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沖谷幸生にしあわせを  作者: 椋木美都
第3章『与えられるのは――』

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エピローグ『違和感を超えて強くあれ』

春風に誘われ、桜の花びらがアスファルトの上でくるくると舞っている。辺りを見渡しても、マンションの駐車場付近に桜の木はなかった。そんな現象を不思議に思いながら――私は絵と一緒に燃やした手紙について考える。


どさくさに紛れて火元に置いた、お母さんと成愛と倉嶋さんに宛てた手紙は……去年倉嶋さんのアイデアに背を押されるようにして書いたモノだ。本人に渡す気も無ければ奇妙な文面と化したそれはもう必要ない。おまけに母にまつわる話がすべての手紙に綴られているので、必ず処分しなければならなかった。


「――ただいま」


「あいおかえりー」


「お父さんの鼻声が凄い……まだ花粉症治らないの?」


「うーん。いつもならそろそろ収まってるが……今年は特に目がかゆい。涙が止まらんのじゃ」


父方の親戚から、成愛の大学入学祝いに和牛のギフトセットが贈られた。その週末、優しい2人は長女をハブにせず焼肉パーティーに招待してくれたのだった。


――そのお礼のつもりではなかったんだけど。何かそんな感じになっちゃったな……。


夕飯の時間になるまで自分の部屋に引っ込もうとしたお父さんを追いかけ、ポストカードとイーゼルを見せる。彼は『Mの星葬』を前に酷く動揺していた。


「……っ……」


お父さんは震える手で自然に零れた涙を拭う。花粉症の所為ではない――自分の意思とは無関係に溢れた感情に戸惑っている様子だった。


――あまり深くは聞かないでおこう。


私は黙って去り、成愛にも適当な理由をつけて渡す。普段しないようなことを突然するのが私だが、成愛は毎回素直に驚いていた。


「何で美術館のお土産?」


「なんか綺麗な絵だったから……部屋に飾るならイーゼルスタンドもあげるけど」


「……!!」


ポストカードを見た成愛は涙こそ流さなかったが、怪訝な眼差しが驚愕で大きく開いた。


「……なんでラミネートしてんの?」


「……ずっと、この美が褪せて欲しくないなって思ったから」


自嘲するように呟いたのを誤魔化すように写真もあるけどいる?と聞くと成愛の首が縦に動いた。お気に召したようで何より。


後でお父さんにも高画質の写真を送り、私達はどこか心ここにあらずのまま焼き肉をつつく。


私の前にある空席が目に入る度――牛肉の味と一緒に、言葉に出来ない痛みが喉を通っていった。

お父さん・幸生・成愛「「(にしても肉がマジ美味ぇ……)」」



ありがとうございました。あとがきをマイページの方に上げているので良かったら飛んでみてください。

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