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沖谷幸生にしあわせを  作者: 椋木美都
第2章『沖谷幸生は母親を辿る』

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 第25話『それぞれの意向』

後半浦本淳視点です。

ニャルラと100万円とお母さんの存在について。私が黙ってればきっと暴かれないだろう。だからこそ、こんな途方もない秘密をあっさり吐露してしまうワケにはいかない。


「……隠しとったのは、危険な奴から俺を守る為じゃろ。顔の良い奴キープして優越感味わうとかじゃないよな?」


「なわけ……」


「事件絡み?危ねーことに巻き込まれた?」


「どっちも違う……誰かに脅されて口止めされてるとかじゃない……完全に私個人の問題。というかもう解決してて、でもこのやり方でよかったのかな……って後悔してるだけ」


「もう終わった話を引きずっとるん?」


コクコクと首を縦に振る。この答えを最後に、楽村君は唯一無二の憂いを追及してこなかった。涙を目に溜め、悲痛を纏った私がいたたまれなかったのかもしれない。


――生に不安を抱くのは皆一緒……あまり深く考えずにいかないと……。


まだまだ自虐的な想いは消えない。けれど誰かに踏み込まれることの方が嫌だった。


「……もう聞かんから。距離置くとか言わんで」


「……容認してくれるの」


「篠木って奴のことがバレたみたいに、俺の前で言い逃れ出来んようなことが起こったらちゃんと全部話して」


「……分かった」


のそのそと鼻をかむ。長考の末、楽村君は終電で実家に帰っていった。後々のRICHで篠木との関係をどうするのか聞かれたが――


「……あの電話以降、姿すら見てないんですよね。会いたくないって言ったのはこっちなんで、まぁ別にこのままでもいいんですけど……」


「お前ほんま最低じゃな。蒔いた種の責任くらい取れや」


――私が動かずとも、なあなあで終わりそうである。淳先輩に秒で非難されたが。


居酒屋の個室席にて。私と淳先輩は鍋をつつきながら酒を飲んでいた。


「威弦さんが荒れとったのはそういうことか……あと何シューゴにバラしとん」


「いや結構持った方じゃないですか?半年……」


「墓まで持ってけ」


「キツ。まぁそういうことなんで。篠木に何か聞かれても『彼氏作る気は無い』とか『特定の誰かに恋するなんて本当に無理』とか言ってたって言っといてください」


「くっそダリぃわボケ!その後八つ当たりされるの俺なんじゃけど……はぁ……」


そっと目を伏せて考え込む。淳先輩が八つ当たりされることに罪悪感は……。


――ひとつまみくらいはあるな。でもこのまま避けてくれる方が平穏だし……。


「ちゃんと対話した方がいいんでしょうか。私的にはあまり関わりたくないんですけど」


「それ本人に言ったら危ういで」


「はぁ……」


先輩の溜息がうつる。恋も愛もどうでもいいし馬鹿馬鹿しいしくだらない。結婚できる相手なんて本気で見つけようと思えばすぐ見つかるんだから。あ、個人の見解ね。妥協は言い方悪いけど、添い遂げるのに恋は必須要素じゃない。愛は小さくても見つかれば問題ない。


「なんで急に距離置きたいとか言い出したん」


「それは……いくら交流を深めても、私は彼等と同じ気持ちを返せないことが分かったからです」


最初から蓋する感情なんて何もない。だって底に修復困難な穴が開いてしまったから。


――過去に囚われたままだって解釈するのは、違う……。まだ前に進みたくない。


「けどシューゴは引かんかった。先に幸生が折れるけぇそうなるんじゃろ。俺らが希望ないって言ってもアイツは引かんやろーし……倉嶋(くらしま)芙由香(ふゆか)とくっつけば丸く収まるのにな」


「お、お互いに良くないと思いますよねぇ?倉嶋さんにも悪いのはそうですけど。楽村君は『俺は全然良い』って言うだろうし……。『離れたい』って言うの結構努力いったんだけどな……」


バッドに入っていると、小声で「ま、幸生にしては頑張ったか」と褒められる。そうだよ勇気の決断だったんだよ!


「土曜も日曜も面接入っとんよな……月曜でええ?」


「え゙」


――ちょうどシフト休みだ……嫌だなぁ。


という本音を読み取ったのか、先輩は額に青筋を浮かべて腕を組む。


「飯奢るだけじゃ足りんか。そんな嫌そうにするなら1日付き合えるよな?」


「今のリアクションでその考えに至ることあります?」


「普通ホワイトデーのお返しとかせんから」


「へぇ。流石groovy(イケメン)ですね」


「バレンタインにかこつけてダリィ女とか変人とか変態とか寄ってくるし……」


「うわぁ」


「なに他人事みてーに聞いとんじゃコラ」


「えっ!この3択だと変人……!?淳先輩だけにはーーっと、次なに飲みます?」


ドリンクメニュー表で殺気をガードし、何かを言われる前に店員を召喚する。断ることを諦めた私は渋々16日の予定を空けた。


(=^・^=)

俺はクソ変人の後輩を連れて『鐘秀山(しょうしゅうざん)アイランド』略して鐘秀山に来た。この遊園地は海に面した山の上にあって、立地を生かした絶叫系マシンが売りらしい。


佐古に一つしかない遊園地であるにも拘わらず、平日の客入りは――


「予想通りガラッガラですね。久しぶりの晴天なのに……」


「ワンチャン客俺らしかおらんかもな」


――想定通り閑散としとった。オープン直後で客よりスタッフの方が多い遊園地とか終わっとるじゃろ。


俺も幸生も学生時代を佐古で過ごした身。遊ぶ場所が少ない地元にとって、鐘秀山は貴重な娯楽施設じゃった。


「懐かしー。よく俊二(しゅんじ)らと行ったわ」


「あ、あの後ろ向きジェットコースター動いてる!あそこ私が来る度に運休だったんですよね」


幸生に目を向けると、可愛げのない真顔から歓喜が滲み出とった。インドアの癖に遊園地は割と好きらしい。


――連れて来てよかったとか思わせんなよクソが。


「最初アレ乗ってもいいですか?」


「あぁ……何で今日コンタクトにせんかったん。どうせ外すじゃろ」


「や……取れたら怖いですし」


そう言って怯えたポーズを取る幸生を注視すると、安全バーを握る手が震えとった。まさかコイツ……。


「怖いんか?裸眼じゃとそんな恐怖半減するん?おい目ぇ逸らすな。別に俺の前で平気なフリせんでええって」


「そりゃ怖いでしょ!好きですけどしっかり怖さも感じるタイプなんです!しかもここの絶叫系って標高高いとこにあるから……」


ギギッ……ガタン。と老朽化を匂わす音が響いたその時――俺らだけを乗せたコースターは猛スピードで落下した。


「ひゅわあああーーー!」


――っぱ一番後ろの座席だよなぁ!


沖谷は今までの女と違って乗る前にだだこねんし甲高い声で叫ばん。俺的にはもう少しビビってるとこ見たかったけど。


――俺の手や腕に爪立てる奴もおったな……。あとずっと目つぶっとる奴。


風船が萎んだような声を上げて安全バーに縋る幸生は、怖がりながらも楽しんどるっぽかった。こっちが罪悪感を感じない程度の反応は……。


「はぁ……はぁ……あ、足がガクガクする……」


「ふっ……今めっちゃ死ぬほど後悔したって顔しとるで。こんなんで他の行けるか?」


「余韻に浸ってるだけなんで平気です。でも……これ乗ったの本当に10年前とかだったんで。レールが錆びて壊れる前に乗れてよかった」


「座席自由に選べて上る途中で海見えて老朽化スリルも味わえるジェットコースターなんてここくらいよな」


2人で年季の入ったアトラクションを褒め合って次の絶叫系を目指す。幸生は乗る度に休憩や子供向けを挟もうとせんかった。試しに同じアトラクションを連続で乗ろうと言っても嫌な顔せず従う。俊二より絶叫系の耐性あるな。


――コイツ意外とイケるな。前元カノと行った時は最初でギブアップしやがったけぇ詫びセックスして帰ったんよな……。丁度そこの木の裏で。


通りかかったノリで言うか迷ったけど、俺の印象を下げるだけじゃろうなと思って止めた。


「やーしかし、待ち時間ゼロって最高ですね。もうここは逆にそうじゃないと」


「それな。余裕で全部回れるわ。いつも中途半端に時間余るんよなー」


次はフリーフォールに乗ると言って、俺らは300段超えの階段を上る。半分に達したところで立ち止まり、気が遠くなるような景色と幸生を目に焼き付けた。


「……夏前にさ、お前とおると気持ち悪ぃって言ったよな」


「え?あぁ……」


「去年から今年にかけて幸生を調べてた奴とか攫おうとした奴等は全員、事故に遭ったり病気で倒れたり警察にパクられたり行方をくらましたりしとる。他勢力が衝突し合って共倒れしたこともあったな……。威弦さん達や俺と俊二が処理した件もあるけど、確実に陰で幸生を守っとる奴がおる」


幸生は目を瞬かせて息を吞む。初知りですみたいな表情が俺の境界線を刺激した。


「頭ユルすぎ……マジ何でお前みてーな奴がぬくぬくと過ごして、しおは……!」


俺は幸生の顔半分を覆うマフラーを掴んで強く後ろに引いた。『謎の何か』が姿を現し、幸生を助けてくれるじゃろうと信じて。

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