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沖谷幸生にしあわせを  作者: 椋木美都
第2章『沖谷幸生は母親を辿る』

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 第22話『2回目の余裕』

後半楽村視点です。

心底呆れた。この一言に尽きる。


「旅行ではしゃぐパリピウェイ系女子ってスマホを首から下げてるもんじゃないの」


「ウェイウェイしてないもん……」


私を捕まえる代償に大都会で無一文になる20歳。しかも今乗っている電車は運が悪いことに快速電車だった。このままぼーっと突っ立っていると神京まで行ってしまうぞ大変だ。


「とにかく次で降りよう。楽村君からは私のスマホでRICHするから」


「ごめんね……ちなみにいつから(私たちを尾けて)いたの?」


「着いたのはお昼頃から……」


ここで漸く緊張が緩んできたのか……胃が空腹を訴え始める。私は静かに我慢して倉嶋さんの介助を優先することにした。


「言ってよ。秀悟君も知らないよね?」


「え。まさか倉嶋さん私を責めてる?今この状況で??」


「ぅっ」


「その話はこの緊急事態が解除されてから。今何人の友達に迷惑かけてると思ってんの?」


「だ、だって……でも幸生ちゃんだって尾行は悪いと思う……」


「え?してないけど」


「え。だって秀悟君に会いに来たんでしょ?」


混乱に生じて勝手に誤解されていたことに気づき、私は悼むことを忘れて脱力した。


「……神奈浜まで楽村君を追いかけに行ったんなら、倉嶋さんの落とし物をその場で渡したりしないでしょ。あれ本気でビビった。今年のランキング上位に入るくらいのミラクルショッキングだった」


「それは私も……ならどうして?」


電車が停車したのをいいことに、私はその問いを無視して乗り換えに集中した。こっちだって慣れてないんだよ。


「この電車でさくらみらい駅まで行けるって。遊園地にでも行く予定だったの?」


「うん。『コスモスワールド』で大観覧車乗って『神奈浜ランドマークタワー』の展望台で景色見て赤レンガ倉庫行って……」


現在の時刻は午後3時。一体彼女達は何時まで出歩くつもりなんだろう。てか観覧車乗るんなら展望台行かなくてもいいだろ。


――まぁ水は差さないでおこう。


「あと10分もあれば合流できるから。まぁ、なんかその……いや。私悪くないわ」


「それはっ……!そうだけど、幸生ちゃんが逃げた時、凄く思い詰めてる感じがしたから」


「…」


「目もちょっと腫れてるし……なにか深刻なことがあったの?」


倉嶋さんは一目で私が沈んだ思いを抱えていることを見抜き、思わず追いかけてしまったと主張した。その推察も配慮も情の厚さも――


「……話したくない」


――邪魔で不快でどうしようもない。


「ごめん。旅行中の人に話す内容じゃないし……倉嶋さんは人生初神奈浜だよね?この話の続きは佐古でするよ」


「……うん。私もごめんね……幸生ちゃんは神奈浜来たことあるの?」


「親戚が皆ここ住みだから。実は神京より見慣れてる」


「えっそうなの!?私たち昨日は中華街と――」


気まずくて顔が見れなかった。それでも倉嶋さんは気を遣って明るい話題を振ってくれる。その優しさに救われつつ、私は改札口で立ち止まった。


「写真付きで場所送ったから。多分もうすぐ楽村君が倉嶋さんのICカード持って来てくれると思う」


「ありがとう……幸生ちゃんは?」


「私はこのまま帰る。KGLの旅行に不純物が混ざるのもアレだし」


「えー遊園地くらいはいっ……」


倉嶋さんの言葉が不自然なところで区切られたその時、グイッと強い力で後ろに引き寄せられた。


「ぶわっ!?」


芙由香(ふゆか)。これ荷物。改札出た先に剣持(けんもち)とかおるけぇ」


「えっ秀悟君は!?」


「俺は後で合流する。悪いけど遊園地は4人で行って」


――なんだって!?


そんなことはさせるかと口を開くが――


「いや私は楽村君と話すことなんて」「喋んな」


――圧をかけるように上から睨まれてしまった。あれおかしいな。喉が詰まって言葉が出ない。


そのままズルズルと何処かへ連れてかれるならと、私は楽村君を少しだけ追い越した。


「話すから……2人で話せる場所に行こう」


こうして私達はさくらみらい駅前と湊地区を結ぶ都市型ロープウェイ『神奈浜スカイキャビン』に乗った。6分間密室で話せるし、倉嶋さん達がいる遊園地の近くまで行くから一石二鳥である。


「……神奈浜って高いとこ好きよな。展望台とか観覧車とか懸垂式モノレールとか」


「確かに。でもその分、景観に自信があるってことだよ。実際キレイだしね」


楽村君は相変わらずの仏頂面だが、佐古にはない乙な移動手段にテンションが上がっているのが見て取れた。


――景色なんて歩きながらで十分なのに。


楽村君の隣に座り、マスクと帽子を取る。眼鏡のつるを畳んだ音が私にとってのスイッチだった。


「……神奈浜には、私のおばあちゃんがいるんだけど」


私は、楽村君専用に編集した経緯を話した。おばあちゃんが病気で私を忘れてしまったこと。遠方に住んでいることを言い訳にして親孝行ならぬ祖母孝行を全然してこなかったこと。それを今更後悔している自分がいること。


本当に悲しんでいる理由は綺麗に隠して、諸々の罪悪感を涙に変えた。


彼が私の話を信じざるを得ない。と思ってもらえるように。


彼が対処しようのないことで悩んでいると分かってもらえるように。


そして不意に抱きしめられ、その温もりに縋りそうになるのを理性で耐えた。何故からここは佐古でもない外だから。


「なぁ。明日帰ったらすぐ沖谷の家行っていい?」


「うん……いいよ。私もまだ楽村君に話したいことがあるから」


私はそのままロープウェイで駅に戻り、新幹線で真っすぐ帰路に就いた。


(=^・^=)

沖谷はずっと重くて複雑な背景を抱えて辛そうにしとる。あいつは俺が絶対に交われん場所で縛られとって……。けど誰の手も借りずに1人で進もうとしてる姿勢に憧れたと同時に、その弱くて小さな背中を支えて、沖谷の方からも預けてほしかった。


小野光を手本にして強引に壁を破ったら、沖谷は苦しそうな顔で素直に打ち明けてくれた。


――でもどっか足りんな。


沖谷は偽りの涙も流せるタイプじゃけど、胸の内に嘘はない……と思う。


俺を守る為の月並みな答えより、こっちも痛んで不快になるような本音を聞けて嬉しいは嬉しい。分かち合えた気でおったから。


『――もうすっかり元気。毎日(つつが)なく過ごしてるよ?』


沖谷はインフル明けから様変わりしたように見えた。快気祝いで飯行った時も触れられるくらい近くにおるのに遠く感じて……目を離した隙に腕からすり抜けていきそうで怖い。電話じゃと余計に。自分でもよく分からんかったけぇ言えんかったけど。


一輪の花みたいな儚さに見惚れる隣で、すぐ折れるぞ散るぞと俺の不安を煽ってくる。出射(いでい)らが前々から計画してくれてた旅行も正直後ろ髪を引かれる思いで行った。


まさか沖谷も神奈浜に来るとは思わんかったけど。


――確かに色んなとこ巡る度『沖谷と行ったらどうなるかな』って考えとったけど!ガチでおるとは思わん……ってか何で芙由香が抜け駆けしとん!


芙由香が乗り換えで降りた駅で消えたことが判明してすぐ沖谷から連絡が来た時は仰天した。混乱しすぎて出射に笑われるくらい取り乱しとった。


――絶対他がおるからって遠慮してすぐ逃げるよな……だったら俺も改札入って待ち伏せるか。


とにかく理由を聞きたくて。沖谷の裏をかいて追い詰めたらこの世の終わりかってくらい追い詰められた顔で見られた。可愛い目元はさっきまで泣いてましたみたいな状態で――何があっても逃がしたくなかった。


沖谷もそれを察したのかすぐに抵抗を止めて大人しくなる。迷わずロープウェイを選んだとこは流石じゃった。


――行き先が芙由香たちがおるとこってのも沖谷らしいわ。


でも不安定な感情を抑えて殺したような声に思考をかき乱されて、沖谷の方から切り出すまで何も聞けんかった。


『――やっぱり、大事だと思っていた人に忘れられちゃうのは……悲しくて辛いよ……』


沖谷の家族問題は最近やっと収まりがついて。そろそろ本気出して攻める気でおったのに……。


――次は婆ちゃんか。


ロープウェイの中で、沖谷は横に俺しかおらんのに声を押し殺して泣いとった。すぐに抱きしめても、誰にも気づかれずに泣く癖が染みついとるのが透けて切なくなる。


――不謹慎じゃけど、沖谷いつもいい匂いよな……。


ぶっちゃけ泣いとるとこも可愛すぎてやばい。俺の体に収まるサイズも弱弱しく上着を掴む手も眉根が下がった顔も……頭がくらくらして真面目な表情を保つのに苦労した。


――『そうか』とか『うん』とかしか言えん……俺最低すぎ。てかもう遊園地とか行けんくね?沖谷と一緒に帰りてぇ。


理性が飛んで沖谷をどっかに連れて帰りたくなる。このまま一生抱きしめたい頼られたい守りたい……ずっと側で。

運賃は全部幸生が払いました。

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