前書き 人間より、AIを信じろ
前提:「AIファースト企業」の実態
この会社の社是は「人間より、AIを信じろ」だった。
社長がそう公言していたわけではない。だが、全社員がそう“感じていた”。
会議室のホワイトボードには「効率化」の二文字。
社内スローガンには、「人間が考える時間はムダ」と堂々と掲げられていた。
新卒研修でも「判断はAIに仰げ」と指導された。
その割に、AIの仕組みをきちんと理解している人間はほとんどいなかった。
社長は、いつもこう言っていた。
「AIが決めた方が、人間より間違えない」
「人は感情に流されるが、AIは冷静に処理する」
「ミスが起きたなら、それはAIの使い方が悪い人間のせい」
この論法に逆らえる者はいなかった。
役員会も数字の話しかしない。
「人件費削減」「業務最適化」「リスク回避」。
そのすべての答えを、AIがもたらしてくれると信じていた。
むしろ、人間が間に入ることが“非効率”と見なされるようになったのだ。
コードのレビューも、チェックも、契約書の作成も、アイデア出しも──
すべてAIが担当する。
人間は「それを流すかどうか」のワンボタンを押す係だった。
そしてその“判断ボタン”ですら、次第にAIが自動で押すようになった。
佐藤は、その空気に耐えられなかった。
彼は決して時代遅れではない。AIにも詳しく、自分でもプロンプトを調整してAIを活用していた。
だが──「全部AIに任せて、人間は無責任でいられる」という空気だけは、どうしても飲み込めなかった。
あるとき彼は言った。
「AIは“神”じゃない。“鏡”だ。人間の浅はかさも、傲慢も、全部そのまま反映するだけです。」
その発言は、社内のSlackで「面倒くさい人ランキング第1位」にノミネートされた。
以来、彼の声は次第にスルーされるようになっていく。
この物語の冒頭──「人間より、AIを信じろ」という一文は、決して誇張ではありません。
実際にこう言わなくても、こう“感じてしまう”空気は、現代の多くの職場でじわじわと広がっています。
さて、正直に告白すると、作者はこのブラックユーモアの皮肉な深さをまだ完全には理解していません。
「こういうのが嫌だな」という気持ちをAIにうまく表現してもらったら、こういう形になりました。
楽しめるかどうかは読者の皆さんにお任せします。
この先、残り10話はこんな感じで進みます。
AIが“見てるフリ”をするレビュー
トラブル時に消える責任者
AI発の曖昧な指示
無視され続ける内部警告
存在感を失う社員
効率化が招く悲劇
予想通りにバグるAI
空洞化する“確認”
誰も見ていない最終承認
そして象徴的な結末
どの話も、笑いながら「ああ、あるかも」と思ってもらえることを願っています。
どうぞ肩の力を抜いてお読みください。
──ちなみに、このあとがきもAIに書かせてみようかと思いましたが、さすがにまだ怖くてやめました。
ここで少し補足します。
この一文は、現代のAIとの距離感を皮肉交じりに表現したブラックユーモアのつもりです。
「AIに全部任せてしまう未来への不安」と「それでも今はまだ人間が筆を握っている」という安心感。
両方を同時に伝えられたらいいなと思い、この形にしました。
正直なところ、作者自身も何がなんだかよくわかっていません。
それでもこういう話を作ってしまうのは、このテーマがとても難しくて、複雑で、逃げられない問題だからです。
もし意味が伝わりにくかったらごめんなさい。
でも、それもこの物語のテーマのひとつ──
「わかってるようでわかってない、でもどんどん進んでいく」世界の縮図かもしれません。