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第2話「トラブル時に消える責任者」  〜トラブル発生後に浮かぶ“空席”の恐怖〜

佐藤は朝、タスク管理ツール(JIRA)でふと目に留まった一行に目を細めた。


「AIレビュー済。問題なし」


書いたのは隣の席の後輩、村井――いや正確には村井がAIに書かせたものだ。


レビュー対象は社内の申請システムに関わる重要なコード。

料理のレシピや工事の設計図に例えられる、コンピューターを動かす命令文だ。


だが、そのコードに対してのレビューコメントはゼロ。

指摘もゼロ。まるで、何も問題がないかのように静まり返っている。


「これ、マージして大丈夫なんですかね?」


佐藤がSlackで村井に尋ねると、数分後に返ってきたのは、


「AIが通したので大丈夫かと!」


という返事だった。


「通した?」と佐藤はひっかかった。誰が?どこを?

だがそれ以上は誰も答えない。


以前はレビューとは「読む」作業だった。


誰かが書いたコードを人間が一行ずつ丁寧にチェックし、仕様や意図を想像しながらエラーや不備を見つける。

しかし今は違う。AIがその役割を担い、人間はAIの結果を鵜呑みにして「レビュー済」と記録するだけだ。


村井が使うAIレビュー用のプロンプトは、上司が配布したテンプレートそのまま。

「重要なロジックは3回以上レビューを回す」と研修で言われていたが、実際は「AIにレビューさせて人間が『レビュー済』と書く」だけで完了となっている。


さらに問題なのは、人間がレビュー中に指摘を入れると「AIの判断を否定した」とみなされ、評価が下がることだった。

そのため、誰も何も言わず、黙っていることが賢い処世術となっていた。


そんな週末、佐藤は1件の障害報告を目にする。

マージされたコードが原因で、全社の申請フローが一部停止してしまったという。


問題は、if文の条件式のミスだ。

文法上は正しい。AIも「問題なし」と判断した。


だが仕様としてはおかしい。

もし人間が読んでいれば「この条件、逆じゃないか?」と気づいたかもしれない。


誰も見ていなかったのだ。


タスク管理ツールには「AIレビュー済」とだけ記録され、Slackには「確認しました(AIが)」のスタンプが残る。


関係者は皆、「誰かが見ている」と安心しきっていた。


そして月曜の朝会。上司は淡々と言った。


「うーん……まあ、こういうこともあるよね。AIのレビュー設定、もうちょっと強めにしておいて」


つまり「見るフリ」が足りなかった――


それが今回の教訓だった。



【補足:初心者の方向け】

コード

コンピューターが動くための命令文。レシピや設計図のようなもの。


if文(イフ文)

「もし〜なら〜する」という条件判断の命令。間違うと誤動作する。


申請フロー

会社の交通費や休暇などの申請手続きの流れ。これが止まるとトラブル。


AIレビュー

人間の確認作業をAIに任せること。文法チェックはできるが、仕様の正しさは苦手。


レビューしました

「誰かがチェックしました」という意味。ここではAIがやっている。


マージする

作業したコードを最終版に反映すること。システムに取り込む作業。



あとがき

この物語は、「AIファースト企業」の、どこか現実にも似た不条理な日常を描いたものです。

社内の空気は「人間より、AIを信じろ」という“無言の社是”で満たされ、AIの判断に疑いを持つことすら許されません。


作者自身は、このブラックユーモアを十分に理解しているわけではありません。

むしろ、「なにが笑いどころなのか、わからない」「こういうのは嫌だな」という気持ちを抱えたまま、この話を書きました。

だからこそ、物語の根底には、真面目な怒りや不安がしっかりと横たわっています。


この作品は、作者とAIの合作とも言えるかもしれません。

人間の“わからなさ”と、AIの“無感情さ”が交錯し、互いに手を取り合いながら、不思議な形で“笑える現実”を紡いでいます。


たとえば今回の話。


・ トラブルが起きても責任者が曖昧で、誰も名前を名乗らない組織の“空席”状態


・ 問題が起きた後は「AIが判断した結果だから」と責任を回避する管理職たち


・ 結局、責任の所在が不明確なまま事態が放置されていく現場の恐怖


……これって怖いけれど、同時にあまりにバカバカしい構造でもあります。

だからこそ、真顔で「AIがレビューしました」と言い切ってしまう人たちに、ほんの少しだけ乾いた笑いを向けたくなる。

それが“ブラックユーモア”なのです。


そして、現実にも似たようなことは多々起きています。

それもまた、もしかしたら“AIによるブラックユーモア”と言えるのかもしれません。


もし、そうした日常の不条理に気づけるようになり、

そしてほんの少しでも“くすっ”と笑える余裕が生まれたなら。

それは、あなたの中に“ブラックユーモアへの耐性”が育ってきた証です。


それは、つらい現実と向き合いながらも共存していくための、ひとつの“やさしい防御”なのかもしれません。

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