喋らない子
Floraison
―フランス語で「開花」を意味する―
過去に場面緘黙症を抱えていた霞と仲間たちと一緒にアイドルとして花開く。
栃木県足利市を舞台に
『場面緘黙症×アイドル×足利市』
今までにない繊細でリアルなアイドル成長ストーリー。
桜の花びらが風に乗って舞っているところを窓越しに見つめながら身支度をする。
青い上着に袖を通し、黄色い帽子を頭に被る。
黄色いかばんを肩にかけたところで、
『霞、幼稚園楽しみだね♪』
と母が差し伸べてくれた手を掴んで一緒に玄関へ向かう。
窓越しに見ていた桜の花びらが目の前で舞い踊る。
近くのバス停まで歩きバスを待つ。
私はこの時まで母も一緒に行くものだと思っていたんだと思う。
幼稚園バスが到着し先生が優しく霞を迎え入れる。
霞が乗り込むと後ろでドアが閉まる音がする。
振り向くとバスの外で母が笑顔で手を降っている。
私は固まる。
バスが発車した途端、大泣きして大変だったと母から聞かされた。
余程ショックだったのだろうか。
幼稚園では良く先生にひっつき、集合写真ではよく先生や母の身体に顔を埋めていて正面の顔が写ったものが少なかった。
年中〜年長に上がるにつれ、それは少しずつ落ち着いてきた。
それを引き換えに一つ変わったことが霞の身に起きていた。
それは幼稚園では誰一人、霞の声を聞いたものがいなかった。クラスメイトや先生までも。
先生から告げられた言葉に母は困惑した。
それもそのはず、霞は家では普通に話しているからだ。
今日幼稚園で折り紙をしたこと
絵を描いて褒められたこと
給食に大好物が入っていたこと。
毎日楽しそうに話してくれる霞を知っているからこそ、幼稚園で誰とも会話をしていないことが信じられなかった。
家では普通に会話が出来ていることを先生に説明すると、
『もしかしたら発達障害や何らかの不安症の可能性があるかもしれないですね…。一度病院の方で見ていただいた方が霞ちゃんのためにもなると思います。』
そう言われ母は霞を連れて児童精神科へ向かった。
事の事情を全て説明すると先生はなにやら資料を取り出して口を開いた。
『それはおそらく“場面緘黙症”という社会的不安障害かと思われます。』
『場面緘黙症…?』
聞いたことのない病名に首を傾げる。
『家庭では普通に会話が出来る、しかし幼稚園や学校など一歩外に出ると発語、発言が出来なくなってしまう症状が霞ちゃんと一致しているのでおそらくその可能性があります。』
先生は続けて
『まだ詳しい原因がわかっていないのが現状ですが、霞ちゃんは幼稚園では普通に生活出来ているのですよね?だとしたらまだ症状は軽い方です。
重度の緘黙症になると人前で硬直してしまって歩くことや食べることも困難になる子もいます。』
『…っ。』
母は言葉が詰まる。
『ですが、無理に話すことを強要するのは逆に悪化を招くことがあるので厳禁です。
少しずつ霞ちゃんのペースで治していくのが最善かと。』
霞は幼心に不安がるママを見て心を痛めた。
私のせいでママが悲しんでいる。
これ以上不安な顔にさせたくないと…。
幼稚園の誰一人霞の声を聞いた者がいないというのは少し語弊がある。
実は幼稚園には霞の声を聞いている子が一人だけいた。
『かすみ〜!!』
『…っ!らんちゃん!』
園庭の端っこの方で花壇を見つめていた霞は満面の笑みで名前を呼んでくれた子を受け入れる。
肩で綺麗に切り揃えられた深い青色の髪を揺らして霞の目を覗く。
その目は綺麗なオレンジ色で青い髪によく映える。
『昨日のテレビ見た?でんき組出てたよね!!』
らんは興奮気味に語りだす。
『見た見た!ダンスすごかったね〜!』
霞も負けじと興奮気味に返す。
二人はでんき組と呼ばれるアイドルに夢中だった。
らんがリズム良く踊りだすと、霞は嬉しそうにらんのダンスに合わせて歌う。
二人だけの世界。
らんと呼ばれる少女は霞が他のクラスメイトには話さないことを知っていて、自分には話してくれることが特別な感じがして嬉しく思っていた。
ずっとこれが続くと思っていた霞だったが
小学校へ上がるタイミングで
らんと離れてしまう。
らんは隣町へ引っ越しをしてしまった。
唯一の友達、理解者がいなくなって
霞は小学校から中学校ではずっと孤独だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
いきなり暗い感じの始まりで不安かもしれませんが大丈夫です。信じてついてきていただけたら幸いです。




