髪飾りを取り出す。
鏡の前で柔らかい桜色の長い髪を耳にかけ左耳の上辺りに髪飾りをつける。
これは新しい学校生活が上手く行きますようにとお守りのような感じでつけていこうと買っておいた物だ。
鏡の中の自分を見つめ
「…よし!頑張れ霞!今日から変わるんだ!」
と小さくを拳を握り自分を奮い立たせせ、家を出た。
佐野駅の改札で交通系ICカードをかざしてホームに向かう。
「えっと…足利行きは1番線…。」
案内掲示板を見上げてそわそわしながら1番線ホームで電車を待つ。
親とは何回か一緒に電車に乗ったことはあるが、1人で電車に乗るのは初めてでそわそわしてしまう。
乗り過ごしたらどうしよう…違う駅で降りてしまったらどうしよう…とぐるぐる頭の中で不安を巡らせている間に電車がやってきた。
霞は慌てて電車に乗り込み吊り革に掴まる。
良かった…無事に乗れたと胸を撫で下ろす。
動き出した電車によろけながら流れる窓の景色を見つめる。
富田駅、足利フラワーパーク駅と各駅に電車が停まる。
フラワーパークといえばよく両親と一緒に遊びに行っていたなと思い出し懐かしくなる。
乗り込む人をぼーっと眺めていると一際目立つ子が視界に入った。
肩の上辺りまである白い髪の下に忍ばせた藤色のインナーカラー。センターに別れた前髪から覗く瞳はまるで大藤が目に写ったような綺麗な紫色。
どことなく気怠げな、浮き世離れした雰囲気をまとっていてつい見惚れてしまった。
よく見ると自分と同じ制服を着ていたことに気づき慌てて視線を逸らせた。
もしかしたら彼女と同じクラスで、電車内でジロジロ見て不快にさせてしまったとしたら、クラス中に広まって、私の学校生活終わる…!!と顔を青くしながら妄想を膨らませて自分を責めた。
そうしている内に電車は足利駅に到着した。
ハッとして慌てて降りる。
電車から降りると森高千里さんの渡良瀬橋の発車メロディが流れる。
レトロな駅だな〜とキョロキョロしながら
改札を出て昭和通りへと歩き出す。
足利学校の横を通り過ぎ真っ直ぐ進むと
私があえて選んだ隣町の学校
『足利花園高等学校』がある。
校門を入ると右手に大きなグラウンドが目に飛び込んできた。あまりの広さに感激していると、賑やかな声が校舎の方から聞こえてきた。
振り返るとクラス分けされた名簿の張り紙の前に人だかりができているのを見て、慌ててそっちの方に向かった。
クラスはA、B、C、と3つのクラスに分けられており、名簿を目で追うように自分の名前を探した。
「え〜っと………あった!B組だ!」
名前を見つけて安堵しのんびり名簿を眺めていた
霞だったが急に我に返り、
(早く教室に行かなければすぐにグループができてしまって入りづらくなってしまう…!)
他にどんな生徒がいるかもろくに確認せず慌てて教室に向かった。
霞がいた場所に入れ替わりでお腹のくびれ辺りで綺麗に切り揃えられた深い青髪の生徒が立つ。
「藤咲…藤咲……。」
名簿に向かって指を上から下へ移動させながら自分の名前を探す。
「あった!……B組ね。」
と引き続き他のクラスメイトの名前を見ていると
「ん?……相沢…霞。」
見覚えのある名前に目が留まった。
「……まさかな。同姓同名かもしれないし。」
うんうんと自分に言い聞かせながら教室へ歩き出そうとした時、
「ら〜ん!おはよう!また一緒の学校じゃん!」
そう遠くから声をかけられ振り向くと中学の時の同級生が手を振りながらこちらへ近寄ってきた。
長い黒髪を両耳の上辺りでツインテールにして赤いリボンをつけている。
「おはよう、椿。朝から元気だな。」
朝からハイテンションな椿に返事を返す。
「私は何クラスかな〜…」
と名簿を見ながら自分の名前を探す。
「あった!古川椿!A組!」
と一瞬目を輝かせたかと思いきや
「あ〜あ、蘭と離れちゃった〜」
急に落ち込む椿。
同じ中学のクラスメイトだった二人。
体育のダンスの授業で蘭のダンスに釘付けになった。
幼い頃からダンス教室に通っていた蘭。
しなやかに伸びる手足はまるで蝶が舞うかのよう。
美しくそれでいて完璧な身のこなし。
自分にはない才能を見せつけられ、正直嫉妬を覚えたが椿は構わず蘭に話しかけた。
話しかけずにはいられなかった。
『すごい!蘭ってダンスの天才なのね!』
椿に急接近された蘭はビクッと肩を上げて半歩後ろに下がった。
『えっ?!あ、ありがとう…。』
それからというもの椿は蘭につきまとい一緒にアイドルをやろうと誘ってきた。
『あたしがリーダーで、蘭は振付担当!どう??』
毎日毎日飽きもせず絡んでくる椿をうっとおしげに返事を返す。
『だからやらないって。こんな田舎でアイドルやったって誰も見ないし相手にしてくれないよ。虚しく終わるだけ。』
そう冷たくあしらっても椿はしつこかった。
『蘭のダンスは絶対映えるから!そんな蘭が振付したダンスを踊りたいの!』
あまりの熱意に心が折れてしまった蘭。
『じゃあせめて高校生になったらね。自分たちで同好会?サークル?を作って仲間内で好きなようにしたら良いんじゃない。』
蘭の言葉にぱぁっと顔を輝かせた。
『ええ!本当!やった〜〜!』
蘭は慌てて付け加える。
『ちなみに私は振付だけでアイドルはやらないから。』
『え〜〜どうして〜??』
あの時の記憶が蘇ったのか、急に蘭に指を差し
「忘れてないわよね!高校でアイドルグループ作るんだから!!」
蘭はバツが悪そうに顔を歪めた。
「あーはいはい、私は振付“のみ”担当だったよなー。」
そう言いながら教室に向かう。
「ちょっと!!まだ話は終わってないわよ〜!!」
蘭を追いかけるように椿も教室へ向かう。
またまたその場所を入れ替わるように今度は真っ白な髪の下に藤色のインナーカラーを忍ばせた生徒が立つ。
彼女が現れた途端、周りの生徒達は急に静かになり男女共々目を奪われた。
彼女は気にせず自分の名前を見つけ出すとすぐに教室へ向かって歩き出した。
一瞬時が止まったかのような瞬間だった。
今回もここまで読んでいただきありがとうございます。足利市のゴリ押し感強めだと自分でも自覚していますが大好きな町なのでお付き合いしていただけると幸いです。




