第4話:「無視され続ける内部警告」
月曜の午後、佐藤は異常に気づいた。
監視ツールのダッシュボードに、いつもと違うグラフの動き。処理時間がじわじわと跳ね上がっている。
「このままだと、サービス全体に影響が出るかもしれない」
彼はすぐにログを確認した。
警告レベルのエラーが、昨日から断続的に出続けている。
佐藤はSlackを開き、チームのアラートチャンネルに投稿した。
──「監視ログに断続的な異常。処理遅延の兆候があります。対応検討したほうがよいかと」
投稿から2分。既読5。
誰も返信はない。
さらに5分後、上司の星野が別スレッドで「今週の昼食会どうする?」と投稿。
そちらにはスタンプが5つ付いていた。
その夜、AIアシスタントからの定時通知が流れた。
──「重要度:中 パフォーマンスに一部変動あり。詳細は後続の週次レポートに含まれます」
それが、すべてだった。
翌日、ログに明らかなスパイクが現れた。データベースの応答時間が異常に遅くなっている。
佐藤は再度、Slackで報告する。
──「昨日のアラート、深刻化しています。サービス応答が通常の3倍遅延」
しかし、またしても既読スルー。
さらにその夜、定期バッチ処理が失敗。翌朝には一部顧客の請求データに欠損が発生した。
ようやくプロジェクトリーダーがSlackに書き込む。
「んー、これ、週末にAIがエラー出してたやつ?」
佐藤は、静かにPCを閉じた。
【初心者向け用語集】
ログ
システムの動作記録。異常が起きたときの手がかりになる。
AIアラート
AIによって自動的に出される警告メッセージ。放置されがち。
Slack
社内チャットツール。多くのやりとりがここで行われる。
監視ツール
サーバーやアプリケーションの状態を自動的に監視するツール。
既読スルー
メッセージを読んだのに、あえて反応を返さないこと。
エスカレーション
問題を上位の責任者に報告・引き上げること。これがなされないと問題が放置される。
あとがき
この物語は、「AIファースト企業」の、どこか現実にも似た不条理な日常を描いたものです。
社内の空気は「人間より、AIを信じろ」という“無言の社是”で満たされ、AIの判断に疑いを持つことすら許されません。
作者自身は、このブラックユーモアを十分に理解しているわけではありません。
むしろ、「なにが笑いどころなのか、わからない」「こういうのは嫌だな」という気持ちを抱えたまま、この話を書きました。
だからこそ、物語の根底には、真面目な怒りや不安がしっかりと横たわっています。
この作品は、作者とAIの合作とも言えるかもしれません。
人間の“わからなさ”と、AIの“無感情さ”が交錯し、互いに手を取り合いながら、不思議な形で“笑える現実”を紡いでいます。
たとえば今回の話。
・SlackにAI通知が届いた時点で「見たこと」になってしまう職場
・異常を報告しても誰も反応せず、“既読スルー”が標準化されたチーム文化
・結局、重大インシデントが発生しても「気づいてたけど対応しなかった」という誰も責任を取らない構造
……これって怖いけれど、同時にあまりにバカバカしい構造でもあります。
だからこそ、真顔で「AIがレビューしました」と言い切ってしまう人たちに、ほんの少しだけ乾いた笑いを向けたくなる。
それが“ブラックユーモア”なのです。
そして、現実にも似たようなことは多々起きています。
それもまた、もしかしたら“AIによるブラックユーモア”と言えるのかもしれません。
もし、そうした日常の不条理に気づけるようになり、
そしてほんの少しでも“くすっ”と笑える余裕が生まれたなら。
それは、あなたの中に“ブラックユーモアへの耐性”が育ってきた証です。
それは、つらい現実と向き合いながらも共存していくための、ひとつの“やさしい防御”なのかもしれません。