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沖谷幸生にしあわせを  作者: 椋木美都
第3章『与えられるのは――』

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 第34話『判断力を磨け』

外観だけでもう凄い。その一言に尽きた。アンティーク調デザインの玄関マットが私達を出迎え、はしゃぐ気持ちを抑えて内装を観察する。


――うっわぁ……。


2階建てのグランピングコテージにはハンモック、お洒落なソファ、大型液晶テレビ、薪ストーブ、吹き抜けの天井、シーリングファン、そして――


「バーベキュー場やば!広っ!」「ちょ、風呂が露天風呂!ガチやべー!」


――沖谷君とななちゃんが更なる魅力を叫んだ。


「12人用じゃけーな。来年はもうちょい人増やして15人からのとこ泊まりてー」


上延君は早くも来年の計画を視野に入れていた。流石リーダー。


2階はほぼ寝室スペースだった。真ん中の階段を挟んで2人用の寝室と5人用の寝室。その隣に小上がりがあった。恐らく残りの3人は布団を敷いて寝るんだろう。


――2人部屋は女子部屋で、一番広いベッドルームは2年男子、布団組は1年男子……人数の割り振りは奇跡的にピッタリだけど。


「俺1階で寝る自信しかねーわ」「てか寝るん?」「ベッド使わんわ」


朝まで飲み明かす阿呆共が紛れている為、逆に男子は1階で過ごす可能性が濃厚だった。大学生やってんなぁ。


各々寝室に荷物を置いて1階に下りると、先に到着していた1年男子3人+安井君と吉室君は――


「お先ー!」「おいムロ!コイツ……!」「まだ大丈夫大丈夫」「マジで無理ー!」「トゲ来るトゲ来る!」


――大型テレビに家庭用ゲーム機を繋ぎ、アクションレースゲームを楽しんでいた。


「おめーらなんしょん!」「やっとることSIG部屋と変わらん!」


「あ、おつかれー!」


「先輩たち遅いっすよ」


ワンツーフィニッシュをかました吉室君と島永君が晴れやかな笑顔で振り向いた。後続の顔よ。


「ごめんー。タニ君の家で飼ってたチンパンジーが死んだらしくて」


ななちゃんの流れるような嘘に沖谷組が驚愕したのは言うまでもない。


「あー死んだんならしゃーねっす」


「信じんな!チンパンジー飼ってねぇし遅れたの俺じゃなくてサトシ(上延)!もう全部!全っ部違う!」


一笑いで場を和ませ、私とななちゃんと沖谷君は近くを散策することにした。周囲の木々は葉を落とし、澄んだ冷気が心地いい。3月末だというのに、この高冷地はまだ冬の名残を色濃く残していた。


「沖谷君はゲーム混ざんなくてよかったの?」


「やーサトシとムロには勝てん。あと折角来たけーな」


「あ!川ある!」


ななちゃんが木々に囲まれた渓流を指差して一言。


「タニ君入ってきていいよ」


「死ぬて」


「あたしダウンコート持ってあげる」


「じゃあ私は靴で」


「追いかけてやるからな」


――20歳男性が女子大生2人を森で追いかけ回す……面白いけど弱いな。


「靴持ったまま警察行って捕まえてもらお」


「あー。私達友達じゃありませんって言って?」


「じゃ何で俺の靴持っとん!」


「靴は川に投げ捨てて逃げるわ」


「おめーが捕まれ!」


ななちゃんと沖谷君の変わらないやり取りを笑い、これからも味わえたらいいなと切に求める。遠くで水が小さな滝になって落ちる音が響き、冷たい空気の中で一層鋭く響いた。


夜は屋根付きBBQデッキで肉と野菜を焼いて食べる。現在の時刻は18時。気温は9℃と低めだが……。


「あー全っ然マシ」


「寧ろ暑くね?」


「やす君それは手に持っとるビールの所為」


「はー寒くない……先月は本当に」「さっちゃん!それ以上言っちゃおえん!」


死ぬかと思ったと言う前に沖谷君の早口で遮られる。ななちゃんは丁度口の中にカルビが入っていたので追及されずに済んだ。危ない危ない。


「あー俺が行けんかったBBQか」


「そうじゃムロ君は遅れて来たんか。めっちゃ楽しかったけど?なーさっちゃん」


「ま、まぁ……楽しくはあった。ねえ沖谷君」


「それはそう。楽しいけど……2月じゃなけりゃな!」


「安井先輩そんなヤバかったんですか?」


「あ、ななちゃん!次は後輩らーも呼んでやる?」


「あり」


「ねーよ!」「本当に止めておいた方がいいよ……!」


ダブル沖谷が同タイミングで否定する。あの苦痛は後輩に味わせるもんじゃない。変われるものなら変わって欲しいけれど。あ、この話は番外編㉖『冬の醍醐味』参照です。


女子の仕事は材料調達と食材を切って皿に盛ったところで終わった。後の仕事――食材を焼く係と火の調整は男に任せ、私はのんびり食事を楽しむ。


――片づけは後輩がやってくれる……よね!


夕食後はリビングに集まって宅飲みをした。当然下戸も混じっているが、一升瓶やリキュール、ロング缶ビールがどんどん空いていく。特に2年のペースが半端なかった。


「まだまだ課題多いけど、去年やった失敗は全部カバーできたかな」


「去年はスタッフの人数足りんかったけーな。今年は班ごとに2人入れられたし」


今は先日行った入学前研修の話で盛り上がっている。推薦入試などで入学が決まった新一年生を集め、経営学部についての説明や友人作りのきっかけを作ること等を目的としたプログラムである。


「確か3人共この研修参加してたよね?」


林君と野田君が覚えてたのかと驚く一方で、ななちゃんや上延君がえ?いた?という顔をしていたのに驚いた。


「おったおった。野田は俺の班におったし」


芹生(せりお)は俺のとこよな」


沖谷君と安井君はしっかり覚えてて安心する。林君は藤脇先輩がいた班にいたそう。


「俺らその研修がきっかけでSIG入ったんすよ」


島永君の一言で他の2人も頷く。以前聞いたことがあったとしても、私達の頑張りが届いたという事実に喜びを感じた。要するに何度聞いても嬉しいってことね。


「嬉しー」「やった甲斐あるよな」「ほら飲め飲め!」「うぇーい!」


感謝のアルハラを強いたところで話題が切り替わり、春に控えている企画や新入生をどう呼び込むか……といった少し真面目な話になった。


――やっぱ1年がいると話題が全然違うな。2年だけだと3年から始まるゼミの黒い噂話とか、単位ヤバいとかちょっとアレな話ばっかだから……。


無言で酒を飲み続け、風呂の順番が回ったので手早く堪能する。酒豪組は後回しだが、果たして彼等は露天風呂にいつ入るのだろうか。


寝室にお風呂セットと着替えを置いたものの、リビングへ戻るべきかどうか迷って足が止まる。


――篠木からの鬱陶しいRICHは風呂入っている間に返したし。1人でやることなんて精々バルコニーにあるロッキングチェアに座って黄昏るくらいしかないな。


しかし窓の外には真冬の世界が広がっている。少女漫画の登場人物のようにパジャマ姿で夜風に当たろうものなら、あっという間に風邪をひいてしまうだろう。


諦めて1階に戻ろうとしたその時。下から誰かが上ってくる音がした。私はすぐ誰か分かったので先に名前を呼ぶ。


「あ、安井君」


「さっちゃん見っけ」


彼はそう言って私の頬をつつき、赤らんだ顔で笑った。


(=^・^=)

これは旅行後に聞いた話。同時刻、楽村君は片井先輩と淳先輩の3人で宅飲みをしていたらしい。場所は淳先輩の自宅だそう。


「――グランピングえーなー。アイツ自体はインドアの癖によ……」


「楽しいよな。最近近場で出来るとこ増えてきたし」


「…」


「シューゴ顔顔。険しすぎん?」


「そんな心配なら電話すりゃえーのに」


「……どーせめんどそうな顔で大丈夫としか言ってこんし。あとあいつ誰かといる時は全然RICH返さんし……」


楽村君はやさぐれた顔でノンアルコールビールを呷る。私のことが分かりすぎるというのも厄介だ。


「そんな知らんけど。沖谷さん狙っとる奴おる?」


「安井とか」


「あー」


「大丈夫じゃって!シューゴの方がカッコええカッコええ!」


片井先輩が笑って肩を叩くも、楽村君の顔は浮かないままで……。


「あいつ、沖谷と同じで男女の友情ある派なんですよ」


「なるほど信用ならんな」


「だから沖谷も油断して……絶対そうい奴に限って裏あるくないすか?」


「裏なぁ……」


(=^・^=)

すっかり出来上がった彼は私の手を引き、リビングへと連れて行く。どうやら戻ってこない私を心配して迎えに来ただけのようだった。


――酔っ払いに心配されてもな……。まぁいっか。


「さっちゃん楽しい?」


「え、うん。楽しいよ」


「幸せ?」


「……まぁ」


着地点が分からない問いに答えていると、安井君は気まぐれに私の手を引いた。


「えっちょ」


「この前バイト先でさっちゃん見た時さーなんか調子悪そーに思えたけぇ心配で」


「ぁ……あぁ」


「さっちゃんもいっぱい話してやー。俺はさっちゃんが幸せならそれで……」


「安井君……」


私は何か言うより先に、彼を目の前の部屋に押し込んだ。


「酔いすぎ!トイレ着いたよ行っトイレ!」


(=^・^=)

淳先輩はビールを飲みながら、如何にして楽村君に酒を飲ませるか思考を巡らせていた。毎回策を講じるが全て失敗し、最後は脅迫して無理矢理飲ませるそう。


「俺は……ってシューゴさっき『安井とか』って言っとったよな?他は?」


「他……沖谷の同期とは全員会ってないんで。その人らとか……」


「あ?何かやたら幸生にべったりな奴おらんかったっけ。そいつは怪しくないん」

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